「ブラックブレット」 赤い瞳と黒の剣   作:花奏

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第九話 離れる者 近づく者

あの闘いから数日が経った日のこと。

沙耶と蓮太郎、木更は聖居に来ていた。

 

事の始まりは今朝だ。

顔ぐらいは出そうと思い、出勤すると、

 

『今から直ぐでいいから聖居に来て』

 

と木更に言われたのだ。片手に真っ白なフォーマルスーツを持って。

延珠と杏は菫の死体安置所(アジト)で侵食率検査を受けなければいけない為、行くことができないらしい。(個人的に騒がしくなるだろうと思ったが)

 

そして今、現在の状況。

沙耶と木更の目の前にはドレスや高級そうなスーツを着込んだ人達ばかりだ。

木更は豪華なドレス、沙耶はいつもの格好だ。

そして蓮太郎はというと.....

 

「来た」

 

今日の叙勲式の主役、蓮太郎は入り口の扉から出て来た。

嫌々だろうが、フォーマルスーツを着ている。

 

「似合ってない.....」

 

沙耶がポツリと呟く。

選んだ張本人の木更は

 

「そ、そんなことないわ」

 

と言いながらも笑いを堪えている。

 

「沙耶ちゃんも今日の主役なんだからね。ほらほら」

 

木更に押されながら蓮太郎の隣に行く。

 

「うん。社長として誇らしいわ」

 

木更が堂々と頷きながら前にいた場所へと歩いて行った。

 

沙耶は、前はボロクソ言ってたのにな、と思いながら蓮太郎を見る。

蓮太郎と一緒に玉座に座っている聖天子を見る。

 

「里見さん、神代さん、貴方方はこれからも東京エリア存続のため尽力してくださいますか?」

 

「「はい。必ず」」

 

今日の蓮太郎はやけに大人しい。

先程、木更に失礼な事がないように、と言われたからだ。

 

「貴方方の今回の功績、ゾディアック“天蠍宮(スコーピオン)”及び、元序列134位の蛭子影胤、蛭子小比奈の撃破。以上を称え私とIISOは協議の結果、この戦果を『特一級戦果』と判断しました。よって里見蓮太郎、藍原延珠ペアのIP序列を1000番まで、神代沙耶、藍原杏ペアを1100番まで昇格させることを決定しました」

 

会場は拍手と歓声に包まれる。

木更は頷きながら

 

「里見君、いい調子よ。あともう少しの辛抱よ」

 

と呟く。

 

「では最後に貴方方から質問はありませんか?」

 

沙耶は

 

「いえ、ありません」

 

と言い、蓮太郎の方を見る。

彼が同じことを言うのを待っていた。

しかし、彼は彼。

やはり彼はそのままだった。

 

「はい、あります」

 

会場が騒然となる。

 

「ちょ、蓮太郎君.....」

 

聖天子は彼の瞳を見て、

 

「聞きましょう」

 

と言った。

 

「俺達はケースの中身を見た」

 

その瞬間、彼女の形相が変わった。

沙耶はこのままではまずいと思い、蓮太郎を止めようとする。

 

「蓮太郎君.....」

 

「スコーピオンを倒したあと、教会でケースを取り返し、開けたんだ。中には────壊れた、三輪車が入っていた。

聖天子様、どういうことなんだ。なんであれがステージⅤを喚び出す触媒に成り得たんだッ?

そもそも、ガストレアって一体何なんだッ教えてくれ、聖天子様ッ」

 

それは沙耶も気にはなっていた。

 

「それは....お教えできません」

 

「出来ないって...」

 

「民警には序列が向上するごとに様々な特権が与えられます。擬似階級から機密情報アクセスキー。里見さんや神代さんのアクセスレベルは三です。IP序列十番以内に入れば最高のアクセスレベルが与えられます。里見さん、貴方がそれを知るのは今では有りません」

 

聖天子はもう一度、彼を見た。

 

「 強くなりなさい。

里見さんが里見貴春(さとみたかはる)里見舞風優(さとみまふゆ)の息子を......

