正直な話をしよう。瀧は少し、居心地が悪いと感じていた。
建設会社の有望若手こと勅使河原克彦との邂逅を経てから、より詳しく言えば彼が瀧の名前を知ってから、妙に克彦は瀧のことを興味深く接していた。
まるで自分のことを知ろうとばかりに、仕事以外のプライベートまで聞いてくる辺り、瀧は何かがあると感じざるを得なかった――のだが、それは本当に最初だけであった。
会社からほどなくのところにある少し古びた喫茶店。そこの奥の席で二人は対面しながら会話をしていた。
「へぇ……地元から出て、上京して今の会社に入ったんですね」
「そうそう。やから俺、結構なまっとるやろ? 一応隠そう思ってるんやど、中々抜けんくてな~。……幼馴染とか嫁とかは割りと上手くやってるんやどなー」
「結婚してるんですか?」
「式はまだやねんけどな。色々延びて、来週に結婚式」
「――おめでとうございます!」
――このように、すぐに瀧と克彦は意気投合したのである。
何故かはわからないが瀧は年上とはいえ、克彦に妙な親近感を感じていた。実際に話してみて、会話がスムーズに進むのに不思議に思うほどに。
それは克彦の人柄があるのか、それとも波長があったのか。それは定かではないが、少なくとも既に瀧には最初の居心地の悪さはなかった。
「……っと、これは私情やな――ところで瀧くん。君のことは
「……そうですね。俺も、実はそちらの会社には前々から興味があったんですよ」
……瀧が今回の勅使河原との邂逅。ないし建設会社の社員と話したかったのは、彼の求める建築の外観の理想が、勅使河原の設計するそれに近かったからだ。
勅使河原の生業とするものは建築の施工と外観。本来は相反するものなのだが、勅使河原は花形部門の作業人であり、なおかつデザイナーに近いこともしているのである。
彼が持つ独特の世界観を持つ外観。それが今回、瀧との会合に踏み切った理由の一つだ。
「この会社の雰囲気、それと施工とデザインを会社内で完結させているからか、完成度の高い建築物を造っていますよね。それが俺からしたら理想っていうか……」
「まぁその分、色々と人員不足とかに悩まされてんねんけどな――君のデザイン、見せてもらったんやさ」
克彦はそっと封筒から一枚の紙を取り出し、それを机の上に置いた。
……それは紛れもなく、瀧が描いた内装デザイン――克彦はそれを瀧に提示した上で、笑みを浮かべた。
「俺も外観をデザインする上で、内と外ってもんは密接に関わるんものや。人間も同じでな――君の内装は、俺の理想とするもののそれなんよ。まさかと思ったわ。俺以外に、こんな発想のやつがおるとは思わんかった」
「……どこから引っ張ってきたんすか、それ」
瀧は苦笑し、それ――いつか三葉がスケッチブックで見た、糸守の雰囲気が十全に表現されたスケッチのコピーを持った。
実は克彦の会社と瀧の会社の社長は昔からの交流があり、稀に社内の情報交換をするのである。
その情報交換の一つとして克彦が手に入れたのが、瀧の内装デザインというわけだ。
「瀧くんの会社の上司さんがこれお気に入りやって送ってきてなー。それで君に興味が出たわけや――まぁ、それ以外でも色々話したいことあるねんけどなー」
「ん? ……で、このデザインでなんで俺を? これ、うちの会社ではなんか評判悪いんですよ」
瀧は克彦の発言に軽く首を傾げつつ、紙をパサッと机の上に置いて皮肉げにそう呟いた。
すると克彦は置かれた紙をそっと手にして、それを見て懐かしそうな安らかな表情で呟いた。
「まぁ価値観が現代風やからな、そっちは——ただな、俺は惹かれた。これ見てると、どーもな、思い出してしまうんや。地元を」
「……地元――同じこと言ってた奴がいましたよ。俺のデザインは、自分の故郷を思い出すって」
……それが最愛の人とは口が裂けても彼には言わないが。
瀧はそう言った後に気づいた――そういえば、似ていると。
