レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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辛い夜には添い寝を

綿流しから数か月がたったある日。

 

父さんから大事な話があると食事中に切り出された。

父さんも母さんも真剣な表情をしていて、二人が何を話そうとしているのか察してしまった。

 

「突然でびっくりするだろうけど、僕たちは雛見沢から引っ越すことになるんだ」

 

ああ、やっぱり予想通りだったか。

話というのは会社の都合で来月にはこの雛見沢村を出て茨城に引っ越すということだった。

 

・・・・ついにきちまったか。

原作知識によってレナが幼少期に雛見沢を離れていることは知っていた。

だからいずれはと思ってはいたが、今日だったか。

 

ある程度覚悟していた俺とは違い、礼奈は固まってしまい、手から箸を落としていた。

 

父さんは引っ越しの理由を丁寧に教えてくれた。

 

2人は雛見沢で夫婦共にデザイナーの仕事をしているのだが会社の経営状態が悪くなる一方。

そんな時に才能のあった母に独立の話が持ち上がったのだ。

これに乗らないわけがなく俺たちは茨城への移動が決まったのだ。

 

 

そう・・・・これは仕方のないことだ。

子供の俺たちにはどうしようもない状況。

 

両親だって生活がかかっているんだ、二人で話して引っ越しの準備はあらかた終わっているのだろう。

 

ああでも、それでも嫌だ。

 

これからこの雛見沢村にはダム建設の話が立ち上がる。

それによって雛見沢をダムの下に鎮めてしまおうとするんだ。

 

そして住民によるダム建設反対運動、鬼ヶ淵死守同盟が発足されるだろう。

 

最初は合法的な活動だったらしいけど次第にやることは過激になっていき、そこから狂った運命が始まってしまう。

 

・・・・1番気に病むのは悟史と沙都子だ。

 

何も雛見沢住民の全員がダム反対なわけじゃない。

賛成派だっているんだ。

 

悟史達の両親がそのダム賛成派の代表になる。

 

ダム賛同派の両親のせいで2人は村でひどい扱いを受けるようになる。

ただでさえ離婚再婚を繰り返して家庭的ストレスが溜まってるのにここでそれはあんまりだ。

 

それがわかってたから俺たちは必死に雛見沢で手伝いをして悟史達がみんなに好かれるように行動をしていた。

 

だがそれで確実に大丈夫なんてとても言えない。

 

・・・・わかってたが友達が1番辛い時期にそばにいてやれないのか俺は!!

 

悔しさで歯を噛み砕く勢いで力を込める。

 

礼奈たちと離れ、ここに残るというのも考えた。

だが礼奈の方もこれから厄介なことが待っている。

 

母の浮気だ。

 

俺たちの母は茨城に行くと、いつ頃からかはわからないが愛人を作り父を裏切る。

 

原作では礼奈を愛人に懐かせようと何度も愛人と3人で遊びに行くことになる。

その時は礼奈は母が浮気をしているなど思いもせずに母と愛人の男と何度も遊びに行ってしまう。

 

そして礼奈はその事を後から気づき、あの時自分がもっと嫌がっていたらこんなことにはならなかったと自己嫌悪をして病んでしまうのだ。

 

父さんもショックで仕事を辞めて塞ぎ込んでしまい、ある時に八つ当たり気味に礼奈を殴り、それによってさらに礼奈が病んで雛見沢症候群を発症。

学校のガラスをバットで叩き割り、生徒を殴打する事件を起こす。

 

 

想像しただけで胸が張り裂けそうになる。

 

そんなふざけた未来は絶対に起こさせてたまるか!

 

悟史たちの方も心配だがやはり俺の中では礼奈が1番大事だ。

 

最初は原作キャラだ、俺とは違うなんて思っていたが今では世界で1番愛している最高の妹と断言できる。

 

シスコン?何を当たり前のことを。

 

それに大事な時期にはなんとかして雛見沢に戻るつもりでいる。

 

悟史と沙都子の両親はいろいろ考えたが放置。

そうじゃないと悟史と沙都子を救うことはおそらくできない。

 

決してダム賛成派の二人の考えが間違っているとは思わないけど、俺も雛見沢は好きだしダムに沈むなんて嫌だ。

 

俺がどうしても救いたいのは梨花ちゃんの両親だ。

 

梨花ちゃんの両親もまた原作では死んでいる。

 

もうすぐ出来る入江診療所に犯人はいる。

表は普通に診療所だが、裏ではこの村特有の風土病である雛見沢症候群について研究している組織になる。

 

そこに所属する鷹野さん。

この世界のボスにして梨花ちゃんの両親を殺す元凶。

 

原作では鷹野さん達が女王感染者である梨花ちゃんを雛見沢症候群の治療のためにいろいろ調べていた時、実験の影響で高熱を出した梨花ちゃんを見て梨花ちゃんのお母さんがもう協力しないと宣言する。

 

それを阻止するために鷹野さんが梨花ちゃんの両親を殺害する。

 

鷹野さん、雛見沢症候群の鍵を握る梨花ちゃんの研究を続けるために両親を殺すとかマジで狂ってやがる。

 

・・・・梨花ちゃんの両親にはすごく優しくしてもらったのだ。

 

毎日遊びにくる俺を嫌な顔1つせずに歓迎してくれた。

雨の日なんかは心配だからと傘をさして送ってくれるほどだ。

 

1年間の交流で俺は古手夫婦のことが大好きになっていた。

あんな優しい人たちを殺させてたまるか!

