君と、ずっと   作:マッハでゴーだ!

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再会編
再会×再会?


 

「こうやって三人で集まるの、何気に久しぶりじゃね?」

「まーそうだな。俺だけ瀧と司とは別の職場だからな。だけど噂聞いたから、流石に瀧には色々聞いとかないといけないよなぁ?」

「あ、それはモチ――ってことで全部吐けよ、立花瀧くん」

「――るっせー。ってか何でこんなことに……」

 

 ――仕事終わり、本日瀧は同級生であり同僚でもあり親友である藤井司と、これまで同級生であり親友である高木真太と共にお酒を飲みに来ていた。

 本当は三葉との約束がありそちらを優先したかったが、しかしながら最近はずっと三葉ばかりに構っていたため、三葉から「友達は大事にしないとあかんよ! 私は……良いからさ? あ、でも後で電話はしようね!!」と言われたのだ。

 そのため家族サービスならぬ親友サービスをすることになった瀧なのだが、やはり彼らの関心の焦点はやはり瀧の彼女についてのこと。

 司はある程度は瀧から聞いているものの、核心的な部分は未だに知らないのだ。もちろんそれは真太も同じで、これまで彼女を作ってこなかった親友の彼女については色々と知りたい部分はあるのだ。

 場所は以前、瀧が三葉と訪れた居酒屋で、個室タイプの店だ。あのときのデートから既に三ヶ月にも近い日が経っている。時間の流れの早さに瀧は驚きつつも、しかし幸せな日々をすごしていることには間違いないので満足ではある。

 

「それで瀧さ。俺的にはその難攻不落の瀧を落とした彼女さんが気になるわけなんだ。なんか写メとかないのか?」

「写メ? え~っと……」

 

 瀧はスマートフォンを操作し、スクロールして画像を検索していく。

 ……基本的に三葉とのツーショットは多いが、割りと見せるには覚悟がいるイチャイチャしている写真が多いため、当たり障りのないものを探す。

 ――しかしながら三葉はどんな写真でも可愛いな、なんて思いつつ、瀧が幸せそうな顔をしていると……

 

「おうおう、幸せそうな顔しやがって、瀧!」

 

 真太は瀧の肩を軽く叩きながら、満面の笑顔を浮かべる――彼といえば笑顔だ。

 大らかで優しく、時には瀧のことを助けたりもした。体が大きく、体育体系の割には繊細な作業が意外と得意なのが高木真太。現在は調理師免許を取り、大学ではその他にも栄養学を学んでその資格を取って、今は飲食業に携わっていたりする。

 ……ザ、男と瀧は彼のことを思っているが、司と同じく親友だ。少し蔑ろにしていたことを今更ながら少し反省する。

 ――っと、瀧はようやく見せられる写真を見つけた。

 それは瀧が初めて三葉の家に訪れたとき、四葉によって無理やり撮られた瀧と三葉、四葉の三人によるスリーショットだ。

 瀧はそれを表示して二人に見せると……

 

「……おっと、おいおい。お前、二人も侍らせてるのか?」

「やるねー、瀧ぃ! しかも両方とも美人とは恐れ入ったぜ!」

「ち、ちがっ! こっちのロングが俺の彼女の三葉で、ツインテはその妹の四葉だ!!」

 

 ……司と真太がそう言うのも無理はない。

 悪乗りとはいえ、このとき何気に四葉は瀧の腕を抱きしめていて、それに対抗して三葉も反対の腕を抱きしめているのである。

 それを見て、少し顔をニヤッとする二人――弄るネタを手に入れたような顔をしていた。

 

「しっかし、お前もよくこんな美人と付き合えたな。しかも美少女の妹付きで」

「俺もある程度は知ってるけど、こいつらの出会いも中々変なもんなんだよ。何でも、電車ですれ違ってからの付き合いだからな」

「――運命的だな!」

「~~~~~~~~っ!!」

 

 二人から格好の的にされる瀧は、顔を少し真っ赤にして唸るような声を上げる。その反応が二人を更に面白くさせていることには、瀧はおそらく気づかないだろう。

 ……しかしながら、司と真太は心の底から楽しいと感じた。

 長らく瀧とこんな風に会話をしていなかったから。ずっと瀧はそこまで楽しそうに笑っていなかったから。だから、瀧が昔のように――昔以上に自然になったことに安堵した。

 

