魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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第15話【交差し始める者達】

 セブンスエンカウントには定休日がある。毎週木曜日と日曜日の二日だ。理由としては毎日開くほど人手が無いという至極単純なものである。

 

 そして今日は木曜日、本来休みであるはずのセブンスエンカウントには数人の人影があった。

 その内の一人は自らの左手を見詰め、開いて閉じての動きを数回繰り返して感嘆の声を出した。

 

「こいつは驚いた・・・本当に治ってる!」

 

「えへへ、まあね!さやかちゃんに掛かればこんなもんですよ!」

 

 骨折していたはずの左腕を自由に動かすアキオは、調子を良くしたさやかに何も言えないでいた。

 

「彼女は癒しの願いで契約をした。それが固有魔法として現れたのよ」

 

 そんな彼にさやかの魔法についてほむらが説明をする。

 

 今この店にはさやか、ほむら、まどか、そしてアキオとミオが訪れている。魔法少女関連の集まりという事でマスターは定休日にも関わらず彼等を店内に招き入れ、人数分の飲み物を淹れてサトリに配らせていた。

 その間にさやかが魔法少女になった事を話し、試しにその魔法でアキオの左腕を治したのだ。

 

「癒しの願い?そう言えばさやかちゃんはどうして魔法少女になったんだ?」

 

「美樹さんは幼馴染みの」

 

「わあっ!!ストップ!ストップほむら!!てか何でアンタがそんな事知ってんの!?」

 

「あら、あなたと上条くんの事ならクラスの皆が知ってるわ。そこから考えれば何を願って契約したかぐらい推測するのは簡単よ」

 

「違うから!私と恭介はそんなんじゃないから!」

 

 顔を赤くしながら否定するさやかを何時もの無表情のジト目で見詰めるほむら。その様はまるでやれやれと言っているようで、まどかとミオはそんな二人を見て苦笑いした。

 一方アキオは二人のやりとりを見てある事が気になった。

 

「ところで、ほむほむとさやかちゃんは何時の間にそんな仲良くなったんだい?」

 

 アキオはさやかがほむらの事を敵視して、ほむらもさやかと距離を置いていたところまでしか二人の関係を知らない。しかし今日この場に来た時はまどかを含め三人一緒だったし、お互いの呼び方も変わっていたのだ。

 その疑問にまたしてもほむらが答える。

 

「仲が良くなった訳ではないわ。昨日あなたと別れてから魔女の反応を辿ったら既に契約していた美樹さんがいたの。彼女、危なっかしい面もあるし本人からも協力を頼まれたから手を組む事にしたのよ」

 

「ええ!?いやまあ私から頼んだのは事実だけど、何その仕方がなかったからみたいな言い方?ほむらの癖に生意気だぞぅ?」

 

「ひゃっ!?」

 

 突然隣に座っていたさやかに抱き締められた後に体中撫で回されほむらは可愛らしい悲鳴をあげてみるみる顔を赤くさせてしまった。

 

「おお!以外な反応・・・ほむらもそういう顔をするって知ったらますます可愛がってあげたくなるね~」

 

「やめ・・・やめなさい美樹さやか!あまり調子に・・・ひゃあ!?」

 

 だんだんエスカレートするスキンシップ、さやか曰く《嫁にする刑》にたじたじになったほむらは助けを求めて周囲の人間に必死で視線を送るが皆一様に微笑ましそうに笑っているだけで誰一人彼女を救おうとする者はいなかった。

 

 そんな中、じゃれ合っている二人を他所にまどかはずっと気になっていた事を口に出した。

 

「あの、アキオさん。あれからアイオトさんは?」

 

 その言葉にほむらの抵抗を意に介せず刑を執行していたさやかの手は止まり、ほむらも肩で息をし涙目になりながらもアキオへと視線を向けた。訊ねられたアキオは先程までの笑顔が消え、少し困ったかのように眉間に皺を寄せる。

 

「とりあえずあれからアイオトは家に帰って来ていないし、連絡も一切無いな」

 

