七聖剣使いの航海日記   作:黒猫一匹

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閑話 暗躍する者達と動き出す者達

 

 

 

 サンディ(アイランド)、砂の王国アラバスタ。

 ここは偉大なる航路(グランドライン)前半にある島、世界政府加盟国の一つであり、その歴史を辿れば世界政府創造に関与した20の国家のうちの一つという歴史ある国である。

 広大な土地の大半を砂漠が占めている国ではあるが、偉大なる航路(グランドライン)でも有数の文明大国として知られており、人口は約1000万人にも及び、人々の笑顔が絶えない平和な国であった。

 

 しかし、そんな大国も現在は内乱中であり、平和とは程遠い現状である。

 というのもその国の国王であるネフェルタリ・コブラから出てくる数々の不祥事により若い国民達は強い不信感と嫌悪感を顕にしている。

 現在は若者達の間で反乱軍が組織され、日に日にその勢力は増していき、現在はまだちょっとした小競り合い程度で済んでいるが、それも時間の問題であろう。いずれ本格的な戦争に発展するのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

 そしてそれがある男の策略だという事に気付く者はこの時点ではまだ誰もいなかった。

 

 

 そんな内乱が起こっている中でも「夢の町レインベース」と称されるその町に住む者達はいつも通りの日常を謳歌していた。ギャンブルの町として知られるレインベース、その最大のカジノである「レインディナーズ」の地下にその男はいた。

 

 王下七武海の一人、サー・クロコダイル。

 表向きはレインベース最大のカジノ「レインディナーズ」のオーナーを務め、七武海としてアラバスタを海賊の襲撃から何度も守っている英雄であるが、その正体は犯罪会社であるバロックワークスを組織し、アラバスタを乗っ取る計画を立てており、現在起きている反乱を誘導している黒幕である。

 

 そしてそんな秘密結社のボスであるクロコダイルは現在ある報告を受けていた。

 

「…なに? Mr.7と東の海(イーストブルー)で暗躍中のミリオンズがやられただと?」

 

 報告されたその内容にクロコダイルはピクリとその眉を潜める。そして報告者であるサングラスを掛けたラッコとハゲタカ、彼の組織の一員である13日の金曜日(アンラッキーズ)の二人(匹?)に視線を向け尋ねる。

 

「…それで一体どこのどいつにだ?」

 

 すると13日の金曜日(アンラッキーズ)の片割れたるラッコ、Mr.13が二枚の似顔絵をクロコダイルへと見せる。

 

「…たった二人のその餓鬼共にやられたっていうのか。ハッ…何かの間違いだろう」

 

 クロコダイルはその報告を鼻で笑う。とはいえ別にその報告を信じていないという訳ではなく、Mr.7やミリオンズがやられた程度至極どうでもいいと思っているからだ。

 あの程度の使い手ならいくらでも変わりがいる。やられたのならその開いたエージェントの椅子には他の違う者を座らせればいい。オフィサーエージェントがやられたのなら兎も角、フロンティアエージェントがやられた程度で彼の計画にはなんら支障はないのだから。

 

 そういう意図もありMr.7達を倒したその者達からもすぐに興味を失くしていたクロコダイルだったが、そこですぐ傍のソファーに腰かけていた彼のパートナーである女性の言葉により再び興味を持つ様になった。

 

「あら? その似顔絵の子って、もしかして今噂の”翠髪のヒスイ”かしら?」

 

「…”翠髪のヒスイ”…聞かねェ名だな。何か知ってるのかミス・オールサンデー?」

 

 クロコダイルの質問にミス・オールサンデーと呼ばれたその女性は、彼女の近くで大人しく寝そべっている”バナナワニ”を撫でながらその質問に答える。

 

「ご存じないかしら。つい最近、初頭手配された子よ。先日のブルーベリータイムズ社発行の新聞で世間を騒がせてもいたわ」

 

 そう言いながら彼女は立ち上がり、クロコダイルの元まで歩み寄る。そして懐から一枚の手配書を出し、彼の執務机の上に置く。

 

 そこには”翠髪のヒスイ” 懸賞金”1億ベリー”と書かれていた。

 

 その金額にクロコダイルは僅かに目を見開く。

 

「初頭手配で”1億”だと…? 一体何をやらかしたんだこいつは?」

 