「ってか妹さんってまだ高校生なのか? その割にはお前に懐きすぎだと思うけど」

「あ? ……あいつはなんか、小悪魔系女子だよ。すぐに悪乗りするし、三葉を弄るためにこうやってくっ付いてきたりするんだよ」

「……あぁ、なるほど。そういうタイプか――瀧よ、お前って相変わらず鈍いよな」

「あぁ!? 俺のどこが鈍いんだよ!! 三葉の考えてることならすぐにわかるぞ!」

「「……はぁ」」

 

 司と真太は嘆息し、手元のジョッキのお酒を一気に飲んだ――学生時代から、特に大学生になってからずっとそうだ。

 実は瀧は大学時代、結構モテていた。彼は気づいていなかったのだが、そんな彼を遠巻きに見ていた二人はそれを知っていたのだが、瀧は他人の好意に非常に鈍感であった。

 特に司は彼と同じサークルに加入していたため、彼を狙う人物を何人か知っていたのだが……瀧があまりにも彼女たちに興味がなかったため、結局誰も彼と付き合うことができなかった。

 それは現在の会社でも同じであるのだが――瀧からすれば三葉がいればいいので、それはそれでいい事であるのだが。

 司は彼女の妹が、瀧に対して淡い感情を少しでも抱いているのではないか、と考える。しかしそれを無関係の自分がいうのも気が引けるため、何も言わなかった。

 ――ふと、個室の扉がコンコンと叩かれる。

 

「ん? 注文は今はないだろ。どうしたんだろ」

「あ~、そろそろか――実は瀧のことをどうしても聞きたいというお方を呼んでいるんだよ」

 

 司は眼鏡をクイッと引き上げて、瀧に対して不敵な笑みを浮かべる。瀧はそれを見て嫌な予感がした。

 扉は開かれる。瀧はそこを注視してみていると――そこにいるのは、少し懐かしい人だった。

 ……お洒落の最先端を取り入れた女性で、見た目も美人でスタイルも良い。瀧の見立てでも外見的な魅力はジャンル別で三葉に匹敵するような人。茶髪の少し巻き髪の女性――奥寺ミキは微笑を浮かべながら、彼を見ていた。

 

「――やっほ。お久しぶりー、瀧くん。それに二人も」

「お久しぶりっす! 奥寺先輩はまたお綺麗になりましたね!」

「すげぇ久しぶりですよね。瀧とは偶に会っていたそうですけど」

 

 真太と司がそれぞれミキに挨拶する中、瀧は嫌な予感が的中したと思わざるを得ないと感じるように、頭を抱える。

 そんな瀧を見てミキは笑いながらも、彼の隣の席に座った。

 

「ずいぶん面白い反応するじゃん、瀧くん。久しぶりに私の顔を見てそれはひどいんじゃないの~?」

「いや、だってほら。司が先輩呼んだ時点で、嫌な予感しかないですから」

「ほ~、言うようになったじゃん。昔はあれだけ奥寺先輩、奥寺先輩~って言ってた癖にぃ」

 

 ミキは瀧の横腹を肘で突き、楽しげに瀧を弄る――ミキを呼んだのは他の誰でもない司だ。彼女もまた瀧の旧知の知り合いであり、また瀧を心配する人物の一人でもある。

 瀧が最後に彼女と会ったのは、昨年の就職活動中の秋の頃だった。そのときに彼女が結婚することを聞いたのだが……それからもう一年に近いほどの年月が経過していた。

 

「言ってませんからね!? ……ほんっと、先輩は結婚してもあんまり変わらないですね」

「人は結婚したところで、大きくは変わらないのだよ――ま、瀧くんは随分変わったみたいだけど。良い男になったじゃん」

「まぁ――良い彼女がいるんで、良い男になるでしょ?」

「…………そっか」

 

 ――いつか、彼女は彼に言った。

 いつか、幸せになりなさいよ。ミキは瀧にそう別れ際に言ったことを思い出す。それはどこか憂いていた瀧に幸せになってほしいから言った言葉だった。

 ……もうそれが必要ないことを、理解する。だって彼はもうこれまでにないほど、幸せであるのだから。

 少なくとも昔の彼はそんなことを自信を持って言うことはなかったのだから、それほど彼を変えてくれた瀧の「彼女さん」に対してミキは心からお礼を言いたかった。

 

「んじゃ、今日はそこんとこ、いっぱい聞かせてもらおっか――彼女についてお話なさい?」

「……司、俺お前のこと恨むからな」

「はは、知らねぇよ」

 

 司はぶっきらぼうに手をヒラヒラとさせて、瀧の苦言をあしらう。

 ――それからのことといえば、三対一で瀧がひたすら弄られるというものだった。

 

○●○●

 

