魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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Ω〈失踪するつもりは無い(失踪しないとは言っていない)
(祇園)〈などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ
Ω〈ダニぃ!?

という訳で何とか帰って来ました。と言ってもここまでお待たせしましたが今回は戦闘も無ければ特に話も進展しないぐだぐだな回になってしまいました。
今後の更新も1、2ヶ月の間隔になるかも知れませんが何卒よろしくお願いしますm(__)m


第18話【恋路の行方】

 よく晴れた金曜日。今日という一日を乗り越えれば明日からは休日だと既に気を緩めた生徒達は明日は何をしようかと相談する者もいれば、部活で汗を流すだろう事を誇らしげに言う者もいた。

 そんな見滝原中学にホームルームを告げる鐘がなると、クラスの扉が開き生徒達と同じように爽やかな笑顔で教師の早乙女和子が入って来た。和子の入室により立ち話をしていた生徒達も慌ただしく自分の席に戻り、全員が着席したのを確認した和子は満面の笑みでホームルームを始めた。

 

「おはようございます皆さん。さて、純情な恋愛に歳の差は関係ありますか?はい!中沢くん!」

 

 突然の無茶振りを振られてしまった男子生徒は「ええ!?」と驚きの声をあげるが

 

「あの・・・それが本当にお互い純情な気持ちなら関係ないんじゃないでしょうか?」

 

 律儀に返答して見せた。その答えは和子が望んでいたものだったらしく、うんうんと頷き漸くホームルームでの連絡事項を話し始めた。

 この和子と生徒(何故かいつも先程の中沢くん)のやり取りはこのクラスの風物詩のようなものとなっており、生徒の返答に対する和子のリアクションで彼女の恋愛が上手くいっているかどうか分かるらしい。そして今日の結果はというと・・・

 

「今回は上手くいってるみたいだね」

 

 まどかが言うにはそうらしい。しかし話を振られたさやかはまどかと同じ小声でそれを否定する。

 

「分かんないよ?今日は大丈夫でも明日にはもう駄目になってたりしてね」

 

「でも先生いい人だし、私は上手くいって欲しいな」

 

「甘いよまどか。大人の恋愛っていうのはね、いい人ってだけじゃやってけないのよ」

 

 さやかがそこまで言ったところで唐突にわざとらしい咳払いが聞こえ二人が振り向くと、件の和子がこちらをしっかりと見ていた。

 

「美樹さんと鹿目さん!ホームルーム中は私語を慎んで下さい!」

 

「あ、あはは・・・すいません」

 

 ビシッと教鞭を振りこちらを指してくるが、それ以上特に言及してくる様子もないので話の内容までは聞かれていないとさやかは安心するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「何を話していたのかと思ったらそんな事・・・」

 

 呆れたような表情でため息を吐いたほむらは、ジト目でさやかを見た。

 

 今は昼休み、屋上で食事をとるまどか、さやか、そしてほむらの三人は今朝の出来事について話していた。

 

「そもそも美樹さんは人の事言えないでしょ?」

 

 ほむらの言葉にギクリと表情を固まらせるさやかは「何の事かな?」とシラを切るが、そう言う声は少し上ずっている。

 

「さやかちゃん、昨日マスターに散々言われたでしょ?」

 

 更に意外にもまどかが追撃に入った。

 

 あの控えめで大人しかったまどかがアキオ達と出会ってから積極性が生まれている。

 

 まどかの事を親友だと思っているさやかはその事に気が付き、嬉しくも思っているが今回ばかりは彼等の影響を恨んだ。

 

「分かってるよ!今日の放課後に行くから!」

 

「行くだけでは駄目よ」

 

 まだ攻めるほむらに、さやかはもういいと言おうと彼女の方を向くが、その顔は先程までの緩んでいたものではなく真剣な表情へと変わっていた。まだほむらの事をちゃんと見るようになって短いさやかだが、表情の変化に乏しい彼女の顔の見分けはつくようになっており、尚且つこのように真剣な表情で冗談を言うような人間でもない事も知っているため次にほむらの言う言葉を聞こうと喉元まで来た言葉を引っ込めた。

 

「魔法少女として魔女と戦う以上絶対なんて無い。こういう言い方は悪いけど、それは巴さんが命を張って教えてくれたはずよ」

 

 今までのはただの友達同士のからかいだったのに対し、急に生死の話を出されてさやかとまどかはほむらの言う事にピンと来ない。

 

「突然なにさ?」

 

「このままうじうじしたままその時が来たら、後悔するわよ」

 

