やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。   作:春雨2

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第13話 やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。

 

 

凛「歌いたい曲?」

 

 

 

目をパチクリと瞬かせ、疑問符を浮かべる凛。

 

 

 

八幡「ああ。曲のリストはもう貰ったよな」

 

凛「うん。これでしょ?」

 

 

 

ファイルから取り出した数枚の資料を俺へと見せる。

そこには、ライブで歌う曲がリストとして記載されていた。

 

 

 

八幡「ユニットで歌うのが『お願い!シンデレラ』、『輝く世界の魔法』、『Nation Blue』、『ススメ☆オトメ~jewel parade~』」

 

凛「そしてソロで歌うのが『Never say never』とカバーの『蒼穹』、だね」

 

八幡「そうだ。そんで、上位枠はそれにプラスでもう一曲歌えるんだよ」

 

 

 

ソロの曲を持つアイドルは何人かいるが、上位枠でライブに参加するアイドルは少数だ。

その限られたアイドルには、更にもう一曲歌える権利を貰える。

 

 

 

八幡「『蒼穹』と一緒でカバー曲になるが、何か歌いたい曲はあるか?」

 

凛「歌いたい、曲か。そうだなぁ……」

 

 

 

うーんと唸る凛。

 

まぁ、大事なライブの一曲だ。そう簡単には思い浮かぶまい。

 

 

 

八幡「『蒼い鳥』とかは無しな」

 

凛「えっ、なんで!?」

 

 

 

いやホントに考えてたのかよ……

 

 

 

八幡「そりゃ、他のプロダクションの曲を歌えるがわけねぇだろ。総武高の時とは違うんだぞ?」

 

凛「そ、そっか、うーん……」

 

八幡「……ま、ゆっくり考えとけ」

 

 

 

これは、いつかの思い出。

 

 

 

いつもの事務所で、いつもの二人で。

 

たまにちひろさんがコーヒーを淹れてくれて。

 

他のアイドルたちが絡んできたりもして。

 

 

 

今にして思えば、あの居場所がかけがえの無いものだったんだと分かる。

 

 

 

だがそれは、もう取り戻せないものだ。

 

だからこれは、思い出でしかない。

 

 

 

凛「あ……そういえば、個人的に好きな歌があって…」

 

八幡「へぇ、なんて曲なんだ?」

 

 

 

いつしか、この光景も忘れていくのだろう。

 

なら、気にする事はない。

 

ただただ、その時を待つだけの事。

 

 

 

ただ、その時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニバーサリーライブ当日。

 

 

天気は快晴。ドームなのだから関係ないが、実にライブ日和の良い天候である。

 

だが、俺には本当に関係ない。

俺にとっちゃ、ただの補習当日である。

 

 

久しぶりに総武高校の制服に身を包み、ネクタイをしようとして、違和感を覚える。

そういや、俺学校じゃネクタイしてなかったな。していたのは最初の頃だけだ。

 

ここ最近、ずっとスーツだったから思わず手が動いていた。

 

俺はモヤモヤとした気持ちをネクタイと共にクローゼットに放り込み、部屋を出る。

 

 

リビングへは向かわず、そのまま玄関へと一直線に向かう。

朝飯も今日はいらない。

 

補習で出かける事も、小町には言っていなかった。

 

 

家の外に停めてあるチャリを用意し、サドルに跨がる。

こいつに乗るのも随分と久しぶりだな。

 

いざ行かん、と漕ぎだした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

……チェーンが外れた。

 

 

 

 

 

 

八幡「………………歩くか」

 

 

 

仕方なしに、自転車を置いていく。

 

まぁ別に補習だし、間に合わなくてもいいだろ。

 

 

てくてくと、道を一人で歩いていく。

 

普段であれば通学する生徒がいくらかいるもんだが、今日は土曜日。

生徒もいないし、道往く人も心なし少ない。

 

 

そうやって歩いていると、自然と考え事をしてしまう。

そして考えてしまうのは、やはり決まって一つだけ。

 

あの時の笑顔が、鮮明に映し出される。

 