克彦の話す言葉は色々な地方が混ざっているようにも見受けられるが、どこか三葉がたまに漏らす方言と似ていると思った。
瀧は、ふと聞いた。
「――勅使河原さん、糸守の出身ですよね?」
「……おぉ。よぅわかったな」
「まぁ、そりゃあね――あぁ、そういうことですか。だからさっきから、色々聞いてきたんですね」
そこで、瀧は合点が行く。
糸守出身で、瀧の名前を聞いて驚き、そして仕事と関係のないところまで色々と聞いてきた理由。
瀧は核心を突くように、克彦に問うた。
「――三葉の知り合いでしょう? 勅使河原さん」
「……意外と鋭いなぁ、瀧くん」
克彦は両手を開いて、まるで参ったと言わんばかりの仕草をする。
……瀧はようやく点と点が繋がった気分になった。たぶん、克彦は事前に三葉か四葉から聞いていたのだろうと考える。
「そない言うてもな、知ってたんは君の名前と、三葉の彼氏ってことだけや。いずれは実際に会って幼馴染みとして見定めようかと思っとったけど、まぁこんな早くに機会が訪れるとはなぁ」
「見定めるって……」
「あぁ、そんな身構えんでももう大丈夫や――そんなもん必要ないって内心わかっとったしな」
克彦は彼の肩を叩いて、がははと豪快に笑う。
「三葉の身持ちの固さは昔から知ってたし、あいつがしょうもない男に惚れるわけない。そんなあいつが一目惚れした男や。見定める必要もない――まぁ興味あったんは本音やけどな?」
「……心配しなくても大丈夫です。俺、あいつを絶対に幸せにするんで」
瀧は少し恥ずかしさの残る表情でそう断言すると、克彦はそっと手を前に出す。
握手を求めるような顔で手を出すと、克彦はニカっと笑った。
「――タメでええ。少なくともプライベートはもっと軽くいかへんか?それにお前に敬語使われるのはなんか違和感覚えるんわ」
「――テッシーがそれでいいんなら、俺はそれでいい」
「お?そのあだ名は久しぶりやな」
瀧は克彦の手を取り、握手に応える。
……グッと握られる手。克彦は満足そうな笑顔を浮かべながら、よろしくと言った。
――その時、瀧のスマートフォンが小刻みに振動した。
「ん? ごめん、テッシー。ちょっと席、外していいか?」
「おうよー。あ、でもここからは仕事の話戻るからなー」
克彦は足を組みながら、手をヒラヒラとさせながらそう言うと、瀧は席を立って喫茶店の外に出た。
その場に残る克彦はそっとポケットからスマートフォンを取り出し、嫁である名取早耶香に電話をした。
「ん、さやかー。ちょっとええか?」
『なんなん、テッシー……じゃなかった、克彦』
「いや、来週の結婚式のな、三葉の親父さんが確か来れへんことになっとったよな?」
『え、そーやけど……』
「――そこの席にな、ちょっと呼びたい奴がおるから、どうにかできんか?」
克彦は少し悪い笑みを浮かべながら、早耶香にそういうと、早耶香は了見が届かず、電話越しでわかるほどに首を傾げたのだった。
○●○●
ところ変わって、着信を受けて席を立った瀧は喫茶店を出てスマートフォンを見る。
そこには三葉……ではなく四葉の名前が表示されており、瀧は少し身構える。
……基本的に四葉が何かに絡んだ場合、自分にとてつもなく被害が加わることを既に理解しているのだ。ほんの少しの間、電話に出るか本気で迷う瀧。
「……仕方ないな。可愛い妹分のためだ」
――瀧は意を決して通話ボタンを押して、通話を開始した。
『もっしもーし。瀧くん、なんか電話出るとき間がなかった?』
「そりゃ身構えるだろ、馬鹿。最近お前が絡むと碌なことがないんだよ」
『人を疫病神のように! どちらかといえば私はあれじゃない? 座敷童っぽくない?』
「……切るぞ?」
瀧は大きくため息を吐いて、通話を切ろうとする。すると四葉はすぐさま手のひらを返して通話を繋ぎ止めようとした。
『ストップだよ、瀧くん! っていうかちょっと冷たくない!?』
「最近の行いのせいだよ。……んで? なんか用か?」