 アイオトは二日前、マミの死体を抱えて文字通り消えてしまった。今彼が何処で何をしているのか、何故マミの死体を持ち去ったのかは全て謎に包まれていたのだった。

 

「ったくよ・・・家族だって認めてくれたなら連絡ぐらいしろよ・・・アイオトっつぁん」

 

 そんな彼に苦い顔をしたアキオが呟く。最初こそ色々と異質過ぎて戸惑っていたが、人間を理解しようとするアイオトを見てアキオも彼を受け入れ始めていたのだ。その矢先に何の説明も無しにマミの死体を持ち姿を消されては気分の良いものでは無いだろう。

 

「そうですか・・・。アイオトさんはどうしてマミさんを連れて行ったのかな・・・」

 

 そのまどかの疑問に誰も答えられない。答えを知らない。

 

「まあアイオトにも何か考えがあるんだろ。分からない事を考えても仕方がないさ」

 

 空気を変えるようにマスターが自分のコーヒーを持ってカウンターから出てきて若者達と同じテーブルに着いた。

 こういう答えの出ない思考の泥沼に陥った際、何時もさりげなくそこから引き上げてくれるマスターにアキオは心の中で感謝しながら話をさやかへと戻そうと口を開いた。

 

「ところでさやかちゃん、恭介くんから何か連絡は来てないかい?」

 

「ちょっ・・・何でアキオさんまで恭介の事を知ってんのさ!?まさかミオ!?」

 

 名前を呼ばれたミオは「違うよ」と容疑を否認し、さやかと揃ってアキオへと視線をやった。

 

「いや~、昨日病院に行った際に知り合ってさ。何か酷く落ち込んでたからアドバイスをしたんだよ。幼馴染みとの付き合い方についてね」

 

「つ、付き合い!?」

 

 付き合いという言葉に強く反応してしまったさやか。だがアキオは冷静に男女交際という意味では無いと付け足し、それを聞いてさやかは変に勘違いしたのと今の反応を周りの人間に見られた恥ずかしさで再び顔を赤くさせてしまった。

 

「それで何かあったかい?」

 

「え?いや、何も・・・」

 

 しかしアキオの問いに今度はしょんぼりと項垂れてしまった。

 

 恐らく彼女の契約時の願いはほむらの話やタイミング的に恭介関連であろう事はアキオにも予想は出来た。そして勝手な推測だが彼の腕の完治を願ったのではないかと考える。

 普段から元気が有り余ってるように見えるさやかがこうして項垂れているのは、彼のために魔法少女になったのにも関わらず未だ何の連絡も無いこと、そして自分から会いに行こうにも昨日の別れ方で再び会うのも抵抗があり複雑な心境になっているからであろう。

 

(まったく、恭介くんも恭介くんだぜ。今度会った時にでもとか考えてんじゃねーの?まあ俺もその考えでさやかちゃんの契約を止められなかったし人の事言えないけど)

 

 どうするかとアキオが次の言葉を探している間に、思わぬ人物が会話に加わって来た。

 

「その上条恭介かな?彼は聞けば天才ヴァイオニストらしいじゃないか。想いを伝えるなら早い方がいいぞ」

 

 それはまどか達とは今日初めて顔を会わしたマスターだった。マスターはサトリからさやか達の話を聞いていて、上条恭介の事も知っていた。そしてそんな彼を見てアキオとサトリはもう自分達の出る幕は無いとでも言うように椅子の背もたれに深く背中を預け完全に傍観の姿勢になった。

 

「想いを伝えるって、だから」

 

「往生際が悪いぞ?今までのやりとりを聞けば君の気持ちはこの場にいる全員に筒抜けだ。今更恥ずかしがる事は無い」

 

 それを聞いてさやかは恥ずかしそうに唸りながらもこれ以上言い返す事はなかった。その様子を見たマスターはうむと頷くと一口コーヒーを口に含み、一旦間を開けてから続けた。

 

「恐らく君の願いは彼の怪我の完治だ。そうだろう?」

 

 頷くさやか。

 

「なら彼は間もなく退院して学校に通い始める。アキオ、彼の容姿は?」

 

「俺程じゃないけどなかなかのイケメンだぜ」

 

