魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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第8話の暗闇の魔女戦でサトリが使った影無しという技、あれ双剣のスキルでした(-_-;)
ま、まあ同じサムライなんで双剣使いのヒマリに教わったという後付け設定で・・・


第10話【もう何も怖くない】

記憶の中にある心を震わすヴァイオリンの音色。音楽に疎い当時まだ幼かったさやかにもその音は、旋律は感動をもたらした。

その音色を奏でるのは自分と仲の良い、よく遊ぶ男の子。演奏が、演奏を奏でる男の子が誉められるとさやかも嬉しさを感じ、彼女にとって自慢の幼馴染みになった。

そして何時しかその想いは変わり、ヴァイオリンを奏でる彼の側でずっと過ごしたいと思うようになる。

何時までも、ずっと・・・

 

その音色は今や水泡となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「よっ!今日も来てやったわよ」

 

さやかが入ったのは病室。

もう何度来たことか分からないその病室に、変わって欲しいと思いながらも以前来た時と同様の光景が目に入ってくる。

 

「やあさやか、いつもありがとう」

 

病室の窓際に備え付けられたベッドの上でさやかの幼馴染み、上条恭介は柔和な笑みをさやかに向けた。

上半身を起こそうと左腕を支えにするが、包帯を巻かれた右腕はピクリとも動かない。

その様を見てさやかは心を痛めるが、それを悟られまいとあえて明るく振る舞って彼に近付いて行く。

 

「またCD買って来たんだ、今回のは結構自信あるよ!」

 

そう言ってベッドの側に置かれた椅子に腰を下ろすと、CDショップのロゴが入ったビニール袋から一つのケースを取り出し彼に手渡した。

すると恭介の顔は明るくなり、さやかに礼を言う。

 

「ありがとうさやか、これはお宝だよ!さやかはレアなCDを見付ける天才だね」

 

「そ、そうかな?たまたまワゴンの中から見付けただけだって」

 

「いいや、ありがとう。早速聴いてみようよ」

 

言うや否や恭介は片手でケースを空けCDをプレイヤーにセットした。その慣れきった動きを複雑な気持ちで見詰めるさやかに、恭介はイヤホンの片方を差し出した。

その差し出されたイヤホンを耳に嵌めると、もう片方を嵌めた恭介との距離は必然的に縮まりさやかは思わず赤面して自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じる。だがそんな興奮も流れ始めたヴァイオリンの音色が鎮めてくれる。目を閉じればかつて見たヴァイオリンを弾く恭介の姿が思い起こされる。

 

だが途中で気が付いてしまった。

恭介が顔を隠すようにそっぽを向きながら、静かに震えているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかが病室を出ると、部屋の前の椅子にまどかが腰を掛け待っていた。

 

「お待たせまどか!」

 

何でもないように振る舞うさやかだが、先程の恭介の姿が頭から離れないでいた。

 

「どうして私達なんだろうね」

 

出口へと向かいながらさやかは呟いた。

 

「本当に願いを叶えたい人は、他に沢山いるのに」

 

五体満足、恵まれた家庭、平和な日常、大切な人々。自分には全てがある。なのに何故キュウべえは自分を選んだのか?

だが仮に彼にそのチャンスがきたとして、命懸けの戦いに身を投じる結果になったらそれはそれで嫌。

ならば自分の願いで・・・そこまで考えてマミに言われた事を思い出す。

 

夢を叶えてもらいたいのか、叶えた恩人になりたいのか。

 

もう魔法少女には関わらないで欲しい。

 

「ああもう混乱してきたあ!!」

 

病院を出るなり声をあげたさやかにまどかはビクりとする。

 

「さやかちゃん?」

 

「まどか、ちょっと付き合ってよ!セブンスエンカウントでケーキ食べよ!」

 

難しい事を考えても仕方がないと、さやかは先程考えていた事は忘れようとやけ食いしに行こうとしていた。

そんな時、ふと見付けてしまった。病院の壁に突き刺さる黒い物体を。

 

以前マミから見せてもらった魔女の卵を。

 

「嘘、あれ・・・」

 

さやかの呟きにまどかもソレに気付き、顔色を変えた。

 

「確か、グリーフシード?魔女の卵って・・・」

 

「なんだってこんな所にっ!?」

(恭介のいる病院に・・・!)

