おっす!オラ灯火!
こうして話すのも随分久しぶりだぜ。
暇潰し編が始まって結構経つけど忙しすぎてもう鬱になりそうだ。
毎日のように園崎家に呼び出されるしさ‥‥
最初の頃が特にやばかった。
いきなり親族会議に参加しろと言われ仕方なく行ってみればお、魎さんの隣に座れという頭のおかしい言葉。
茜さんと魅音に必死に『無理無理!死んじゃう!』と抗議するも
『あんたなら大丈夫さね』『お兄ちゃん私の隣が嫌なの?』
という言葉をいただき泣く泣くお魎さんの隣に。
周りの驚愕の視線に必死にポーカーフェイスを貫き、耐え抜いた。
会議だというのにだらけまくる梨花ちゃんの頭を引っ叩き真面目にさせたりもした。
梨花ちゃんのお母さんに『灯火ちゃんは梨花のお兄ちゃんね』と言われたので喜んで肯定。
その後、梨花ちゃんの拒否の言葉で傷ついた。
そして特に面倒だったのが悟史と沙都子だ。
悟史と沙都子の両親がダム推進派になったと聞き急いで行動を開始。肩身の狭い思いをしている悟史と沙都子をとりあえず我が家で保護。
その後、悟史と沙都子はダム推進派ではないことを伝えて回るもあまり良い感触がもらえず、ついに悟史たちの両親がお魎さんに喧嘩を吹っ掛けてしまう。
それによって完全に北条家は雛見沢の敵に。
その息子、娘である悟史と沙都子にも被害が出ようとしていた。
やばいと思った時に立ち上がったのは公由おじさんだった。
周りの大人たちに大気を震わすような大声で今までの悟史君と沙都子ちゃんの行いを思い出してみろと一喝。
それによって黙り込む村の人たち。
悟史君と沙都子ちゃんは自分が預かると言って悟史と沙都子を自分の家に連れていった。
驚いたのがその後だ。
みんなを一喝した後、悟史と沙都子を家に残して何処かに出かける準備を始める公由おじさん。
君たちはここにいなさいと言った後に外に出かける公由おじさん。
気になったのでこっそり公由おじさんの後を追う俺たち。
どこに行くかと思いきや、現れたのは見慣れた豪邸、園崎家。
もしやと思って見守っていると
「悟史君と沙都子ちゃんを許して下され!!この通り!!」
血が出るんじゃないかという勢いで地面に頭を打ち付け土下座をする公由おじさん。
いきなりの行動で呆然とする園崎家の一同。
あのお魎さんですらポカンとした表情を浮かべていた。
顔を上げた公由さんの頭から血が滲み頬を伝うも、そんなこと知ったことかと説得を始める公由おじさん。
そのあまりの剣幕にたじろぐ園崎家の面々。
だが園崎家の頂点だけは別だった。
驚いた顔を見せたのは一瞬で、すぐにいつもの厳格な態度に戻る。
公由おじさんの言葉をバッサリと切り捨てる。
それでも諦めずに説得を続ける公由おじさん。
俺も援護に行こうと足に力を込めようとした時。
「「公由おじさん(さま)!!!」」
俺の隣で同じく公由おじさんを見ていた2人が飛び出した。
2人の登場で驚きながら2人の名を呼ぶ公由おじさん。
2人は泣きながら公由おじさんの元に行き、お礼を言って、公由おじさんのように園崎家に向かって土下座を決める。
子供とは思えない見事な謝罪の態度に静かに息を飲む園崎家の一同。
畳み掛けるように公由おじさんの説得が再開。
それでもお魎さんは2人を許さない。
2人の謝罪を聞いてもダメだと切り捨てる。
ここで援護に向かうべく行動開始。
「お魎さん!!俺からも頼みます!!」
「「灯火(さん)!!」」
俺の登場で絶望の表情をしていた2人が喜びの表情を浮かべる。
ここで俺だけではなく魅音と詩音、そしてどこから聞きつけたのか、礼奈と梨花ちゃんまでやってきて説得を開始。
説得までもう少しというところで茜さんからの『敵にするより味方にしたほうがよくないかい?』という援護射撃が炸裂。
俺を見て貸し一つだよとウインクをする茜さんに笑顔でそれを了承。
いけるかと思ったが園崎家のツンデレはそう簡単には落ちなかった。
「ダメだ」
その一言で周りを絶望に叩き込む。
ここでついに俺の中で何かが切れた。
自分でもドン引きのテンションでお魎さんに食ってかかる俺。
何も考えずにとんでもない発言を連発する。
ああ、死んだな。
その20分後、悟史と沙都子はダム推進派の味方をしないように公由おじさんのところで監視されることを条件にお魎さんから一応の許しの言葉をもらった。
ツンデレなのですごく回りくどかったがこれはお魎さんが許したといっても過言ではないだろう。
許したとは言ってはいないので園崎家である魅音と詩音は会い辛くなったがそれでも結果は上々だろう。
どうしてこうなった?
