レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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赤坂と梨花と灯火

『宇喜田水道前〜宇喜田水道前〜お降りの方はいらっしゃいませんか〜』

 

指定された停留所をアナウンスする声に従い降車のボタンを押す。

 

誰も降車しないなんて相当へんぴなところなんだな。

 

バスから1人で降りながらそんなことを考える。

 

昨日、大石さんに案内してもらった後ホテルに帰り定時報告を済ませ、明日について考えた。

 

そして、ひとまず観光者に変装して直で雛見沢を観察して事件との関わりがあるかを調べることに考えは落ち着いた。

 

そして現在、その考えを実行して単身で敵地のど真ん中に降り立っている。

 

・・・・大丈夫だよな?

 

昨日大石さんから聞いた、雛見沢では白昼堂々とナイフで襲われても証拠も何も残らないという言葉が蘇る。

 

なぜなら村全員がグルだから。

 

村の人が黙ってさえいれば簡単に完全犯罪が出来上がるのだ。

 

・・・・大丈夫のはずだ。

 

服装はいたってラフ。都会者がノコノコと田舎にやってきたような服装そのものだ。

カメラにナップザック。

完璧な変装のはず。

 

でも・・・・もし自分が県警公安で潜入捜査をしているとバレて、ここで本当に大臣の孫誘拐事件が発生していたら。

 

口封じで俺は・・・・

 

大丈夫!絶対にバレるわけないさ!

 

自らに言い聞かせるように思いこむ。

第一、村の人が拉致事件を起こすなんてあるわけがないのだ。

 

さっさと調べて東京に、雪絵のところに帰ろう。

 

やることを改めて頭に入れて歩き出す。

ふと、発進したバスの方に目を向ける。

 

 

心臓が一瞬止まったように感じた。

 

 

窓際の乗客たちがみんな自分のことを見下ろしていたのだ。

 

自分の自己満足な変装を見透かすかのように。

 

『東京に帰れ。余所者』

 

彼らの目がそう言っているかのような錯覚を受けた。

 

「・・・・」

 

バスが過ぎ去っても放心状態で動けなった。

 

 

 

 

「・・・・」

 

「お兄さん?」

 

「・・・・」

 

「すいません、お兄さーん?」

 

「・・・・」

 

「・・・・気絶してないよな?」

 

「え?」

 

近くで声が聞こえたのに気付き、声のした方を見る。

 

「あ、やっとこっちに反応してくれた」

 

声をした方を見ると自分を呆れたようにジト目で見つめる茶髪の少年がいた。

 

「お兄さん見ない顔ですね。観光か何かですか?」

 

「ああ、そうだよ。ここの自然は貴重っていう話を聞いてね。ぜひ写真にしたくて」

 

先ほどのことで自信は完全に崩壊したが、なんとか気合いを入れ直して少年に問いに答える。

 

「そうなんですね。ここら辺ってけっこう珍しい鳥がいるらしいからそこら辺も狙ってみたらいいですよ」

 

「そうなのかい?それはいいことを聞いた、ぜひ狙わせてもらうよ」

 

「うん・・・・写真1発目はあれにしたらどうです?」

 

「え、どれだい?」

 

少年が指をさした方を見る。

 

そこには雨をしのぐための小さな小屋があった。

 

案内人との待ち合わせ場所でもあるその小屋は壁一面にダム反対のチラシが貼られていて、住民の心の叫びを壁一面に記したかのようだった。

 

この小屋を撮れってことか?どういう意味だ?

 

少年の意図がわからず困惑する。

 

まさか・・・・この少年は自分のことを疑っている?

 

これを撮るか撮らないかの反応をみて俺を試しているんじゃ?