 

「間に合った!二人供無事かい?」

 

その時二人の前に現れたのはキュウべえだった。

 

「グリーフシード・・・孵化しかかってる!ここにいては危険だ、巻き込まれるよ!」

 

キュウべえはグリーフシードを見ると二人に危機を伝えるが、さやかはこの事態を放っては置けなかった。

 

「駄目だよ、こんな所で放って置いたら沢山の人が犠牲になる。アキオさんに連絡しよう、それまで私が見張ってる!」

 

何故マミではなくアキオなのかというと、このような事態に備え彼は中学生組にケータイの番号を書いたメモを渡していたのだ。しかしマミは知り合ってからずっと一緒にいたため、つい連絡先の必要性を忘れてしまっていた。

 

だがさやかの提案を残酷にもキュウべえは否定した。

 

「彼は来れないよ」

 

「え?」

 

「さやかちゃん!アキオさんのケータイ、圏外だって・・・」

 

その言葉を聞いて青ざめるさやか。そんな彼女にキュウべえは事情を話す。

 

「彼は今この病院の反対側に出現した魔女の結界に入って行った。普通の手段じゃ連絡は無理だよ」

 

それでもさやかは諦められなかった。

 

「まどか、私はさっき言った通りコイツを見張ってるからマミさんを呼んできて」

 

「そんな、さやかちゃん!?」

 

「無茶だよ!中の魔女が産まれるまでまだ時間はあるけど、一度結界が形成されたら君は外に出られなくなる!マミの助けが間に合うかどうか」

 

心配する二人を見ても、さやかは引く姿勢を見せなかった。

 

そんなさやかを見てキュウべえはさやかの隣に寄り添った。

 

「まどか、君は行ってくれ。さやかには僕がついている!マミならここまで来ればテレパシーで僕の位置が分かる。ここでさやかとグリーフシードを見張っていれば、最短距離で結界を抜けられるようマミを誘導出来るから!」

 

その申し出にさやかはキュウべえに礼を言い、まどかは頷いてマミを呼ぶべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡る。

まどか達がグリーフシードを見付ける少し前、先日のほむらの情報を元に見滝原総合病院の周辺をアキオは見回っていた。

すると程無くして視界の一ヶ所に空間の歪みを感じ取り、すぐさま駆け寄った。

 

「ビンゴ!まさか本当に現れるとはな。早速試してみるか」

 

そう言うとアキオは結界の入口らしき歪みに手をかざすと、その手から青白い光のコードが数本伸びて歪みに浸入してゆく。

 

「オーケーい・・・解析完了!」

 

次の瞬間、アキオの前から歪みは消滅して代わりに異空間、結界への入口が出現した。

 

「そんじゃ、お邪魔しま~す♪」

 

アキオが結界へと足を踏み入れようとして、視界が反転した。いや、頭が下を向いて落下していたのだ。

 

「なっ!?マジかよ!」

 

そこは地面や床など無い、360度全方位が蒼天の空だった。

アキオは辛うじて結界中に張り巡らされたロープに掴まり落下を止める事ができたが、もしこの結界に何のオブジェも無ければ永遠に落下し続けたのだろうかと考えその顔を眼前の青空のような色へと変える。

 

何とか落ち着いてロープの上に立つと、辺りを見回し魔女を見付けた。

彼から見てかなり上方に蜘蛛のように六本の足でロープを伝っているのが見えた。

 

「あそこまで行くのか・・・こりゃ骨が折れそうだ」

 

そう言いながらアキオは足場の悪いロープの上を見事なバランス感覚で伝ってゆく。魔女もアキオの接近に気が付いたのか、体から何かを射出してきた。

高速で接近してくるソレはスケート靴を履いた女学生の下半身、どうやらソレがこの魔女の使い魔らしい。

 

