「ブラックブレット」 赤い瞳と黒の剣   作:花奏

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第ニ話 神代沙耶

沙耶が天童民間警備会社で働き始めて数日が経った頃、民警は防衛省から集合がかかった。

 

「最近はガキまで民警ごっこかよ」

 

大剣を背負った男、伊熊将監(いくましょうげん)が沙耶達の前に立ちはだかった。

 

「用があるならまず名乗れよ」

 

蓮太郎が将監に言うと頭突きをくらった。

 

「里見君!」

 

木更が駆け寄る。

 

「お前、プロモーターなら道具はどうした。イニシエーターだよ」

 

沙耶は将監と蓮太郎の間に割り込み、

 

「私達はイニシエーターの事を道具なんて思っていません。道具だと思われている方とはお話しする事がありませんのでお下がりください」

 

将監が大剣に手をかけた時だった。

 

「やめたまえ将監!いい加減にしろ!」

 

三ヶ島ロイヤルガーターの社長に怒られ、将監は黙ってイニシエーターの元へ行った。

 

「あいつは...」

 

蓮太郎が木更に聞く。

 

「三ヶ島ロイヤルガーター所属の伊熊将監。IP序列は1534位よ」

 

すると会議室へ防衛省の大臣が入ってきた。

 

「依頼を受ける前に、辞退者は退室してくれ。........よろしい。では依頼はこの方にしてもらう」

 

モニターの電源が入られそこに映っていたのは、東京エリアのトップの聖天子。そして、聖天子補佐官であり、関東会戦で両親を亡くした蓮太郎を引き取った木更の祖父の天童菊之丞(てんどうきくのじょう)だった。木更と沙耶はモニターの中の菊之丞を睨んだ。

 

『では私の方から依頼を説明します。まず、昨日東京エリアに侵入した感染源ガストレアの探索及び排除。そしてそのガストレアの中にあると思われる()()()ケースを無傷で回収してください』

 

聖天子からの説明が終わった時、木更が手を挙げた。

 

「そのケースの中身を教えて頂けませんか」

 

『貴女は...』

 

「天童民間警備会社の天童木更です」

 

『天童社長、ケースの中身はプライバシーの侵害ですのでお教え出来ません』

 

木更は思いっきり机を叩く。

 

「納得いきません!ガストレアの...」

 

沙耶は木更の腕を引っ張り、首を横に振る。そして蓮太郎の方を向き、

 

「嫌な気がする。気を引き締めて」

 

と言った。蓮太郎は辺りを見渡す。その時机の真ん中にタキシードを着た、シルクハット、笑顔の仮面の蛭子影胤が堂々と立っていた。

 

「これはこれは、無能な国家元首様。私は、蛭子影胤です」

 

「お前....何処から入ってきた!」

 

蓮太郎は影胤に銃を向ける。

 

「おやおや、これは里見君。またお会いしましたね。元気そうでなによりだ。そして堂々と正面から入ってきたよ。そうだね、君達に紹介しよう。おいで」

 

「はい、パパ。

蛭子小比奈、10歳」

 

「私のイニシエーターにして娘だ」

 

「パパ、あいつ銃、向けてる。切っていい?」

 

「ダメ」

 

「パパのいじわる」

 

「貴方は....蛭子影胤?」

 

沙耶が影胤に聞く。

 

「おや、なぜ私の名前を?まあいい。君、面白いね。名前は?」

 

「神代沙耶。率直に聞く。貴方の目的は?」

 

「神代....神代さんね。そして私の目的はね、『七星の遺産』をめぐるレースに参加する事だね。七星の遺産、そう。悪しき者が使えばモノリスを破壊し、大絶滅を引き起こす政府の封印指定物」

 

「全員かかれ!」

 

誰かの掛け声と共に一斉に銃弾が放たれた。しかし影胤には当たらない。影胤は斥力フィールド(イマジナリィ・ギミック)で防御し、そのガードを展開した。その為、銃弾が逆にこちらに向かって放たれた。蓮太郎と沙耶が

 

「しゃがめ!/しゃがんで!」

 

と叫ぶが、しゃがんだ者は少なく、数名に銃弾が当たってしまった。

 

「それではまた会おう。民警諸君」

 

と言い残し、窓から飛び降り消えてしまった。モニターの中の聖天子が

 