「ふむ、天才ヴァイオニストで整った容姿。そんな彼を他の女子が放って置くと思うか?」

 

「それは・・・」

 

 そんな事考えた事無かった。

 

 だが確かに言われてみれば身内ひいきかも知れないが恭介はかなり格好いいし性格も穏やかで勉強も出来る方。そこに天才ヴァイオニストという属性が付加されればモテない方がおかしいだろう。

 そこまで考えた途端さやかは急に不安になった。

 

「誰かに先を越されたくなければ、早い内に決心する事だ」

 

「でも、告白したって恭介は私の事、ただの幼馴染みで腐れ縁だとしか思ってないよ」

 

「だが、告白しないよりも断然良い。それに告白が切っ掛けで意識し始めるかも知れんぞ?何せ君はべっぴんなんだからな」

 

「べっぴんって・・・ええ!?」

 

 驚くさやかにマスターはフッと笑い、チラリとほむらへと視線を向ける。

 

「とにかく言葉にしなければ伝わらない事もある。君達がこうして共にこの場にいるのも対話を試みた結果だろう?恋愛だって同じだ。伝えなければ何も変わらない。今の関係から変わる事を恐れるな。手遅れになってからじゃ一生後悔するぞ?」

 

 マスターはそこまで言うとこれでおしまいと言わんばかりにカップに残ったコーヒーを一気に飲み干した。

 

「すまんな、だいぶ長くなってしまった」

 

「あ・・・いえ、ありがとうございます、マスター・・・さん?」

 

「マスターでいいさ。学校の先生みたいなもんでさん付けの必要はないよ」

 

「はい!・・・それで、私ちょっと用事思い出したんで、この辺で失礼します」

 

 項垂れていた様子から一変、いきなり活力が湧いたように立ち上がるさやかに全員が同じ事を思った。

 

(分かりやすいな~)

 

 いそいそと自分の荷物を持って一同に頭を下げるとさやかは扉を開けてセブンスエンカウントから出ていった。

 

「流石、《マスターのお悩み相談》だぜ」

 

「おいおい、そんな大層な物でも無いだろう」

 

「いや、今回はボクもアキオと同意見だよ。流石だねマスター!」

 

 アキオとサトリに茶化されてもマスターは余裕の笑みで返し、空になったカップにおかわりを注ぎにカウンターへと歩いて行った。

 

 因みにここでアキオが言ったマスターのお悩み相談とは、かつて元の世界で悩める若者に対しその名の通り相談に乗りアドバイスをするマスターの行為に何時の間にか名付けられた名である。どうしてそんな名前が付けられたのかというと他の人間には言えないような悩みを何故かマスターには言ってしまうというのと、大抵の悩みは本当に解決してしまうという実積が噂になり誰が言ったか定かでは無いがそう呼ばれるようになったのである。

 

「さて、一人減ってしまったが改めて対魔女への会議をしようか」

 

 戻って来たマスターの一言で、それぞれが皆顔を真剣なものへと変える。

 

「と言っても今までとあまり変わらんな。まずはミオとまどか、君達は魔女の存在を感じたら誰でも良い、誰かに連絡するんだ」

 

「分かりましたマスター」

 

「は、はい!」

 

 名前を呼ばれた二人はそれぞれ返事を返した。それを確認したマスターは次にほむらへと視線を向ける。

 

「ほむら、君はなるべくさやかに付いてあげてくれないか?魔法少女としては君が先輩で、さやかは素人なんだ」

 

「ええ、そのつもりです」

 

「うん、それとなるべく一人では魔女と戦わないようにな。最後に我々13班は魔法少女のサポートだ」

 

 アキオとサトリも頷き、全員が役割を把握したところでマスターは更に続けた。

 

「大体はこのような感じで動いてもらうが、他に何か意見はあるか?」

 

 すると真っ先にサトリが手を上げた。

 

「さやかちゃんが剣で戦う近接型ならなるべくボクが付いて行きたいんだけど。ほら、ボクもサムライだし教えられる事はあると思うんだ」

 