アキオもゲオルギアを抜き迎撃しようとするがただでさえ高速で飛来して来ているのと足場の悪さが相まってなかなか狙いがつけられない。軽く舌打ちをすると別のロープへと次々と飛び移り、何とか使い魔の射線から離脱した。

使い魔達は軌道を変える事無くアキオを素通りしていく。

 

「やる気があんのか?まあこっちとしては有り難いが」

 

不運にも軌道上に彼を捉えてしまった使い魔は呆気なく迎撃され、他を無視してアキオは再びロープを登り始めた。

 

近付くにつれて魔女の全貌がハッキリとしてきた。

首の無い女学生。そうとしか言い様の無い巨大な魔女。最初に足だと思っていたものは六本全てが長い腕だった。

 

「いくら俺でもアレは仲良くなりたくはないな」

 

軽口を叩きながら近付くアキオに定期的に使い魔を飛ばしてはいたが射線から逸れるだけでその攻撃は簡単に回避できた。たまに使い魔が周囲のロープをスケート靴で滑っている姿を見掛けるがこちらに対し何も仕掛けてくる様子は無い。

アキオがゲオルギアを構え、魔女に対し攻撃を開始してもその様子は変わらなかった。

 

「どうやら人望が無いみたいだな」

 

その言葉を発した直後、魔女の攻撃方法が変わった。今までは本体から使い魔を飛ばしていたのに対し、今度は魔女の周囲の空間に机や椅子、黒板など学校を連想させる物を出現させ一斉に飛ばしてきた。

直線で飛んでくる使い魔とは違い一つ一つがアキオを狙ってくる。

 

「おっと、地雷だったか」

 

そう言いながらアキオは全方位から迫る物体に向け射撃を試みる。避けなければ当たるであろう物を優先に、数発外しながらも狙いをつけた物体は確実に破壊した。

 

それだけでは終わらない。

彼が放ったのは魔弾。机や椅子に命中した弾は跳弾となり周囲の物体も巻き込んでゆく。それも一度だけでなく、物体に着弾する度に新たな獲物を求め飛び回る。

これが彼の《ジャンプショット》だ。

 

弾幕が崩れた隙を突き一気に接近したアキオはまず、一番近い右腕に驚異的な速射を誇る《ラッシュショット》を見舞った。

一発は弱くとも同じ箇所に十発以上の連撃が襲いかかり、それを受けた腕はあらぬ方向へひしゃげてピクピクと痙攣を起こした。恐らくその腕はもう使い物にならないだろう。

 

この攻撃を全ての腕に仕掛けようと考えるアキオだが、魔女は視界を埋め尽くす程の使い魔を射出して来た。しかし密度が濃くとも直線にしか動かないその攻撃は既に見切っている。

 

アキオが逃げる先を探したその時だった。

 

使い魔の壁を押し退けて魔女の手が現れた。

以前マミが戦った魔女は使い魔を傷付けられ憤慨していたが、この魔女は使い魔をただの道具としか思っていないようだ。

その魔女の違いが、魔女戦が初めてのアキオの意表を突いたのだ。

 

「んな!?」

 

突然の攻撃に避ける事は叶わず、両腕を重ねて少しでもダメージを減らそうとするのが精一杯だった。

 

次の瞬間、アキオは巨大な魔女の手に叩かれ底の見えない青空へと落ちて行った・・・

 

 

 

 

 

 

 

場所は見滝原総合病院前に戻る。

まどかはマミを連れてこの場所まで戻って来たのだが、そこには既にさやかとキュウべえ、そしてグリーフシードの姿は無く、空間の歪みだけが存在していた。

 

「鹿目さん、あなたはここに残ってもう一度アキオさんやサトリさんに連絡をして」

 

マミはまどかから事情を聞いた時にサトリにも連絡をしようとセブンスエンカウントに電話をしたが、彼女は店に居らず今回の事を知らせる事が出来なかった。

 

救援をまどかに託してマミは結界に入るが

 

「い、嫌です!」

 