 しかしその言葉で漸く二人は理解した。

 魔法少女として生きる以上いつその命を落としてもおかしくはない。だから後悔の無いよう今の内に気持ちを伝えておけという事だろう。

 

 真剣なほむらに、さやかもまた真剣な表情で答えた。

 

「分かったよ。ありがとね、ほむら」

 

 二人のやり取りを見たまどかは、本当に二人の仲は心配する事はないと安心するのと同時に、死と隣り合わせの友人二人と自分の間に微妙な距離感を感じてしまうのであった。

 

 不意にさやかのケータイが振動し始めた。慌ててケータイを取り出し、その画面を見るとさやかは少し困惑した表情をした。

 

「どうかしたの?」

 

 まどかが訊ねると、さやかはあははと何故か苦笑いしながらまどかとほむらにケータイの画面を見せた。

 

 

From:恭介

 

話したいことがあるんだ。

悪いけど今日学校が終わったら来てくれないかな?

 

 

 それは恭介からのメールであった。

 

「良かったじゃない。向こうから来て欲しいって言うなら気負う必要はないでしょ?」

 

「いや、まあ・・・何て言うかこっちから行くぞ!って気持ちだったのに逆にその勢いを削がれたって感じ?それにこの前あんな別れ方して、話したい事ってちょっと怖いかな」

 

「大丈夫だよ!きっと上条君もその時の事謝りたいんだと思うよ?」

 

「ええ、とにかく行ってみなければ分からないわ。でも安心して良いわ、骨は拾ってあげるから」

 

「ちょっとほむら、それってどういう意味!?それに比べてまどかは本当に天使なんだから」

 

 その言葉にまどかはまたいつものように抱き締められると思い身構えるがいつまで経ってもさやかのハグは来ない。見ると、さやかは思い詰めたようにケータイの画面を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり風見野市。風見野市は見滝原市の隣にあり、良くも悪くも普通の町であり治安もあまり悪くはない。あまり・・・

 

「へへ、ちょろいもんだな」

 

 そう言いながら紙袋に入った林檎を手に取りかじり付いたのは先日さやかと衝突し、その後まどかの弟であるタツヤを魔女から救った佐倉杏子である。

 町中で堂々と歩きながら林檎をかじる杏子だが、その林檎は正当な手段によって手に入れた物ではない。しかし今までこのような手段で生きてきた杏子の犯行は誰も、盗まれた店の店主にさえ気付かれる事はなかった。

 

「ちょっとちょっと」

 

 昨日までは。

 

「あん?」

 

 先程までご機嫌な様子で林檎をかじっていたはずの杏子は声のした方へと振り向くと、その顔は苦虫を噛み潰したようになり目の前の人物を見つめた。

 そこには自分と同じような赤い髪をしたメイドと、パーカーのフードを深く被った少女がいた。その二人は昨日の魔女戦で出会ったあおいとイルカである。

 

「それ、盗んだでしょ。そういうのっていけないんじゃない?やっぱり」

 

 困ったような笑顔で言うあおいからは、どこか子供を諭すような雰囲気が感じられた。それは一層杏子の気分を悪くさせる。

 

「はあ?アンタには関係無いっしょ。変に干渉しないでくれる?」

 

「いやまあ関係無いって言われればそうなんだけどね」

 

「でも、悪い事だよ?」

 

 言葉を詰まらせたあおいに代わりイルカが正論を言う。しかしそんな誰でも分かるような正論で窃盗を止められる程杏子の事情は軽くはない。

 

「悪い事・・・ねえ。けどさ、昨日泊めてやったんだからこっちの事情は分かんだろ?」

 

 その言葉にイルカも口を接ぐんでしまう。

 

「やめてよね。アンタ達が魔法少女じゃなく、異世界から来たってんならあたしとしては争う理由は無いんだからさ。まあ昨日助けて貰ったんだ、しばらく寝泊まりぐらいは自由にしてて良いからさ、あまりあたしのする事に口を挟まないでくれる?」

 

 そう言って杏子は二人に背を向け歩き出した。手に持つ林檎をかじりながら。

 

 あおい達は杏子を追う事も声を掛ける事も出来ない。

 

 佐倉杏子に家族はおらず、廃墟同然の教会に一人で住んでいる。生活費などあるはずも無く、それ故に正当な対価で食べ物を手に入れる事が出来ず毎日窃盗を繰り返して飢えを凌いでいるのだ。

 

