「ブラックブレット」 赤い瞳と黒の剣   作:花奏

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第六話 千寿夏世

「話は後にして治療してやる」

 

目の前にいる少女、夏世の腕を見ながら蓮太郎は言った。

 

「延珠と杏。ちょっと外で見張りしてくれないか?」

 

「むぅ〜知らぬ女と密会するつもりだなぁ!」

 

「蓮太郎さん、許せませんッ」

 

沙耶は二人をなぐさめながら

 

「二人っきりじゃないよ。私がいるから」

 

延珠はそっぽを向く。

 

「ふんッ妾はそんな女、認めんからなッ」

 

二人は怒りながらトーチカを出て行った。

 

「何であいつらあんなに怒ってるんだ?まさか、もう反抗期が...」

 

沙耶は面白すぎて思わず吹き出してしまった。

 

「何それ。二児のパパみたい」

 

その言葉に夏世も頷いた。

 

「ですね。理由は明白ですが」

 

蓮太郎は黙り込むが、沙耶は歌を歌う様に、

 

「そんなことより、治療♪治療♪」

 

と楽しそうにしている。蓮太郎は溜息をついて

 

「そんなに治療が楽しみなのかよ」

 

と呆れた。

沙耶は蓮太郎から包帯を取り上げ、夏世の傷の治療を始める。

 

「この傷、どうしたの?」

 

話すかどうか、少しためらっていたが、意を決して話すことにした。

 

「私と将監さんは森の中で光りを見つけたんです。仲間の民警ペアだと思い、近づいたんです」

 

夏世がうずくまり、

 

「よく考えれば、あんな事にならなかったのですが...」

 

と呟く。

 

「あんな事?」

 

「光を放っていたのはガストレアでした。花と融合しているガストレアで、匂いを放っていました」

 

沙耶は首をかしげる。

 

「融合...匂い...」

 

今まで黙り込んでいた蓮太郎が口を開いて、

 

「それはホタルのガストレアだ」

 

と言った。

 

「里見さん、凄いですね。見てもいないガストレアの因子を答えるなんて」

 

「ほんと。流石、虫マニア」

 

沙耶は拍手をしながら少しからかうように言った。

蓮太郎は顔を真っ赤にしだが、すぐに深刻そうな顔をした。

 

「さっきの爆発物お前のだろう」

 

「単刀直入だねぇ」

 

「咄嗟に使ってしまいました」

 

「じゃあ、その傷は...」

 

夏世は沙耶の視線の先、自分の右腕を見た。

 

「はい。榴弾で起きたガストレアに噛まれました。それから、将監さんとはぐれてしまいました。

安心して下さい。極微量でしたので、私がガストレア化する事はありませんよ」

 

沙耶と蓮太郎は心配そうな顔をしている。

 

「帰ったら、ちゃんと検査しておけ」

 

「ガストレア化する事はないと思うけど、一応ね」

夏世は少し視線を反らしながら

 

「心配、してくれるんですか」

 

と言った。

 

「してもいいじゃない。

ところで、夏世ちゃんはイルカの因子で、記憶力とかが良いけど、やっぱり後衛なの?」

 

「はい。通常より知能指数と記憶能力が高いだけですから。それに将監さんは頭まで筋肉で出来ている上、バックアップなんてこと、出来ませんから」

 

「将監さんらしいね」

 

「お前の銃を見せてくれ」

 

夏世は自分の銃を見た。

 

「嫌だと言ったら?」

 

「別にかまわねぇぜ。お前が助けられた事に何も感じてないならな」

 

「蓮太郎君、何もしてない癖に。ただガストレア当てただけじゃん」

 

夏世は、

 

「一つ学びました。見返りを求めた時点で、善行は堕落しますね」

 

と言いながら銃を蓮太郎に渡した。

沙耶も左から覗く。

 

「大宇AS12か...」

 