 クロコダイルは面白そうなものを見る様な目でその手配書を眺めながらそう尋ねると、ミス・オールサンデーは表情をそのままに言葉を発する。

 

「海軍本部の大将・赤犬を相手に善戦し、赤犬に大きな傷を負わせたそうよ。どこまで本当なのかは解らないけど、新聞では他にもあの”鷹の目のミホーク”や”赤髪のシャンクス”にすら匹敵する程の剣の才能を秘めている事や、大物海賊達を赤子の様に蹂躙したりと言った事が書かれてたわ。その事から政府はかなりこの子の事を危険視している様ね」

 

 ミス・オールサンデーもどこか面白そうな声音でクロコダイルに彼女の知る限りの情報を訊かせると、クロコダイルはお酒の入ったグラスを暫くの間軽く弄びながらその口に笑みを浮かべる。

 

「フン、随分と威勢のいい餓鬼の様だ。とはいえ、それ程の実力なら使えない訳でもねェらしい。…ミス・オールサンデー」

 

「なにかしら?」

 

「Mr.1とMr.2、それからビリオンズを動かせ。”翠髪のヒスイ”…奴を好待遇で我が社へと迎え入れようじゃねェか」

 

「あら、いいの? 一度その子は我が社への勧誘を蹴った上、Mr.7とミリオンズを全滅させてるし、素直にこちらの言う事を聞く様な子には見えないけど」

 

 ミス・オールサンデーはクロコダイルのその言葉が意外だったのか、少し驚きながらそう尋ねると、クロコダイルはそんな彼女の態度を特に気にした様子もなく、口を開く。

 

「クハハハ、利用できる手駒は多いに越した事はねェからな。それにいざとなれば俺が力づくで黙らせればいいだけの話だ」

 

「了解。それじゃあ彼らには”東の海(イーストブルー)”に向かう様、指示を出しておくわ」

 

 そう言って、ミス・オールサンデーはその部屋を出ていく。13日の金曜日(アンラッキーズ)達も自分達の任務に戻り、クロコダイルは己の作戦をより完璧なものにする為に国王軍、反乱軍の両陣営にさらに火種を巻く為に彼も人知れず行動に移るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)前半に位置する世界政府の直轄地、”司法の島”エニエス・ロビー。

 世界政府が管轄する裁判所が設置されたこの場所は、1年中夜にならない特性を持った不夜島だ。島の中央部には巨大な穴が開いており、そこに海水が流れ込み滝を作り出している。

 創設800年の間、一度の侵入者も脱走者もいない鉄壁の施設であり、ここに連行された者は名ばかりの裁判を経た後は、正義の門を渡り、海底監獄インペルダウンか海軍本部のどちらかに連行される。

 つまりここに連れてこられた時点で裁判などする必要もなく犯罪者の烙印を強制的に押されてしまうのだ。因みにこのいい加減な制度の根源は、主に死刑囚により構成された陪審員のせいだったりする。彼らが罪人を道連れにしようと、罪人に対して有罪判決を下してしまうからだ。

 

 閑話休題。

 

 エニエス・ロビーは主に政府の役人や諜報員達が根城にした施設であり、その施設の最上階に位置する部屋にその男はいた。

 その男は、諜報機関サイファーポールの一つ、CP9の司令長官を務める男で、同時にこのエニエス・ロビーの実質トップの地位にいる男で名前をスパンダムと言う。

 スパンダムは目の前に座る黒い服を来たどう見ても堅気ではない三人の男達を見ながら口を開いた。

 

「さて、こうしてお前達を呼んだのは他でもねェ。政府から下された新たな指令をお前達に遂行してもらう為だ。…だが、その前にお前達に言う事がある」

 

 スパンダムはそこで言葉を止めると、机の上に広げていた新聞に一瞬、視線を向けてその新聞を思いっきりバンッバンッと叩きながら、目の前の三人を睨む。

 

「先日、お前達に言い渡した『市長暗殺計画』だが、指令じゃあたった2人消すだけで事足りた所を、30人も消えちまってるじゃねェか!! この記事は一体どういう事だ!?」

 

 バサッとその記事の新聞を乱暴に掴みあげるとそれを目の前でただ黙って聞いている3人の男達に向ける。

 

「テメェら言い訳があるなら何か言ってみろ!!」

 