 

 

八幡「……くそっ」

 

 

 

イライラする。

無性に苛立って仕方が無い。

 

気を紛らわせようにも、頭から離れない。

 

俺に、どうしろってんだ。

 

 

歩き歩き、ふと、立ち止まる。

 

 

 

…………なんか、補習とかアホらしくなってきたな。

 

 

 

よく考えたら、学校に行くのが面倒なのに何故休みの土曜にわざわざ行こうとしているのか。

それも、行けば平塚先生と二人きりでの補習。

 

人がいないというメリットも、元々ぼっちなのだから人がいようといまいと関係ない。

 

そう考えたら、途端に面倒くさくなってきた。

 

 

 

八幡「……行かなくていいか。別に」

 

 

 

俺は方向を変え、街の方へと向かう事にする。

 

 

気を紛らわせるなら、別に補習なんて嫌な事をする必要もない。

テキトーに街をふらついて、遊んだり買い物したりすればいい。

 

 

……おお、そう考えたらなんかウキウキしてきた。

 

よっしゃ、休みを満喫するぞー!

 

 

と、それまで引きこもり生活を送っていた事を完全に忘れ、俺は歩き始める。

本屋か、ゲーセンか、漫画喫茶か。アニメイトでも、とらのあなでも、なんだっていい。

 

とにかく、何か他の事をしていたい。

 

そんな俺の意味のない希望は、しかし叶う事は無かった。

 

 

 

電車に乗れば。

 

 

ポスター『○月△日! シンデレラプロダクション アニバーサリーライブ!!』

 

八幡「……」

 

 

 

店に入れば。

 

 

ラジオ『今日、あのデレプロのアニバーサリーライブなんですよ~』

 

八幡「…………」

 

 

 

街を歩けば。

 

 

街頭テレビ『いよいよ本日、シンデレラプロダクションのアニバーサリーライブ! 皆さん見に来てくださいね♪』

 

八幡「………………」

 

 

 

完全チケット制なんだから、当日に見に行けるわけないだろぉぉおおおッ!!!!

 

と、思わず心の中で島村にツッコミを入れてしまった。

 

 

本当に一体なんなんだ……

今日は、どこへ行ってもこんな感じだ。

 

 

いたる所でその広告を目にし、

 

どこへ行ってもその名を耳にする。

 

 

本当に、一流のアイドルプロダクションだ。

元社員であった俺が言うんだから、間違いない。

 

 

……それだけに、鬱陶しい

 

 

ケータイを見て、時間を確認する。

 

ライブ開始まで、残り一時間ちょっと。

今は東京都内まで出ているから、ここからなら普通に間に合うな。

 

 

 

八幡「……なに考えてんだよ。この期に及んで」

 

 

 

行ってどうするというのだ。

行ったって、俺には何もする事はない。

 

 

何も、出来はしない。

 

 

俺はもうただの一般人で、プロデューサーどころか関係者でもない。

というか、行ったりしたらまたマスコミに何を言われるか。

 

そうだ、無駄な考えては捨てろ。

 

その為にも……

 

 

俺は、アニバーサリーライブの会場とは逆方向へと向かう。

バスでも、電車でも、タクシーでも、なんだっていい。

 

とにかく、違う場所へ。

 

 

間に合わない、所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから気付けば、どこかの駅にいた。

テキトーな場所で電車を降りてしまった為、駅名もよく確認していない。

 

一応都内ではあるようだが、正直初めて降りた駅なのであまり分からない。

 

 

ふらふらと歩き、待合室のような開けた空間を見つける。

人の少ない手頃な所に向かい、椅子へ座った。

 

 

時計を見る。

ここからなら、どうやったって開始には間に合わない。

 

もうじきライブが始まる。

後は、時がたつのを待つだけだ。

 

 

俺は一息つくと、背もたれに背中を預け、顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビ『さぁアニバーサリーライブの開演です! これからこの時間は、その様子を中継していきたいと思います!!』

 

 

八幡「……………………」

 

 

 

 

 

 

ここの駅は、待合室に大きなテレビが設置されていた。

 

いや完全に嫌がらせですよね?