「私、少しだけ延珠さんや杏さんが羨ましいです。

おそらく、人を殺した事がありませんね。目を見れば分かります」

 

「夏世ちゃんはあるの?」

 

「ええ。ここに来る途中も出会った民警ペアを殺しました」

 

沙耶と蓮太郎の眉間に皺が寄る。

 

「どうしてそんなことをした」

「将監さんの命令です。『仮面野郎をぶち殺す手柄は誰にも渡さねえ』と。

怖かったです。手が震えました。でもそれだけです。じきに慣れると思います」

 

「「ふざけないでッ/ふざけんじゃねぇッ」」

 

二人は同時に怒り、蓮太郎は気付けば夏世を押し倒していた。

 

「殺人の怖い所は慣れることだッ

人を殺し、自分が罰せられないと知った時、人は罪の意識を忘れていくッ」

 

沙耶も付け足す。

 

「殺人だけでなく、人を傷つける事だって」

 

「それはあなた達が人を殺したり、傷つけたりしたことがあるから言えるんですか?里見さんも神代さんも不思議な瞳をしていますね。

二人共優しいのに、里見さんは怖い顔.....神代さんは辛い事を経験したような瞳.....

きっと複雑な過去をお持ちなのでしょう」

 

蓮太郎と沙耶はハッとする。

 

「俺、何えらそうなこと言ってんだろうな…」

 

「ごめんね。今の忘れて」

 

そう言って二人はトーチカを出ようとした。が、二人の裾が引っ張られた。

振り向くとそれは目に涙を浮かべた夏世だった。

 

「どうして謝るんですか?里見さんと神代さんの言っている事は正しいのに。貴方達は正しい。

私、今...変です....

里見さんと神代さんに対する反論なら即座に何十個も思いつくのに、里見さんと神代さんの言ってくれたこと、否定したくない」

 

夏世は涙を一筋、流しながら

 

「こんな気持ち.....初めてです......」

 

と言い、すぐに涙を拭った。

 

『......おいッ生きているんだったら返事しろッ』

 

沈黙を破ったのは夏世の無線機からの将監の声。夏世は急いで無線機の方へ行き、沙耶達の方を向くと右手の人差し指を口に当てた。将監に沙耶達と一緒にいる事がばれない為だ。

 

「ご無事で何よりです。将監さん」

 

『夏世、ビッグニュースだ。仮面野郎を見つけたぜ。夏世、お前も合流しろ』

 

夏世が返事をする前に切られてしまった。

 

「蛭子影胤....」

 

急に藍原姉妹が入ってきた。無線機の声が聞こえたのだろう。

 

「蓮太郎ッ」

 

「とうとう、始まったの?」

 

「うん。行こう」

 

 

 

「里見さん達も行くんですか?」

 

影胤がいるらしい教会へ行く途中、夏世が蓮太郎に聞いた。

 

「ああ。戦いの全貌だけでも見届けるよ」

 

沙耶の右側にいる杏が心配そうに沙耶の方を見た。

 

「沙耶。私達も戦うのかな」

 

「うーん。多分ね」

 

「沙耶、縁起の悪い事を言うのでない」

 

「そうじゃなくてね.....あ」

 

夏世と話していた蓮太郎は突然止まった沙耶の方を見た。

 

「どうした?」

 

「忘れてた....」

 

と言うと沙耶は後ろを見る。

背後から、青年と少女がやってきた。

 

「沙耶。忘れないで」

 

「沙耶さん。酷いです」

 

そこには蓮太郎の命の恩人である、プロモーターの蒼太とそのイニシエーター、茉里亜だった。

 

「お前ら....誰だ?」

 

「蓮太郎君ひっど。命の恩人に向かって」

 

蓮太郎は首を傾げる。

 

「命の恩人?」

 

「そ。影胤と交戦して、負けて、崖から落ちたどっかの誰かさんを見つけて病院に運んでくれた人」

 