もしかしてお魎さんってMなのかな?
心の中で生まれた疑問はすぐに泡のように弾けて消えた。
そこからは簡単だった。
進んでダム反対派の活動を手伝う悟史と沙都子を見て村の人たちの態度はどんどん軟化。
泣きながら悟史と沙都子に謝ってくれる人たちも大勢いた。
個人的に面倒だったのが魅音と詩音が園崎家という立場上、悟史たちに会い辛くなったことだ。
魅音と詩音の、悟史と沙都子に会えないことへの不満や心配を毎日聞いて、そのことを礼奈を経由して(俺も園崎家の関係者扱いになっているので会い辛い)悟史たち本人に伝えた。
さらに礼奈から聞いた2人のお礼の言葉を2人に伝える。
会いたいなら会えば良いのに!連絡係は疲れるよぅという礼奈に必死にお願いをする。
お願いの代償として数少ないストレス解消方法であるおやつを献上した。
毎日、笑顔で2人分のおやつを頬張る礼奈を見て悔しいと思いつつも、幸せそうな礼奈の笑顔を見ると結局満足してしまうから余計に悔しい。
そんなこんなで梨花ちゃんと今後の展開について話しつつ行動を続け、ついに赤坂がやってきた。
バス停で呆然としている赤坂さんに話しかけるも無視される。
諦めずに話しかけてようやくこちらに気付く赤坂さん。
とりあえず赤坂を待つ間に寝てしまった梨花ちゃんのところに赤坂さんを誘導。
寝ている少女を撮影する変態に仕立て上げようとするも失敗に終わる。
梨花ちゃんから『いるならいるって言いなさいよ!』というアイコンタクトを受け取るがスルーして『とりあえず予定通りに』というアイコンタクトを送り、梨花ちゃんがそれにぐぬぬといった表情で頷く。
梨花ちゃんにはとりあえずいつものように赤坂さんに警告をしてもらう。
ここで成功すれば1番だがうまくはいかないだろう。
そこで俺の出番だ。
赤坂さんを東京に返すにはどうしたらいい?
赤坂さんは大臣の孫誘拐とこの村が関係しているかを調査するためにここにきた。
ならば目的である大臣の孫を先に救出して警察に届けたらどうだろう?
園崎家が誘拐したと思っている赤坂さんも、園崎家が救出することによって疑いは晴れる。
大臣の孫が救出されたことによりとりあえず東京に帰るであろう赤坂さん。
。
それにより赤坂さんの妻も病院の屋上に上がることはなくなり転落事故は起きない。
大臣の孫を救出した恩により赤坂さんにお願いをする。
はっはっはっは!完璧だ!!これで絶対うまくいくぜ!
