「ここであってるかな?」
魅音に言われた集合場所に到着した。
2人はまだ来ていないみたいだ。
興宮に行く機会事態は何回もあったけど雛見沢で遊ぶことを優先してたから来るのは初めてだ。
「「お兄ちゃーん!!」」
「ぐはぁ!?」
声に反応して振り返ると同時に腹に衝撃を受ける。
やべぇ、完璧鳩尾に入りやがった。
なんとか衝撃に耐えて腹に突撃した物体を見ると、予想通り魅音と詩音だった。
「お前ら、勢い良すぎだろう」
「あははごめんごめん。嬉しくてつい」
「大丈夫?お腹抑えてるけど、トイレ我慢してるの?」
誰のせいだと思ってやがる!
もし事前にトイレに行ってなかったら今頃ここは大惨事だったぞ。
「・・・・まぁいいや。それで今日はどうするんだ?」
俺は興宮には詳しくないので2人に任せるしかない。
あ、でもエンジェルモートには行ってみたい。
この年でもう出来てるのかな?
出来てたらぜひ通いたい。
「今日はうちに招待するよ!」
「・・・・今なんて?」
うちに招待する?
君たちの家ってあれだよね?いわゆるヤクザだよね?
そこに招待するというのか君たちは。
「今日は私たちの家で遊ぶんだよ?お兄ちゃん」
「どうしてそうなった」
あ、もしかして家に人がいない感じ?
だとしたら全然大丈夫。
「お母さんが私たちにお兄ちゃんができたって言ったら連れてきなさいって言うもんでさ」
「・・・・ジーザス」
なんだ、俺の自業自得だったか。
考えるまでもなく当たり前の結果だよね。
可愛い娘に知らない男がお兄ちゃんになったなんてことを知ったら普通の親でも気になるに決まってる。
それが園崎家ならなおさらだ。
あれ?これ俺終わったか?
「というわけで行こ!お兄ちゃん」
詩音に抱きつかれたまま園崎家に誘導される。
今の俺には詩音は死神に見える。
「いやいや!そんな気軽に行っていいのか!?」
私服だよ?お土産もないよ?
だから普通に興宮で遊ぼう?お兄ちゃんがエンジェルモートでパフェを奢ってあげよう。
「大丈夫大丈夫」
反対側から魅音に抱きつかれ、2人で強引に俺を引っ張る。
俺はそのまま園崎家に向かうことになってしまった。
◇
「・・・・でかい」
2人にホールドされたまま歩くこと10分。
俺の前には明らかに他の家とは格が違う。馬鹿でかい屋敷があった。
すごく豪華な旅館って感じ。
「魅音様、詩音様。おかえりなさいませ」
家の前にはある大きな扉の前には高そうなスーツにグラサンという明らかにあっち系の人たちが2人立っていて魅音と詩音を見つけると頭を下げた。
そして2人に抱きつかれている俺をグラサン越しでもわかるほどやばい目つきで睨んできた。
二度目だが、本当にトイレに行っておいてよかった。
子供になんて目で睨みつけてきやがる。
俺がそのままの精神年齢だったら泣いてるぞ。
「こちらです」
スーツの男性に案内されながら廊下を歩く。
豪華な作りの室内に感心する余裕はない、どこに連れてかれるの?
まさか拷問部屋とかじゃないよね?
しばらくすると1つの襖の前に立ち止まる。
「茜様。お連れしました」
「入っていいよ」
「灯火様。どうぞ」
そう言ってスーツの男性が脇にそれる。
え?入れってこと?
しかも茜って確か魅音と詩音の母親の名前じゃなかったか?
