レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

15 / 88
別れ?させないよ?

「離れたくないからって友達の引越しをなくすなんてあるわけないだろ」

 

あんなことを言った自分を笑いたい。

フラグって本当にあるんだな、これからは気を付けて発言しよう。

 

「で?どうだい?ご両親。悪い話じゃないだろう?」

 

「はぁ、それはまぁ」

 

「でも・・・・ねぇ?」

 

茜さんの言葉に困惑を示す両親。

 

当然だ。

いきなり家に押しかけて来たかと思えば引越しをやめろと言って来たのだから。

 

始まりは十分前に遡る。

 

 

 

 

「準備よし!やる気よし!覚悟よし!」

 

声を出して自分を引き締める。

これから園崎家に行って別れの挨拶に行く。

 

「・・・・生きて帰れるかな」

 

冗談のようなセリフだけど言ってる俺としては大まじめだ。

 

一つの事実として俺は園崎家にかなり気に入られている。

初めて興宮で茜さんと話してから、実は何回も園崎家には足を運んでいる。

 

それこそ雛見沢にある本家にだって何回も行っているんだ。

 

魅音と詩音の兄というのは園崎家ではもはや周知されており、黒スーツの人たちには野太い声で挨拶だってされている。

 

しかもその挨拶の時に。

 

「若!おはようございます!」

 

なんて言われてしまっている。

 

遊びの範囲での兄だって茜さんには言ったのに割と取り返しのつかないレベルに発展しているのは気のせいだろうか?

 

きっと気のせいさ、そうじゃないと俺の精神が持たない。

 

まぁでも俺が園崎家に気に入られてるのは事実。

 

そんな俺が雛見沢を出て行くなんて言ったらどうなる?

 

・・・・ちなみに園崎家の地下には拷問部屋という原作で中々のグロシーンを作り上げた場所が存在したりする。

 

このまま家のベッドに飛び込んで夢の世界に旅立ちたくなった。

 

「ええい!やるしかないんだ!覚悟を決めろ!」

 

自分の頬を叩き気合いを入れる。

靴紐を強く結び、勢いよく立ち上がる。

いざ扉を開けて出て行こうとした時に玄関からチャイムが鳴る

 

「誰だ?タイミング悪いな」

 

ちょうど出ようとする時に来るとは。

目の前にいるので当然俺がドアを開ける。

ドアが開き、外でチャイムを押した人物の姿が映る。

 

「おはよう灯火。元気だったかい?」

 

茜さんがいた。

おかしいな、俺はいつの間に園崎家に来ていたんだ。

 

あれか?俺が知らない間にうちの家の扉がどこでもドアに変わったのか?

 

「・・・・茜さん!?」

 

予想外の人物に一瞬思考迷走状態になる。

なぜあんたがいる!?

 

「「お兄ちゃん!」」

 

茜さんの後ろからひょっこっと顔を出す魅音と詩音。

 

「・・・・お前らも」

 

おいおい。魅音と詩音だけならまだわかるが茜さんまでいるってことは。

 

「聞いたよ。引っ越すんだって?」

 

俺を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべる茜さん。

それを聞いて俺の身体に冷や汗が浮かぶ。

 

「・・・・情報が早いですね」

 

恐るべし雛見沢の情報網。

昨日の今日だぞ、両親が近所の人に伝えてそこから伝わったのか?

 

「水臭いじゃないかい。私たちの仲だろう?教えてくれてもいいだろうに」

 

「これから言いに行くつもりだったんですけどねぇ」

 

まさかそっちから来るとは。

・・・・まさかこのまま拉致られたりしないよな?

 

「お兄ちゃん!引っ越しなんて絶対ダメなんだから!」

 

詩音が俺に抱きつきながら頬を膨らませて言う。

 

「そうだよ!妹たちを置いていくなんてお兄ちゃん失格!」

 

「ぐっ!」

 

魅音の言葉が胸に刺さる。

くそ、効きやがるぜ。

 

だが悟史達にもすでに別れを告げたんだ。

だから魅音達には悪いがこの決定は変えられない。

 

「そうだね、ひどいお兄ちゃんさね」

 

「・・・・すいません」

 

「まぁ、引っ越しなんてさせないけどね」

 

「はい?」

 

茜さん。今なんて言いました?