 その意見にほむらも頷き続く。

 

「ならサトリさんが剣技、私が魔力の制御を教えるという事でどうですか?」

 

「成程な、それじゃさやかについては君達二人に任せるぞ?」

 

 ほむらとサトリは互いに向き合い、これから協力する相手の顔を確認した。そしてサトリは笑顔で右手を差し出す。

 

「それじゃこれからよろしくね、ほむらちゃん」

 

「ええこちらこそ、サトリさん」

 

 その手をほむらはすこしだけ微笑んで握り返した。

 

「よし、じゃあ他には?」

 

 マスターが再び全員に訊ねる。すると意外にもまどかが遠慮がちに手を上げた上げた。

 

「あの、昨日助けてくれた人にも魔法少女と魔女の事情を話したんで、協力してもらうのはどうでしょう?」

 

 昨日まどかを助けた人物。その事はさやかが魔法少女になり、初の魔女戦の話の経緯で出てきていたためアキオ達もその存在は知っていた。

 

 まどかの提案にアキオは成程と頷き、ティーカップを手に取った。

 

「良いんじゃない?下手に魔女の存在だけ知ってて対処法が無いより、俺達と知り合ってた方がその人も安全だろうし」

 

 そう言ってコーヒーを口に含む。そしてマスターもカップの縁を下唇に付けてまどかへと質問をする。

 

「それで、名前は聞いているのか?」

 

 その質問をしてすぐにカップを傾けコーヒーを一口分流し込む。同じくサトリもすっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干そうとカップに口を付けた。

 

 この時の三人は油断しきっていたのである。まさか彼の名前が出るなどと一ミリも考えてはいなかったから・・・

 

「ダイスケさんっていう人です」

 

「「ぶうぅぅ!!?」」

 

 瞬間、アキオとサトリの二人はコーヒーを吹き出した。

 

「ちょっ!?アキオさんならともかくサトリさんまで!?」

 

 珍しく驚愕の表情と声をあげるほむら。

 幸いアキオは咄嗟に誰もいない方へ顔を向け、サトリも目の前のほむらを避けようとしてアキオへと吹き掛けるだけに留まった。

 

「・・・・・。」

 

「あー・・・あはは、ごめんアキオ」

 

 一方のマスターは何とか抑え込むが、ゲホゲホとむせている。

 この大袈裟過ぎる三人のリアクションにその名を口にしたまどかはおろおろとし始めてしまう。そして事後処理を始める三人に替わりミオがそのダイスケについて訊ねる。

 

「まどかちゃん、そのダイスケって人、ひょっとして色付きのゴーグル掛けてニット帽を被ってなかった?」

 

「え?うん、そうだよ」

 

「やけにヒーローにこだわってなかった?」

 

「うん、助けてくれた時もヒーローって名乗ってた」

 

 この問答でアキオ達異世界組は核心に至った。

 

「そのダイスケなる人物、恐らくは我々の仲間だ」

 

 いち早く復帰したマスターが四人を代表して言った。

 

 そう、ダイスケはかつての世界で竜を狩る者13班のメンバーで、アキオとサトリの友人でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう!勢いで出てきちゃったけど本当に告白するの?」

 

 悩ましげに声をあげるさやかは現在見滝原総合病院への道を歩いていた。

 しかし、セブンスエンカウントを出た時は確かにその気になっていた気持ちも、時間が経つにつれて揺らぎ始めていた。

 

(でも、とにかく今日は会おう。会って昨日の別れた時の空気を変えなきゃ)

 

 改めてそう心を決めた時だった。

 

「これって・・・!?」

 

 さやかのソウルジェムが反応を示した。今は指輪として指に嵌めているソウルジェムが確かに点滅しているのだ。それはマミに教えて貰った、魔女が近くにいるという証。

 

「こんな時に・・・でも」

(マミさんならきっと、このまま見逃したりしない!)