『うぅ~、私は将来のお兄ちゃんと仲良くなりたいだけなのにぃ~」
「お前最近あざといよな――そろそろ本題に入ってくれよ。俺も一応仕事中みたいなものだからさ」
瀧は腕時計で時間を確認しながらそう聞く。とはいえ、克彦も四葉からの連絡だと知れば大して気にならないということも理解しているため、心配はないのだが。
『おばあちゃんがお友達とディナーに行くらしくて、家で一人なんだよ。それでお姉ちゃんに聞いたら、今日の晩御飯は瀧くんのところで済ますって言うから、私も行っていいかなーって思って……』
「そういうことね――まあいいぞ。それなら帰り、行く時間合わせるか?」
『え、いいの?』
すると四葉は了承されることを予想していなかったのか、あっけらかんとした声音でそう呟いた。
瀧はその反応に首を傾げた。
「なんだよ、その反応」
『い、いやぁ……ほら、私ってここぞって時に邪魔してるから、普通に断られるかなって思ってさ』
「……まぁなんだ? お前はなんか妹みたいだし、面倒くらい見るのは全然苦じゃないからさ」
……口が裂けても言えない。既に昨日、そのここぞという一線を越えてしまったことを。
瀧は少し声が震えながらもそう言うと、四葉は声音を明るくして電話越しでも分かるほど嬉しがっていた。
『じゃあ瀧くん、後でね♪ 私も
「ん、別に準備とかは必要は――」
瀧は四葉の意味深な言葉を追求しようと思うも、四葉は言いたいことを言い終わると、通話を切る。
……瀧はほんの少し嫌な予感を感じつつ、スマートフォンをポケットに突っ込んで、再び喫茶店に戻った。
「すまん、テッシー……じゃなかった、勅使河原さん」
「いや、今は別にテッシーでもええからな?」
……しかしながらやはりどこかため口に慣れない瀧であった。
……一時間ほど経ってから、瀧と克彦は店を出る。
大体の聞きたいことを互いに聞き終えた二人は、特に目的もなく辺りをブラブラとする。
瀧は四葉との集合までまだ余裕があり、克彦もまた瀧と交流を深めようという考えだ。
「へぇ、三葉って割と男勝り時期もあったんですね」
「おぅよ。特に高校の時にな、何かに憑かれてるみたいに別人になった時期があってなぁ……あれは狐憑きやったわ。まぁ俺はあの三葉の方が仲はよかってんけどなぁ」
話題は学生時代の三葉のことだ。
瀧も自分の知らない時代の三葉のことは気になっており、やはり彼氏としては昔の情報は欲しいものなのだ。意外とこれまで、第三者から三葉のことを語れたことがないため、瀧は克彦の話を熱心に聞いていた。
「まぁ悪さはしたもんやさ。なんやろうな……あの時期は色々なことがありすぎて、その辺りの記憶は曖昧やねんけど、なんか大きなことを俺と早耶香、そんでもって三葉の三人でしたんやさ。確か流星が落ちる前に――ダメやわ、それ以上は覚えてへんなぁ」
「……いや、大丈夫だ。ごめん、辛いこと思い出させて」
「……まぁ、辛いよな。二度と戻らんからな。俺の好きだったあの景色は――」
克彦は遠くを見るように快晴の空を見上げ、昔を思い出してそう呟く。
……克彦は好きだった。
よく幼馴染の二人が何もない糸守の文句を漏らしつつ、東京に出るとボヤいていることがあった。
その度に、彼は思っていたのだ――何でだよ、と。
確かに糸守には何もない。電車は二時間に一本で、コンビニは深夜営業ではなく、喫茶店の一つもない。その癖にスナックは二軒もある。
でも――それでも糸守には言葉には出来ない美しさがあった
克彦はそれを知っていた。誰もがそれを肯定しなかったが、それでも克彦にとって糸守はずっとそこで生きていけるほどの掛け替えのないものだった。
「失くなって気づいたんや、皆。もう手遅れやってのに、アホやよな。皆――俺も」
「…………。――でも、さ」
――ふと、瀧がおもむろに声を上げた。
克彦はその声に反応してハッと顔を上げ、瀧の顔を見る。
