レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

17 / 88
赤坂と大石と礼奈

「じゃあなー!明日は一緒にゲームしようぜ!」

 

「うん。またねー!」

 

友達の陸君に手を振りながら別れを告げる。陸君の姿が見えなくなったのを確認して自宅に帰るために歩き出す。

 

「・・・・?」

 

友達と別れ、家に帰る途中の路地の曲がり角に白いワゴン車が止まっているのを見つけた。

 

「なんだろう?危ないなぁ」

 

まるで隠れるように置かれた車に注意しながら角を曲がる。

 

「・・・・鶯、OK。雲雀、OK。前後2ブロック確保した。いいぞ」

 

そのまま車を通り過ぎようとして時に僕の耳に妙な会話が入り込む。

僕はその会話に疑問を思う前よりも早く車から数人の男たちが降りてくるのが見えた。

 

「え・・・・」

 

いきなりの展開に固まって動けない。

 

「・・・・キミ。犬飼寿樹くん?」

 

白い作業服に帽子をかぶった男たちが邪悪な笑みを浮かべて自分の名を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「室長、全員揃いました。赤坂くん、ブラインドをおろしてくれる?」

 

命令に従いブラインドを下す。

しゃーっという小気味よい音を立てながら室内から光を奪っていく。

 

やがて室内は爽やかな朝の空気を完全に失い、無機質な蛍光灯の明かりだけになった。

 

明かりが消えた室内で主任が前に立ち説明を始める。

 

「推定48時間前、建設大臣の孫にあたる、建設省幹部の子息が誘拐された模様です。建設大臣は事態を穏便に済ますために警察に連絡せずに要求に応じると思われます」

 

「なぜ警察に通報せずに要求を鵜呑みに?」

 

「犯人グループは誘拐初期に自分たちが大臣の生活をかなり高度に監視していることを警告し、その証拠を示したようです。大臣が屈服し、警察への通報を思いとどまる何かですね」

 

「・・・・大臣の近辺に内通者がいる可能性があるな」

 

主任の言葉にとなりにいた先輩が言葉を漏らす。

 

「本件は内通者の水準がかなり高いと思われるため、当室のみの極秘捜査とします。また本件は本日より最優先事項となり、これまでの通常業務は一時的に凍結します」

 

主任の落ち着いた。だけどどこか焦ったような声が響く。

 

「川崎と佐伯は大臣宅、息子宅の通話を24時間監視。動きがあるたびに逐一報告せよ。残る職員は担当団体ごとに本件との関連を調査。くれぐれも慎重にな」

 

主任の声を聞きながら思う。

穏便ではない調査は1度か2度経験した。

 

だが、こんなに慌ただしいのは初めてだ。

俺のような新米を抜きにして次々に高度な話が進んでいく。

 

・・・・やはり不安は隠せない。

 

心臓がいつもの何倍の速度で動いているのを感じる。

 

「赤坂くん」

 

「は、はい!」

 

名前を呼ばれてぼやけていた意識が覚醒する。

 

「赤坂くんは陳情していた環境保護団体関連をよく調査すること。特に新聞でも騒ぎになってる雛見沢ダム建設反対の団体をよく調査すること。住民団体の仕業とは到底思えないが、可能性は潰す必要がある」

 

「わかりました」

 

「直接現地に行った方がいいだろう。現地警察で情報を探れ」

 

「はい!」

 

「すまないな、奥さんの大事な時期に」

 

主任がすまなそうな顔で頭を下げてくる。

 

「いえ・・・・家内も理解してくれているので」

 

無論行きたくなんてない。妻の雪絵の出産を控えた状態で出張なんてしたくない。

 

だが、私情でわがままを言える状況ではない。

 

 

この大切な時期にそばにいれないことを帰ったらしっかり謝ろう。雪絵は笑顔で許してくれるだろうが、この埋め合わせは絶対にする。

 

俺は早急に自分に与えられた任務を完遂して妻の元に戻るため、急いで調査の場所、

 

『雛見沢』に向かった。

 

 

 

「ここが輿宮警察署か」

 

当然なのだが東京の警察と比べると、古くて小さいな。

 

「おはようございます。違反金の納付ですか?」

 

