七聖剣使いの航海日記   作:黒猫一匹

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8ページ目 勧誘と危険度

 

 

 

 ○月△日 晴れ

 

 

 

 

 エースが悪魔の実を食べてチートな存在へと進化した翌日。

 今日は海賊の襲撃もなく比較的平和な一日だった。偉大なる航路(グランドライン)にいた頃と比べれば遥かにマシとはいえ、ここ最近海賊の襲撃に会ったり、海賊を襲撃していたりと忙しい日々だったのでこうしてのんびりと過ごせる日があるというのはかなり貴重である。

 

 そしてそんな貴重な時間での出来事だ。

 ニュース・クーから新聞を買い、紙面に書かれている『”東の海(イーストブルー)”に巨大な新星現る!』と言ったデカデカとした見出しを発見したのは。

 

 この新聞はブルーベリータイムズ社発行の様で、そういえば数日前に出会ったロッキーも確かブルーベリータイムズ社所属の自称敏腕新聞記者だったな、なんて事を思い出しながら読み進めていくと、そこにはこの”東の海(イーストブルー)”にいるとある一人の人物について書かれていた。

 

 簡単に内容を要約すると、

 

 

 ”その者、誰よりも海を自由に生きる誇り高き孤高の海賊”

 

 ”身の丈ほどの細長い大剣一本で名のある大物海賊をまるで赤子の様に扱い、蹂躙する姿はまさに覇王”

 

 ”その剣術は容易に帆船を斬り裂き、かの海軍本部大将・赤犬を相手に深手を負わせるほど”

 

 ”王下七武海の一人、世界最強の剣豪・鷹の目のミホークや、四皇・赤髪のシャンクスに匹敵するほどの剣の才能を持つ”

 

 ”その豪傑の名は『翠髪のヒスイ』。彼がこれから偉大なる航路(グランドライン)に渡りどういった活躍をするのか今から楽しみで仕方がない”

 

 

 などと言った事が書かれていた。

 

 ……ふーん、この”東の海(イーストブルー)にこんなすごい奴がいるのかぁー。

 このヒスイってヤツはとんでもない化け物だなー。名前だけじゃなく顔もオレとそっくりじゃねぇか…。

 ………。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 …………………。

 ……………………。

 ………………………。

 …………………………、ロッキーの野郎、次会ったらぶん殴ってやる。

 

 っていうかなんだよこれ!? 色々とおかしいだろッッ!!?

 なんかすげえ過大評価されてるんだけど、オレそこまで強くないよ!!?

 っていやいや!? そうじゃなくて、海軍大将ってなんだよッ!!? オレそんな奴と戦った記憶ねェぞ!! クソッ! ロッキーの野郎ウソの記事書いてんじゃねェよ!! この記事が原因でその海軍大将に目を付けられたらどうすんだよ!!

 それになんかいつの間にか海賊扱いされてるけど、オレ海賊でもねぇからな!! 誤報だらけじゃねぇかこの新聞!!

 それにこんな書き方されたらまた海軍や賞金稼ぎに狙われるじゃねぇか!!

 クソッ、絶対に許すまじロッキー&ブルーベリータイムズ社。

 

 

 …とまぁそんな事があり、オレの心は平穏とは程遠い心情だったが、それ以外は特にこれといった出来事はなく一日を過ごした。

 

 

 …いや、そういえばもう一つだけちょっとした出来事があったな。

 この新聞の記事を読んだエースが「へぇ…海軍大将を負傷させるぐらい強いのか。ますます仲間に欲しくなったぜ」と関心半分興味半分といった感じで、勧誘が激しくなった事だろうか。

 海賊への勧誘なら前から何度もされてたが、今度はそれに加え「なぁ、ヒスイ。俺と戦ってくれねェか?」と何故かバトルの申し出を受けたりする様になった。

 

 …ホント勘弁してくれ……。

 

 

 

 

 

 ○月?日 晴れ

 

 

 

 

 エースから海賊の勧誘を断っていると、今度は何故か犯罪組織から勧誘された。

 というのも食料の補給の為に寄ったある島での事だ。(因みにエースと共に行動する様になってから食料の減少具合が半端じゃない為、その為の買出しだ)

 

 その島で食料の買出しを終わらせた後、暫くの間それぞれ自由行動をとっていて、ナミとカリーナはショッピングへ、エースはレストランで食い逃げをして(←おい!)、オレはその辺をフラフラと歩いていた。

 

 すると、意味不明な事にいきなり集団リンチに会ってしまった。

 その集団は若い男から中年のオッサン、オバサン、さらにホステスの様な女性に果てには老人や子供といった性別も年齢も服装すらバラバラの集団だった。そしてその全員がオレに敵意を向け、刀や槍、ピストルなどの武器を構えている。

 

