「ブラックブレット」 赤い瞳と黒の剣   作:花奏

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第三話 仮面の男

午後三時。里見蓮太郎は天童民間警備会社のドアを開ける。事務所内には先日、自分自身の秘密を全て彼に明かした神代沙耶が掃除をしていた。ドアが開く音に気付いたのか彼の方を振り返る。

 



「おかえり〜遅かったね」

 



「しょうがないだろ。学校遠いんだから」



 

「私の方が学校近いけど、50分も待たせないよね。普通」



 

「お前も何か言えばすぐにあーだこーだ言うな」



 

「元はと言えば蓮太郎君が遅いのが悪いんでしょ!」

 



蓮太郎は沙耶から視線をそらす。

 



「そもそも沙耶は今日、学校に行ったのか」

 



「話そらさないでよ!っていうか学校行ってるし!」



 

沙耶はふと左腕につけた腕時計を見る。



 

「やっば!時間!杏達待たせちゃう」



 

沙耶と蓮太郎は事務所を飛び出し、杏と延珠の通う勾田小学校(まがたしょうがっこう)へと急いだ。







 

 

 

 

 

「これなんなんだよ」



 

勾田小から家への帰り道、蓮太郎はピンクのブレスレットをつけている。いや、正確にはつけさせられている。



 

「妾達の間で流行中の天誅ガールズのブレスレットだ!仲間を欺いたり嘘をついたりするとヒビが入って割れるのだ!」



 

「はい、沙耶にもあげる」



 

杏の幼くて小さな手のひらには天誅ガールズのブレスレットがあった。顔を赤らめ視線をそらしているが、内気な性格な為、これでも頑張っているんだと沙耶は知っている。

 



「うわぁ、ありがとう!これ、一生大切にするね!」



 

沙耶が喜ぶなり、杏の顔がパッと明るくなった。



 

「うん!」

 



「誰かー!そいつを捕まえろ!」

 





二人の成人男性に追われている一人の少女がこちらへ走ってくる。呪われた子供だ。延珠は戸惑いを隠せない様子で、杏は自分と同じ呪われた子供という事で手足が震えていた。そして少女は捕まってしまい、沙耶達の目の前で助けを求めている。沙耶は恐る恐るどこかの店の店員とみられる男性に声を掛けた。

 





「どうしてここにこの子が?」

 





「盗みを犯した上に、声を掛けた警備員を半殺しにしたんだ!東京エリアのゴミめ!」

 





延珠は差し出された手を掴もうとしたが、蓮太郎がそれを遮った。





 

なんで。蓮太郎君は呪われた子供達は人間だって言ってたのに。どうして......





 

すると警察が追いかけてきた。蓮太郎が保護を頼むが無視され、そのまま少女をパトカーの中へと押し入れた。
杏は私の服の裾にすがった。

 





「あの子、見たことある。沙耶、どうして助けてあげないの?なんで...」

 





「ッ...」

 





涙を流し訴える杏に沙耶は何も言えなかった。そして、沙耶と蓮太郎は延珠の瞳が赤く染まっているのに気がついた。





 

「蓮太郎、どうして助けてやらなかった。妾に助けを求めていたのに...なんで!」

 





「延珠!それだとお前まで!」





 

「蓮太郎は正義の味方だ!蓮太郎にできないことなんてない!」

 





蓮太郎は沙耶に荷物と延珠を預けこう告げた。

 





「悪い沙耶、延珠の事、頼む」





 

沙耶は蓮太郎の意図に気がついた。

 





「わかった。頑張って」

 





彼はそのままパトカーを追いかけた。残された3人は彼の姿が見えなくなるまでずっと見ていた。見えなくなり、沙耶は2人の手をつなぎ帰路を歩こうとした。その時、

 





「神代沙耶さんですね。
国際イニシエーター監督機構(IISO)の田中です。神代さんに話があります」

 



「私に話って何ですか?」



 

「そこの赤目に聞かれたらまずい話でしょう?だったら、黙って付いて来てください」



 