 

2人が殺されるのは今から三年後。

その時だけは意地でも雛見沢に戻って梨花ちゃんの両親を助けてみせる。

 

もちろんもっと早くに戻れるように何とかするつもりだが。

 

俺が思考の整理を終え、礼奈たちを見る。

礼奈がお父さんに泣き出しながら何とかならないかと言っているがお父さんはすまなそうな顔をするだけでどうしようもないみたいだ。

 

・・・・礼奈がここまで泣くところは初めて見たな。

 

礼奈に悟史達と繋がりを持たせたのは失敗だったかもしれない。

 

仲の良い友達と別れるのは本当に辛い。

現在経験している俺だからわかる。

この気持ちを礼奈に与えていると思うと心が潰れそうだ。

 

俺さえいなければ悟史たちとも仲良くなることなく、引っ越しも寂しいかもしれないが大泣きするほどではなかったはずだ。

 

もしもの話をしてもしょうがないがどうしても考えてしまう。

 

しかもそれ以上に嫌なのは。

 

・・・・あいつらに言わないとダメだよな。

 

 

・・・・食欲はもうなかった。

 

 

 

 

俺達は基本的に四人別々の布団で川の字のようにして寝ている。

父さんと母はまだ話をするみたいなので俺は先に寝ることにした。

 

「・・・・お兄ちゃん」

 

寝巻きに着替えて寝る用意をしているとパジャマ姿に枕を抱きしめた礼奈がきた。

 

「どうした?」

 

眠れないのだろうなっと思いながらなるべく優しい声を意識して礼奈に尋ねる。

 

「・・・・一緒に寝てもいい?」

 

明らかに元気のない礼奈を見ていてノーなんて言えるわけがない。

いや、元気があっても断るわけがないんだが。

 

「ああいいぞ。準備するから待ってな」

 

そう言って2人が寝れるように布団をくっつける。

 

しばらく無言で布団の中で目を瞑って眠くなるのを待つ。

だけど一向に眠気が来ず、時計の秒針の動く音が耳に届く。

 

・・・・寝れねぇ。

 

目を開けて暗闇の中で天井のシミに数を数えることに没頭する。

 

 

「・・・・もう悟史君たちと会えないのかな?かな?」

 

俺が天井のシミを654まで数えたところで礼奈が顔を俺の方に向けて小さな声で呟いた。

 

「・・・・そうだな。毎日会うのは難しくなる」

 

「・・・・そんなのやだよ」

 

礼奈は俺に抱きついて泣き顔を隠すように俺の胸に顔を埋める。

そんな礼奈の頭を撫でながら俺は口を開いた。

 

「・・・・こう考えたらどうだ?」

 

「?」

 

「確かにこれからは会いにくくなる。でもさ、会いたいのをいっぱい我慢した分だけ次に会った時はその分嬉しくなると思うんだ」

 

俺は礼奈の頭を撫でながら優しく語る。

 

「だからこれはさよならじゃない。またねって手を振って次に会う時は今よりも絶対楽しくなる。そう思いながら一緒にその時のことを考えて笑おう」

 

それに、と少し前を置いて言葉を続ける。

 

「悟史たちとは少し離れるけどその分俺が礼奈のそばにいるよ。礼奈に寂しい思いは絶対にさせない」

 

俺がそう言うと俺の胸に顔を埋めていた礼奈はそっと顔を離し、俺をじっと見つめる。

 

「・・・・ほんと?」

 

「ああ」

 

「・・・・ずっと一緒にいてくれる?」

 

「もちろん」

 

「・・・・ずっとだよ?礼奈がおばあちゃんになってもずっとだよ?」

 

「ああ、俺がおじいちゃんになっても一緒にいるよ」

 

「・・・・えへへ、じゃあ礼奈はお兄ちゃんのお嫁さんなのかな?かな?」

 

「・・・・んん?」

 

なんか話が一気に飛んだな。

 

「違うのかな?かな?」

 

礼奈が不安そうな顔で俺を見つめる。

 

「お、おう!もちろんだ!礼奈は俺のお嫁さんだ」

 

礼奈の不安そうな顔に勝てずについついそんなことを言ってしまう。

いやまぁ、今ぐらいの年なら普通普通。

 

もう少し大きくなった時に笑い話になるやつだ。

 

「・・・・はぅ!!」

 

俺の言葉に真っ赤になる礼奈。

・・・・言わせたのお前だよ?

 

「さぁ、そろそろ寝ようぜ」

 

そう言って布団を礼奈と俺の上にかけ直す。

変な方向に話がいってしまったが、そのおかげが暗い雰囲気は消えた。

 

「おやすみ礼奈」

 

布団から2人とも顔をだした状態で微笑む。

 

「・・・・お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

礼奈は頬を染め、瞳を潤ませながら俺を見つめてくる。

 

「・・・・好き」

 

瞬間、礼奈の顔が近づき俺の唇に柔らかい感触が伝わった。

 

「・・・・はぅ!!」

 

礼奈は顔を真っ赤にした後、布団の中に頭を引っ込めて姿を消した。

 

・・・・おっと。

 

あ、兄妹だから大丈夫か。

うん、一瞬焦ったけど兄妹なら普通普通。

 

きっと悟史と沙都子だって家ではちゅっちゅしてるに違いない。

 

・・・・そんなわけなくね?

どう想像しても二人がキスしてる姿が想像できない。

 

いやまぁ他所は他所、うちはうちだから。

 

俺が冷静になったのは0時を回り、礼奈の規則正しい寝息が聞こえ、父さんと母が来てからだった。

 


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