レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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羽入

「・・・ジーザス」

 

神様の馬鹿野郎!空気読め!

あ、羽入のことじゃないからな!

 

「診療所ってまだ建設中なんじゃ?」

 

「ええそうよ。もうすぐここで働くことになるから下見に来たの」

 

「ああ、なるほど」

 

「ここは良いところね。空気は美味しいし、緑もとても綺麗だわ」

 

「えへへ !そうでしょ!礼奈もここが大好きなの!」

 

「私もですわ!」

 

「もちろん僕も」

 

「僕も好きなのです!にぱー☆」

 

鷹野さんの言葉に全員嬉しそうに同意する。

みんなこの雛見沢のことが大好きなのだから褒められて嬉しいのだろう。

 

「みんな雛見沢が大好きなのね」

 

ニコっと笑みを浮かべる鷹野。

その笑み、寒気がするからやめてほしいんだけども。

あと帰って。

 

ちなみに言う度胸はない。

 

「じゃあこういう話は知ってる?」

 

あ、寒気の理由わかったかも。

 

「この雛見沢にはね、鬼ケ淵という底なし沼があるの。その沼には底の向こうが地獄と繋がっているという伝説があるの」

 

「・・・・僕、聞いたことある」

 

悟史は鷹野さんの話に頷く。

俺は初めて聞いた、そんな沼が村にあるのか?

いやあったとしても俺が知らないってことは原作とはそこまで関係ないはず。

 

「ある時にその沼から鬼たちが現れてどんどん人を食べていく」

 

「ひっ!」「はう!」

 

礼奈と沙都子が短い悲鳴をあげて俺と悟史にそれぞれ抱きつく。

子供になんて話をしてるのだこの人。

 

「でもね。村の人たちがもうだめだっと思った時に天からオヤシロ様が降りてきて鬼たちを沈め、村の人たちと共存をさせたの」

 

「礼奈知ってる!いつもおばちゃん達が言ってる神様だよね!」

 

「なるほど、だから村の人たちはオヤシロ様を崇めてるんだね」

 

話を聞いて悟史が納得したように呟く。

確かに村の老人たちのオヤシロ様信仰は凄まじい。

 

毎日お祈りしてるし、綿流しだってオヤシロ様を祭るためのものだ。

 

「そうよ。もうすぐしたら綿流しがあるでしょう?あれはオヤシロ様に感謝する儀式なのよ」

 

俺が思っていたことをみんなに鷹野さんが説明してくれる。

そろそろ帰ってほしいんだけど、ダメ?

でも今のところ別に害のある話ではないな。

 

俺の警戒のしすぎか?

 

「そうなのです。タカノの言う通りなのですよ」

 

梨花ちゃんも鷹野の言うことを肯定する。

梨花ちゃんには羽入が見えてるからな、この中でもっともオヤシロ様に詳しいのは間違いなく梨花ちゃんだ。

 

「オヤシロ様ってすごいな。村の守り神なんだ」

 

俺も梨花ちゃんに合わせてオヤシロ様をよいしょする。

ふ、これでまた羽入の好感度をあげてしまったか。

 

「ふふ。そうね。でもここからが面白いのよ」

 

「・・・・まだ続きがあるんですか」

 

怖いものが苦手な悟史は嫌そうだ。

そしてさらに怖いものが苦手な沙都子が悟史にしがみついている。

 

この似た物兄妹め。

 

「もういいじゃん、難しい話で飽きちゃった」

 

飽きた振りをして鷹野さんに諦めてもらう。

これ以上は嫌な予感しかない。

話を聞くのはここまででいい。

 

「あらそう?でも他の子達は聞きたそうよ?」

 

礼奈達に目を向ければ全員怖い物見たさと言った感じに聞く体制に入ってる。

それを見た鷹野さんは口元を隠して笑いながら話を続ける。

 

「ふふ、人間と鬼は共存をしてやがて人間と鬼の血が混じっていった。鬼の血が混じった人間は時折その血が目覚め、人間たちを生贄に攫っていったの。これを村の人たちは『鬼隠し』といって恐れた」

 

「そ、そんな!オヤシロ様は!?どうして何もしないの!?」

 

「もちろんオヤシロ様が許してたからよ」

 

「っ!?」

 

鷹野の返しで礼奈が絶句する。

オヤシロ様の伝説。

詳しくは知らなかったけど、そんな伝承になってるのかよ。

 

「そして鬼たちは攫った人間を美味しくいただくために綿流しを開いた」

 

「え、それはどういう」

 

「綿っていう言葉には別の言葉があるのよ?『魚のはらわた』なんて聞いたことない」

 

「ま、まさか」

 

想像してしまった悟史が顔を青くさせる。

いやだからこの人は子供なんてこと教えてるの!?

 

「そうよ。今とは違い、昔の綿流しは凄惨な人食いの宴のことだったのよ」

 

「「「「っ!」」」

 

「綿流しは布団を清める儀式なんだけど腸の詰まった布団ってなんなのかしら?」

 

「「「・・・・」」」

 

全員それを想像してしまったのか顔をさらに青くさせる。

沙都子なんてすでに涙目だ。

 

「布団を裂いて中のワタの引きずりだし、そのワタをみんなで千切って川に流す。意味がわかったかしら?」

 

鷹野さんの話を聞いて俺と梨花ちゃんを除く全員が震える。

これで今日礼奈が怖くて眠れなくなったらどうしてくれるんだ!