「いえ、公安の本田屋さんにアポイントがあります。赤坂と伝えてください」

 

「あ、失礼しました!少々お待ちください!」

 

人の顔を見るなり駐車違反だと思い込んでくれた事務員さんに苦笑いを浮かべながら待ち人が来るのを待つ。

 

少しすると建物の外から一人の男がこちらにやってくるのが見えた。

 

「どうもどうも!赤坂さんですか?遠路はるばるお疲れ様でした!」

 

頭をかけながらこちらに笑顔を向ける中年の男性。

彼が本田屋さんのようだ。

 

「ご多忙中、突然お邪魔して申し訳ありません。警察庁から参りました。赤坂と申します」

 

「公安の本田屋です。よろしくよろしく。県警の暴対の山海部長から協力は惜しむなと脅されてますので。わははははは!」

 

豪快に口を開けて笑いながら聞き捨てならないことを口にする本田屋さん。

 

「暴対?どうして暴力対策本部の方が?」

 

「うちじゃあ、鬼ヶ淵死守の連中は暴力団の延長みたいに思ってますからね。あれを善意の住民の運動だなんてちーと無茶ってもんだぜ!わはははは!」

 

いや・・・暴力団の延長ってどんな村なんだ?

 

どんどん雛見沢に対するイメージが悪くなっていく。

 

まさか本当に誘拐事件と関係があるのか?

 

「何の話をしているかと思えば。んっふっふっふっふ!」

 

本田屋さんと話していると独特の笑い声をした小太りな男性が現れた。

 

「おー蔵ちゃん!ちょうどいい!蔵ちゃんも入ってよ!こちらは遠路はるばる東京からお見えになった赤坂警部」

 

「警部だなんて!まだまだ新米です!」

 

「初々しいですねぇ。採用は今年ですか?んっふっふっふ!」

 

またも独特な笑い方をする男性。

 

「赤坂さんも紹介します。こちらは刑事部の大石さん。赤坂くんが問い合わせのS号の件なら彼が詳しいから」

 

「・・・・S号?」

 

知らない単語に思わず聞き返す。

 

「園崎のS。S号ってのはね、園崎家が関連する件を示す暗号みたいなもんなのさ」

 

「・・・・たしか園崎家は鬼ヶ淵死守同盟の会計だったはず」

 

聞き覚えのある単語を頭の中から探し出す。

そうだ、本部で読んだ資料の中にそう書いてあった。

 

「あんた勉強家だね〜!ひょっとして同盟連中の主要人物も言えちゃいますか?」

 

「ええ、もちろんです」

 

覚えている限りのことを2人に向かって口にする。

 

「惜しいですねぇ。広報部長は園崎忠敬ですよ」

 

「う‥‥」

 

そしてどや顔で間違えた。

 

顔を隠したい衝動を押さえ込み2人と向き合う。

 

「はっはっはっは!馬鹿にしたつもりはないんです。お詫びと言っちゃあなんですが、村を実際にご案内しましょう」

 

土地勘のない自分には助かる。願っても無い申し出だ。

 

「よろしくお願いします」

 

間髪入れずに頷くと、大石さんは満足げに笑って立ち上がった。

 

 

 

 

 

「どこまで話しましたかね。えぇっと」

 

「御三家という旧家が村を支配している。というところまでです」

 

鬼ヶ淵死守同盟とは雛見沢村そのものだ。

つまり同盟の幹部はそのまま村の幹部という図式が出来上がる。

本田屋さんからもそう聞いているから間違いないだろう。

 

村を支配しているのがその御三家なら、同盟を支配しているのもその御三家ということ。

 

「県警の資料には何て書いてありました?死守同盟のリーダー格やそれらについて」

 

「・・・・確か、同盟の会長は現村長の公由喜一郎と書いてました」

 

本来資料については部外秘だが話した方が得になると判断し答える。

 

「そうですか」

 

大石さんは俺の答えを聞くと小さく笑い捨てた。

 

大石さんのこの反応は・・・・もしかしたら実際には違うのか?