「もう取り返しはつかないし、消えたものは二度と戻らない――でもさ。だからこそ、その記憶を消したくないから。だからテッシーは求めてるんだろ?糸守っていう美しい町を」
……瀧は克彦の方を見ずに、淡々とそう呟く。
克彦は見た。
瀧の淡々とした言葉とは裏腹に、糸守を想っているような優しげな表情を。
まるで――過去を、紐解くように話す、瀧を。
「――湖を取り囲む町は夕焼けになったらひたすらに綺麗で、山中の紅葉は疲れを忘れさせるくらい穏やかで……きっと俺の知らない色々な景色があるんだと思う。だから俺は……って、何言ってんだ俺」
「……お前、どうして」
克彦は細い目を見開いて、ただ驚く。
ひたすらに、ただ――懐かしい記憶が、彼の頭を過った。
それはいつの日だったか……彼が初めて共感を覚えた、ある日の出来事。
もう今では誰と話して、何に共感したなどという明確な記憶はほとんどない。
ただ一つ、覚えているのは――自分以外にも、糸守の素晴らしさを知っている奴がいたということ。
それは身近で、でもどこか遠くにいる存在のようで……――
『――もったいないなぁ』
……その台詞を言ったのは、三葉だった。
三葉と克彦、二人で集めた角材を使って造っていた木製の机と椅子。その時の二人の会話も、今の瀧と克彦がしているような会話であった。
その時に三葉の言った言葉。それが何を意味するかは厳密には克彦も理解はしていなかったが――今しがたの瀧の言葉と、あの時の三葉の言葉が繋がったような気がした。
……克彦はそう一瞬考えて、すぐに頭を振る。
――こじつけだ。そんなことあるわけがない。でも何でもだろう……瀧を見ていると、昔、一度だけ心を通わせた
……克彦はそんな風に思いながら、瀧の肩に手を置いた。
「――まるで糸守出身みたなこと言うなぁ、
「……俺も本当に、不思議な感覚なんだけどな」
……本当に不思議な感覚だと瀧は思った。
どうしてこうも、この男とは馬が合うのだろうと。建築の話でも、糸守についてでもそうだ。
勅使河原克彦という人物を昔から知っていたような感覚なのだ。……もちろん瀧がその感覚を理解することはない。
感覚で言えば本当に懐かしいとしか思っていない。
――だが、この男との出会いがまた彼の中の何かを埋めた。
三葉と一緒になったことで埋まった空白の、少しの隙間。その一つが埋まった――瀧はそう思わざるを得なかった。
「……いつか。俺が外で、お前が内。そうやって一から家を作りたいな」
「――作ろう。いつか、もっと俺がしっかりして、テッシーがもっとすげぇ奴になったら。二人で一緒に最高の家を作ろう!」
「お、いいなぁ! 約束やぞ、瀧!」
「おう!!」
瀧と克彦は腕を組み合わせて、ニカッと笑い合う。
――覚えていないだろう。それは一度、結んだ友情であったということを。
――でも、覚えてもいるだろう。心のどこかで、確かなものとして。
……ここに、また再び結ばれる――一つの友情を。
二人の約束は、友情を再度結ぶには申し分ないものであった。
……瀧は克彦の住むマンションの前まで彼を送る。
克彦は瀧を家に上がれと誘うのだが、瀧はそろそろ四葉との約束があるため、それを断った。
「残念やなぁ。早耶香も三葉の幼馴染やから、会わせようと思ってんけどな」
「まぁ、またいつかな。……今後もたぶん、色々お世話になるよな――次は飲みにでも行こうぜ」
「おぅよ! ……んじゃ、三葉によろしくな」
瀧はそう言って別れると、そのまま駅に向かって歩いて行く。
――それと同時に克彦の後ろの自動ドアが開いて、そこから彼の妻である早耶香が現れた。
「あれ、克彦? もう終わったん?」
「……早耶香か。まぁ、終わったわ」
「……なんか、嬉しいことでもあった?」
早耶香は克彦の表情を見て、不思議そうな顔で首を傾げる。
そして克彦が見る方向に目を向けた。
「――まぁな。ちょっとダチが出来た」
「へぇ……あ、もしかして今日の会合の人? 珍しいね、克彦がそんなに気に入るなんて」