違う。貴女の言っている事は間違っている。杏達は人間だ。



 

「杏、延珠ちゃん。絶対帰るから、先に帰ってて」



 

そのまま沙耶は田中についていった。

延珠は相棒を心配そうに見つめる杏の背中をさすり、静かに手を握った。



 

「沙耶も蓮太郎も絶対戻ってくる。妾達に出来るのは、家で2人の帰りを待つことだろう?」







 

 

 

 

 

車に揺られながら沙耶は田中に用件を聞く。

 



「話とは何でしょうか?」



 

「聖天子様からのお呼び出しです。聖居に着きました。ここからは自分で行ってください。では」

 



そのまま田中は車を走らせ、どこかへ行った。

 



「聖天子様、か....」

 



適当に歩いていると、聖天子に出会った。

 



「これは神代沙耶さん。お待ちしておりました」



 

「それで、話って何ですか」



 

「ではこちらへ」

 



沙耶は応接間のような部屋へ連れて行かれ、聖天子が座った目の前のソファーに座った。

 



「神代さん、貴女、私にガストレアウイルスを宿していることを黙っていましたね。なぜですか」

 



「それは、お話ししたらプロモーターになれないと思ったからです」



 

「なぜ貴女はそこまでプロモーターにこだわるのですか?別にイニシエーターでも良いのでは」

 



「プロモーターの中にはイニシエーターの事を道具だとお考えの方が沢山いらっしゃいます。でも彼女達は貴女もおっしゃっている通り人間です。そして私も同じような存在です。でも私は侵食率が上がらず、彼女達よりも人間として生きれています。それなら、イニシエーターではなく、彼女達の事を理解出来るプロモーターになろう、と思ったのです」



 

「その考え、よくわかります。しかし、黙っていたという行為は決して許されるものではありません」

 



「ならばこういうのはどうでしょう。私もイニシエーターになれば、プロモーターとしての権利があるというのは」



 

「わかりました。しかし、そう簡単に見つかりませんよ」



 

「大丈夫です。もう、私の中では決めています」



 

「それはどなたですか?」

 



「それは、」



 

 

聖天子様との話が終わり、スマートフォンを見ると杏から

 

『蓮太郎さんの帰りが遅いため、お姉ちゃんと探しに行くことにしました。沙耶も話が終わったら、探すのを手伝ってくれませんか?』

 

という内容のメールが来ていた。スマートフォンをポケットにしまうと、人目のつかない所に行き、力を解放。民家の屋根に飛び乗り、蓮太郎を探した。

 

 

 

 

 

蓮太郎は少女を乗せたパトカーを追いかけだが、辿り着いたのは廃墟ビルだった。そこで警官は少女を銃殺した。しかし蓮太郎は、少女が生きている事に気がつき病院へ連れて行った。その帰り道、蛭子影胤に出会ってしまった。そのおまけに銃を下ろさなかった事で、小比奈が蓮太郎に向かって飛び出してきた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

上空からは延珠が小比奈に向かって飛んでき、地上からは杏が両手に銃を構え、しっかりと小比奈を捉えている。沙耶は蓮太郎の腕を掴み、安全な場所へ向かった。普段あまり耳にすることのない金属音がなったかと思えば、延珠と小比奈は地上へ降り立った。音の正体は、延珠の足と小比奈の剣の接触音と、杏の放った銃弾が弾かれた音だ。すると小比奈は延珠と杏を指差し、

 

「そこの小っちゃいの、名前は」

 

「むぅ〜お主も小っちゃいだろう!