「し、失礼します」
若干震えながら襖を横にずらす。
中には黒い着物をきた女性。魅音と詩音にそっくりな人がいる。
見ただけでわかる、この人が魅音と詩音の母親だ。
「ほーお。いい顔してるじゃないか。将来は男前になりそうだね」
「あ、ありがとうございます」
「ははは。そう固くならんでもいいよ。楽にしな」
「お兄ちゃん座ろ」
詩音にそう言われ用意されていた座布団の上に正座する。
俺の左右には当たり前のように魅音と詩音が座る。
どうしてこうなった。ただ何も考えず魅音達と遊ぶつもりで来ただけなのに。
「わざわざ来てくれてありがとうね。魅音と詩音の母。園崎茜だよ」
「初めまして竜宮灯火です。こんな豪邸にお呼ばれするとはおもわず、土産の1つも持ってきてないです。すいません」
使い慣れない敬語で話しながら土下座する勢いで頭を下げる。
すいません、あなたの娘さん達を勝手に妹にした愚か者とは俺のことです。
「それぐらい気にしないさ。こっちが急に呼んだんだ。悪かったね」
「いえ。魅音と詩音の家に来れてすごく嬉しいです」
頬が引きつるのをなんとか抑えて笑みを浮かべる。
ここで嫌々来ましたなんて口が裂けても言えない。
「くく、そうかい。それは良かったよ」
茜さんは俺の様子を見て小さく笑う。
完全に俺の本音に気付いてるよこの人。
「ねぇお母さんもういい?早くお兄ちゃんと遊びたいんだけど!」
ここで救いの神が登場する。
詩音は頬を膨らませながら母に早く遊びたいと言ってくれた。
このままここを離れることが出来るかもしれない。
「お兄ちゃんね。今日呼んだのはそのことさ」
知ってた。
もしかしたら普通に遊べるかもしれないと思っていた俺の一縷の望みは潰えてしまったか。
これはあれだな、どこの馬の骨ともしれないガキが何うちの可愛い娘たちを誑かしてるんだい?って流れだね。
いやまったくその通りですね。
「あんたは魅音と詩音の兄になる。その意味を分かっているのかい?」
「・・・・意味ですか?」
激怒されてヤクザに囲まれることを想像していた俺は茜さんの予想外の言葉にそのまま言葉を聞き返す。
あれ?拷問行方不明コースじゃなかったのか。
「うちら園崎家はね、いわゆるヤクザってやつさ。仁義の世界に身を置く人間さね」
「・・・・その園崎家の娘の兄になるってことはどうなるかってことですよね」
おや?流れが変わってきたな。
てっきり兄なんて認めるわけねぇだろって激怒されるものと思っていたけど、どうやら違うらしい。
えっと、魅音達の兄になる意味か。
それはつまり、園崎家の次期当主の娘の兄になるってこと。
うん、言葉だけでその破壊力がよくわかった。
「気づいたかい?魅音と詩音の兄になる。それはつまり。うちの組に入ると同義だよ?」
「・・・・おっと」
やばい話になってきた。
確かに考えなしの行動だったけど、茜さんも子供の言葉を真に受けてガチ脅しをしてきやがった。
「毎日命をかけて駆けずり回り、腸が煮えくり返るような怒りに耐え、人間の闇をこれでもかとみることにだってなる。こいつらの兄になるってのはね。そういうことさ」
「・・・・」
「わかったかい?この子たちの兄になるという言葉の意味が」
「・・・・よくわかりました」
「そうかい。これを聞いても魅音と詩音の兄でいたいかい?」
「・・・・」
茜さんの言葉に黙り込む。
これは茜さんからの忠告だな。
たとえ遊びでも二人の兄を名乗るならそういう覚悟が必要ってことだ。
さて、俺の予想以上に重い話になってしまった。
別にここで俺が二人の兄であることを撤回したとしても問題にはならない。
というかそうするべきだな。
撤回しても別に沙都子と同じ、妹のような友達って関係は変わらないし。
考えなしの行動をしてしまったことを反省しないといけない。
「じゃあ」
俺が茜さんに対して言葉を口にしようとした時、横にいた詩音は俺の服の端を掴んでいることに気が付く。
「・・・・お兄ちゃん」
詩音は俯きながら弱弱しい力で俺の服の端を掴む詩音。
魅音もこちらを不安そうに見て黙っている。
そんな二人を見て、先ほど言おうした言葉が止まる。
代わりに出たのは全く別の言葉だった。
「・・・・茜さんは2人の見分けがつきますか?」
「・・・・なんだって?」
「詩音。少し頼みたいことがある」
「なに?」
「魅音のふりをしてくれないか?よくやるんだろ?2人で入れ替わり」
固まる茜さんを置き去りして隣の詩音にそうお願いする。
あんな顔されたら腹くくるしかないだろ、思春期の男のプライドなめんな!