 スパンダムが3人に怒鳴りながらそう尋ねると、今まで沈黙を保っていた3人の男の内の一人、歌舞伎役者の様なメイクをした巨漢の男、クマドリがその場に勢いよく頭を下げた。

 

「よよいっ!! も~~~ォオオしわけありあせん~~~ァ!! 全ておいらの責任でェ!! こうなったらおいらァ~腹ァ切って責任を…!!」

 

 切腹をしようとするクマドリの言葉にその隣に座っていたナマズ髭に三つ編みの髪をした男、ジャブラがクマドリに向かって叫ぶ。

 

「やめろクマドリ!! バカな事を言ってんじゃねェ!! 俺が長官に成り行きを説明するからお前は黙って座ってろ!!」

 

 そうクマドリに注意をした後、視線を長官であるスパンダムに向けて事の成り行きを報告する。

 

「実はよ長官、俺達はその指令通りの期日に暗殺しに潜入した所がよ、どういう訳か誰も知らねェ筈の暗殺計画の事が連中にもれてた――」

 

「――あ、それ俺が街で喋ってしまったーチャパパ」

 

「あん? なんだお前ェが喋ったのか、道理で――ってアホかテメェ!!?」

 

 ジャブラが説明をしている横で最後の一人である口にチャックのついたクマドリと同じぐらいの巨漢の男、フクロウがさり気なく呟いた言葉に一瞬流しそうになったもすぐに彼の言葉にツッコミを入れる。

 

「お前のその口の軽さはいつ治るんだ!! 諜報機関だぞ俺達は!! お前の口のチャックは何のために付いてんだァ!!?」

 

「喋ってしまったーチャパパ」

 

「よよいっ! フクロウを責めねェでやってくれェ~。その責任はおいらがァ~~切腹!!! 『鉄塊』……………無念死ねぬ~~」

 

「さっさと死にやがれテメェは!!」

 

 そんな彼らのコントの様なやり取りを今まで黙って聞いていたスパンダムは呆れた様にまたは疲れた様に顔を歪ませ、「もういいよ、お前ら…」と呟きドサッと自室の椅子に腰かけた所、彼の腕が偶然にも机の上に置いていた飲みかけのコーヒーに当たってしまう。

 

「あちィ~!! コーヒー溢した!!! 何でいつもいつもこんな邪魔な所にあんだよ!! クソッこんなコーヒー!!!」

 

 ガシャンとヒステリックに騒ぎ、つい数分前に自分でその場に置いたコーヒーを睨み付けながらスパンダムは零れたコーヒーのカップを地面に思いっきり叩きつける。

 

 何だかかなり緩い現場に見えてしまうが、彼らはこれでも世界政府の諜報機関最強の組織である。…とてもそうは見えないがこれが闇の世界を暗躍するCP9。そのいつものちょっとした風景であった。

 

 

 

 

 

「んで、長官。今回の主な任務は?」

 

 漸く一通り現場が落ち着き、ジャブラが改めてスパンダムに今回の指令の用件を尋ねる。その両隣にいるクマドリとフクロウも先程までのふざけた気配はなく真面目な顔で話を聞く姿勢を取っていた。

 スパンダムもそんな彼らの態度に漸く本題へと入る。

 

「今回の指令も前回とさほど変わらねェ。ある人物の暗殺だ」

 

 スパンダムはそこで一呼吸いれ、続きを話す。

 

「お前らも名前ぐらいは聞いた事はあるだろう。”翠髪のヒスイ”っていう最近何かと調子に乗った海賊さ。どういったトリックを使ったか知らねェがあの大将・赤犬を相手に大立ち回りを演じたそうだ。そんな不穏分子を野放しにはしておけねェって事でそいつを暗殺しろってのが今回下った世界政府からのお達しだ」

 

 スパンダムはヒスイの手配書を見ながらどこか小馬鹿にした様な表情を浮かべながら3人にそれぞれ説明する。

 対する説明を聞いた3人の方はその顔にそれぞれ好戦的な笑みを浮かべており、心底楽しそうに口を開いた。

 

「ギャハハ、今度の獲物は中々骨がありそうじゃねェか」

 

「よよいっ! 悪は可能性から根ェ~~絶やしにせねば~~ならねェ~~!!」

 

「チャパパ、今回はいつも以上に忙しくなりそうだー」

 

