外周区を出た後、沙耶は蓮太郎と合流し、勾田大学附属勾田病院の地下にある死体安置所へ向かった。
「いらっしゃい。私のアビ....
どうしたんだい?沙耶ちゃんは兎も角、もとから不幸顔の蓮太郎君はもっと不幸な顔になっているぞ」
沙耶はため息を吐く
「
室戸先生、と呼ばれた彼女は、四賢人の一人、
「何があったんだい?話してみろ」
沙耶と蓮太郎は今日の出来事を話した。しかし、彼女はうんともすんとも言わない。
「せ、先生?」
「すまん。今晩の夕食を考えていたよ」
「え⁉︎室戸先生も献立考えるの?」
蓮太郎はそんな二人に呆れてしまう。
この二人、凄く頭が良いのに、何でいつもこうなんだ?
「沙耶。驚くところが違うだろ。先生は、話聞いてないのかよ!」
「延珠ちゃんと杏ちゃんが呪われた子供達だとばれ、彼女らとは会えず、しかも音信不通。君達の悩みは余りにも普通すぎてつまらんのだよ」
「聞いてたのかよ」
「そもそも、何故、人類はガストレアを選別しなければならない?」
「人類の敵だからだ」
「ガストレアは地球を救う神の使いだと神聖視している宗教団体もある。人類こそが資源を食い尽くして地球を駄目にする要因だ、とね」
「ガストレアが神の使いなら、呪われた子供達は何だっていうんだ!」
沙耶が口を開く。
「ガストレアと人類を繋ぐメッセンジャー。神の代理人?」
「そうだ」
蓮太郎は机を叩き、立ち上がる。
「延珠達は人間だッ!決してそれ以上でもそれ以下でもねぇッ」
沙耶はハッとする。菫は口角を少しだけあげる。
「分かっているじゃないか」
「ッ!」
「君達は自分が何処の誰かを知っているからまだ良い。しかし、彼女らはそれすらも知らない。彼女らを支え、導いていくのは誰だ?君達は、家族じゃないのか?」
「先生、ありがとう」
「室戸先生、また来ますね」
沙耶と蓮太郎は家へと急ぐ。
「あーそうそう」
菫が話しかけて来たが、蓮太郎がドアを閉めた為、沙耶は聞く事が出来なかった。
「杏。延珠ちゃん。戻って来て...」
翌日の朝。二人は学校に休むと連絡し、里見家で片付けをしていた。昨日、杏と延珠を探している時に部屋を散らかしていたのだ。沙耶はふと、昨日ランドセルが置いてあった所に物がない事に気がついたが、蓮太郎が片付けたのだと思い、なかった事にした。その時、蓮太郎のスマホに電話がかかってきた。
『里見さんですか?実は今朝、藍原さん達が登校していまして....』
蓮太郎の顔色が変わった。焦りが見える。
「す、すぐ行きます!」
沙耶は蓮太郎の様子が変になった為心配になった。恐る恐る話の内容を聞く。
「蓮太郎君?まさか....」
「延珠と杏が学校に登校しているらしい」
沙耶と蓮太郎は急いで家を出た。
学校に着いてまず見えた光景は酷いものだった。昇降口付近で数人が二人を囲むようにして言い争っている。(しかし二人とは2、3メートルほど離れていて、警戒している事が分かる)近づくと二人は杏と延珠だった。
「学校に来んなッ」
「お前らガストレアのせいで...俺ん家は...」
「違うッ!妾達はガストレアではない!」
「私達は人間ッ」
ふと杏と延珠の視界に友達の姿が見える。しかし、その少女は恐れてか逃げて何処かへ行ってしまう。ついこの間までは仲良くしていたと思い出すと胸が締め付けられる。
「妾達は.....妾達は....」
延珠の肩に蓮太郎が手をかける。沙耶は杏を思いっきり抱きしめる。杏は泣き出してしまった。
「蓮太郎....」
「沙耶ぁ」
周囲の子供達(沙耶の予測からするとクラスメイト)は延珠と杏の知り合いだと悟ると一二歩下がる。
「延珠、杏。学校、移ろう」
「妾は....負けたく...ない」
「友達も...沢山できた...のに」
蓮太郎と沙耶はかぶりを振る。
「もう、友達じゃない」
「友達なら、こんな酷い事は、しないはずだよ」
延珠は俯き、杏は沙耶の体にうずくまる。
「妾達は...それでも戦わないといけないのか?」
蓮太郎が何か言いかけた時、校庭にドクターヘリが大きな音を立て、着地し、沙耶のスマホがなった。木更からだ。
『感染源のガストレアを見つけたわ。今から私の指示に従ってちょうだい。沙耶ちゃんは司令室に来て、司令をして。里見君、延珠ちゃん、杏ちゃんはドクターヘリに乗って』