『皆さんにもう一つ依頼をします。蛭子影胤より速くケースを保護してください。さもなければ、東京エリアは絶滅してしまいます!』

 

 

 

 

「はあ、大変な事になったな」

 

防衛省を後にした3人は天童民間警備会社へ向かっていた。その時沙耶のスマートフォンがなった。蓮太郎達に先に行っててと伝えると速やかに木の裏に隠れた。

 

「蛭子影胤の目的が分かりました」

 

『柊沙耶に命令する。蛭子影胤接近で邪魔するであろう里見蓮太郎を排除せよ。お前なら出来るだろう』

 

「...........はい」

 

電話が切れたことを確認するとそのまま座り込んだ。

 

「救うって.......決めたのに.....」

 

沙耶はただ泣く事しか出来なかった。

 

 

 

 

その日の夜。蓮太郎は柊ビル横の空き地にいた。空も暗くなり始めた頃にお前を排除するという電話がかかってきたのだ。あたりは真っ暗。辺りを見渡すと赤い小さな光が見える。その瞬間、

 

「神代式木刀術 攻撃の型」

 

と聞き覚えのある声がした。辺りが昼のように眩しくなった。蓮太郎は息を呑んだ。目の前には、左眼が赤く染まった沙耶がいたのだ。

 

「そんな....」

 

蓮太郎は俯いたが、意を決し前を向いた。天童式戦闘術二の型十六番

 

隠禅・黒天風(いんぜん・こくてんふう)

 

鋭い回し蹴り。しかし沙耶には当たらない。

 

「神代式木刀術 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)

 

蓮太郎の耳元に木刀を突き出す。左手で蓮太郎の脇腹を殴る。

 

「ぐわっ」

 

崩れかけた体勢を素早く直した。

 

「天童式戦闘術 一の型十五番 雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)

 

下から突き上げるような鋭いアッパーカット。蓮太郎の拳が沙耶の腹に当たり倒れる。

 

「うぐっ」

 

しかしまだ戦える沙耶は自分の力を解放した。助走をつけてジャンプ、隣のビルの二階にまで達している。木刀を蓮太郎に向け、こちらへ来る。ああ、もう負けてしまうのか。ちゃんと説得したかった。諦めかけた時、蓮太郎の頭の中に一つだけ方法が浮かんできた。左眼で標的をとらえる。沙耶が近くなってくる。

 

「今だ! 天童式戦闘術 二の型十六番 隠禅・黒天風」

 

蓮太郎の脚は沙耶の胴体に当たり、飛ばされる。壁に打ち付けられ仰向けに倒れる。蓮太郎は沙耶の方へ行きしゃがんだ。沙耶の瞳は黒色に戻っていた。

 

「蓮太郎.....君....私を...殺して.....」

 

蓮太郎は首を横に振る。

 

「沙耶はこんな事をしようとは思わないはずだ。お前に何があった」

 

蓮太郎君には教えようと思い沙耶は体力が回復した為、蓮太郎に向き合った。

 

「お母さんがガストレアに食われた時、お父様が言ったの。邪魔な奴だから良かったって。許せなかった。この前お父様が生きてるって知って殺したかった。だから近づいたの。そうしたらこんな事になっちゃった。本当にごめんなさい」

 

「人間を殺してはいけない。なぜか分かるか」

 

沙耶はゆっくり頷いた。

 

「分かってるんだったら良い。それと沙耶はガストレアウイルス宿主(呪われた子供達)なのか」

 

「ここだと聞かれるから付いてきて」

 

沙耶は蓮太郎の手を握り柊ビルの地下にある柊研究所へ向かった。

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

すると奥から足音が聞こえ、目の前に黒色の短い髪を二つに結び、沙耶と同じ格好、しかしブラウスのリボンの色が緑色と違う 少女がいた。

 

「お帰りなさい、沙耶()()。私、寂しかったんですよ?」

 

「ごめんごめん。この方は里見蓮太郎君。同じ民警なの。でこの子は柊千代ちゃん。桜花学園中学部。千代ちゃん、蓮太郎君と二人っきりで話したいことがあるから部屋に戻ってて」

 

「はい、分かりました。先生」

 

千代は笑顔で頷きドアを開けて隣の部屋へ向かった。

 