 

「あの、どういう」

「灯火。久しぶりだねぇ」

 

俺が茜さんに尋ねようとした言葉は別の人の声によって遮られた。

 

「ぶふぉ!!?」

 

声のした方を見て吹き出す。

 

「お魎さん!?」

 

ちょっと聞いてないです。事前に言ってもらわないと心の準備というものが。

ていうか園崎家の頭首様がわざわざうちに?

 

一体何が起きてる!?

 

「お兄ちゃん?どうしたのかな?かな?」

 

俺が玄関前で全身から冷や汗を流しまくっていると家の方から礼奈がやってきた。

 

「あ!礼奈!」

 

礼奈がやってくるのを魅音と詩音が発見して手を振る。

 

「魅音ちゃんに詩音ちゃん?どうしたの?」

 

「お兄ちゃんと礼奈が引っ越すって聞いて慌てて来たんだよ」

 

「あっ・・・・」

 

魅音の言葉を聞いて暗い顔になる礼奈。

そんな礼奈に魅音は真剣な表情で口を開く。

 

「礼奈は雛見沢嫌い?」

 

「そんなわけないよ!」

 

魅音の質問に即答する礼奈。

それを聞いた魅音は頷き、詩音が次の質問をする。

 

「じゃあ私たちのことは?嫌い?」

 

「大好きに決まってるよ!!」

 

詩音の質問にも即答する。

 

「よかった」

 

礼奈の言葉を聞いた二人は安心したようにため息を吐く。

それを見た礼奈は首を傾げる。

 

「どうしてそんなこと聞くのかな?かな?」

 

「礼奈が私たちのことや雛見沢を嫌いだったら止めることは出来ないから」

 

「どういうこと?」

 

再び首を傾げる礼奈だが、俺はなんだが嫌な予感を覚えて頬を引きつらせる。

止めるって、この人達は一体何をやらかすつもりだ。

 

「それはこれから説明するよ。灯火、ご両親はいるかい?」

 

「・・・・いますけど」

 

ここでいませんとは言えない。

 

あと、礼奈には聞いて俺には質問しないの?

 

好きだろうが嫌いだろうが逃がさない。そういうこと?

内心でツッコミを入れたい衝動を抑えながら両親のところに向かう。

 

「・・・・父さん、母さん。ちょっとお客さんが来てるんだけど」

 

「お客さん?誰だろう?」

 

罪悪感がハンパない。

逃げてぇぇぇ!と叫びたい!

 

俺の心の叫びが届くはずもなく両親は玄関のほうに向かっていった。

 

「おたくらが灯火のご両親かい?」

 

「は、はい。えっとどちら様でしょうか?」

 

「おっと、挨拶がまだだったね。あたしは園崎茜。こっちは娘の魅音と詩音」

 

「「よろしくー」」

 

「「そ、園崎!!?」」

 

園崎の名を聞き瞠目する父さんと母さん。

うん、雛見沢に住んでるんだから園崎家のことは当然知ってるよね。

 

しまった、こうなるんだったら両親に俺が園崎家と関りがあることをきちんと言うべきだった。

 

両親に下手に知らせて怖いから関わるなって言われるんじゃないかと思って言わなかったのが仇になった。

 

「それでこちらが園崎家当主。園崎お魎」

 

「「・・・・!!?」」

 

一瞬、茜さんから言われた言葉を理解できず固まる両親。

だが次の瞬間にはそれを理解して大量の汗を流し始めた。

 

「少し話があってねぇ。上がってもいいかい?」

 

茜さんが笑顔で尋ねる。

 

あとで2人に土下座をすることを誓った。

 

「そ、それで私たちに何のようでしょうか」

 

父さんが震えながら茜さんに尋ねる。

 

「あんたたち雛見沢を出て行くらしいねぇ」

 

「は、はい」

 

「ここが嫌いになったのかい?」

 

「そ、そんなことはありません!雛見沢は私たちの生まれ故郷です!ただ仕事の都合で仕方なく」

 

茜さんの言葉に必死に説明する父さん。

そりゃそうだ、ここで雛見沢を侮辱するような発言が出来るわけがない。

 

「茨城で独立開業するんだってねぇ。すごいじゃないかい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

どこからその情報を?