「木更ちゃんッ今は杏の精神が不安よ。お願い。私も戦いに行かせて」
『それは分かってるわ。でも貴女にしか出来ないの。お願い…』
「......... 分かった」
沙耶はすぐに司令室へ、蓮太郎達はドクターヘリに乗り込んだ。
ドクターヘリに乗り、数分が経過した頃、操縦士が声をあげる。
「あ、あれは何でしょうか?」
「あれはッ⁉︎」
そこには巣をパラシュート状に編んで空を飛ぶ、モデル・スパイダーのガストレアだ。その時、機体が揺れる。
「何事だッ!」
「貴方のイニシエーターらしき子が後ろのドアを開けましたッ」
蓮太郎は後ろへ顔を向けるが、そこには延珠の姿はなく、慌てる杏だけだった。
「蓮太郎さんッお姉ちゃんが」
「お前だけでも降りろッ」
「蓮太郎さんも来てくださいッ私の背中に乗った方が安全です」
蓮太郎は一瞬迷ったが、頼む事にした。
蓮太郎は杏におぶられる。
「しっかり掴まってください」
杏の瞳が赤く染まる。杏はドクターヘリから飛び降り、着地地点を定める。蓮太郎にはすさまじいGがかかるが、杏が安全だと思って行っている事だ。文句を言わずにしっかり掴まる。着地した瞬間、蓮太郎は放り出される。
「蓮太郎さんッ大丈夫ですか?」
杏が顔を覗き込む。
「あぁ。延珠は...」
沙耶が着いた場所は人よりも機械の数の方が多かった。
木更が自分を呼んでいる。彼女のいる方へ行き、椅子に座ると、目の前には蓮太郎達の様子が映っているモニターがあった。
「木更ちゃん。今の状況は?」
「延珠ちゃんが独断でガストレアと戦っているわ。それじゃあ、沙耶ちゃんお願い」
蓮太郎と無線を繋ぐ。
「蓮太郎君?」
『沙耶か。やばい状態だ』
「うん。蓮太郎君、このまま様子を見て。危なくなったら蓮太郎君達も動いて」
『あぁ』
今は延珠にやらせた方が良い。これが沙耶の考えた結果だ。モニターの様子を伺うと延珠が無事、ガストレアを倒した事がわかった。蓮太郎はすぐさま延珠の方へと行く。
無線が繋がっているのは蓮太郎だけで彼以外の声はあまり聞こえないが、かすかに話し声が聞こえた。
『蓮太郎…』
蓮太郎がそばに行く。後から杏が走ってくる。
「蓮太郎...妾が倒したぞ。どうだ。妾は戦っただろ?」
「あぁ」
延珠は蓮太郎の方を振り向き、涙を流す。
「学校のみんな...守ったぞ」
延珠は蓮太郎に抱きつく。
「蓮太郎ぉぉ」
「俺がいる。確かに今は戦うしかないかもしれねぇ。どこに行けばいいか不安に思う、気持ちも分かる」
蓮太郎は延珠の肩を掴む。
「だがな延珠ッ!お前には俺がいるッ!お前を大切に思う気持ちは誰にも負けねぇッ!
もしも世界がお前を受け入れなくても、俺はいつでもお前のそばにいるッ!」
杏は延珠に抱きつく。
「お姉ちゃん。私がいるから」
「うん。ありがとうッ蓮太郎、杏」
蓮太郎はケースの方へ向かう。
「何が入っているんだろうな」
蓮太郎がケースをとった瞬間、手が飛び出して来た。
「ご苦労だったね。里見君」
影胤だった。蓮太郎は思いっきり飛ばされる。
「蓮太郎ッ」
「蓮太郎さんッ」
延珠と杏の頰の近くに次は真っ黒の剣が飛び出して来た。
瞳を赤く染めて、彼女らは目線を後ろの方へ向ける。
「延珠と杏、みぃつけた」
小比奈が二人を切ろうとするが、ギリギリのところで避ける。杏はベレッタ92 を取り出す。
『蓮太郎君ッ逃げてッ』
無線から沙耶の声がするが、蓮太郎は無視をする。
「天童式戦闘術一の型八番ッ
渾身のストレートを繰り出す。 しかし、影胤のイマジナリー・ギミックで攻撃ができず、解いた瞬間、蓮太郎の右肩に二丁拳銃で発砲。蓮太郎はそのまま岩に当たる。
『蓮太郎君、逃げてッ』
無線の声が聞こえるが、動けない。
「一つ君に私の技を見せよう。
マキシマムペイン」
影胤が指を鳴らすと、青白いフィールドを扇状に放出。蓮太郎は壁に打ち付けられる。
「ゔわッ」
蓮太郎の背後の岩にヒビが入っていき、崩れる。蓮太郎は前かがみに倒れる。衝撃によって、司令室のモニターの映像が途切れる。
『蓮太郎君ッ』
「ふぅん。まだ生きているか....」
蓮太郎は右へ視線を向けると、杏と達が戦っている途中だった。
「延珠、杏。逃げろぉ」
延珠は蓮太郎の方を向く。まだ小比奈が斬りつけようとするが、気配で避ける。杏は蓮太郎の方を気にしながら、発砲。