それにあれだ、これで俺が本当に二人の兄として相応しいの確かめられる。
失敗したら茜さんの言う通り二人の兄であることは諦めるさ。
「・・・・いいよ!」
俺のお願いを聞いた2人は立ち上がって部屋を出ていく。
そしてすぐに戻ってきた、しかしその姿は完璧に瓜二つとなっていた。
髪型や服装、しまいには表情なんかも全く一緒だ。
「やっほー私が魅音だよ」
「なに言ってんの。私が魅音だって」
「私!」
「私!」
その光景はまるで1人の少女が鏡の前で自分と話しているのような光景だ。
上等だ、絶対当ててやる。
「茜さん、ここで俺と賭けをしませんか?」
「ほぉ、聞こうじゃないか」
俺の言葉に茜さんは面白いに笑みを深める、
向こうはこちらが言おうとしてることをだいたい察しているのだろう。
「俺がこれからどっちが魅音なのかを当てます。もし当てたら遊びの範疇で結構なので二人の兄と名乗らせてください。もちろんちゃんと覚悟もしますよ」
「ふむ、いいよ。もし当てたらお前さんを二人の兄と認めようじゃないか。ただし失敗したら」
そう言って茜さんは自身の懐に手を入れて何かを取り出す。
見れば、茜さんに手には短刀が握られていた。
「こいつでお前の指を切り落とす。この子らの兄と名乗るんならそれくらいの覚悟はしてるんだろう?」
「・・・・ふっ」
してるわけないだろ!?
何当然のように短刀だしてるんだよこの人!?
こっちはまだ小学生だよ!?お兄ちゃん呼びだって遊びの範疇だって言ってんじゃん!
だがここでじゃあやめたなんてカッコ悪すぎる。
そんなのは死んでも嫌だ。
かろうじて意味深に笑うことは出来た。
問題ない、要するに当てることが出来ればいいんだ。
2人の癖は昨日でなんとなくだがわかってる。
まぁ確信できる様なものではないけども。
後は勘だ!
俺はあの勘の鋭い礼奈の兄貴だ、俺だって直観力には自信があるんだよ!
「二人も見分けが出来るようなわかりやすい行動をするんじゃないよ。私がそう判断した時点でこの子の負けだ」
「「・・・・」」
茜さんから魅音達に忠告が入る。
たぶん茜さんは二人の見分けがつくんじゃないか?
その場合、俺が間違えたとしても二人が口裏合わせで正解と言ったとしてもバレる。
やっぱり俺が正解を当てるしかない。
確率は二分の一、決して分が悪いわけじゃない。
「・・・・こっちが魅音でそっちが詩音だ」
俺はそれぞれに指をさせながら告げる。
「ほぉ、根拠を聞こうじゃないか」
「・・・・昨日遊んだ時に二人の癖が何かないか探してたんです。ちゃんと二人を見分けることが出来るようになるために」
理由を求められた俺はその根拠を説明する。
わかりやすい癖だと思ったのは手を握る時の形。
詩音は握る時に親指を出す。
魅音は逆に親指を中に入れていた。
昨日遊んだくらいでわかることなんて限られてる。
癖なのかすら怪しいし、正直ほぼ直感。
この親指の癖が間違ってたら俺の親指がなくなる。
「「正解!!」」
俺の言葉に魅音と詩音は同時にそう告げる。
よっしゃおらぁ!!見たかこの野郎!!
「でも手の握り方なんてよく見てたね、全然意識してなかったよ」
魅音は自身の手を握ったり開いたりして確認する。
そして詩音は嬉しそうにこちらに抱き着いてきた。
「これで俺は二人の兄貴ってことでいいですよね!」
詩音の抱き着いてきた勢いに負けて押し倒されながらも茜さんに確認する。
別に娘を俺にください!とかそういうわけじゃないんだ、別にこれくらい認めてくれてもいいだろ!
「ヤクザになる覚悟なんてない。でもこいつらが俺に泣いて助けを求めたら、たとえ弾丸が行き交うやばい場所だろうと余裕で突っ込んでやるよ。それが俺なりのこいつらの兄になるという覚悟だ!」
くさいセリフだけど、本音ではある。
こっちは礼奈によって鍛えられた筋金入りのシスコンだ!
ヤクザなんざ怖くねぇぞ!!
・・・・嘘ついた、めっちゃ怖い。
でも実際魅音達に助けを求められたらカッコつけて弾丸飛び交う場所にも飛び込む。
心の中で漏らすほどビビってるけど、そこで妹の前でカッコ悪い姿を晒すことは絶対に嫌だ。
俺の言葉に茜さんは俯いて黙る。
しかしだんだん肩が震えて口から声が漏れる。
「あはははははははは!!その年でそれだけの啖呵が切れれば将来安泰だよ!気に入った。あんたを2人の兄に認めてやろうじゃないか!」
茜さんは大笑いをし始め、俺を魅音と詩音の兄であると認めてくれた。
「「お兄ちゃん!」」
「ぎゃふ!?」
詩音に押し倒されたところに魅音も俺に乗っかってくる。
気付かないふりしてたけど正座で足が痛い!!