「僕は滝沢蒼太。プロモーターだ。ちなみに沙耶と同じで脳内に機械が入ってる。君の一歳上で桜花学園高等部三年だ。よろしくね、蓮太郎」

 

「私は流星茉里亜です。モデル・カンガルーです。序列は1789位です。里見蓮太郎は初対面の人に対して敬語を使わないので、"むれいしゃ"ですッ」

 

「茉里亜さん。"むれいしゃ"では無く、無礼者(ぶれいもの)です」

 

茉里亜の顔が一気に赤く染まる。

 

「え?」

 

「ごめんね。茉里亜は父親がアメリカ人で、母親が日本人のハーフなんだ」

 

蓮太郎は蒼太が背中に背負っているものを見る。

 

「蒼太。お前は...」

 

「僕は抜刀術で戦うんだ。神代式抜刀術でね。まぁ、短刀術も使うけど」

 

「蒼太君は神代式抜刀術の免許皆伝で、短刀術は初段だっけ」

 

「蓮太郎、お喋りし過ぎだぞ。

気を取り直して早く行くのだ!」

 

 

 

森を抜けると目の前には、街が見える。十年前の関東会戦で廃墟と化した街だが。

 

「あそこに影胤が....」

 

「里見さん。私はここに残ります」

 

「夏世は将監が心配なんじゃねえのか?」

 

「蓮太郎。後ろを見て、分からない?」

 

「ガストレアが私達を狙っているです」

 

「勝っても負けても、絶滅しますよ」

 

沙耶は蓮太郎にアイコンタクトをする。

 

「頼んだぞ」

 

「将監さんをお願いします」

 

 

 

蓮太郎達がついた街には人間は一人もいなかった。見渡しても、薄暗さでよく分からない。

 

「なんだ?もう、終わったのか?」

「うわぁッ?」

 

延珠が何かを蹴ったらしく、驚いていた。延珠が蹴ったものを見ようと屈む。

 

「ヒッ」

 

延珠が蹴ったもの、それは拳銃を握ったままの人の腕。綺麗な切り方だ。

 

ガタッ

 

と音がし、四人は音の主を探す。

 

「俺の...俺の剣は...」

 

将監だった。目が見えてないらしく、おぼつかない足取りでこちらへ来る。

 

「伊熊...将監?」

 

どうやら自分の大剣を探しているようだ。

 

「あれがあれば........あれがあれば.....まだ戦え....」

 

ドサッ

 

将監が倒れた。背中には彼の探し物、大剣が刺さっていた。

 

『将監さんはパートナーですから』

 

ふと蓮太郎の脳裏に夏世の言葉が浮かぶ。たしか、お前も行くのか、と聞いた蓮太郎に夏世が答えた言葉だったか。

 

「パパぁ〜びっくり〜ほんとに生きてたよ〜」

 

怪しげな声。だが、まるで獲物を見つけた様な高ぶった声にも聞こえる。

四人は一斉に声の方へ顔を向ける。

 

「影胤.....小比奈ちゃん......」

 

そこには影胤とそのイニシエーターにして娘の小比奈がいた。

 

「幕が近い。決着を付けよう。里見君、神代さん」

 

 

 




お久しぶりです。クルミです!約一ヶ月ぶりの更新です。
色々訂正等があります。
・第五話後書きにて
沙耶についての話を、と書いていましたが、第五章「逃亡犯里見蓮太郎」と第六章「煉獄の彷徨者」で書くなら、書かなくて良いんじゃないかとなり、書くのをやめました。
・蒼太について
初めは短刀術でしたが、表現したりするのが大変だなと思い、抜刀術に変えました。後、歳は17歳です。
・第六話の茉里亜の言葉について
「ガストレアが私達を狙っているです」は間違えていません。
それでは今後とも「赤い瞳と黒の剣」を宜しくお願い致します。是非是非、感想お願いします。次は早く更新します。(早く「逃亡犯里見蓮太郎」を書きたい...)

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