 

先ほどのバスでの視線が蘇る。

 

「・・・・」

 

ごくりと唾を飲み込みカメラを構える。

 

そしてシャッターを切ろうとしたとき。

 

「・・・・なんで小屋なんか撮ろうとしてるですか?」

 

困惑する少年の声が耳に届いた。

見れば俺を不審者のような目で見つめていた。

 

「え?君が言ったんだろう?」

 

確かに少年はこの小屋を指差していた。

少年の指をさした場所には小屋しかない。

 

「俺が言ったのはその小屋の中だよ」

 

「中?」

 

少年の声を聞いて小屋に近づく。

 

 

 

 

小屋には天使がいた。

 

 

 

筆書きでダム計画を罵るように批判した文書や決起文が1面に貼られた緊張感に満ちた小屋でこくりこくりと船を漕いで眠る少女。

 

そのあまりに不釣り合いで幻想的な雰囲気に目を奪われる。

 

その姿は俺たち夫婦の理想の子の姿そのものだった。

 

俺の理想像では髪は短めだけど、これはこれでいいな。

 

俺が少女をみてそんなことを考えていると

 

「シャッターチャンス。早く撮って」

 

悪魔の囁きが耳に届いた。

 

振り返ると悪い笑みを浮かべた少年がいる。

 

「こんなチャンス滅多にないですよ、お兄さんも撮りたいでしょ?」

 

「ああ・・・・確かにそうだね」

 

この光景を写真に収めておきたいと誰もが思うだろう。

それほど目の前にいる少女は可愛らしい。

 

あ、もちろん子供としてね?

俺は雪絵一筋だ。

 

頭の中で恐ろしい笑顔の雪絵が浮かんだので言い訳をしてしまう。

 

「その写真をしかるべきところに売ったら大儲け間違いなしだ」

 

「いや犯罪だから」

 

少年の一言で正気に戻る。

 

危ない。よく考えたら普通に犯罪じゃないか。

 

眠る少女を撮影する謎の男・・・・逮捕は免れない。

俺だったら即現行犯逮捕だ。

 

「富竹さんなら絶対撮ったのに」

 

つまらなそうにこちらを見る少年。

 

こちらとしては変質者として東京に強制送還されずに済んで一安心だ。

それとその富竹って人には注意しておかないとな。

 

「んぅ?・・・・あわぁぁぁぁぁ」

 

少年と会話をしていると大あくびをしながら少女が目を覚ました。

 

しまった。いまの会話で目を覚ましたか。

 

「・・・・みぃ」

 

みぃ?英語のme?そういう挨拶か?

少年!通訳をしてくれ!

 

助けを求めて少年の方を見ると

 

「いない」

 

忽然と少年の姿が消えていた。

ここで放置はあんまりだ。

 

「・・・・みぃー」

 

何かの挨拶だと判断し同じ言葉を返す。

 

「みぃ?」

 

「・・・み、みぃ」

 

少女は可愛いらしいようなそれでいて無機質のような表情の読み取りにくい顔でこっちを凝視した。

 

目が覚めたら目の前に知らない男がいてみぃーといったらみぃーと返してきた。

 

そいつは間違いなく不審者だ。

まぁ俺だけど。

 

「あ、怪しい者じゃないんだ!えっと俺は」

 

なんとか不審者というレッテルから逃れようと必死に頭を働かせる。

 

「・・・・にぱー-☆」

 

「に、にぱ??」

 

「にぱー-☆」

 

無機質な、なんて表現したその表情は、溢れんばかりの笑顔に変わった。

 

天使の笑顔。その言葉は彼女のためにあるんだと思った。

 

・・・・これは俺にも同じものを求めているのか?

 

きっとそうだ。これは子供なりのコミニケーションなのだ。

 

自分がしたのと同じことを目の前の相手が追従してくれることで意思の疎通を確認する初歩的なコミニケーション!