 

 かつて、いや、今でも自分が憧れている先輩の姿を思い出したさやかはソウルジェムが反応を示す路地裏へと歩を進めようとするが

 

「っと、その前に」

 

 さやかはケータイを取り出すとまだセブンスエンカウントに居るであろうまどかへと魔女が現れたという旨のメールを送った。送信完了の文字を確認するとケータイをしまい、改めて歩き出した。

 

 人気が無く、魔女が何かをするなら正に格好の場所でさやかは神経を集中させる。

 

「来た!」

 

 その言葉と同時に結界が発生するが、その結界は今までの完全な異空間とは違い路地裏の通路をそのまま結界の形成に利用しているかのように見えた。目に見える変化は通路の壁に子供部屋を連想させるような星形、クレヨン、オモチャ箱等のカラフルな絵が現れただけである。

 さやかはこれと似たような結界を見た事がある。

 

「ひょっとして使い魔?」

 

 それはかつてマミが暗闇の魔女の使い魔と対峙した際の事。その時確かに辺りは夜以上の暗闇に包まれたが、公園にあった外灯やジャングルジムなど現実の物がそのままにあったのだ。

 

 恐らくは魔女よりも力の弱い使い魔はまだ現実世界から隔離された完全な結界を作る事は出来ないのではないか?

 

 そのような考察をしている間にこの結界の作り主が現れた。

 

「ブウウゥン!ブウンブウン!ブウウゥン!!」

 

 まるで子供が車の音を真似ているかのような大声で現れたのは、クレヨンで描かれたラクガキのような少女の使い魔だった。その下半身は上半身の少女の部分と同じようにラクガキのような車で、壁を文字通り走り回っていた。

 

 さやかは使い魔を確認すると、ソウルジェムを輝かせ魔法少女へと変身した。

 

「こちとら初心者だし、相手は弱いに越した事はないよね」

 

 そう言いながら自身を一度マントでくるみ、それを解くとさやかの足元に何本ものサーベルが突き刺さっていた。そのサーベルを手に取り次々と使い魔へと投擲してゆく。

 動き回る使い魔になかなか命中させる事は出来ないが、最初の数本で感覚を掴んだのか次第に正確さが増し使い魔を追い詰めていく。使い魔も魔法少女という天敵からどうにか逃げようと必死で表通りへと向かって行くが

 

「逃がさないよ!」

 

 使い魔の進路を阻害するように行く先にサーベルが突き刺さった。それは偶然の代物ではない。

 

「よしっ!狙い通り!」

 

 さやかの言葉通りこれは彼女が狙ってやった行動であった。まだ二度目の戦闘、それもサーベルを投擲するという戦法は今回が初めてなのにも関わらず見事狙い通りの場所へと投げられたのは、彼女の適応力が高いと言えるだろう。

 

 さやかはサーベルの一本を手に取ると、正面を塞がれてあたふたしている使い魔へと駆け出した。そして昨日の魔女のように直接とどめを刺そうとした時、予想外の事が起こった。

 

 上方から一本の槍が伸びてまるで意志を持つかのように伸縮自在、曲がりくねって使い魔の進路を邪魔していたサーベルを弾き飛ばした。

 

「んなっ!?逃げられる!!」

 

 目の前の光景に驚きながらも使い魔を追おうとするが、それは叶わなかった。

 更に槍が甲高い金属音を鳴らしながらサーベルを弾き、さやかへと送り返したのだ。さやかは驚き思わず動きを止めるが、それが幸いしたのか全て彼女の周りに落下してさやかを傷付ける事はなかった。だが逆に言えばあのまま使い魔を追い掛けていれば自らのサーベルで切り裂かれていたところである。

 

 そうこうしている間に使い魔は逃げ結界も消滅してしまった。だがさやかは未だ気を抜けない圧迫感を感じていた。

 槍は縮んだのか上空に昇ってゆくが、それと同時にその槍を持った少女が空中から降りて来た。赤く長い、前の開いたフリル付きのノースリーブの上着が特徴的なさやかと同年代に見える少女はつまらないものを見るような目でさやかをジッと見た。

 

「何よアンタ?魔法少女?」

 

 さやかはサーベルを構えて問い掛けた。その心中は穏やかではない。今目の前にいる少女が持っている槍がさやかのサーベルを弾き使い魔を逃がしたのだ。つまり言うまでもなくこの少女はさやかの邪魔をしたという事、間違っても仲良くなりに来た訳ではないはずだ。