なんとまどかまで結界の中に入って来てしまった。驚くマミにまどかはずっと考えていた事をマミに伝えようと言葉を出した。

 

「私、ほむらちゃんやマミさん、それに知らない人にまで契約はしちゃいけないって言われました。けど、何の取り柄も無い私だけど、魔法少女になってマミさん達の助けになりたいんです!」

 

「鹿目さん、今はそんな事を言ってる場合じゃないわ」

 

「でもマミさんの脚だってまだ治ってないんですよね」

 

ギクリとなるマミ。一応走れるまで回復はしたが、戦闘の激しい動きに耐えられるかは不安だった。

そんなマミの反応に気付いた訳ではないが、まどかはただ一生懸命に続ける。

 

「私、昔から得意な学科とか人に自慢出来るような才能とか何も無くて・・・きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま迷惑ばかりかけていくのかなって・・・ソレが嫌でしょうがなかったんです。でもマミさん達に出会って、誰かのために戦うの見せてもらって、同じことが私にも出来るかも知れないって言われて何よりも嬉しかったのはその事で・・・戦いは危険だって事教えて貰ったけど、だからこそ一緒に戦いたいんです!」

 

その真剣な、そして精一杯のまどかの叫びにマミはたじろいでしまう。

本当は巻き込んではいけない。そう頭では分かってはいるが、彼女の想いを簡単に無下にはできず、何よりも嬉しかったのだ。

 

「鹿目さん・・・ありがとう。あなたがそこまで言うなら私はあなたを止めないわ」

 

だが

 

「けど一つだけ約束してちょうだい?契約するのは私がやられそうになるまで待って」

 

ギリギリでマミは踏みとどまる。今言った条件がマミが譲歩出来る精一杯だった。

自分に甘いと思いながらも、逆に負けなければ何の問題も無いと自分に言い聞かせる。

「どうかしら?」と訊ねるマミにまどかは苦笑しながら「それじゃピンチにならなかったら私魔法少女になれないじゃないですか」と返した。

 

「何言ってるの!本当はこんな危険に付き合わせたくないんだから。けど、今のが鹿目さんがちゃんと考えて出した答えだって分かるから、特別よ」

 

そう言うとマミは結界を進み始めた。まどかもここで追い出されなかったという事はついて行っても良いということと捉え慌てて彼女の後を追い掛けた。

 

「でも、肝心の願い事はまだ決まってないのね」

 

「あ、それは・・・はい」

 

マミが悪戯っぽく言うとさっきまで強い眼差しだったまどかは顔をしゅんとさせてしまう。その様がおかしくてマミは笑ってしまった。

 

「ふふ、あなたの覚悟は分かったけど、これは話は別よ。ちゃんと後悔の無いように考えておいてね」

 

「それには及ばないわ」

 

突如聞こえた二人以外の声。まどかは驚き、マミはすぐさま振り向くとそこにはほむらの姿があった。

 

「ほむらちゃん・・・」

 

「単刀直入に言うわ。今回の魔女は今までと違う。あなた達は手を引いて」

 

何故産まれたばかりの魔女の事を知っている風に言うのだろうか?

それに一方的な要求である。

 

「美樹さんとキュウべえがいるの。悪いけどそれはできないわ」

 

一方マミはその要求をさらりと拒否した。まどかはこのまま最悪の事が起きるんじゃないかとおどおどしていたが、それでは状況は変わらない。

 

「二人の安全は保証するわ」

 

信用すると思っているの?