両親がそんな疑問を浮かべているのがよくわかる。

 

「でもそれだったら茨城じゃなくていいだろう?」

 

「はい?どういう意味でしょうか?」

 

「この紙を読んでくれるかい?」

 

茜さんは懐から1枚の紙を取り出し、両親に渡す。

 

・・・・これは状況が変わってきたな。

 

茜さん達が来た目的はこれか?

俺も両親と茜さんの話を真剣に聞く。

 

「独立開業するなら茨城じゃなくてそこにしないかい?」

 

紙には地図が載ってあり、興宮の建物の1つに矢印が示されていた。

 

「そこなら立地はいいし客の目にもつきやすいだろう?茨城のところよりかなり良いはずだよ」

 

「えっと、はい」

 

その通りなのか肯定する母。

 

「もちろんそれだけじゃない。茨城で独立開業するからといって仕事がいきなり回ってくるわけじゃないだろう?」

 

「・・・・はい。その通りです」

 

「ここにすれば園崎家が仕事を回すことを約束するよ。それも高額でね」

 

「ええ!?」

 

「他のことも園崎家ができる限りバックアップをしていこうじゃないかい」

 

にこやかな笑みで両親と話す茜さん。

 

笑顔なのに怖いのはどうしてだろう?

そんな怖い笑顔を浮かべる茜さんに母が若干震えながら質問する。

 

「・・・・聞いてよろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

「どうして私たちにそこまでしてくれるのでしょう?」

 

「・・・・」

 

両親の質問になにを言ってるんだ。という顔をする茜さん。

まずい、これは話の矛先が俺に行く流れだ。

 

「灯火から聞いてないのかい?」

 

「え?灯火ですか?」

 

茜さんの言葉で俺の方をみる両親。

案の定こちらに矛先が来た。

 

「・・・・何のこと?」

 

冷や汗を流しながら顔を逸らす。

まずい、園崎家と関りがあることもそうだが、その園崎家の娘達に兄と呼ばせているなんて両親に知られたらどんな反応をされるかわからない。

 

「うちの娘を手篭めにしといてよく言うね」

 

「「灯火!!?」」

 

「してないよ!!?」

 

茜さんの言葉を慌てて否定する。

酷い誤解を受けるところだったぞ。

 

「・・・・少し仲良くさせてもらってるだけだよ」

 

「へぇ、あれがかい?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべる茜さん。

これ以上なんて言えばいいんだよ!

 

お兄ちゃんって呼ばせてますなんて言えるわけないだろ!

 

「えっと、つまりは」

 

父さんが気まずそうに茜さんに話しかける。

 

「・・・・灯火が園崎さんの娘様たちに気に入られているので引越すのをやめさせる。そういうことでしょうか?」

 

「そうそう。そこにあたしとおばばも加えておいていいよ」

 

「「・・・・っ!?」」

 

再び固まる両親。

そして同じように固まる俺。

 

なにそれ聞いてない。

 

ていうか茜さんはともかくお魎さんもってどういうことだ。

好感度を稼いだ記憶なんて一切ないぞ。

 

「あんたらの息子は面白い男さね。あいつらの兄になるなんて吐かすんだ。笑いもんだよ」

 

「・・・・別にそんな変なことじゃないです」

 

魅音達を嫌な感じに言ったのでつい反論してしまう。

くそ、良い挑発をしてきやがる。

茜さんは俺の特性(シスコン)をよくわかってやがる。

 