 各々がそれぞれの感想を口にしながらも、彼らはやる気に満ちていた。それが世界政府からの指令であるという事もあるが、戦闘集団でもある彼らは常に血に飢えている。故に彼らにとっては強敵との戦いは望む所でもあった。

 そんな彼らの反応にスパンダムは満足そうな笑みを浮かべる。どの様な事があっても相手が誰であっても彼らが決して後れを取る事はないとそう確信したのだ。

 

 

 こうして政府の中でも有数な超人的戦闘能力を持つ彼らがヒスイを暗殺する為に動き出した。絶対的な『闇の正義』の名のもとに。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「…なに、クロコダイルのバロックワークスとサイファーポールが妙な動きをしている?」

 

 そして此処、偉大なる航路(グランドライン)に存在する革命軍たちの総本部であるバルティゴでもとある情報が届いていた。それは以前より目を付けていた犯罪組織と自分達の宿敵たる世界政府に所属する組織についての情報だった。

 部下より齎されたその情報に革命軍トップであるドラゴンは難しげな表情を見せる。

 

「はい、報告ではどちらも”東の海(イーストブルー)”に向けて進行を開始している様ですが…、彼らの狙いまでは解りませんでした」

 

「…そうか」

 

 ドラゴンはそう呟き、”東の海(イーストブルー)”という単語に僅かに反応を示すが、目の前の部下はそんなドラゴンの反応に気付かなかった。その後、暫くの間ドラゴンは黙り込んでしまい、重い沈黙がその場を支配する。そんなドラゴンの雰囲気に当てられたのか彼の部下は目に見えて緊張しながら彼の次の言葉を待っている。

 するとドラゴンがそこで漸く口を開く。

 

「”東の海(イーストブルー)”で暗躍している革命軍の兵士達にクロコダイルのバロックワークスとサイファーポールの動向に気を配れと伝えろ」

 

「はい!」

 

 ドラゴンの指示を受けたその部下は伝令の為にその場を離れようとするが、そんな彼にドラゴンはふと思い出した様に、離れようとするその部下に待ったを掛けた。そんなドラゴンの声に部下は立ち止まり振り向くと、ドラゴンは彼に尋ねる。

 

「そういえば、サボは今どうしてる?」

 

「参謀総長でしたら、現在は表でハックやコアラ達と共に鍛錬中の筈ですが」

 

「なら、サボ達に”東の海(イーストブルー)”に向かう様伝えてくれ」

 

「え? 参謀総長にですか?」

 

 ドラゴンのその指示に部下は思わず聞き返してしまう。そんな部下の言葉にドラゴンは重苦しく頷き、険しい顔を浮かべた。

 

「ああ、何かとてつもなく嫌な予感がしてな。考えすぎかもしれないが、東の海(イーストブルー)で暗躍している兵士達だけでは荷が重いかもしれん。一応その保険の様なものだ」

 

「了解しました」

 

 ドラゴンのその言葉に部下はすぐさま引き締まった表情を浮かべ頷いた。疑問に思いながらもすぐさま返事を返せたのは、自分達のリーダーがそう感じているのなら、きっとそうなのだろうと確信したからだ。ドラゴンの言葉に返事を返したその部下は今度こそ伝令の為にその場を後にした。

 

 

 一人になったドラゴンは窓に視線を向けると、おもむろに立ち上がり、窓を開けて外に出た。そしてある一転の方向を見据えながら風にあたる。彼が見据える方角は東。

 今彼が何を思っているのかは解らない。だが、これから訪れるであろう厄介事に対して彼の双眸は鋭く光った。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 犯罪組織、サイファーポール、革命軍。それぞれが各々の目的を持ちながら”東の海(イーストブルー)”へ移動を開始していたほぼ同時刻。

 元から”東の海(イーストブルー)”に目を付けていたその男もまた動き出そうとしていた。

 

 そこは偉大なる航路(グランドライン)上空に存在する島々。人為的に宙へと浮かされているその島の名前はメルヴィユ。これらがたった一人の男の能力、フワフワの実の悪魔の実の力により浮かされているのだ。

 

 その男の名は”金獅子のシキ”。

 かつて海賊王ロジャーや四皇白ひげと鎬を削って戦いを繰り広げた大海賊である。

 

「ジハハハハ、”東の海(イーストブルー)”に随分面白ェ海賊がいる様だな」

 