 

 一方聞かれた少女は身に纏うコートと同じ赤い髪を弄りながら呆れたように答えた。

 

「はあ?見れば分かるっしょ、そんなの」

 

 そのこちらを挑発しているかのような態度にさやかは苛立ちを覚えつつも、冷静になろうと努める。だがそんなさやかの事などお構い無しに少女は続けた。

 

「見れば分かると言えばさ~、さっきのアレ、魔女じゃなくて使い魔、倒してもグリーフシード落としやしないよ」

 

「知ってるわよ!だからって放っておく訳にはいかないでしょ!?あれ放っておいたら人を襲うんだよ!?」

 

 そのさやかの言い分に

 

「ぷっ」

 

「なっ!?」

 

「あっはははは!!」

 

 少女は吹き出し大笑いし始めた。その様に呆然となるさやかへ何とか笑いを抑えながら少女は口を開いた。

 

「くく・・・アンタさあ、何か大元から勘違いしてない?」

 

「な、何?」

 

「使い魔が弱い人間を食べ魔女になる。そしてその魔女をあたしら魔法少女が食う。食物連鎖って学校で習ったよねぇ?そういう風になってんのさ」

 

「・・・それで、普通の人達を犠牲にするっていうの?」

 

「じゃないとグリーフシードを孕まないからね。アンタは卵産む前の鶏を絞めようとしてたって訳」

 

 そこまで聞いたさやかはサーベルを持ち少女へと構えた。

 

「分かったよ。アンタは・・・」

 

 心の内から滲み出る感情。それは正義の味方のマミに憧れていたさやかなら抱いて当然のものだった。

 

「許せない奴だ!!」

 

 己の糧とする為に他人を犠牲にする行為。それはさやかの中では許せない悪であり、その悪に対する純粋な怒りが彼女を突き動かしたのだ。

 

「ハッ!やっぱり正義だとかなんだとかぬかす甘ちゃんかよ」

 

 突っ込んで来るさやかに対し、少女は不敵な笑みを浮かべ持っている槍を地面に突き立てただけで、その場から動こうとしない。

 

(こいつはほむらの時とは違う!グリーフシードの為なら何も知らない人達を犠牲にするってハッキリと言った!勘違いでも何でもない、絶体に許せない!!)

 

 さやかはその勢いのままサーベルを振るった。それは突き立てられた槍の柄を両断するつもりで放った攻撃のはずだった。

 

 ガッと鈍い音がしてさやかの腕に強い衝撃が走った。危うくサーベルを手放してしまいそうになるのを気合いで耐えるが、目の前にある全く傷の入っていない柄を見て驚愕は隠せなかった。

 槍の刃の部分なら分かる。だが柄の部分で簡単に受け止められたという事実に、さやかは思わず意地になりそのまま力任せにサーベルを押し付けるが全く微動だにしなかった。

 

「困るんだよねぇ。そういう遊び半分で首突っ込まれるの」

 

 その言葉はさやかの心情を逆撫でした。対する少女は涼しげな顔で槍を地面から引き抜きながら軽くさやかを弾く。弾かれ体勢を崩した瞬間、少女の槍の柄がバラバラになったかと思うと体に巻き付かれそのまま壁に叩きつけられた。叩きつけられた拍子にそこにあった鉄製の排水パイプはひしゃげ、さらに勢いは死ぬ事なくさやかをバウンドさせ今度は地面へと叩きつけられてしまった。

 

 一瞬の事にさやかは気付かなかったがそのバラバラになった柄はひとつひとつが鎖に繋がれ、他節棍のようになっていたのだ。

 その姿をさやかに見せる前に元の槍へと戻し、少女は背中を向けた。

 

「マジでむかつくんだよ、トーシロが」

 

 そのままその場を離れようとするが、歩を進める事はなかった。

 

「おっかしいなぁ・・・全治三ヶ月ってところは痛めつけたはずなんだけど」

 