 

「に、にぱぁぁ」

 

「にぱー-☆」

 

俺って何をしてるんだろう?勤務中のはずなんだけど。

 

「にぱー-☆」

 

「に、にぱー-☆」

 

もうどうでもいいや。

 

「にぱー-☆」

 

「にぱー-☆」

 

 

 

「「にぱー-☆」」

 

 

「・・・・ふっ」

 

後ろから息が漏れる音が聞こえた。

 

「みぃ!!?」

 

後ろから声が聞こえた思ったと同時に少女の顔が一瞬でトマトのように真っ赤になるのを目撃した。

 

少女は真っ赤な顔で信じられないように目で俺を、ではなく俺の後ろを見ていた。

 

少女の視線を追うように後ろを見ると先ほど忽然と姿を消した少年がニヤニヤと悪い笑みを見せながらこっちを見下ろしていた。

 

「お兄さん、随分と楽しそうですね」

 

ニヤニヤと笑いながらこちらに声をかけてくる少年。

どう見てもさっきのを見て面白がっている笑みだ。

 

「いきなりいなくなるなんてひどいじゃないか」

 

「あはは、すいません。隠れた方が面白いと思ったから、つい」

 

この少年、絶対性格悪いな。

 

そんなことを思っていると少年と少女はアイコンタクトをするかのようにじっとお互いを顔を見合っているのに気づいた。

 

知り合いだったのか?

 

しばらく2人は見つめ合っていたが急に少年の方が笑顔でこちらに向き直る。

 

「それじゃあ俺はこれで失礼します。お兄さんは観光を楽しんでください」

 

急にそういうとこちらに手を振りながら砂利道を駆け抜けていき、あっという間に姿を消した。

 

「・・・・なんだったんだ?」

 

つかみどころがない不思議な少年だな。

田舎の男の子はもっと元気でわかりやすい感じだと思っていた。

 

そんなことを思っていると一台の車がこちらにやってくるのが目の入った。

 

 

「どうもこんにちわ!遅れて申し訳ない!今朝電話をくれた観光の方ですよね?」

 

「はい」

 

「お待たせしてすいませんねぇ。野良でちょいっと用事があってね。さぁさぁお乗りください!天気も崩れそうだからさっさと案内しないと」

 

「え?天気ですか?」

 

「ここら辺はすぐに天気が崩れるからねぇ。今日も夕立になるかもなぁ。そうなったらあんた撮るどころじゃないでしょ?ほら乗って乗って」

 

「・・・みぃ」

 

振り返ると少女は興味深そうな表情をして自分のすぐ後ろに立っていた。

 

「あんれ、梨花ちゃまじゃねぇかい!」

 

「牧野おはようなのです」

 

「ああ、おはよう梨花ちゃま。今日は灯火たちと一緒じゃないんだねぇ」

 

灯火?確か昨日大石さんが言ってた子供の名前だ。

 

もしかしてこの子は竜宮灯火と知り合いなのか?

 

「・・・・みんな忙しいのです。牧野はお仕事なのですか?」

 

「お仕事ってわけでもないかな。村長に村を観光したい若者がいるから案内してくれって頼まれてねぇ」

 

「俺のことですね」

 

苦笑いを浮かべながら反応する。

 

「牧野。僕も一緒に行きたいのです」

 

「梨花ちゃまが来ても面白いことなんて何もないと思うよ?境内にみんないると思うからそっちに行った方がいい」

 

「・・・・みぃ」

 

少女はあからさまに不満げな表情を見せる。

 

「あの、迷惑にならなければこの子も一緒でお願いします」

 

そう助け舟を出すと少女は嬉しそうに抱きついてきた。

 

「んーしょうがねぇな。走らせてたら礼奈ちゃんたちも見つかるか。じゃあお乗りください。梨花ちゃまも」

 

「やったーなのです!」

 

少女の嬉しそうな顔をみて心が癒される。

 

「えっと梨花ちゃんでいいんだよね?」

 

「そうなのですよ。古手梨花と言いますです。僕はあなたの名前を知らないのです」

 

「ああ、そういえばそうだったね」

 

興味津々といった表情でこちらを見つめる梨花ちゃんに苦笑いしながら

 

「俺は赤坂衛。よろしくね梨花ちゃん」

 

「はいなのです赤坂」

 

最高の笑顔で名前を呼ぶ梨花ちゃん。

 

雛見沢の調査は梨花ちゃんのおかげで緊張せずにできそうだ。


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