 

少なくとも俺の布団に潜り込んでくるのは確定。

 

「ふふふ。オヤシロ様もひどいわよね。そんなひどいことをしているのに何もしないのよ?それはなぜか。簡単よ!オヤシロ様は血塗られ、呪われた。残虐な神様だからよ!」

 

 

「「「・・・・」」」

 

鷹野の話を聞いてみんな黙ってしまう。

おいおい。もうすぐ綿流しだぞ?この雰囲気はやばいだろ。

せっかくみんなで行ける初めての綿流しなのに楽しめないとか最悪以外の何物でもない。

 

それに考えすぎかもしれないが、これが原因で雛見沢症候群が発症、もしくはそれのフラグになんてことになるかもしれない。

 

『ひっく、うぅ・・・・違うのです、僕はそんなのじゃないのです』

 

誰かが泣いている声が耳に届いた。

 

誰だ?

 

みんなの方を見るがみんな怖がってはいるが泣いてはいない。

 

じゃあ誰だ?

 

・・・・そんなものは決まってる。

鷹野さんはマジで怖いけど、ここで泣いてる子のために何もしないとかカッコ悪すぎる。

 

「あれ?おかしいな?俺の知ってるオヤシロ様と全然違うんだけど」

 

「・・・・へぇ」

 

「トウカ?」

 

辛そうに何もない場所を見つめていた梨花ちゃんが俺の言葉に反応してこちらを見る。

そこにいるのか羽入、だったらしっかり聞いてろよ。

 

「じゃあ教えてくれる?あなたの知ってるオヤシロ様を」

 

鷹野の言葉に俺は笑みを浮かべる。

 

「俺の知ってるオヤシロ様は泣き虫ですぐにアウアウいって慌てて、辛いものが苦手で、おっちょっこちょいで、この村の誰よりも優しくて、いつも俺たちを見守ってくれている。俺が現在狙っている女だ!」

 

「はい?」

 

ポカーンっと言った表情になる鷹野。

こちらは渾身のどや顔である。

 

「いやー毎日ラブレターを送ってるんだけどなかなか返事をくれないんだよな。そろそろ返事が来てもいい頃なんだけど」

 

「あなた何を言ってるの?オヤシロ様のことをどこかの女の子と勘違いしてるでしょ」

 

「勘違いしてねぇよ。この村の守り神オヤシロ様のことを言ってるんだ」

 

「・・・・頭が痛いわ。つまりオヤシロ様がとてもドジな女の子だって言いたいの?」

 

「そうそう。シュークリームをあげたら喜ぶぞ?」

 

実際俺の言ってることは間違ってないからね?

まぁ俺も羽入の姿は見たことないんだけど!

 

羽入からしたらなんで自分のことを知ってるのこの子!?って感じに今なってるのかな?

 

これで羽入が姿を現してくれたりしないかなぁ。

 

「・・・・はぁ。何だか力が抜けたわ。私は帰るわね。さようなら」

 

「はいはーい。オヤシロ様が俺の女になったら教えるね」

 

本当に力が抜けたようにとぼとぼと帰る鷹野。

そして鷹野さんがいなくなった後、全員がおかしそうに大声で笑う。

 

「ぷ、あははは!灯火、なんだよさっきのは、びっくりしたじゃないか」

 

「オヤシロ様は随分可愛らしいのですわね!これはトラップをくらわせた時の反応が楽しみですわ!」

 

「はうー!オヤシロ様かぁいいよう!お持ち帰りー!!」

 

さっきまでの暗い雰囲気が嘘のように明るい雰囲気が満ちる。

全員俺の言ったことなんて信じてないだろうが、今はそれでいい。

 

とりあえずこれでみんなからオヤシロ様のイメージは変わっただろうし。

 

「みぃ。トウカ」

 

「ん?なに?梨花ちゃん」

 

みんなが笑っている最中に梨花ちゃんが俺の服を掴んで話けてくる。

梨花ちゃんは笑みを浮かべていて、どうやら俺の行動は成功したことを察する。

 

「羽入がありがとうって言ってるのですよ。にぱー☆」

 

「そっか。おい羽入。じゃあお礼に俺のほっぺにチューをしてくれ」

 

うーん見えないのが残念だな。羽入の反応を見てみたかった。

きっと顔を赤くさせて手をバタバター!みたいな感じで慌てるんだろうなぁ。

 

「ま。それはさすがに、っ!!?」

 

俺の頬に一瞬、柔らかい感触が伝わった。

 

「お、おおう。まじでか」

 

まさか本当にしてくれるとは。

あれか?手でやるドッキリか?

それともマジなやつか?

 

「・・・・羽入。今日はキムチ鍋なのですよ。にぱー☆」

 

横を見ると黒い笑みを浮かべた梨花ちゃんが降臨していた。

さっきの鷹野の話の比じゃないくらい怖い。

 

あれ?この梨花ちゃんの様子を見るに、マジでしてくれたやつでは?

 

そして一瞬俺の視界に映った、あうあうあうあうー!っと涙目で叫ぶ羽入を幻視したがはたして幻なのだろうか?

 

「さて随分と長話になったな。公由さんのところに行こうぜ」

 

はーいっとみんなの声が重なり、俺たちは笑顔で手をつなぎながら歩き出した。

 

俺の右手には梨花ちゃん。左手には見えないけど羽入の手の温もりを感じた気がした。

 

 


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