 そう言いながら再び振り返る少女の前にはサーベルを手に立ち上がっているさやかの姿があった。

 

 少女の言った事に偽りは無いが、さやかの回復魔法はそれすら一瞬で完治させられる程強力なのだ。さらに今のさやかには先程の少女の言葉により湧き上がる怒りがあった。

 

「遊びなもんか・・・」

 

 負傷しているのにも関わらず自分とキュゥべえを助けに来てくれたマミ。

 

「遊びな・・・もんか!」

 

 そのマミが死んでしまった時、辛辣な言葉を発しながらも悔しそうな表情になったほむら。

 

 確かに勢いで契約してしまった節はあるが、決して軽い気持ちで魔法少女になった訳ではない。短い時間だが二人の魔法少女の姿を姿を見てきたさやかはその過酷さを知り、その上での覚悟で契約をしたのだ。

 少女の発言はその自分の覚悟を否定するもの。

 

「なんかぶつくさ言ってるけどさ、言って聞かせて分からねえ、殴っても分からねえ馬鹿となりゃ・・・後はもう殺しちゃうしかないよね」

 

 少女はニタリと笑うと槍を構え、その言葉通りにさやかの首をはねようと突っ込んで来た。

 

 だがその少女にとって予想外の事が起こる。

 

「負けるかあぁぁ!!!」

 

 叫びながら槍が突き出されるタイミングに合わせさやかもサーベルを突き出した。そしてその切っ先同士がぶつかり合い、一気にさやかが力を込めた。

 

「んな!?」

 

 まさかの反撃に怯んだのか、力勝負に負けたのは少女の方だった。槍をサーベルに弾かれてしまう。

 しかしその勢いを利用して自らのも高く跳躍すると空中で体勢を整え壁を蹴り、再びさやかへと向かいながら槍を向けた。そしてその勢いから繰り出される突きはコンクリートの地面を容易く叩き割った。

 

 その攻撃を避けたさやかは反撃に出ようとサーベルで斬りかかる。だがその全てが受け止められ、逆に武器での応酬に夢中になったせいで腹部に走った激痛が蹴りによるものだと気が付かなかった。

 

「がはっ!?」

 

 反射的に腹部を押さえたさやかを槍の柄で殴り飛ばすと、少女は高く跳躍した。

 

「意外と頑張ったじゃんか、トーシロ!」

 

 少女は上空から勢いを付けながら槍を叩き付けるように上から振り下ろした。その攻撃を受け止めようとさやかはサーベルを横にして防御体勢に入るが、先程の槍の機能を見れなかったのが勝敗を分けた。

 

サーベルで柄を受け止めた瞬間、そこから上の部分が鎖で繋がれた状態で分離した。その上の部分にはまだ攻撃の勢いが残っており、大鎌のごとく無防備な位置から刃が振り下ろされさやかの右肩を切り裂いた。

 更に痛みにサーベルを握る力が弱まったのを見逃す事なく、分離した部分をすぐさま連結させると難なくサーベルをさやかの手から弾き飛ばしてしまう。そしてそのまま槍をさやかの喉元に突きつけるのであった。

 

「勝負ありだね。まあさっきは殺すとか言っちゃったけど、この見滝原を譲ってくれるんならこれぐらいにしといてやるよ」

 

「冗談言わないでよ!グリーフシードだけが目的のアンタなんかに誰がこの街を渡すもんか!」

 

 槍を突きつけられようともさやかはキッと少女を睨み付けた。だが少女は溜め息を吐くと槍を握る手に力を込めた。

 

「そうかい。じゃあ死にな」

 

 直後に、狙いをそのままに槍が突き出された。




んああああああ!!!!
ゲームのソフト(ナナドラⅢ)無くしちゃったあぁ!!
どうか消えないで!

〈どうかぁしましたか?

はい!ゲームのソフトを無くしてしまったのですが!

〈あ、それ後で探しますから、今はソフト無しで書いてくれる?


という訳で、今更ながらアキオ達の見た目と声をキャラメイク時の番号で説明しようとしたら無くしちゃってました^^;
見付かったら改めて説明したいと思います。

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