 シキは葉巻を加えながらブルーベリータイムズ社の新聞と手配書を眺めながらその様な事を呟く。

 

「宝目当てのくだらねェミーハー海賊には興味はねェが、こいつが”本物の海賊”に相応しいかどうか…見極めてやろうじゃねェか」

 

 シキは新聞をそのまま机に放り投げると、今度は手配書に視線を写す。そこには翠色の髪をした少年が薄い笑みを浮かべている顔写真が写っていた。その顔写真を見たシキは「生意気そうな面をしてやがる」と呟きながらその口角を吊り上げる。

 

 そしてシキは王座の様な椅子から立ち上がり、カツン、カツンと彼の足代わりである刃が音を立てる。そのまま暫し歩いていると、彼の下へ近づく影があった。

 その影が近づいてくる度にブゥー、ブゥー、ブゥーというおならの様な音が響いてくる。シキがそちらに視線を向けると、そこには白衣を着たピエロの様な姿の男が大急ぎで檻の中に入っている動物を担ぎながら現れた。

 

「シキ親分! 新たな新種を発見しました!!」

 

 ガシャンとその檻を乱暴に床に落とすと、そのピエロ、Dr.(ドクター)インディゴはどこか興奮した様な口調でシキへとそう口を開いた。

 

「しかもこの新種、今までの生物と違い凶暴性に特化した生物でして、この生物の唾液から検出された分泌から”あの薬”をより強化する事に成功しました!」

 

「なに…? それは本当かインディゴ?」

 

「はい! それはもう今までの非にならない程の強力なモノが」

 

 シキはそこで初めて檻の中にいる新種の生物に視線を向ける。その檻の中には一頭のゴリラがいた。普通のゴリラとの違いは腕が”手長族”の様に長く、牙もかなり大きいといった要素があげられるが、メルヴィユに住む独特な成長を遂げたその他の生物達と比べればそこまで物珍しさは感じない。

 現在は鎮静剤でも打たれているのかそのゴリラは随分と大人しい姿で鎮座しているが、それでも尚、その眼は爛々とした輝きを放っていた。

 

「そしてその薬を最弱のDランクの猛獣達に投与した結果、Bランクの猛獣を軽々と仕留めるまでの存在へと至りました!」

 

 インディゴのその言葉にシキは顔に薄い笑みを浮かべる。

 

「ジハハハハ。天はどうやら我々に味方してるみてェだな。その強化した薬を使えばあの猛獣達をより俺好みの獰猛な生物に進化させる事ができるとは」

 

 上機嫌そうに笑うシキは、その研究成果に満足そうに頷く。これでより自身の計画が完璧なものへと仕立て上がった。

 だがそこでシキはふとある事を思いつく。暫しの間、何事か思案している様子だったが、次第にその顔に凶悪な笑みが張り付いた。

 

Dr.(ドクター)インディゴ。おめェは強化した”S.I.Q”をこの島にいる全ての生物に打ち込め。それが終わり次第、行動を移すぞ」

 

「はて? 計画発動はあと3年後の予定だったと記憶していますが?」

 

 インディゴのその言葉にシキは嗤う。

 

「ジハハハハ、本格的に動くのは予定通り3年後さ。だが、デモンストレーションも兼ねて地上にいち早く地獄を見せるのも悪くねェ…」

 

 シキは狂気が浮かんでいるその顔をさらに深め、言葉を続ける。

 

「なにより”東の海(イーストブルー)”に今面白ェ海賊がいる。あのクソッたれ(・・・・・)に対する手向けついでにその海賊が”本物”かどうかを見定める。

 そしてこの生ぬるい時代に恐怖を刻み込み、海賊こそが海の支配者だと知らしめてやるのさ」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 海賊王ゴールド・ロジャーが処刑され大海賊時代が幕を開けて早19年。

 一人の少年を中心に歯車が狂い、時代がうねり始める。

 だが、それに気づく者はまだごく少数。

 海賊王の生まれた海で、人知れず新たな新時代が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 




 海賊、海軍、サイファーポール、バロックワークス、革命軍、そして七聖剣。
 各々の目的や策略が交差し、事態は無視できない程の大事件へと発展していく…。

 次回から『東の海騒乱編』開幕






 ……などとかっこいい感じで終わらしたかったんだけど、これからの展開はまだノープランだったりする。
 一体続きはいつになる事やら(白目)

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