・・・・何を言ってるんだ俺は。

 

いやでもあんな可愛い妹たちがいたら誰でもこうなるって。

 

「自覚なしかい。将来はさぞかし女泣かせの色男になるだろうねぇ」

 

「・・・・そりゃどうもです」

 

「くく。まぁいいさね。それで?ご両親。引っ越しはなしにしてくれるのかい?」

 

「えっと、その」

 

「でも・・・・ねぇ?」

 

茜さんの言葉の返事に詰まる両親。

まぁ、そう簡単に今まで考えていた計画を変えられたりはしないだろう。

 

ここは俺からも何か言うべきだな。

 

俺が茜さんの言葉を後押しすべく口を開こうとした時。

 

()()()()()

 

お魎さんの絶対零度のお言葉が炸裂した。

 

「「ひぃ!!?」」

 

いきなり空気が変わったのを理解して悲鳴をあげる両親。

俺も心の中で同じように悲鳴を上げる。

 

「茜の言うことのなぁにが気にくわんね」

 

「いえ!そういうわけでは」

 

「じゃあどしてうんさ言わんね」

 

「え、えええと・・・・」

 

「んぁ?」

 

「「引っ越しは中止にさせていただきます!!」」

 

お魎さんの睨みに涙目で引っ越しの中止を宣言する両親。

あんな風に凄まれたら反論なんて出来るわけがない。

 

とりあえず一言だけ。

 

お魎さんこえぇ!!

 

「灯火」

 

「ひゃはい」

 

いきなりお魎さんに名前を呼ばれ少し変な返事をしてしまう。

 

「あとで家にきいさい。この前言うた、おはぎの作り方を教えちゃるからの」

 

「ありがとうございます」

 

綿流しの時におはぎを一緒に作る約束をしたんだった。

あの時の自分をぶん殴りたい。

 

「じゃあね灯火。また後でだね」

 

「「お兄ちゃんバイバイ!後でね!」」

 

用事が済むとあっという間に居なくなる緑髪の女たち。

すぐにまた会うことになると思うと少し憂鬱になった。

 

「・・・・ふぁぁ」

 

父さんは茜さんたちが居なくなった途端。ヘナヘナと床に倒れこんだ。

母も疲れきった表情で座り込んでいる。

 

今回ばかりは本当に申し訳ないと思ってます。

 

「お兄ちゃん終わったの?」

 

礼奈が魅音と詩音が帰ったのを見てこちらにやってくる。

 

「ああ。終わったぞ」

 

「じゃあ引っ越しは!?どうなったのかな!かな!?」

 

不安そうな表情でそう聞いてくる礼奈に俺が笑顔で告げる。

 

「引っ越しは中止。今まで通りここで暮らすことになった」

 

「じゃ、じゃあ沙都子ちゃんや悟史君とは」

 

「離れなくていい」

 

「・・・・やったーーーー!!!」

 

もう我慢できないとばかりに抱きついてくる礼奈。

それを聞いて俺も嬉しさがこみあげてきて、礼奈を強く抱きしめる。

 

「やった!やった!嬉しいよぅ!!」

 

「そうだね。本当に良かった」

 

いきなりのことでびっくりしたがこれはかなり助かる。

これで物語への干渉が容易になった。

何より梨花ちゃん達とも離れなくていい、それが本当に嬉しい。

 

「俺はこれから園崎家に行くけど礼奈はどうする?」

 

「沙都子ちゃんと悟史君に伝えてくる!」

 

「早く伝えてやらないとな」

 

「うん!じゃあ行ってくるね!」

 

すごい勢いで家を飛び出し悟史と沙都子の家に向かう礼奈。

 

「俺も行くか」

 

怖かったけどお礼も言わないといけないし。

 

KOされたボクサーのように倒れて動かない両親を無視して俺は園崎家に向かうため家を出た。

 

 

「・・・・おはぎでも持って帰るか」

 

両親へのささやかな謝罪として俺は真面目におはぎ作りに取り組むことを決意した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。