 

 

そういや、確かにライブの一部を中継するみたいな事は言ってたな……

企画段階ではそんな話を聞いていたが、俺はあの事件のせいで途中から参加していなかった。

 

まさか、本当にやっていたとは……

 

 

正直、本当に嫌でしょうがない仕打ちだが、ここまで来ればもう関係ない。

何かの拍子に血迷ったとしても、ここからでは何も出来ない。

 

 

……ある意味では、これが俺に対する罰なのかもな。

 

 

何も出来ず、ただその光景を見せられる。

 

あいつの、歌う所を見る。

 

 

それは、今の俺にとっては地獄のような状況だと言えた。

なら、俺はそれを甘んじて受けるべきかもしれない。

 

 

椅子へと座ったまま、画面へとジッと目を向ける。

まだ、開演には幾ばくかの時間があった。

 

 

……凛のソロは、何曲目だったか。

 

 

無意味な思考を振り切るように。

 

 

 

俺は、その目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇だ。

 

 

 

真っ暗で、何も見えない。

 

 

当たり前だ。目を閉じているのだから。

 

そうしていると、やけに耳に入ってくる音が鮮明になる。

 

自分が駅にいるという事を実感させる喧噪。

 

テレビから聞こえてくる、ライブ開演までの、中継模様。

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

「あー! も、もうライブ始まっちゃうよぉ……」

 

 

 

 

 

 

女の子の、声だった。

 

 

 

 

 

 

八幡「……」

 

 

 

その声に、思わず目を開ける。

 

特に大きな声ではなかったが、やけに通る声だった。

 

 

見ると、そこにいたのは一人の女の子。

 

 

歳は俺と同じくらい。私服だが、恐らくは女子高生。

 

キャスケット帽を被り、黒ぶちのメガネをかけている。

テレビ画面へと視線を向けているので顔はよく見えないが、たぶん可愛い。

 

印象としては、どこにでもいる普通の女の子。

 

島村を、なんとなく思い出した。

 

 

 

「はぁ、折角招待して貰えたのに……まだお仕事長引いてるのかな」

 

 

 

独り言を呟きながら、ケータイを見ている。

恐らくは誰かと待ち合わせをしていて、もう一人が遅れているのだろう。

 

しかしライブに招待して貰えるって……関係者か何かか?

 

するとその女の子はメールでも送り終えたのか、ケータイ(今時ガラケー)をしまうと、あろうことか俺の近くまで歩いてくる。

そして、二つ程離れた席に座るのだった。びっくりした……

 

 

どうでもいいが、座った時に帽子の隙間から赤いリボンが見え隠れしていた。

その様子に、なーんか既視感を覚えるのだが……思い出せん。

 

 

 

と、そこでテレビ画面から開幕の音楽が流れてくる。

 

いよいよ、アニバーサリーライブが始まるらしい。

 

 

隣では先程の女の子が「始まっちゃった……」と呟いている。

しかし、そちらへ視線を向ける余裕は無い。

 

 

 

ちひろさんが、アナウンスをしていた。

 

 

 

……あの人、事務員なのにあんな事までしてんのか。

 

後半は殆ど企画会議には参加していなかったとはいえ、さすがにこれは驚いた。

またお給料弾むよとか言われたのだろうか。

 

 

ちひろさんのアナウンスが終わると、やがて、あのよく知ったメロディーが聞こえたきた。

 

やっぱ、最初の曲はおねシンみたいだな。

 

 

 

八幡「…………」

 

 

 

いた。

 

全員で歌う中、凛の姿を見つける。

会場からも特に野次などは無さそうだ。

 

その様子を見て、安堵と共に不安が募ってくる。

 

 

何処か、凛の調子が悪い。

 

 

見れば分かる。

動きはぎこちないし、声にも覇気が無い。

 

他の奴にとっては些細な違いかもしれないが、俺には分かる。

 

 