 それを知っているからと言ってあおい達にはどうしようもない。先程杏子が言ったようにあおい達は異世界から来た存在、13班のメンバーであり、この世界に来てからはまず自分達が生きるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原総合病院。時刻が16:00を過ぎた頃、恭介の病室の前にさやかが一人立っていた。彼女がここまで来たのは勿論昼のメールの件である。

 

「話したい事・・・か」

 

 ここに来る途中にも何度も口にした言葉を再び吐き出すと、憂鬱な気持ちになった。あんな別れ方をして、話したい事とはいったい何なのだろうか皆目検討もつかない。

 しかしだからと言ってこのまま病室の前でおろおろしてもいられないさやかは、無理矢理気持ちを切り替えようと自分の頬を両手で軽くパンパンと叩いた。

 

「やめやめ!会えば分かるんだから、とっととこの扉を開けよう」

 

「あれ?さやかちゃんじゃん」

 

「ひゃわっ!?」

 

 突然の声に驚いたさやかが振り向くと、そこにはアキオが立っていた。しかしそんなさやかのリアクションを気にせずアキオは彼女の無視できない言葉を放った。

 

「恭介君なら今はいないよ。何だか思い詰めたような表情で屋上に向かって行ったけど」

 

「え?」

 

 一瞬思考が止まる。だがそれは本当に一瞬。次の瞬間には頭が最悪のシナリオを描きさやかは走り出した。

 

(嘘、嘘!何で?腕はキュゥべえが治したんでしょ?でも思い詰めた表情で屋上ってまるで・・・話したい事ってそう言う?キュゥべえが願いを叶えるのを失敗したの?)

 

 さやかの描いたシナリオとは自殺。何らかの手違いで結果的に恭介の腕は治ってはおらず、ヴァイオリニストとしての生命を奪われた恭介は絶望して見投げしようとしている。話したい事というのは自分に何かを言い残したかったのだろう。

 

 そう思い込んださやかは一気に階段を駆け登り屋上への扉を開いた。

 

「恭介!!」

 

 屋上に飛び出たさやかの目に入ったのは、かつて大きな演奏会に出る時に何時もしていたスーツ姿で車椅子に座りながらヴァイオリンを構える恭介だった。

 すると恭介はさやかが何かをいう前に右手を動かしヴァイオリンを弾き始めた。

 

「え?なに?」

 

 突然の事に呆然とするさやか。何せ自分の考えていた事と全く関係のない展開になっているのである。

 

 腕、動くじゃん。

 

 などと自分のシナリオと目の前の光景の差にツッコミを入れてしまうぐらいに混乱をしていたが、徐々に彼の演奏に意識が傾き、漸く恭介が演奏をしているという事に対する実感が湧いてきた。

 幼かった頃から大好きだったヴァイオリンの、いや、恭介の演奏。車椅子だからか久しぶりだからか、はたまたその両方のせいか最後に聴いたものと比べ拙い演奏だがさやかにはそんなものは関係ない。

 例え下手だろうが何だろうが演奏の中に恭介を感じる。そして演奏をしている恭介の表情には充実感が感じられる。それがさやかにとっては幸せだった。

 

 それからそう長くない内に演奏は終わり恭介がたった一人の観客に一礼をすると、その観客は笑顔で拍手を贈った。

「来てくれてありがとうさやか」

 

「ううん、あたしの方こそ恭介の演奏久々に聴けて嬉しかったよ」

 

「うん。その事何だけどね、御覧の通り僕の右手、治ったんだ」

 

 そう言いながら右手を軽く回す恭介の姿を見てさやかは目頭に熱いものを感じた。

 そんな彼女の様子を知ってか知らずか恭介は続ける。

 

「大事な話っていうのは右手が治った事ともう一つ、さやかにこの前の事謝りたいんだ。あの時の僕はいくら参っていたとは言え、ずっと支えてくれたさやかにあんな酷い事を言ってしまった。いや、参ってたなんて言い訳だね。アキオさんに言われるまで僕はさやかの事なんて考えた事なかったんだ。さやかがどんな気持ちでずっと側に居てくれたか、さやかにどれだけ支えられてきたか」

 

 その恭介の言葉を聞く度にさやかの熱くなった涙腺はどんどん緩んでいく。自分でこれ以上はマズイと分かる、それは見るからに限界に達した風船に空気を入れるような、表面張力ギリギリまで水の入ったコップに更に水滴を落とすような感覚だった。

 

「そして、僕自信のさやかに対する気持ちも。例え君がどんな風に考えようとも構わない、ただこれだけは言わせて欲しい!さやか、今まで自分の事ばかりで君の事を考えなくてごめん!そしてありがとう、僕は君に助けられたんだ!」