神代さんが神代宅馬(かみよたくま)神代由美(かみよゆみ)の娘を名乗るのなら......

貴方方はそれを知る義務があります」

 

二人の表情が険しくなる。

 

「なんで..........?」

 

「どういう事だよッ‼︎どうして、どうして俺の両親の名前が此処で出てくんだッ」

 

蓮太郎は聖天子に掴みかからんばかりの勢いだ。

沙耶が蓮太郎の身体を掴む。

 

「蓮太郎君ッ 此処で聖天子様に掴みかかれば不敬罪で処刑されるッ」

 

蓮太郎の動きが止まる。

蓮太郎は踵を返し、聖居を後にする。

沙耶も彼に着いていく。

 

「え?ちょっと、里見君に沙耶ちゃん⁉︎」

 

木更は急いで跡を追う。

 

 

 

沙耶は気持ちを落ち着かせる為に午後からだが、学校に顔を出した。

 

いつもと同じ景色。だけど、いつもと違う。

 

それはきっと.....クラスメイトの此方を見る目だろう。

予想はしていたが、やはりこうなった。

今回の闘いで、自分がガストレアウイルス宿主だと周囲にバレたのだろう。

 

()()()()()?今からお昼なんだけど、屋上行かない?」

 

声のする方を見る。

すると一人の女子高生が立っていた。

 

「うわッ見ろよ彼奴。神代と話してるぜ」

 

「あんな近くにいたらウイルスが移っちゃう」

 

「ほんとほんと。同じクラスなだけでも嫌なのに」

 

クラスメイトが二人を遠ざけていく。

杏達もあの時、辛かったのだろう。

 

私は理解者がいるだけ、ましな方だ。

 

「ののちゃん.....」

 

彼女は藍南乃々葉(あいなののは)

沙耶の唯一の友達だ。

ガストレア因子を宿している自分の事を普通の人と変わりなく接してくれる。

彼女も家族をガストレアに奪われたのに......

 

 

 

頬に当たる風が気持ち良い。

屋上の柵に手をかけ、今日までの出来事を思い出す。

 

ふと、杏達、呪われた子供達について考えていた。

 

一体、彼女達は何なのだろう。

 

『お前、プロモーターなら道具はどうした。イニシエーターだよ』

 

伊熊将監。防衛省に行った時の出来事だ。

 

違う。彼女達は道具ではない。

 

 

『



盗みを犯した上に、声を掛けた警備員を半殺しにしたんだ!東京エリアのゴミめ!』

 

勾田小学校からの帰り道。盗みを犯したという少女を追いかけていた男性が言っていた。

 

東京エリアのゴミ?彼女達はちゃんと生きている。

 

 

『彼女達はホモサピエンスを超えた次世代の人類だ』

 

蛭子影胤。確かその後、杏と延珠ちゃんがガストレア因子を宿しているとバレてしまったのだ。

 

次世代の人類。これも違う。今を生きている。

 

 

『ガストレアと人類を繋ぐメッセンジャー。神の代理人』

 

これは私だ。何かを調べていたら出て来たのだ。

 

 

『延珠達は人間だッ!決してそれ以上でもそれ以下でもねぇッ』

 

私が神の代理人だと言った直後、蓮太郎君が言っていた。

 

確かにその通りだと思う。でも、本当にそうなのだろうか。私も同じ者として、そう思って欲しいだけではないのだろうか。

 

 

『違うッ!妾達はガストレアではない!』

 

『私達は人間ッ』

 

学校に来るなと言われた二人。あの光景はいつ思い出しても苦しくなる。

 

まだ十歳で、きっと辛かっただろう。

 

 

『妾達は...それでも戦わないといけないのか?』

 