そりゃ、あんな事があったんだ。元のようにやる方が難しいのは分かる。

だがそれでも、何をしているんだという気持ちが湧いて出てくる。

 

そうさせたのは、俺なのに。

 

 

 

八幡「チッ……」

 

 

 

気付けば、拳を強く握っていた。

 

 

 

「あの、どうかしたんですか……?」

 

八幡「ッ!」

 

 

 

隣からの声に、思わずハッとなる。

 

見ると、先程の少女が心配そうな顔で俺の事を見ていた。

 

 

 

「凄く辛そうな顔で画面を見てましたけど……」

 

八幡「……いえ、大丈夫です」

 

 

 

平静を装い、その少女に対し言葉を返す。

どうやら思わず声をかける程に酷い顔をしていたらしい。

 

だがそれにしたって、まさか見ず知らずの人間にいきなり声をかけるなんてな。

 

余程のお人好しか、変わり者だろう。

 

 

 

「……アイドル、苦手なんですか?」

 

 

 

そのまま、少女は俺に話を振ってくる。

声にはどこか不安を混ぜたようなニュアンスがあり、同時に、俺を気遣ってるようにも感じた。

 

正直、話しかけられのは若干鬱陶しいが……今の俺は、どうかしていたらしい。

 

 

 

八幡「……好きだよ。自分で自分に引くくらいな」

 

 

 

正直にそのまま、言葉が口から出ていた。

同年代だし、敬語を使うのもアホらしかった。

 

 

 

「へ、へぇ…そ、そうなんだ……」

 

 

 

そして、女の子も引いていた。あっるぇー?

 

つーかお前も敬語無くなってんぞ……

 

 

俺が思わずジト目で睨むと、少女は慌てて弁解しだす。

 

 

 

「あ、あぁいや! い、良いと思うよ! きっとそう言って貰えるアイドルも嬉しいよ! うん!」

 

 

 

手をわたわたと振り、うんうんと頷いてみせる。

いや必死過ぎない? なんか逆にその気遣いが痛い。

 

 

 

八幡「……そんなの、本人じゃないと分からないだろ。気持ち悪いと思って…」

 

「分かるよ」

 

八幡「っ……」

 

「私には、分かる」

 

 

 

思わず、目を見開く。

 

何の根拠も無いその言葉。

だが、そう言った少女の顔はいつぞやのアイドルたちと一緒で。

 

俺は、押し黙るしかなかった。

 

 

 

八幡「……そうか」

 

 

 

俺はぼつりと呟き、その後少しの間沈黙が続く。

 

そして、再び少女は俺に問うてきた。

 

 

 

「……ねぇ、あなたは、ライブへは行かなくて良かったの?」

 

八幡「……チケットが取れなかったんだよ」

 

「……そっか」

 

 

 

無論、嘘だ。

そもそもプロデューサーを続けていたら、顔パスで会場へ入れただろう。

 

だが、今は関係無い。

 

 

しかし少女は、俺のその答えでは満足出来なかったようだ。

 

 

 

「……本当に、それだけ?」

 

 

 

もう一度、俺に問いかける。

 

 

 

八幡「……何が言いたいんだよ」

 

「えっと…………何だか、私にはそう思えなかったから、かな」

 

 

 

言葉を選ぶように、ゆっくり話す少女。

 

本当に余計なお節介だ。

普段なら、無視していたって不思議じゃない。

 

……けれど、気付けば俺の口は勝手に開いていた。

 

 

 

八幡「……あんたなら」

 

「え?」

 

八幡「あんたなら、どうする?」

 

 

 

不思議と、俺は話し出していた。

 

 

 

八幡「誰かの為に行動を起こして、でもそれは相手にとっては望んでいない事で、それでも止めるわけにはいかなくて……」

 

 

 

何がそうさせたのかは分からない。

それでも、俺は何故か少女に言葉を投げかけていた。

 

 

 

八幡「……合わせる顔が無い。あんたなら、どうする」

 

 

 

それはたぶん、懺悔のようなものだ。

まともな返しなんて求めちゃいない。

 

何故なら、俺はもう選択してしまったから。

 