 ――酔い潰れた司と真太を横目に、二人で飲み続けている瀧とミキである。

 ミキもまた瀧と同様にお酒に強く、瀧も久しぶりということで今日はよく飲んでいた。瀧は自分の話を赤裸々に語らせられて赤面したりと散々な目にあったが、今では一周回ってむしろ惚気るレベルになってくる始末である。

 ……それを楽しそうに聞いているミキは、終始笑みを浮かべていた。

 

「三葉ちゃんってすごいね。なんていうか、女子力の塊みたいな子で」

「ホントそうなんですよ。この前なんて服が破れたのをその場で刺繍してくれて――ただその刺繍が無駄に可愛くやるもんだから、もうそれを外では着れないんですよね」

「はは! それ、瀧くんが昔私にしたことと同じじゃない? まあ私はその後もずっとあのスカート、履いてたけど」

 

 ……瀧は突然、そう言われて頭を捻る。なぜなら瀧はそこまで刺繍が上手ではないからだ。

 ――それはまだ瀧が高校生で、ミキが大学生のとき。同じイタリアンのバイトをしていた二人なのだが、とある客の嫌がらせでミキはスカートをカッターナイフで切られた。

 そのときに瀧がミキのスカートを針と糸で刺繍――しかも無駄に可愛い模様で刺繍したのだ。そこから二人は仲良くなっていったのだが……

 

「――そんなこと、ありましたっけ?」

「……あったよ。それからだもん。私が君と仲良くなったのは」

 

 ミキはグラスに入った氷をカランと音を鳴らせ、懐かしむようにそう言った。

 

「……瀧くんが覚えていなくても、私はずっと覚えていたよ。あの時の瀧くん、すっごく可愛かったから♪」

「可愛かったって……。三葉と同じこと言わないでくださいよ」

「……や、だ♪」

 

 ミキはわざとらしくウインクして、そう言った。

 ――ふと、彼女の薬指を見る。そこには今日は結婚指輪は嵌められていなかった。

 

「……指輪、どうしたんですか?」

「あ……。めざといな~、瀧くん」

 

 ミキは瀧の頭を軽く小突いて、少し苦笑してそう言った。

 

「……ちょっと旦那と喧嘩しててさ。それで今日は気分じゃなくて外してるんだ~。良い人なんだけど、偶に煮え切らなくて、それで喧嘩しちゃって――行動力がないんだよね。中々私に手を出してくれないっていうか、大切にしすぎてるっていうか」

「……その気持ち、俺はよくわかりますけど」

 

 ……瀧もまた、三葉を大切にしているからよくわかる。きっとミキの旦那もすごく良い人で、良い人だからこそ大切にしているんだろうと思う。

 それはミキも理解しているからこそ複雑なのだ。

 

「俺も三葉とは、実はまだその……してないんですよ」

「へぇ~……って、付き合って三ヶ月くらいだよね?」

「はい。俺もそんなに馬鹿みたいに盛ってるわけでもないですし、それに三葉とは段階を踏みたいと思っているんで――三葉は俺を変えてくれたんです。だからこそめちゃくちゃ大切にしていますし、彼女の嫌がることはしたくない。……って言っても、結構ぎりぎりなんですけどね」

「……意外とディープなこと言うよね」

 

 ミキは瀧がド直球で性事情を話してくることに苦笑しながら、鞄の中の小さな小袋から指輪を取り出す。

 それをすぅっと薬指に通した。

 

「――ありがと。今度、旦那とゆっくり話してみる」

「……どういたしまして。でも、何のことで喧嘩したんですか?」

「あー――赤ちゃんを作るかどうかだよ」

「――すんません、気軽に聞いてすいませんでした」

 

 瀧は事情を聞かずに軽率なことを聞いたことを謝りながら、まさか向こうも性事情であったことに赤面したのだった。

 ……瀧はふと思う。確かミキは三葉と同い年であるということを。しかも働いている職業が実は似通っているということを。

 ミキもまたアパレル業で働いており、今は千葉で働いていると聞いている。何かの繋がりを感じてしまう瀧だが、しかしそのことは胸にしまった。

 ――このことでミキが興味を持つことを、危惧したためである。彼女の行動力を考えたら、三葉に接触するところまで容易に想像できたのだ。

 

「……まさか瀧くんに慰められるとは。人生って何があるかわからないね」

「それ、褒めてます? 俺には馬鹿にしているとしか……」

「褒めてるよ? 本当に良い男になったってこと!」

 