このことを梨花ちゃんに言うと無理に決まってるでしょ!?と言われた。
自分でも穴だらけだとわかっていたが代案が浮かばなかったのでこの作戦に決定。
うん‥‥まぁ大丈夫さ。失敗しても保険はあるし、ていうかそっちが本命だし大丈夫さ。はっはっはっは‥‥
やらかしたかな?という言葉が頭に浮かんだが頭から一瞬で消し飛ばす。
今日は暑いな。冷や汗が止まらないぜ‥‥
◇
「葛西さん。状況はどうですか?」
「‥‥若。自分に敬語は不要です」
「じゃあ葛西。状況は?」
「‥‥変わらず動きなしです」
「‥‥そっか」
現在俺と葛西さんの2人は森の中に潜伏し、とある小屋を監視している。
双眼鏡に映る小屋の中には誘拐されて行方不明中の大臣の孫がいる。
大臣の孫が捕らえられている場所を見つけるのは簡単だった。
もともと原作知識で誘拐されるのは知っていたのだ。
隠れるにうってつけな場所をあらかじめ調べておいて監視できる場所も作成。
後は敵が来るのを待つだけである。
そして‥‥敵は予想通り現れた。
でもすぐに助けるわけには行かない。
この誘拐にはダム計画を中止にするという大きな役割があるのだ。
可哀想だが助けるのは水面下で動いているダム計画中止の時期を見極めてからでなくてはならない。
そう言い聞かせ、観察をし続けた。
「‥‥突入しますか?」
葛西さんが淡々とした様子で俺に問いかける。サングラスで見えないがきっとその目には一切の恐怖も写っていないのだろう。
本来詩音のボディーガードである葛西さんであるが、何の因果か、現在は俺のボディーガードをしてくれている。
今回ここまでスムーズに敵を見つけることが出来たのは全てこの人のおかげである。
敵が潜伏してそうなところをピックアップしてくれたり、監視できる場所を作ってくれたりと、本当にお世話になりました。
俺の言うことに何一つ疑問を持たずに従ってくれるし。頼もしすぎるよ葛西さん。
「‥‥あんまり時間もないしね。そろそろ強引にいこうか」
このまま放っておくと赤坂さんたちと鉢合わせになるかもだし、それはやばい。
それにいい加減我慢も限界である。
そろそろダム計画も潰れた頃だろう。じゃあこっちも潰さないと。
「‥‥わかりました」
隣でどこからか黒光りした硬くて危ないものを準備する葛西さん。
俺の隣に置いてあるバットが可愛く見える。
頼もしすぎるよ葛西さん。
◇
「‥‥財布ですか?」
朝早く、ホテルで休んでいた俺は突然の大石さんの呼び出しにより叩き起こされた。
大事な要件があるということなので急いで大石さんのもとに駆けつけ、合流。現在に至る。
「中には小銭が少し、お札はなし。スリにあって中身を抜いて捨ててあったんだと思ったんですけどねぇ」
「違うんですか?」
雨に濡れてボロボロになっている財布を見る。事件に関係しているとは思えないのだが。
「これを見てください」
大石さんは俺に見えるように財布を持つとそれを裏返して見せた。
そこにはTOSHIKI●Iというイニシャルが
「これは‥‥大臣のお孫さんと同じ名前!?」
「でしょう?」
俺の反応をニヤッと笑みを浮かべる大石さん。
いや‥‥まだ同じイニシャルというだけということもあり得る。
改めて財布の中身を確認すると歯科カードが入っているのを見つけた。
そこには「犬飼寿樹」という名前が。
歯科の住所も東京都‥‥この雛見沢に東京都の住所の歯科カードがあるのは明らかにおかしい。考えられるには
「この財布はいつ頃のものですか!?」
「拾ったのは村人です。昨日のことだそうです」
「じゃなくてこの財布はいつ頃落ちてたんですか!」
「ここいらで雨があったのはちょうど先週ですねぇつまりに7日前と考えるのがいいでしょうねぇ」
「‥‥電話を借りていいですか?」
「どうぞどうぞ」
大石さんに電話を借りて急いで本庁に連絡を入れる。
忙しくなりそうだな。
「‥‥ありがとうございました」
「どうでした?」
「本庁から増援が出発するそうです。俺は現地調査を命じられました。財布の落ちていた場所はどこですか?」
「高津戸のあたりですねぇ。あそこらは民家なんてありませんよ。昔の廃村です。無人の家屋が点在する寂しい場所ですよ」