「蓮太郎君、ここに座って。じゃあ話すね。ことの始まりは13年前ー」

 

忘れたかった記憶が鮮やかに蘇ってくる。

 

 

 

私が3歳の時、お父様と柊研究所の元所長、柊宅造(ひいらぎたくぞう)が実験という名で私の脳に機械を埋め込んだ。その機械はそこの土地の環境、相手の情報などが目の前に他人には見る事の出来ない画面となって出てくる。見たものを情報化。見ただけで完璧に真似が出来る能力を持った。その力のおかげでたった3年で神代式木刀術と双剣術を身に付ける事が出来た。私が6歳の時、唯一私の事をかばってくれたお母さんが私との買い物中にモデル・クリップスプリンガー、別名イワトビカモシカのガストレアに襲われ、喰い殺された。

 

『お母さん!』

 

私は必死にお母さんのスカートをつかんだ。

 

『大丈夫、お母さんが沙耶ちゃんを守るから。だから逃げなさい。お守りに私のネックレスをつけなさい。さあ、逃げて』

 

私は必死に逃げた。お母さんのダイヤモンドのネックレスを握りしめて帰ってくるのを待っていた。でもお母さんの帰りが遅い。心配になってガストレアに遭遇した場所へ行った。

 

『お母さん!』

 

でも、そこにはガストレアとお母さんの木刀があるだけだった。私の脳には機械が入っている。だから全てを知ってしまった。お母さんは戦いの途中、怪我をして身動きが取れないところをガストレアに喰い殺されてしまっていた。私はお母さんの木刀を拾った。だけど怖くて動けなかった。そんな時、蓮太郎君が私をおぶって、ビルの陰に連れて行ってくれた。

 

『大丈夫です.....か?』

 

私はゆっくり頷いた。

 

『僕は里見蓮太郎。よろしくね』

 

『わ、私......神代さ.......やです。えと......助けてくれてありがとう』

 

本当に嬉しかった。あの頃の蓮太郎君の口調は優しかった。

お母さんがいなくなった神代家では私に対する実験がより酷いものとなっていった。お母さんを喰い殺したガストレアのDNAを特殊加工して、私の体内に入れた。だから今も私の体内にはイワトビカモシカ因子がある。だけど特殊加工している為、体内侵食率は上がらない。クリップスプリンガーは最大で六メートル、ビル二階まで飛ぶ事ができる。そして、ガストレアとの戦争が激しくなった頃、家族は全員死んでしまった。実際はお父様だけ生き延びでいたけれど。一人になった私は柊宅造先生に引き取られ勉強を教えてもらった。宅造先生の紹介で天童家に通い、蓮太郎君と一緒に天童式戦闘術を身に付けた。

 

 

 

 

心が今、現在に戻る。

 

「ちょっと待った。俺の口調の事までは話さなくていいだろ」

 

目の前の蓮太郎は顔が真っ赤に染まっていた。沙耶は今の状況を把握し

 

「え?蓮太郎君、昔『僕』って言ってたの恥ずかしいの?うーん。でもまあ、今の蓮太郎君だと可笑しいよね」

 

「それで、沙耶はモデル・クリップスプリンガーか」

 

沙耶は身を乗り出した。

 

「蓮太郎君、クリップスプリンガーの事知ってるの?あ、そっか。虫マニアだからか」

 

「いや、関係ないだろ。それより、さっき千代が『沙耶先生』って呼んでいたけど、どういうことなんだ?」

 

沙耶は、はっとした。そうだった....沙耶はすっと立ち上がる。

 

「申し遅れました。私、柊研究所の所長、柊沙耶(ひいらぎさや)です。主にガストレアの研究と機械をいじって新しく作ったりしています。これから貴方に協力します。『柊沙耶』として」

 

柊?所長?協力?蓮太郎の頭は疑問で混乱している。

 

「蓮太郎君?大丈夫?まさかショートした?」

 

沙耶は心配そうに蓮太郎の顔を覗いてくる。

 

「いや、機械じゃないから」

 

二人は笑いあった。

 

その翌日に大変な事が起こるとは二人ともまだ思ってもいなかった。




蓮太郎と沙耶ばかりになってしまいました。延珠ファンの方、申し訳ありません。
やっぱり駄作ですね。こんな作品ですが、今後ともよろしくお願いします。

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