「お兄ちゃんすごい!カッコいいよ!」
「あはは!だね!ちょっとくさいセリフだったけど」
「やめて!?指摘されると死にたくなる!あと降りろ!」
「嬉しいからしばらくこのまま!うりうりー!」
俺の腹に手を入れて触りまくる魅音。
「くすぐったい!やめろばか!」
「妹の愛情表現だよ。黙って受け取りなさい」
そうやって俺たちがじゃれているのを茜さんは笑いながら見ていた。
「今日はご馳走だね!灯火!うちで食べてくだろう?」
「お願いします」
「よーし今日は良い日さね!期待してな!」
そう言って茜さんは廊下を歩いていった。
とりあえずこれで一件落着か。
とんでもない一日になってしまった。
「・・・・お兄ちゃん。聞いてほしいことがあるの」
茜さんがいなくなると2人は急に真剣な表情になり、俺を見る。
「どうした?」
「うん・・・・実はね」
それから2人は話し始めた。
1年前に入れ替わったこと、本当は魅音が『詩音』で詩音が『魅音』であることを。
鯛のお刺身を食べたことがなかった『詩音』はどうして私だけこんな目にあうの?と泣いた。
それを可哀想だと思った『魅音』がその日は入れ替わってあげることにした。
しかしその日は運悪く、頭首の証である鬼の刺青を入れる日だったことでそのまま『魅音』は詩音に『詩音』は魅音になってしまった。
「‥‥‥
話を聞き終え俺は『魅音』である詩音を抱きしめる。
「お、お兄ちゃん?」
「辛かったな。誰も自分が魅音ということを信じてもらえない。辛いよな」
2人が体験した気持ちなんて俺ごときではわからない。
でも、それでも言ってあげたいことはある。
「・・・・」
「でも俺が知っている。お前が『魅音』であることを俺は知ってる。俺は絶対にお前を差別したりなんかしないよ」
「うぃ、ううううう!辛かったよ!みんな気づいてくれなかった!辛かったよ!お兄ちゃん!!」
「ああ」
俺は泣き出した詩音を抱きしめる。
「そして
「え?」
泣いている詩音を辛そうに見ていた魅音を一緒に抱きしめる。
「お前も辛いよな。自分のせいで泣いているお姉ちゃんを見て、自分がいくら言っても誰も信じてくれない。罪悪感だけが溜まっていく。心が痛いよな」
「あ・・・・」
「魅音はきっと辛いことばかりだろう。辛くなった時は俺に言いな。俺はお前のお兄ちゃんだからさ」
「うぅ、うわぁぁぁぁん!!」
2人はしばらく泣き続けた。今まで溜めていた涙を使い切るように。
俺はその間、俺は泣く2人の背中を優しく撫で続けていた。
◇
「落ち着いたか?」
「「うん」」
「さて、これからは2人のことを本当の名前で呼んだほうがいいか?」
ややこしくなるがそれが本当の姿なのだから。
「んにゃ。今までの通りでいいよ。だって今は私が魅音で」
「私が詩音なんだから」
そう言う2人にはもう暗い部分は無いように見えた。
「そっか。2人がいいならそうする」
「うん!じゃあ気を取り直して遊ぼ!」
「ほら。お兄ちゃん立って」
詩音に手を引っ張られ立ち上がる。
「よっしゃ!遊ぶか!」
「「うん」」
3人で仲良く屋敷の探検が始まった。
◇
「・・・・食べすぎた」
腹をさすりながら家に向かって歩く。
あの後、今まで食べたことがないようなご馳走が用意され。調子に乗って食べすぎてしまった。
しかも別れの時に。
「あんたをおばばに会わせるのが楽しみだよ」
と言われ、即行で勘弁してください!っと頭を下げたけど大丈夫だろうか?
「今日は疲れた・・・・帰って寝よう」
あくびをしながら歩いていると目の前に見知った顔が現れた。
「あれ?悟史に沙都子じゃん」
「え?灯火・・・。」
「灯火さん」
「おいおい元気ないぞ。どうした?」
2人はいつもと違って明らかに元気がなく落ち込んでいた。
「・・・・実はさっき、両親が離婚したんだ」
「・・・・そうか」
なるほどな。通りで暗いはずだ。
「・・・・母さんは僕らのせいで父さんが出て行ったって言って僕らは追い出されて」
「・・・・うぅ」
「・・・・公由おじいちゃんのところに行こう。あの人ならいきなり押しかけても泊めてくれる」
今の2人を放っておくことなんて出来ない。
2人を落ち着かせるために俺たちは3人で公由おじいちゃんのところに向かった。