 

「その反応、公由さん以外の影の人物がいる。そういうことですね?」

 

「んっふっふ。公由のおじさんなんて、ただのお飾りですよ」

 

「つまり、同盟も村も本当の意味で支配している別の存在がいる。それは先ほど言っていた御三家という存在ですか?」

 

「まぁ、そのあたりについてはこれから説明しましょう、おっと」

 

大石さんが言葉を突然切ったかと思うと、突然車がガクン!と揺れた。

 

舗装された道から砂利道に変わったようだ。

揺れた拍子に周囲に景色が視界に入る。

 

「うわぁ」

 

『雛見沢ダム計画断固撤回』

『恥をしれ傀儡県知事!』

『ダムに沈めるな雛見沢の自然』

『悪辣なるダムから村を守れ』

『怨念!オヤシロ様からの祟り』

 

看板、昇り旗。そういったものが道にひしめいていた。

書きなぐったような筆の文字がそれだけで読むものを威圧する。

 

まさに舗装道路の途切れが国境だったのだ。

 

「まるで中東辺りの内戦の国に迷い込んだような感じがします」

 

「なっはっはっは!うまいこと言いますねぇ。まさにその通り」

 

大石さんはにやぁ!と凄むように笑いながらこちらに顔を向け

 

「ここはね。戦争地帯なんですよ」

 

「‥‥‥」

 

大石さんの言葉で黙る以外の行動が取れなかった。

 

 

 

 

 

 

「御三家と言ってもですね。そりゃあだいぶ大昔のことなんですよ」

 

しばらく車で雛見沢を案内してもらっていると大石さんがそんなことを呟いた。

 

「ということは‥‥今は違うということですか?」

 

そういった直後。車がキィと音を立てて止まった。

止まった車の先には

 

『この先私有地、関係者以外の立入を禁ず』

 

『毒ヘビ注意!危険、引き返せ!』

 

『侵入者には入山料として金百万円の証文に捺印していただきます』

 

そんなことを書かれた看板が立てられ、道路と森を隔てるように有刺鉄線の巻かれた金網が続いている。

 

「私有地なんでここまでです。この先は監視カメラがあってうっかり道に迷いました。なんて論法が通じる相手じゃありませんからねぇ」

 

大石さんの話を聞いて唾を飲み込む。

 

「・・・・この先にはなにがあるんですか?」

 

「園崎家。雛見沢村を影から支配する連中です」

 

「・・・・園崎家ですか」

 

「園崎家の頂点は現当主の園崎お魎っていう婆さんです。園崎天皇なんて言われてる大物ですよ。市長だって最敬礼してお迎えするお方ですからねぇ」

 

「つまり・・・・その人物が鬼ヶ淵死守同盟の事実上のトップということですか」

 

「ええ」

 

大石さんはそう言うと、懐から潰れかけた煙草の箱を取り出した。

 

大臣の孫の誘拐に鬼ヶ淵死守同盟が関係しているのか?

 

「・・・・あんた。東京からわざわざ調べにいらしたんですよねぇ?」

 

「え?はいそうですが?」

 

「じゃああれですか?犬飼大臣への直訴事件の絡みで公安がマークでもしましたか?」

 

「察しが良くて助かります」

 

本当は大臣の孫の誘拐と関係があるかの調査だがこれは誰にも知られてはならない極秘捜査なので話を合わせておく。

 

「嘘でしょ?」

 

「・・・・え?」

 

予想外の言葉に心臓が大きく跳ねるのを感じた。

 

「だから直訴事件でマークについたっていうのは嘘でしょ?」

 

「・・・・なんのことですか?」

 

「んっふっふっふ!あなたって人は隠し事が下手な人ですねぇ。そういう素直で初々しいの嫌いじゃないですよ」

 

「・・・・」

 

大石さんは沈黙した俺を見て口を割るのを待つかの様に新しい煙草に火をつけた。

 

なるほどこれがベテランの吐かせの技術というやつか。

 

「素直に教えてくれればもっと力になれると思いますよ?」

 

「・・・・どう力になれるんですか?」

 

もう隠し事はばれているので開き直って質問をする。

 

「内容によりますが、雛見沢界隈に詳しい情報屋に引き合わせてあげてもいいですよ」

 

「・・・・情報屋ですか」

 

大石さんの提案はかなり魅力的だ。

結果は足で掴めというが、結局人を知るには人に聞く以上の方法など存在しないのだ。

 