だから今更何を言われようが、変わる事はない。

 

 

 

「…………」

 

 

 

そして俺の言葉を聞いた少女は、俯いていた。

 

目を伏せ、口をつぐんでいる。

 

そして顔を上げたかと思うと、彼女はこう言った。

 

 

 

 

 

 

「わからない」

 

八幡「…………は?」

 

 

 

至極単純なその答え。

思わず、間抜けな声を出してしまった。

 

少女はタハハと笑い、頭をかいている。

 

いや、わからないて……

 

 

 

「……その時になってみないと、私がどうするかなんて分からないよ」

 

八幡「いやまぁ、そりゃそうなんだが…」

 

「でも、そうだなぁ。たぶんだけど……」

 

 

 

少女は俺を真っ直ぐに見つめ、その口を開いた。

 

 

 

「私はきっと、その人にも分かって貰おうとするよ」

 

 

 

少女は、微笑んでいた。

 

 

 

「その人が望んでいなくても、自分でやりたいと思ったから行動したんだよね? なら、それを分かってもらおうと頑張るよ。私なら」

 

八幡「……思いっきり否定されても、か?」

 

「思いっきり否定されても、だよ」

 

 

 

そう言って、少女はまた笑う。

 

 

何故、そこまではっきり言えるのか。

仮定の話だから、そんな事が言えるんじゃないのか。

 

最初はそう思った。だが、彼女の言葉には強い意志が感じられた。

 

 

俺なんかよりも、辛い事や大変な事を何度も乗り越えた、そんな強い意志が。

 

 

……けど、

 

 

 

八幡「……もう、遅いけどな」

 

「え?」

 

八幡「俺は、もう選択しちまった。俺があいつに出来る事は、もう無い」

 

 

 

あいつの、凛の為に、俺はプロデューサーを辞めた。

そしてそれが俺に出来る最後のプロデュースで、

 

プロデューサーを辞めた今、俺には何も出来ない。

 

 

しかし、それでも少女は言う。

 

 

 

「そんなことないよ」

 

 

 

笑って、俺の背中を押すように。

 

言葉を、投げかける。

 

 

 

「その人の為にあなたは頑張った。……なら、次はあなたの為に何かすればいいよ」

 

八幡「俺の、為……?」

 

 

 

少女は、虚空を見つめ、懐かしむように言う。

 

 

 

「『未来は今の延長……だからこそ、今を大切に。悔いの無いように』」

 

 

 

静かに、それでも良く通る声で、彼女は言った。

 

その言葉は、すんなりと俺の胸の内へと入ってくる。

 

 

 

「……今のは、私の大切な人に言われた台詞なんだ」

 

 

 

そう言って、照れくさそうに笑う少女。

 

 

 

「その人がいたから、今の私がいる。……でも、その人が遠くにいっちゃう事になってね」

 

八幡「…………」

 

「その時、今の台詞を言われて……それがずっと、私の支えになってくれた」

 

 

 

改めて、俺に向き合う少女。

その瞳の奥には、確かな輝きが見えた。

 

 

 

「あなたは、今を大切にしてる?」

 

八幡「……俺は」

 

 

 

俺は、今を大切にしているのだろうか。

 

 

 

凛の為に。

 

凛のファンの為に。

 

凛の、将来の為に。

 

 

 

俺は大切にしてきた筈だ。

 

大切だから、俺は責任を取った。

……だがそれは、あくまでプロデューサーとして。

 

プロデューサーだから、俺は凛に、余計な感情を抱いちゃいけなかった。

 

プロデューサーだから、俺は責任を取ったんだ。

 

 

なら、今の俺は?

 

 

プロデューサーとして、俺にもう出来ることはない。

 

なら、比企谷八幡としての俺には、もう出来ることは無いのか?

 

 

……そんな事は、ない。

 

そんな事はないはずだ。

 

 

プロデューサーではなく、ただの比企谷八幡として。

 

 

俺の為に。

 

比企谷八幡として。

 

俺に、出来ること。

 

 

 

八幡「……未来は今の延長。だからこそ、今を大切に。悔いの無いように…」

 

 

 

なら……

 

 

 

俺は、どうしたい?