妾は、モデル・ラビットの藍原延珠だっ!」

 

「同じくモデル・ラビット、藍原杏」

 

「延珠と杏、覚えた。モデル・マンティス、蛭子小比奈。接近戦では私は無敵」

 

3人の自己紹介が終わると、影胤が、

 

「里見君に神代さん、私の仲間にならないか?」

 

蓮太郎と沙耶は顔をしかめる。

 

「はぁ?」

 

「君達は、東京エリアのあり方は間違っている、そう思った事は一度もないかね?」

 

確かに思う。同じ人間なのに、杏や延珠ちゃんのようなガストレアを体内に宿した少女達が差別されるのは間違っている。

 

影胤はケースを地面に置き、大金を見せつけた。

 

「これは私からのほんの気持ちだ。

君達はその双子を普通の子のふりをさせて学校へ通わせているようだね。なぜそんな事をする。彼女達はホモサピエンスを超えた次世代の人類だ。大絶滅のあと生き残るのは我々、力のあるものだけだ。私につけ、里見君、神代さん」

 

蓮太郎はその大金に銃を放つ。

 

「貴様を初めて出会った時に殺しておけば良かったぜ」

 

影胤は笑いながら沙耶達の方を向いた。

 

「明日学校に行ってみると良い。現実を見るんだ」

 

その言葉の意味をまだ沙耶達は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「どういう事だよ⁉︎」

 

蓮太郎と沙耶は勾田小に来ている。延珠と杏が呪われた子供だという噂が広まったらしい。

 

「何で事前に伝えてくれなかったのですか」

 

彼女達の担任が焦った様子で話す。

 

「事前に伝えていれば入学を拒否したんじゃないんですか?」

 

「と、とにかく、藍原さん達はショックを受けているようなので帰らせました」

 

蓮太郎と沙耶は勾田小を後にし、家へと急いだ。

 

「延珠!杏!」

 

「杏!延珠ちゃん!」

 

2人は家の中を隅々まで探すがどこにもいない。すると蓮太郎はそっと呟く。

 

「お前らの家はここだろうが....」

 

 

 

 

沙耶は蓮太郎と別れ、東京エリアを探し回った。しかしどこにもいない。沙耶は最後の手段として外周区にあるマンホールチルドレンに会う事にした。マンホールをノックすると中から少女が出てきた。沙耶は杏と延珠の写真を見せ、

 

「この子、見てない?」

 

「う〜ん。わかんない。長に会って聞いてみたら?」

 

「長?まぁ、会ってみよっか」

 

中に入り広い所に行くと沢山の呪われた子供達がいた。沙耶は写真を見せると

 

「いや、この子達は見てないですね」

 

「そうですか.....」

 

「これから貴女はどこへ?」

 

「外周区を探し回ってみます」

 

沙耶はそう言いながら歩き出した。

 

「見た所イニシエーターに逃げられたプロモーターの様に見えますが、IISOに申請して他のイニシエーターと 組んでみては?ペアの相性が悪い事はよくある事です」

 

「私と杏が出会ったのは一年前。杏は今まで里親に酷い事をされ、恐怖で震えていました。私は杏とゆっくりゆっくり信頼を深めていったんです。私達の事も知らずに、簡単にペアの解約なんて事、言わないで下さい!」

 

沙耶は怒りで叫んでしまい、辺りが静かになる。

 

「ごめんなさい。それでは」

 

沙耶はその場を後にした。

 

「良いんですか?後を追わなくて」

 

長の視線の先には涙を浮かべる杏とギュッと手を握る延珠の姿があった。

 

マンホールを後にした沙耶は、雨が降る中、杏達が見つからないショックと彼女達を差別するこの世界への怒りで傘をさす気力がなく、ただとぼとぼと歩く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は七星の遺産巡りその1です。沙耶と聖天子の話はどうなったのかっていう感じですね。
この話はブラック・ブレットを知っている前提で書いていますので、初めての方は想像が出来ないと思います。すみません。
前回の更新から結構時間が経ってしまいました。これでも頑張っているのですが、まだ学生なので行事等で大忙しです。これからもご愛読、よろしくお願いします。
もうそろそろ、登場人物紹介を投稿しようと思います。ちなみに、杏はウサギ因子を生かした攻撃に加えて二丁拳銃も使います。火垂とややかぶり気味ですが、これでいきます。
それではまた次回。

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