 ミキは瀧の背中をバンバンと叩いて、高らかに笑う。

 ……ミキはやっと、自分の長く抱いていた片思いとは違う「何か」が終わってくれたと思った。

 瀧と一緒に心置きなくお酒を飲むことで、そう感じていたのだった。その「何か」はミキにもわからない。

 ――だからこそ、これ以上瀧に踏み込むのは危険であると感じた。今の彼にあるのは魅力そのものであるから。嵌ってしまえば傷つくのは自分であるから。

 ……彼女からしてみれば、随分と魔性の男に成長してしまったと思った。

 

「――瀧くん、気をつけなよ? 三葉ちゃん以外からのハニートラップからは」

「あ、はい。それはもう二度と失敗しないです。二度と三葉のオハナシはこりごりなんで」

「……あ~、うん。察した」

 

 ミキは少し「宮水三葉」という女性のことを知り、瀧に同情した――彼が大変であるのはこれからだと確信したのだった。

 ……そして久方の再会の飲み会は無事に済む。

 瀧は二人の親友をタクシーにぶち込み、ミキを見送るために電車の改札に来ていた。

 

「今日はありがとうございました――でも今日は千葉に帰らないんですね?」

「うん。明日は東京でちょっとお仕事があるんだ。なんでも、他の会社と提携して新しいことをするもんだから、私が派遣されてね~……一応系列会社ではあるから、まずは挨拶をね」

「へぇ……俺も近いうちに建築の現場に行くんですよ。それで建築の本職の人たちに話を聞いて、自分のデザインに少し新しいものを取り入れようかと」

 

 瀧とミキは少しばかり会話をして、そうしているとミキが乗る電車が来る。

 ミキは改札を潜り、瀧に手を振った。

 

「――また飲みに行こう。そのときはちゃんと三葉ちゃんに言わないとだめだよ?」

「わかってますよ――また、会いましょう」

「うん。……あ、それと」

 

 ミキは何かを思い出したように、電車に向かう前に振り返った。

 

「――明日、しっかり挨拶しておくから安心してね?」

 

 ――それだけ言って、ミキは電車に急ぎ足で乗り込んだ。

 残された瀧はというと、特に意味がわからず、外で待たせているタクシーに向かうのであった。

 ――親友二人の介抱など、もう手馴れたものであった。

 

●○●○

 

 三葉は少し会社で一人、ニマニマとしていた。

 それは今日、瀧が珍しく自分から三葉を家に泊まりにこないかと言ってきたからだ。三葉はもちろんそれを即答で返信し、今日の仕事終わりはすぐに瀧のところに行くつもりである。

 ――そのためにまず、今日の大きな仕事をこなす必要がある。

 三葉は今、一人で応接間にいた。それは今日の仕事である、千葉にあるアパレル会社の社員との打ち合わせがあるからだ。

 どうやら新しいウェデングドレスのデザインを考えてほしいというものが、そのアパレル会社から依頼としてきたのだ。

 だから今日、そこの社員の女性が来るのだが……

 

「――確か名前は」

 

 三葉は先日、来たメールの名前を確認しようとしたときであった。

 ――コンコン、と応接間の扉が丁寧に叩かれる。そこから聞こえるのは三葉の会社の社員の声で、どうやら先方が来たらしい。

 三葉はさっと立ち上がり、扉に近づくと――扉は開かれ、そこから一人の女性が入ってきた。

 三葉はその女性を見て、ふと……なぜか、懐かしいという感覚に囚われた。

 

「初めまして、宮水三葉さん……よろしいですか?」

「は、はい! えっと、確かあなたは……」

 

 その女性――パンツスーツを着こなした茶髪の軽い巻き髪の女性はお辞儀をして、そして――

 

「――奥寺ミキです。どうぞよろしくお願いします(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 ――その女性、奥寺ミキは微笑を浮かべつつ、親しげにそう言った。





とのことで、予想外に早く更新できました!
――申し訳ありませんが、今回は瀧三要素がぁぁぁぁ!!! なくてすいませんんんん!!!!
今回は新編「再会編」の始まりということで、色々と複線をちりばめました!
あ、でも二人のイチャイチャは散りばめるんで、次回はこうは行きません!

……さて、前回のお話でもすごい数の感想をありがとうございます! 方言について教えてくださった読者様がいて、すごく助かりました!
感想は作者のモチベーションアップの原動力となっております! なのでもっともっとくれるとめちゃくちゃうれしいです!

……再会?とはわかりませんが、次回は三葉×ミキの関わりです。どんな話になるのか、そして次回のイチャイチャをご期待ください!

それではまた次回の更新でお会いしましょう!

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