 

 

 

 

 

 

「おーいっ!」

 

 

 

その時、改札側から呼びかける声が聞こえてくる。

 

小走りで駆け寄ってくるのは、一人の若い男性。

 

スーツ姿でメガネをかけており、爽やかな印象。

何となく、十時愛梨のプロデューサーを思い出した。

 

 

恐らく、彼が待ち合わせをしていた相手なんだろう。

 

 

 

「あっ、もう! 遅いですよ!」

 

 

 

椅子から立ち上がり、抗議するように言う少女。

だが、別に本気で怒っているわけではないらしい。

 

何となく、俺もつられて椅子から立ち上がる。

 

 

 

「すまんすまん、前の仕事が長引いてな……あれ、そちらの方は……?」

 

 

 

その青年は俺に気付くと、それとなく少女に訪ねる。

 

 

 

「ふふ、熱心なアイドルファンです」

 

 

 

設置されたテレビに視線を向けつつ、ご丁寧にそう説明してくれる彼女。

いやいやいや。その説明だと俺完全にただのアイドルオタクみたいじゃないですか。否定できないけど。

 

俺が苦虫を噛み潰したような顔をしていると、青年は目を丸くし、その後微笑む。

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

その様子は、何かに気付いたようでもあった。

 

 

 

「……なぁ、ちょっと音無さんに遅れるって電話してきて貰えるか?」

 

「え? 私がですか?」

 

「あぁ。……俺がすると、怒られそうだろ?」

 

 

 

申し訳なさそうに頼む青年を見て、少女は「分かりました」と言って頷く。

ケータイを取り出し、少し離れた所まで歩いて電話をかけ始めた。

 

その場には、俺と青年が取り残される。

 

 

 

「……その格好、今日は学校に?」

 

 

 

青年は、そう言って俺に訪ねてくる。

言葉には何となく、優しさが含まれているような気がした。

 

 

 

八幡「ええ。……まぁ、行く途中で嫌になってサボっちゃいましたけど」

 

「それは頂けないな」

 

 

 

苦笑し、テレビへと視線を向ける青年。

 

 

 

「……ここにいて、いいのかい?」

 

八幡「…………」

 

 

 

微笑みながら、青年は問いかける。

 

俺は、沈黙で答えるのみ。

 

 

 

八幡「…………一個、訊いてもいいですか?」

 

 

 

逆に俺は、青年へと問うた。

 

 

 

「なんだい?」

 

八幡「あなたから見て、俺のやった事は……正しいと思いますか?」

 

「……そうだね」

 

 

 

とても難しい質問をされたように、彼は目を伏せる。

 

だが、答えは存外すぐに返ってきた。

 

 

 

「思うよ。君は、正しい事をしたと思う」

 

八幡「……」

 

「プロデューサーとして、ね」

 

 

 

彼は俺の方へと向き合い、真っ直ぐにその瞳を向けてくる。

 

 

 

「プロデューサーとして、最善の手だったと俺は思う」

 

 

 

それはつまり、個人の気持ちは捨ててという事。

彼は、暗にそう告げていた。

 

 

 

八幡「プロデューサーとして、ですか」

 

「ああ」

 

八幡「……なら、俺自身にとっての答えって、なんなんでしょうね」

 

 

 

俺の呟きに、しかし彼は笑って言う。

 

 

 

「……もう、答えは出てるんじゃないのか?」

 

 

 

それは、答え合わせのようなもの。

 

 

 

そうだ。

 

初めから、本当に最初っから。

 

俺は、ずっと気付いていた。

 

 

 

なら……

 

 

 

 

 

 

俺は、こんな所で何をしている?