 そしてその集団の中からリーダー格と思わしき青年が「”翠髪のヒスイ”だな?」と獲物をいたぶる様な笑みを浮かべながらそう問いかけてきた。

 その青年の言葉と周囲の雰囲気からこいつらが何者なのか大体の見当がついた。おそらく先日のオレの悪名(?)が書かれた新聞を読みオレの首を獲りに来た賞金稼ぎだと。

 

 そしてそのオレの読み通り彼らは「お前の首を貰いにきたぜ」や「お前を殺せばどこまで昇格できる事やら」や「俺達バロックワークスに狙われたのが運のつき」などと騒いでいた。

 …おのれロッキー。ホント余計な事をしてくれた。

 

 と、そんなこんなで彼らと戦闘する事になってしまい、仕方なしと彼らをそのまま迎え撃った。彼らの強さはそこまで大した事はなかったが、数が無駄に多く、途中で食い逃げしていたエースが乱入してこなければ彼らを撃退するのにかなりの時間を有していたかもしれない。

 …因みに後から聞いた事だが、エースが戦いに乱入してきた主な理由はオレが心配だったとかそんな理由では当然なく、先日食べた悪魔の実の能力を実戦で試しておきたかったから…との事。

 

 その後、オレとエースの二人でその賞金稼ぎの集団を全員撃退すると、今度は左頬に7の字が書かれた男がどこからともなく現れて、自身をMr.7と名乗り、

「その強さ使えるな。どうだね君達、我が社に入らないか? そうすれば今回の一件は不問にしようじゃないか」と何だか上から目線でオレとエースの二人をバロックワークスだとかいう組織に勧誘してきたのだ。

 

 当然、オレもエースもそんな組織に興味などなく、にべもなく断ると、Mr.7は腰に差していた刀を抜き放ち「そうか、ならば死ぬがいい」といきなり斬りかかってきたので、取りあえず七聖剣を使い返り討ちにした。

 

 そしてその後、サングラスを掛けたラッコとハゲタカがオレ達の目の前に現れ、ラッコの方が何やらせっせとオレとエースの似顔絵を描いてオレ達にその絵を見せる。かなり上手い絵だったので思わず拍手してしまった程だ。そしてラッコはその反応に満足したのかそのままハゲタカに乗りどこかへ飛んで行った。

 

 …あれは一体なんだったのだろうか…?

 

 そういえば今思い出したが、以前偉大なる航路(グランドライン)で会ったあのオカマも自身の事をMr.2と名乗っていた様な気がするが、何か関係あるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)、前半の海。海軍本部・マリンフォード。

 

 そこは偉大なる航路(グランドライン)を管轄する海軍の組織。その中でも世界中の正義の戦力が集う最高峰の組織であり、赤い土の大陸(レッドライン)やシャボンディ諸島の近くに位置され、世界のほぼ中央に位置するこの場所は世界中の海兵達にとって『絶対的正義』の名を関する要塞であり、多くの海兵達やその家族が暮らす大きな街や庭園が存在する。

 

 そしてそんな海軍最高峰の組織である海軍本部元帥の私室。

 そこにはその部屋の主である”仏のセンゴク”が報告に来ていた海兵、海軍本部少佐ブランニューの話の内容に気難しげな表情をその顔に浮かべていた。

 

「――そうか、ではその海賊達は結局何も覚えていないのか」

 

「はい、不可解な事に本人達が覚えているのは”例の男”が乗る小舟を襲っていた所まで。それから先は記憶が酷く曖昧の様で、サカズキ大将の軍艦を襲っている途中に漸く意識が覚醒したとの事です。その事からはもしかしたら催眠の類を使えるのかもしれません」

 

 そのブランニューの報告にセンゴクは何事かを考えながら頷く。

 

「その可能性は十分にあるな。それで、その男の詳しい素性は解ったのか?」

 

「はい、名前はヒスイ、性はありません。偉大なる航路(グランドライン)アスカ島出身の少年で、歳は15。10年程前に海賊の襲撃に会いそこで両親を亡くしています。その後は彼の幼馴染にあたる少女の家族に引き取られ、それから10年の間、その村の自警団に所属していた様です。実力は自警団の中ではそれなりに高い様ですが、我々の基準では本部で訓練された一兵卒にすら劣ると思われます…」

 

 センゴクはブランニューの説明を聞き、不審そうに顔を顰める。

 

「…その程度の実力であのサカズキに手傷を負わせたというのか…? 信じられんな」

 

 センゴクはそこで目の前の事務机の上に置かれている新聞に視線を向ける。

 その新聞はブルーベリータイムズ社発行の新聞であり、その新聞に書かれている人物こそ今現在センゴクが頭を悩ませている人物だ。しかし、この新聞に書かれているものと赤犬から報告にあったものとでは随分と人物像が違う、とセンゴクはそう思った。