昨日まで仲良くしていた人達が一斉に敵になった時、延珠ちゃんが蓮太郎君に聞いたのだ。

 

彼女達はイニシエーターとして戦う事が宿命なのだろうか。

 

 

『人類最後の希望だ』

 

闘いにいく前にどうしても気になって室戸先生に質問したのだった。

 

人類最強の希望。確かにその通りだ。彼女達がいなければ、今、この世界はなかった可能性が高い。

 

 

 

「さっちゃん?どうしたの?早くしないと昼休憩、終わっちゃうよ?」

 

ベンチに座っている乃々葉が首を傾げる。

沙耶も隣に座る。

 

「ごめん」

 

直ぐに弁当箱を開けようとする。

 

「ねぇ、さっちゃん」

 

「ん?」

 

乃々葉の方を見るが、本人は真っ直ぐ前を見据えて表情がよく分からない。

 

「気にしなくて良いんだよ」

 

「え......」

 

沙耶は乃々葉が見ている方を向く。

 

「さっちゃんは、人間なんだから。ちゃんとした」

 

何も答える事が出来ない。

付き合って10年位は経つだろう。

考えている事ぐらい相手に分かってしまうのだろうか。

 

「........ありがとう」

 

本当に良い友人を持ったと思う。

世界中の人が彼女と同じ考えだったらな、と思った。

そんな世界を作る為に、ガストレアの存在を無くし、杏達が差別無しで生きられる世界にしよう、と、再び誓った。

 

 

 

学校帰り。木更に呼び出された沙耶は天童民間警備会社に出勤した。

 

部屋の中を見ると、少ない社員が全員集まっていた。

 

「木更〜一体何の用なのだ?」

 

木更は誇らしそうな顔をしながら

 

「みんな聞いて」

 

と言いながら扉を開けた。

其処には、夏世と千代が少し恥ずかしそうに立っていた。

 

「え?千代ちゃん?」

 

二人は社内に入ってくる。

 

「今日から此処で働くことになりました、柊千代です」

 

「千代さんのイニシエーターの千寿夏世です。宜しくお願い致します」

 

二人は礼儀正しく礼をする。

 

「二人は五万位からのスタートよ。頑張って」

 

「頑張ろうね」

 

「はい」

 

「妾の後輩が、また増えたのだ〜」

 

「夏世ちゃん、此方こそよろしくね」

 

イニシエーター二人は夏世の入社を喜んでいる様子だ。

 

「千代ちゃん?」

 

「知らなかったんですか、先生。私、民警ライセンス、持ってるんですよ?」

 

沙耶は二人の入社に驚いていた。

 

「嘘だろ.....元々少ない給料が、もっと減る.....」

 

蓮太郎は悲しそうだ。

 

「あッ‼︎」

 

急に沙耶が大声を出したので、周囲は驚いた。

 

「沙耶、いきなり騒いで、どうしたのだ?」

 

沙耶は自分の椅子に座りながら、

 

「言わなきゃいけないこと、忘れてた......」

 

と言った。

 

「言わなきゃいけないこと?」

 

沙耶は蓮太郎を立たせ、自分は彼の目の前に姿勢良く立った。

全員が急な行動に唖然としている。

 

「里見蓮太郎。私の命、貴方にお預け致します」

 

「はぁ?」

 

「聖天子様から、プロモーターを続けるなら、誰かのイニシエーターにならないといけなくなって......」

 

「勝手すぎる」

 

沙耶はもう一度姿勢を正しくし、

 

「里見蓮太郎。私の命、貴方にお預け致します」

 

と再びお願いした。

 

「あぁ。分かったよ。分かった」

 

「改めてよろしくね。蓮太郎君」

 

「そうそう。滝沢君がね、私達に協力するって」

 

いきなり木更が話を変えた。

 

「蒼太君が?」

 

「まだ未所属のままってことだよね」

 

「でも良いじゃない。これで我が社も儲かるわ」

 