「‥‥大石さん。高津戸に案内をしてもらえませんか?」
「ええ、構いませんよ。赤坂さんお一人では自由に雛見沢を出入りできないでしょうからね」
「では早速出してもらえますか?」
大臣の孫は高津戸のどこかに監禁されている可能性が最も高い。急いで救出に向かいたい。
だが大石さんは出かけるにもかかわらず上着を脱ぎだした。
「何をしているんですか?」
「まぁ用心ですよ。あなたも着ます?」
大石さんが取り出したのは防刃ベストだった。
◇
犬飼寿樹は自分の置かれている状況を正確に把握していた。
大臣である祖父を脅迫するための人質。それで間違いないだろう。
祖父の立場は理解しているし、多くの人を救っている代わりに祖父のことを良く思っていない人も大勢いると両親から聞いていた。
だからこそ、身の回りには気をつけろと耳にタコができるほど言われてきたというのにこのザマだ。自分で自分が情けない。
祖父のことは尊敬している。自分の祖父が日本で上から十何番目かには偉いと心から信じている。
だからこそ、尊敬する祖父を脅迫する人間たちが信じられなかったし、何よりも自分の身を脅迫のタネに使っているのが許せなかった。
初めは恐怖で涙を流しながら震えていたが怒りの感情が心に満たされていくうちに反比例するように恐怖は薄れていき、体の震えもいつの間にか止まっていた。
彼が1番最初に考えたのは少年なら誰でも思いつく妄想。この縛りを解き放ち、憎き犯人たちを警察に突き出すという勇猛なものだった。
彼は考える視界がふさがれ手足も縛られて動けない状態でも必死に考える。
どうしたら今まで自分が見てきた主人公たちのように憎い敵をやっつけることができるのか。
だが現実と妄想は別であり、そんなことは不可能だと気付く。
ならばもっと現実的な手段でなんとかしようと考えた時。
「おらぁぁぁぁぁ!!!!大人しくせんかい!!」
突如耳に、人生で一度も聞いたことがないほどの怒声が届いた。
その声に続くように発せれる轟音。
その音はアニメなどでよく聞く銃声のように聞こえた。
銃声と怒号に紛れて自分を誘拐した犯人たちの慌てる声も聞こえる。
しばらく鼓膜が破れるのではと心配になるほどの轟音と衝撃が続いた。
やがて耳を震わせた轟音も腹に響くような衝撃もなくなり静かになった。
何が起こったんだ‥‥?
轟音と衝撃で麻痺した頭で必死に状況を把握しようと耳をすます。
静かにしているとこちらに向かって歩いてくる足音が耳に届く。
その音はどんどん大きくなり自分の目の前で止まると、腰を下ろすことによって聞こえる服の擦れる音が耳に入る。
その後に自分を拘束している縄が解かれる感触。
次第に縄が緩んでいき、腕、足と順に解放されていった。
そして目の前に誰かの手が迫る気配を感じた。
次の瞬間、闇が巣食っていた視界は一気に光を取り戻す。
光の先に映る人物は
「君が犬飼寿樹君?」
同じぐらいの年の男の子がそこにいた。
彼の後ろの壊れた扉から漏れる光が彼を照らし神秘的な雰囲気を作り出す。
自分が今まで妄想してきた主人公が目の前にいた。
「‥‥っ!うん、そうだよ」
しばらく呆然と見つめてしまい、ハッと我に帰る。
目の前の男の子は安心したように微笑む。
「‥‥助けるのが遅くなってごめん」
いきなり頭をさげる男の子に慌ててしまう。
なぜ謝られるのかわからない。
ふと後ろを見るとグラサンをかけたおじさんがいて思わず悲鳴をあげてしまう。
自分の悲鳴に目の前の男の子が苦笑いを浮かべた時。
「‥‥なんだ‥‥これは?」
「おやおや‥‥これはすごいことになってますねぇ」
小屋の外からそんな声が耳に届いた。
目の前の男の子にも聞こえたらしく顔を引き攣らせながら壊れたロボットのようにギギギと首を動かして振り返る。
目の前の男の子につられるように視線を前に向けると太ったおじさんと大人のお兄さんがいた。
「‥‥ジーザス」
先ほどの神秘的な雰囲気から一変して哀愁を漂わせ始めた男の子から言葉が漏れる。
その言葉の意味は分からなかったけどあまり嬉しい言葉ではないことはわかった。