 

マミは喉元まで込み上げて来たその言葉を寸前で飲み込んだ。

 

(危ない・・・私、自分で言ってたじゃない。暁美さんの事を誤解してたかもって)

 

人間分かってても実際に事を目の当たりにすると過去の失敗を繰り返してしまうものだ。特に感情が動く人間関係では尚更だろう。

しかしここで踏みとどまれたのは、彼女が確実に成長している証だ。

 

マミは深呼吸すると今度はこちらからほむらにある提案をした。

 

「手を引くんじゃなくて、手を合わせて二人で戦うっていうのはどうかしら?」

 

その言葉にピクリと眉を動かした。しかし相変わらず無表情を崩さずほむらは返す。

 

「あなたは私を信用できる?あなたを後ろから撃つかも知れないわ」

 

しかしマミはクスリと笑った。

 

「あなたがそういう人間なら最初に会った時や、ついさっきにやろうと思えばやれたはずよ?それに、わざわざ自分からそんな事言わないんじゃない?」

 

「意外ね。あなたならもっと疑ってくると思っていたわ」

 

「確かに、私はあなたをグリーフシードだけが目的の魔法少女だと思っていた。けど今は違うわ。本当は鹿目さん達に、私達みたいな戦いをさせたくなかったのよね?」

 

ほむらの表情が一気に硬くなった。その表情から当たらずも遠からずと思ったマミは更に続けた。

 

「今の私も同じ気持ち。キュウべえを傷付けたのは許せないけど、誤解してた事は謝るわ、ごめんなさい」

 

そう言いながらマミはほむらに頭を下げた。

 

「・・・いいわ」

 

「え?」

 

「一緒に戦いましょう、巴マミ」

 

その言葉にマミは頭を上げると呆けたようにほむらの顔を見詰めた。そのほむらの顔はやはり無表情だが心なしか少し赤みが差してるように見えた。

 

「それと・・・私も誤解してたわ。もうあなたとは分かり合えないと思っていたから」

 

ばつの悪そうに視線をずらして言うほむらにマミ、そしてまどかはクスリと笑った。

そしてマミはほむらの両手を握りまどかもその上に手を置いた。突然の事に驚くほむらを他所にマミは言った。

 

「それじゃあ私達はこれから仲間よ!だからフルネームじゃなくて、"マミさん"って呼んで欲しいな」

 

「私も、"まどか"って呼んで!」

 

「うっ・・・」

 

ほむらはサッと自分の手を抜き、先に結界の奥へと歩を進めた。

 

「美樹さやかが心配だわ、急ぐわよ・・・巴さん、まどか」

 

その後ろ姿に呼ばれた二人は顔を見合わせて笑うのであった。

 

(暁美さん・・・悪い子じゃなかった。アキオさんの言う通りちゃんと話をして良かったわ。キュウべえを傷付けた理由は後で聞くとして、こうやって一緒に戦ってくれる仲間が増えて、鹿目さんも私の事本気で思ってくれて・・・今なら私、もう何も怖くない!)

 

 

 

 

 

 

 

もう一つの結界内。

 

魔女に吹き飛ばされたアキオは、この結界に侵入したもう一人の人物に抱えられていた。

 

「悪いサトリ、ドジ踏んだ」

 

抱えられたアキオは、自分を助けた人物・サトリに礼を言った。

 

アキオは今回の魔女出現の件を予めサトリに伝えており、結界の入り口もハッキングでしばらく開いたままになるようにしていたのだ。これによりアキオが吹き飛ばされた時にタイミング良く入って来たサトリに拾われたのである。

 

「まったく、世話が焼けるんだから。調子は?」

 

「良くはないかな?左腕が動かねえ」

 

そう言うアキオの左腕はぷるぷると震えていた。恐らく骨折か、良くて肩が抜けたといったところだろうか。

当然だ。あのような大質量で殴られればただではすまないはずだ。

 

「じゃあバディで行くよ。アキオは後衛ね」

 

「はぁ、しょうがねーな。今は回復役も医療キットも無いしそれが一番か」

 

サトリから降ろされたアキオは左腕が動かなくなった事でますますロープの上でのバランスを取り辛くなったが、それでも立っていられるのは今まで経験して来た数々の修羅場のおかげだろう。

この状態での戦闘は無謀だがアキオから自然と笑みがこぼれた。それはサトリも同様で、久しぶりに信頼しあえる仲間との共闘に知らず知らずの内に高揚感が湧いていたのだ。

 

「それじゃ行くよ、アキオ」

 

「ああ、俺達が揃えば」

 

「「もう何も怖くない!」」


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