……早耶香は克彦の手をそっと取り、瀧を見送る。
もちろん早耶香は会合の人物が三葉の彼氏の瀧ということは知らないが――
「――三葉もええ男見つけたな。俺も負けてられへんなぁ」
「……え? もしかして、今日の会合の人って」
「おぅ、瀧や」
「え、えぇぇぇぇ!!!? な、なんで教えてくれへんの!? 私も会いたかったのに!!」
早耶香は克彦の台詞から察して、彼に対して猛反論する。
克彦はそんな彼女の反論を聞き流しながら、再度瀧の方を見ながら呟いた。
「――心配せんでも、長い付き合いになるから安心しない」
……克彦は、そう確信していたのだった。
そうして、瀧と克彦の邂逅は幕を閉じたのであった。
○●○●
「あ、瀧くーん!」
瀧の家の最寄り駅に着くと、改札を出たすぐの所に四葉が待っていた。
以前は近くのベンチで眠りこけていたが、今回は少し大きめのリュックサックを背負い、今時の女子高生のような恰好をしている。
そんな四葉は瀧に手をぶんぶんと振りながら、彼の元に駆け寄った。
「ごめん、ちょっと遅くなったな」
「ううん、全然待ってないよ。それよりも今日、何かあったのー?」
「あぁ、テッシーに会ってた」
「へぇ、テッシーに――えぇ!? 何その展開!」
合流早々にそのように仲良く会話をする二人は、傍から見たら兄妹にしか見えなかったりする。
ともかく、瀧と四葉は肩を並べながら話しながら道を歩いていた。
……さりげなく道路側を歩く辺り、三葉と交際をはじめてからの瀧らしい行動なのだが、四葉はそれに気付くと少しニヤッと笑う。
「こういうのにお姉ちゃんって弱いよね。さりげなく女の子扱いされる辺りが」
「ん? なんのことだ?」
「べっつに~? ……私も、実はこういうのに弱かったりするんだけどね」
四葉は少しハニカミながらそう言うと、瀧の手を引っ張って走り出す。
「ちょ、四葉! 子供じゃないんだから、いきなり手、引っ張るなよ!」
「え~、私まだまだお子様だよー? それよりお姉ちゃんからおつかい頼まれてるから、一緒に買い物に行こう♪」
「……はぁ、ったく」
瀧は半分諦めて、お姫様の言うことを聞くことにした。
……大方の買い物を終えて、瀧と四葉は家へと向かって歩く。
食材を鑑みる限り、今日のメニューは鍋と予想する瀧。季節的に言えば鍋の季節ではないのだが、まぁ偶にはそういうのも風情があると考える。
……四葉は何故か機嫌よく、瀧と買い物袋を半分ずつ持って歩いていた。
「四葉、なんか最近俺に対して甘え方が普通じゃなくないか?」
「ツンケンされるよりは良いでしょ?」
「まぁそうだけどさ。あんまり激しいと、また三葉さんのオハナシがな?」
「……まぁ、加減はするから安心してください」
瀧と四葉の共通意識、それは三葉を怒らせてはならないという点である。
――そんな会話をしつつ、いつの間にかマンションに着く二人。
瀧はフロントで鍵を開け、部屋に向かっていく。
「もしかしたらお姉ちゃんのことだから、ここはあざとく『お帰り、あなた』なんて言うかもね!」
「……四葉辺りなら言いそうだな」
「あ、ひっどい! 私ならちゃんと、ご飯にする? お風呂にする? それとも――くらいは言うよ!?」
「……何に対して張り合ってんだよ。後古い。めっちゃ古いから、それ」
瀧は四葉の後頭部に軽くチョップを入れつつ、家の鍵を開けて室内に入っていく。
四葉はご満悦な表情を浮かべつつ、それについていき、玄関で靴を抜いている時、ちょうどリビングの方からいい匂いがした。
……ほどなくして、リビングの方からスリッパが擦れる音が聞こえる。
「あ、おかえりなさい瀧くん!」
「……た、ただいま」
瀧はつい、三葉からの満面の笑みからの「おかえりなさい」に頬を染めて照れる。
――先日、初体験を済ましたばかりで、今更になって恥ずかしさが来たのか。それとも単にその初々しい言葉に照れているのかは定かではないが、少なくともそれを見て四葉がニヤッと笑っていたのは確かである。