一段と嬉しそうな木更。

こんなに嬉しそうなのは久し振りに見た気がする。

 

「此れから賑やかになるなぁ〜」

 

「元々、お前のお陰で賑やかだけどな」

 

「おッ褒め言葉か?」

 

「ちげーよ。逆だ。騒がしいってことだ」

 

社員全員が笑っている状況を見て、此れから何も起こらない事を祈った沙耶だった。

 

 

 

木更に協力すると連絡した蒼太は一人、とあるファミレスに来ていた。

 

「あーあ。面倒な事になった」

 

ついつい、ポツリと呟いてしまった。

 

「ま、此れが上からの指令だし、いっか」

 

蒼太は何も注文しないまま、そのファミレスを後にした。

 

 

 

 

 

叙勲式の翌日。沙耶達は菫のアジトへ来ていた。イニシエーター達の侵食率検査の結果が出たからだ。

少し真面目な話なので、延珠と杏は公園で待たせている。

 

「先生?どうだったんだ?」

 

菫は二人にそれぞれのカルテを見せる。

 

「沙耶ちゃんは義手を使ったから少し上がってしまったよ」

 

元々8%だったが、12%に上がっていた。

 

「御免なさい....」

 

「やはり沙耶ちゃんだね。使うだろうとは思っていたよ」

 

「これからは気をつけます」

 

菫は頷きながら

 

「そうしてくれるとありがたい」

 

と言った。

沙耶と菫は真剣な顔でカルテを見ている蓮太郎の方を向く。

二人の視線に気付いたのか、彼は顔を上げた。

 

「先生。これって......」

 

「杏ちゃんの方はいつもと同じ位で特に変化はなかったよ」

 

沙耶は安心する。

杏の侵食率は24.9%で、以前よりあまり変わっていない。

 

「しかし、問題は延珠ちゃんだ」

 

 

 

「蓮太郎〜遅いぞ〜」

 

「沙耶、どうだった?」

 

沙耶は杏の頭に手を乗せ、

 

「24.9%で殆ど変わらないよ」

 

と言った。

 

「良かった〜」

 

「蓮太郎。妾はどうだったのだ?」

 

「杏と同じだ」

 

延珠は頬を膨らませ

 

「な〜んだ。殆ど変わってないのだな」

 

と言いながらボロアパートへと帰っていく。

 

「お姉ちゃん、待ってよ〜」

 

杏も姉の後を追う。

 

その時だった。

 

“カランッ”

 

何かが落ちる音がした。

沙耶と蓮太郎が音の主を探す。

それは.....

 

『妾達の間で流行中の天誅ガールズのブレスレットだ!仲間を欺いたり嘘をついたりするとヒビが入って割れるのだ!』

 

いつか貰ったピンクのブレスレット。

そのブレスレットが割れていたのだ。

 

二人は息を呑む。

 

そう。割れた、と言うことは.......

 

 

 

 

 

藍原延珠 診断カルテ

体内侵食率 42.1%

形状崩壊予測数 残7.2%

・本人には実際よりも低い値を伝える事にする

・医師としてではなく、友人として警告する。

蓮太郎君、これ以上彼女を戦わせるな。

 




こんばんは‼︎何と、前回の更新の次の日に更新という、過去最短記録です。
第一章の最終話です。私はアニメで“ブラックブレット”を知ったのですが、友人に本を借りて読んでみたら、最後のブレスレットの所、彼処が凄い印象的で。ついつい、書いてしまいました。診断カルテの菫の言葉。彼処も覚えていました。
登場人物紹介を新たに更新します。天童民間警備会社、人が増えていきますね。そして、蒼太です。あれ?なんか知らないけど、闇堕ち?今後の彼に期待です☆
それでは、此処までのご愛読、有難うございました。御意見、御感想など、どしどしお待ちしております。是非是非、宜しくお願い致します。
次章『vs神算鬼謀の狙撃兵』お楽しみに‼︎

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