「・・・・どうして私の任務に興味を?」

 

「なぁにちょっとした興味本位ですよ」

 

「・・・・」

 

「私はこの雛見沢でずっと働いて来ましたからねぇ。力になれると思いますよ?」

 

大石さんの言葉を聞いて1度深く息を吐く。

 

「わかりました。私の任務は鬼ヶ淵死守同盟がある事件に関与しているかの調査です」

 

「ある事件?」

 

「ええ。大臣の孫の誘拐事件です」

 

そこから大石さんに事件に関する情報を自分の任務について話した。

 

 

 

 

 

「なるほど。その誘拐グループの容疑者としてこの鬼ヶ淵死守同盟がリストに上がったわけですか」

 

「そうです」

 

「大臣の孫を誘拐してダム計画の撤回を求める。なるほどそうですか」

 

「その可能性は大石さんから見てありえますか?」

 

大石さんはしばらく考えていた様だったがやがてゆっくりと口を開こうとした時

 

「〜♪〜〜♫〜」

 

我々のすぐ近くを1人の少女が横切った。

 

「あらら・・・・まさかこんなところで会うとは」

 

近くを歩く少女を見て大石さんが意外そうな声を上げる。

 

可愛い子だなぁ。

 

茶色の髪を肩ぐらいまで伸ばした少女で年齢はまだ小学生になったばかりぐらいかな?

 

「礼奈さんじゃないですか」

 

「はう?」

 

大石さんが声をかけると鼻歌を歌いながら歩いていた少女がこちらを振り向く。

 

「大石さん。こんにちは!」

 

「んっふっふっふ!こんにちは礼奈さん」

 

大石さんを見つけると少女はこちらまでやってきて思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗な笑顔で頭を下げてきた。

 

ここにいるということはこの村の子かな?

まだ子供だけど、気になるのはどうしてここにいるかだ。

 

「みぃちゃんたちの家の近くにどうして大石さんがいるのかな?かな?」

 

「んっふっふっふ!ちょっと彼に雛見沢を案内してあげようと思いましてねぇ」

 

大石さんの言葉でこちらをジーと不思議そうな顔で見上げてくる。

 

「あ!ええっと・・・・こんにちは」

 

少女の無垢な視線にどうしたらいいかわからず混乱してしまう。

 

「こんにちは!竜宮礼奈と言います!」

 

ぺこりと丁寧にお辞儀をして挨拶をしてくれる礼奈ちゃん。

なんかもう今すぐに雪絵の元に帰って生まれてくる子供の顔が見たくなってきた。

 

「今日はお兄さんと一緒じゃないんですねぇ」

 

「お兄ちゃんならまだみぃちゃんたちの家にいるよ?遅くなるから礼奈だけ先に帰るように言われたの」

 

「ああ、そうでしたか」

 

2人の地元の話についていくことが出来ずに聞くことしかできない。

 

やがて礼奈ちゃんは自分たちの方に笑顔で手を振りながら民家の方に姿を消していった。

 

「大石さん。彼女は一体」

 

礼奈ちゃんがいなくなったのを確認するとすぐに大石さんに質問する。

 

聞きたいことは1つ。

 

『彼女が園崎家の家がある方から出てきていたこと』

 

ここまで厳重にバリケードされたところから鼻歌を歌いながら出てきたのだ。

どう考えてもおかしい。

 

それとも礼奈ちゃんが特別なのではなく地元の人間ならば園崎家への出入りは簡単なのだろうか?

竜宮という苗字に聞き覚えはないしその考えが妥当だろうか?

 

「礼奈さんはどこにでもいる普通の女の子ですよ」

 

「では・・・・どうして彼女は園崎家の方から?」

 

「んっふっふっふ!彼女は普通でも兄の方が普通ではないですからねぇ」

 

「兄?礼奈ちゃんのですか?」

 

そういえば先ほどの会話で言っていたのを聞いた。

 

「竜宮灯火。先ほど話した園崎家当主、園崎お魎が一目おく少年ですよ」

 

煙草に火をつけてそう告げる大石さん。

 

竜宮灯火。

 

ひぐらしの鳴き声に混じって聞こえたその名は、何故だかひどく不気味に感じた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。