「四葉、頼んでた食材は買ってきてくれた?」
「うん。完璧!」
四葉は軽く敬礼のポーズを取りつつそう言って、三葉に買い物袋を見せる。
「あとはそれを調理したら終わりだから、
「お、おう――ん?」
「……三人?」
不気味に上機嫌な三葉は買い物袋を受け取り、リビングの方にスキップをしながら消えていく。
三葉の発言に首を傾げる瀧と四葉は、しかし特に何も気にすることなくリビングに入っていき、そしてそのままソファーに座った。
「はぁ……やっぱ家が一番くつろぐなぁ」
「あはは、瀧くんおじさん臭いよー」
「ははは、全くだな。瀧、おっさんの俺と同じこと言ってどうする」
「るっせーよ、親父、俺はそこまで落ちぶれちゃいねぇよ」
瀧はからかってくるのを軽くいなしながら――
「――ん?」
――違和感を感じた。
今、瀧は四葉と会話していたはずだ。にもかかわらず、ここにいるはずのない人物にツッコみを入れたのだ。
瀧は首を傾げて四葉に問う。
「四葉、何おっさんみたいな声出してんだよ。意外な特技か?」
「何言ってるの? 私、普通の女の子の声出してるでしょ?」
「そうだぞ、瀧。っていうか親に向かっておっさんとは失礼な。三葉ちゃんみたく、お父さんと呼べよ」
――いくら瀧でも、流石に理解した。
瀧はハッとして後ろ……声のした方向に体と視線を向ける。
……目を疑う。瀧は肩を震わせ、人差し指でその人物を指を指した。
指はプルプルと震えていて、そして――
「――お、お、親父ぃぃぃぃ!?」
――何故かその場に居合わせる人物、瀧の実の父親を指さしてそう大きな声で驚いた。
瀧の父親はははは、と笑いながら立ち上がり、そして四葉の方に視線を向ける。
「久しぶりだなぁ、瀧。しばらく放っている間に随分と様変わりしたな――あ、俺は瀧の父親だ。四葉ちゃんだよな? よろしく」
「え、あ、はい……よろしくお願いします?」
四葉も突然のことで驚きを隠せない。
そのとき、ちょうど三葉が具材の入った鍋をリビングのガスコンロに設置して、パッと瀧の方に振り返り――
「はい、準備完了! それじゃあ皆でお鍋、するんやよ!」
「おぉ、これは美味そうだな」
……この時、瀧と四葉は不思議と心が一つとなる。
目の前で仲良さげに、何故か上機嫌な二人を前にして、思うことはたった一つ。
二人は特に息を合わせるわけでもなく、本当に自然と同時に声が重なり――
「「――ご飯の前にちゃんと説明
――そう声を荒げて叫んだのであった。
最新話、いかがだったでしょうか?
今回は前半がすげぇ真面目だったのではないでしょうか! 前回が砂糖究極盛りであったため、今回はまぁ控えめですね(マジで珍しく)
ただ、今回はちょっとアナザーのテッシー視点のお話を知っていた方が良いかなーって思いました。一応読んでなくても大丈夫なようにはしているつもりですが……タイミング悪く、アナザーを友人に貸しているため、ちょっと描写不足かな?
アナザーが手元に帰ってきたら加筆するかもしれません!
……今回はちょっと難産でした。書きたいことは明確なんですが、描写がどうにも気に入らなくてねー(ってか手元にアナザーがないせいです、はい)
まぁ書きたいことは全部描けたので、不満は今後加筆修正でどうにかしましょう!
――そして、本作前回の話からUAが10万件を突破しました!
お気に入りも増えていますし、毎回更新するたびに凄い数の感想が来てね?感無量です!
ツイッターからも感想が来たりして、モチベーションが凄いです! 本当にありがとうございます!
今後も本作をよろしくお願いします!
それでは次回は今回の続き! 瀧がテッシーと熱い会話?をしている最中の三葉さんに起きた出来事を中心とした話となります!
それでは次回の更新をお待ちください!
PS
四葉ちゃん愛が止まりません、どうしましょう!?