「嫌だッ」
しかし、蓮太郎が彼女らの方へ発砲。彼女らは逃げる。
延珠と杏が振り向き、
「蓮太郎さんッ」
「待ってろ、蓮太郎ッ」
二人は駆け出す。小比奈が振り向く。
「パパッ延珠と杏、逃げた。斬りたいッ」
「ダメだよ、我が娘よ。他の民警と合流されたら困る」
蓮太郎は銃を向ける。
「仕事を済ませよう」
その瞬間、蓮太郎の腹に二本、剣が刺さっていた。
背後から小比奈の声がする。
「弱いくせに。弱いくせにッ」
剣を回しながら叫ぶ。蓮太郎は思いっきり小比奈を飛ばす。
蓮太郎はゆっくり後ろへとさがる。後ろは崖になっていて、もうさがれない。
影胤が銃を向ける。
「何か言い残すことはないかい?死にゆく友よ」
「地獄に....落ちろ」
「
影胤は蓮太郎の肩と腹に二発、発砲。
蓮太郎は崖から落ちる。
最後に見えたのは、微笑んだ影胤と小比奈の姿だった。
『蓮太郎君....生きて...』
沙耶の声が聞こえたような気がした。
司令室にいる沙耶と木更は焦っていた。
「蓮太郎君ッ」
「そんな...里見君....」
沙耶は思考を回転させる。
考えがまとまった所で、木更の方を向く。
「木更ちゃん。私の知り合いの民警に連絡いれる」
「でも、そう簡単に上手くいく訳ないでしょ。それにすぐじゃないと里見君は...」
沙耶はあるモニターを指差す。
「木更ちゃん。此処が蓮太郎君が流されるであろう場所。そして知り合いの民警は....此処よ」
木更は息を呑む。
「約二百メートル。近いわ。
でも、すぐに里見君の元へたどり着けるかは分からないわッ」
「大丈夫。彼は私と同じ、脳内に機械が埋め込まれているから」
沙耶は電話をかける。
「もしもし?
『里見...蓮太郎?
オッケー。情報と位置は掴めた』
「後何分で着く?」
『二分かかるかかからないか』
「蒼太君。お願いね。勾田大学附属大学病院で待ってる」
沙耶は電話を切る。沙耶は司令室を出て、勾田大学附属大学病院へ急ぐ。木更は沙耶の後ろについて行く。
「蒼太...?誰なの?」
沙耶は脳内の情報をスマホに転送し、木更に見せる。
プロモーターは沙耶と同じぐらいの年齢の少年。髪型は茶色で全体的髪を横に流している。服装は学校の制服で、シャツにベージュのブレザー、ネクタイは赤色。
イニシエーターは杏達と同じぐらいの年齢。髪型はシルバーで毛先をワンカールさせたセミロング。服装はグレーのTシャツに青色(袖はグレー)のスタジャン風パーカー。ズボンはギンガムチェックのフリルパンツ。頭にはカンガルーらしき耳がある。ガストレアウイルスの影響で頭にカンガルーの耳が生えている。(蒼太の写真は上半身だけ)
「プロモーター、
イニシエーター、
このペアの序列は、1789位」
木更はまたもや息を呑む。
「千番代.....」
その時、沙耶のスマホがなった。
「蒼太君?」
『里見蓮太郎君を見つけたよ。結構やばい状態。意識はないし、心肺停止。今から病院に連れて行く』
「ありがとう。また病院で」
スマホをきった後、杏にメールを送る。
「里見君は....」
「心肺停止。意識なし。結構やばい」
沙耶は無意識のうちに手を組み、呟いていた。
「蓮太郎君.....生きて.....お願い.....」
お久しぶりです!前回の投稿が9月22日なので、約一ヶ月ぶりです。今月はテスト期間で更新できず。ふと、
「書かなければ!」と思い、文化祭が来週末にあるにも関わらず、そしてやらなければならないことをそっちのけで更新しました(笑)
四話は新キャラの登場です。のちに蒼太君が重要(?)な役割を果たすことになります。また、補足ですが、蒼太君はハニーワークス(知ってますか?)の「もちた」こと、望月蒼太君をベースに考え(?)ました。蓮太郎とは声優繋がりです。知っている方は顔等はもちたを思い浮かべてくださって結構です。
それでは今後とも、宜しくお願い致します。誤字・脱字やおかしい所、内容が飛んでいて理解不能な場所は教えて下さい。又、こうすればもっと良いということがありましたら、是非お伝え下さい。今後の参考にします。
予告
影胤との最終決戦に突入!新たなキャラクター(原作を読んだ事がある人はご存知のあの子です)も登場します。