 この新聞に書かれているヒスイという男は”白ひげ”や”赤髪”の様に暴れさせれば止めようがないが、民間人には被害を出さないタイプの海賊だと語っている。

 それに対して、赤犬の報告にあったヒスイという男はどちらかと言えば”カイドウ”や”ビッグ・マム”の様に話し合いが通じる様なタイプではなく、民間人にも嬉々として被害を出す様な危険人物だと語っていた。

 どちらが正しいのか、それははこの際置いておく。

 

「それで、この記事だと今奴は東の海(イーストブルー)にいる様だが、今の所民間人への被害は出ていないのだな?」

 

「はい、奴の被害にあっているのは今は海賊だけです。”マッド・トレジャー”、”三日月のギャリー”、”百計のクロ”、”首領(ドン)・クリーク”…。どれも東の海(イーストブルー)では大物として名の通った海賊達ですが…」

 

「サカズキを圧倒するほどの実力者だ。最弱の海の海賊では手も足もでまい。当然支部の海兵達もな…」

 

 センゴクはそこで一端言葉が途切れると、その鋭い双眸が新聞に映るヒスイの顔写真に向けられた。

 

「…サカズキからの報告通りの人物なら、この男の危険度はもはや計り知れんな。海軍大将を相手に善戦し生き延びるだけの実力を持ってるだけでも十分に危険だが、…何より覇気を使わずに”自然系(ロギア)”の能力者に攻撃を当てる事が出来る上、さらには催眠の類が使えるというのも厄介な要素だ」

 

「…では、奴を賞金首に?」

 

「うむ、初頭手配としては少々異例だが、野放しにはしておけん。額はこれから跳ね上がる可能性もあるが、奴を”1億”ベリーの賞金首とする」

 

 センゴクが提示したその金額にブランニューは軽く目を見開き驚きを示す。

 

「…初頭の手配でいきなり”億”ですか」

 

「…奴の実力と思想は我らにとってもはや十分危険なものだ。この額でも問題あるまい」

 

 センゴクが重苦しく頷くのを見てブランニューもそれ以上は何も言わず納得を示したが、新たな超新星の出現に彼らは頭を痛ませた。

 こういう悪の芽は早めに詰んでゆくゆくの拡大を防がねばならないが、支部の海兵は相手にならず、かといって本部の海兵も大将以上の者が出張らなければ被害を被るだけの結果に終わってしまうだろう。

 とはいえ、そういった存在は何かと忙しい為、ヒスイにばかり相手をしている訳にもいかず、結局は今しばらく様子見といった所に落ち着く。

 今の所民間人への被害が出ていないというのも彼を後回しにする理由の一つだが。

 

「それで、今の奴の動向は解っているのか?」

 

「…今は数名の仲間と共に”東の海(イーストブルー)”を転々と行動している様で、推測になりますが、これから偉大なる航路(グランドライン)へと渡る為の準備をしているのではないかと」

 

「そうか…。態々こちら側に来てくれるのならありがたい事だな。それで、奴と共に行動する者達の素性については何か解ってるのか?」

 

「はい、こちらです」

 

 センゴクのその質問にブランニューは懐に手を入れると、そこから三枚の写真を取り出しそれぞれ映っている顔写真を執務机の上へと置いていく。

 そこにはオレンジ色のテンガロンハットを被る笑みを浮かべたそばかすの青年、オレンジ色の髪をした少女、ボーイッシュな雰囲気を醸し出す少女が映っており、センゴクはその中でもそばかすの青年が映っている写真に目をとどめる。

 

「……この者は?」

 

「最近その男と共に行動する様になった者で、名前をポートガス・D・エースと言い、驚くべきことにルーキーにして”自然系(ロギア)”の能力を持ってる様です」

 

 ブランニューはエースが悪魔の実の中でも稀有な”自然系(ロギア)”の能力を持っている事に驚きを示していたが、センゴクの方はその事に特に驚いた様子はなく、厳しい視線をエースの顔写真に向けているだけだ。

 

「…D? 一体どこの出だ?」

 

「…それがその男だけ素性がよく解らず、解った事といえば名前と能力者だという事だけで…」

 

 ブランニューのその答えにセンゴクは「…そうか」と応えたっきり無言でエースの顔写真を暫くの間眺める。だが、そこでセンゴクは「まさかな…」と呟き、今まで以上にその顔を厳しいものに変えた。

 

 顔は似ていないが、センゴクはエースにあの男(・・・)を思わせる様な雰囲気を確かに感じていたのだ。もしその感じたものが本当だとしたらとんでもない事実である。あの悪の血が途絶えていなかったという事になるからだ。

 

 

 そしてそんなセンゴクの勘は見事に的中し、さらに彼の頭を悩ませるとんでもない大事件(・・・)を引き起こす事になるのだが、それはまだ先の話だ。

 

 


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