 

 

 

 

 

 

そう思った瞬間、俺は動く。

 

青年へと真っ正面に向き合い、深く頭を下げる。

その行動に青年は面食らうが、お構い無しに告げる。

 

 

 

八幡「ありがとうございました」

 

 

 

しっかりとお礼を言い、頭を上げる。

 

 

 

八幡「……彼女にも、お礼を言っておいてくれますか?」

 

 

 

その一言で、彼には伝わったようだ。

チラッとだけ電話をしている少女に視線を向け、その後微笑み、頷く。

 

 

 

「ああ。ちゃんと伝えておくよ」

 

 

 

その言葉に、思わず俺も笑いを零す。

 

すると、青年はポツリと呟いた。

 

 

 

「……君は、良い目をしているね」

 

 

 

思わず、目を見開く。

まさか、俺のこの目を褒めてくれる奴がいようとは。

 

 

 

八幡「皮肉ですか?」

 

「まさか。……大事なものを見据えている、良い目だよ」

 

八幡「……そんな事言われたの、初めてですよ」

 

 

 

そう言って、思い出す。

 

そういや、俺なんかを誘ってくれたお人好しのあの人も、褒めてくれたっけ。

俺は苦笑し、また軽く頭を下げる。

 

 

 

八幡「それじゃ、失礼します」

 

 

 

そして、その場を後にする。

 

 

 

走れ。

 

 

 

とにかく走れ。

 

 

 

 

 

 

まだ、終わっちゃいないーー!

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

「行ったか……」

 

 

 

青年は、以前微笑みながらその背中を見送る。

 

 

 

「あれ、もう行っちゃったんですか?」

 

 

 

背後からの声に青年が振り向くと、そこには電話を終えたのか、リボンの少女が立っていた。

 

 

 

「ああ。……春香にお礼を言っておいてくれって頼まれたよ」

 

「そうですか……私なんかの言葉が力になってくれたんなら、嬉しいな」

 

 

 

微笑み、少女は照れくさそうに言う。

 

 

 

「彼を見てたら、昔の自分を思い出したよ。頑張ってほしいなぁ」

 

「プロデューサーさんったら。そんな事言って、今後強力なライバルとなって立ち塞がるかもしれませんよ?」

 

「あはは、それは大変だ。敵に塩を送るような真似しちゃったかな……?」

 

 

 

そう言いつつも、二人の表情は明るい。

 

まるで、あり得たかもしれない未来の共演を、楽しみにするかのように。

 

 

 

一人の少年を、見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る。

 

 

駅の中を駆け、とにかく急ぐ。

 

足が、止まるなと勝手に動く。

 

 

正直、虫の良い話なんだとは思う。

俺はプロデューサーとして責任を取って、もう凛にしてやれる事はない。

 

そう、思っていた。

 

 

けれど、俺個人として。

比企谷八幡として、まだ出来る事があるんじゃないか。

かけてやれる言葉があるんじゃないか。

 

 

……いや違う。

 

 

俺が、俺の為にしたいのだ。

大した事じゃなくっても、いい結果にならなかったとしても、とにかく行動したい。

 

そう思ったら、いても立ってもいられなかった。

 

そうだ。

俺はプロデューサーである前に、

 

 

比企谷八幡なのだ。

 

 

なら、後は行動するだけだろう。

 

走れ。

 

 

 

とにかくーー走れ!

 

 

 

駅の中で、時刻表と駅周辺の見取り図を見つける。

それを確認し、現在の時刻と照らし合わせる。

 

 

もう既にライブは始まっている。

だが、凛のソロまではいくらか時間はある筈だ。

 

それまでに、あいつが歌う前に、何としてでも会いたい。

 

あいつに、この気持ちを伝えたい。

 

 

時刻表と時計を見ながら、算段を立てる。

 

電車は……ダメだな。次のに乗っても間に合わない。

しかも駅からもそれなりに距離があるし、そっからの足も問題になる。

 

バスも恐らくは似たようなもの。

会場近くまでは直接行けても、時間がかかるようじゃ意味がない。

 

なら、タクシーはどうだ?

 

……いや、距離があり過ぎる。超かっ飛ばしたとしてもギリギリだ。

今日は土曜。どう考えたって混むし、会場付近となったら尚更だ。

 

 

となると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「……………………」

 

 

 

 

 

 

どう考えたって、間に合わなくね?