 

 そこまでがさやかの限界だった 。一気に涙腺は崩壊し、次から次へと涙が零れ落ちてゆく。

 

「べ、別に私はそんな、当たり前の事してただけだから・・・」

 

 必死に強がりを言うがくしゃくしゃになった今の顔で言われても恭介は困ったように笑うだけだ。

 

「さやか、それともう一つ言っておきたい事があるんだ」

 

「待って!」

 

 更に何がを言おうとする恭介をさやかが手で制止し空いた方の腕でぐしぐしと涙を拭いて、改めて恭介に向き直った。

 

「今度は私に言わせて!」

 

 それに対し恭介はクスリと笑った。

 

「どうぞ」

 

「私・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「さあって、ここまでだ!帰るぞ」

 

「ええ?」

 

「あら、ここからが良いところじゃない」

 

 病院の屋上の扉の内側に隠れていたまどかほむらは、アキオの言葉に苦い顔をした。この三人、先程までのさやかと恭介のやり取りを扉を僅かに開け覗き見ていたのである。

 

「何言ってんの。君たちだって告白をこんな風にコソコソ覗き見されてたら嫌だろ?」

 

「う、それはそうですけど・・・」

 

 まどかはアキオの言う覗き見という行為に後ろめたさを感じてしまうが、ほむらは無表情で切り返してきた。

 

「でもそれを言うなら謝罪を覗き見るのも大概じゃないかしら?」

 

「それはそれ、俺は恭介君の謝罪作戦に協力してるからね。協力したからには見届ける義務があるってもんよ」

 

「なら私達も美樹さんの告白を後押しした立場として見届ける義務があるわ」

 

「うっ、ああ言えばこう言うな・・・」

 

 寧ろこれは論破だろう。

 結局言い返せないアキオはまどかとほむらと共に再び覗きを再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、さやか達を覗くのはアキオ達だけではなかった。

 見滝原総合病院から離れた建物。そこに設置されている遠望鏡を魔法で強化し二人の様子を覗き見る赤いポニーテール。

 

「なんだい、男かよ。やっぱ甘ちゃんは下らない事に願いを使っちまったのね」

 

 おどけたように言いながらも気に入らないといった雰囲気を出しながら杏子は遠望鏡から顔を離した。

 

「彼女と事を構えるつもりかい?」

 

 そんな彼女に声を掛けたのはキュゥべえだった。杏子はキュゥべえの姿を見ると額に皺を寄せ若干不快そうな表情になる。

 

「・・・まあね、今の内にサクッとやっちゃえば今後こっちの街でも動きやすくなるし」

 

「君の思い通りにいくと思わない方がいい。この街には魔法少女の他にイレギュラーな存在がいるからね」

 

 キュゥべえの言葉に杏子はピクリと反応した。

 

 魔法少女ではないイレギュラー。

 

 それはまさしく自分が知り合った自称異世界人の仲間なのではないか?

 

「ま、でも関係ないっしょ。邪魔する奴はぶっ潰しちゃえばいいんだし。それとキュゥべえ」

 

「なんだい?」

 

 次の瞬間、杏子の手のひらに置かれたソウルジェムから直接槍が飛び出しキュゥべえの顔面数ミリというところでギリギリ止まった。

 

「あたしはアンタの事胡散臭くて信用ならねーって思ってんだ。あんまり機嫌が悪い時に出てくんなよな」

 

「やれやれ、せっかく忠告してあげたのに」

 

 そう言いながらキュゥべえはとことこと暗闇へと歩いて行き消え去った。

 

(あれだけの事をしたのに顔色一つ変えず驚いた素振りも見せねえ・・・あいつ、本当に何者なんだ?)

 

 彼と契約した杏子だが、付き合いが長くなるにつれキュゥべえから感じる不気味さに気が付いていた。それ故に向こうから来ない限りはなるべく接触を避けてきたのだ。

 しかしキュゥべえの事を一旦頭の隅に追いやると、再び病院へと顔を向けた。その顔はやはり、苛立っているように見えた。




今回のアキオがさやかに意味深な態度をとったのは恭介と打ち合わせたドッキリです。

さて、何とか投稿を再開できた訳ですがここで問題点が・・・ナガミミの空気化。
最初はやりたい事があってナガミミも一緒にこっちに来させたけど、実際そこに行くまでがやることが無いという事態に。次も茶番回なんで何とか無理無く出せないかな・・・

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