 

 

 

 

 

 

一瞬、思考が止まる。

 

 

 

 

 

 

間に合わねぇぇええええええええええッ!!???

 

 

 

思わず、その場でリアルに頭を抱えてしまった。

 

 

え、え、あんだけ威勢良く走り出しといて、間に合わないの?

何それ格好悪過ぎる。

 

いやいや、んな事言ってる場合ではない。

どうにかして、どうにかしてこの状況を打破しなければ。

 

どうする。考えろ、考えろマグカイバー……!

 

 

 

八幡「……………そういや」

 

 

 

そこで、思い出す。

 

あいつらにも、チケットは送っておいた。

なら、きっと会場にいる筈。

 

 

俺はケータイを取り出すと、スパムメールのような登録名を選択する。

 

 

……総武高の困った奴は、ここに頼むんだよな。

今にして思えば、確かに、あいつらは頼れる存在かもしれない。

 

なら、俺が頼み事をするのも当然のことだ。

 

 

俺は、電話をかけた。

 

 

 

…………。

 

 

 

何度も、コール音が鳴り響く。

 

 

 

……出ないな。

 

 

 

と、俺が諦めかけた時だった。

 

子気味良い音と共に、着信に応答した旨が画面に表示される。

 

 

 

由比ヶ浜『ヒッキー!? ヒッキーなのッ!?』

 

 

 

思わず耳から電話を離したくなる程の声量。

だが、こいつなら出てくれるって思ってたぜ。

 

 

 

八幡「ああ。そのヒッキーだ」

 

由比ヶ浜『もう! 心配したんだよ! 何も連絡寄越さないし! ってか、今どこ!? ライブには来ないの!?』

 

 

 

だから声デケーって。

いや、ライブ会場にいるから声大きくしてんのか?

 

……それはねーか。電話するんなら、さすがに会場は出ないと迷惑だろう。

 

 

 

八幡「落ち着け。それより、そこに雪ノ下はいるか?」

 

由比ヶ浜『え? ゆきのん? いるけど…』

 

八幡「代わってくれ」

 

 

 

由比ヶ浜づてでも良かったが、如何せん今は時間が無い。

とにかく、早く事を運びたかった。

 

由比ヶ浜は若干不服そうにしながらも、すんなり代わってくれた。

 

 

 

雪ノ下『もしもし。比企谷くん?』

 

八幡「雪ノ下。頼みがある」

 

雪ノ下『……代わってそうそう、いきなりね』

 

 

 

その声には呆れが多分に含まれていたが、どこか、安堵したような声音も感じる。

いや、雪ノ下に限ってそれはねぇか。

 

 

 

八幡「悪いが、時間が無いんだ。頼む」

 

雪ノ下『……なら、一つだけ確認させて貰えるかしら』

 

 

 

そう言った雪ノ下は、相変わらず良く通る声で俺に尋ねる。

 

 

 

雪ノ下『その頼みは、奉仕部への依頼? それとも、プロデューサーとしての頼み?』

 

八幡「……いや」

 

 

 

その問いに対する答えは決まっている。

俺は、はっきりと言葉を返す。

 

 

 

八幡「俺個人の、お前らへの頼みだよ」

 

 

 

奉仕部も関係なければ、俺はプロデューサーでもない。

これは、単なる俺の我が侭だ。

 

だから、こいつらにしか頼めない。

 

 

 

雪ノ下『そう……』

 

 

 

俺の言葉を聞いて、なんとなく、雪ノ下は笑っているような気がした。

電話越しなのだから、実際どんな顔をしているかは分からない。

 

けれど、不思議とそう感じた。

 

 

 

雪ノ下『分かったわ。それで、頼みというのは?』

 

八幡「ああ。まず、どうにかして凛のソロの前に会場へ行きたい」

 

 

 

その後は簡潔に状況を説明する。

 

今現在いる場所。利用出来る交通手段では間に合わない事。

そして、凛のソロまでの恐らくの時間。

 

それを聞いた雪ノ下は、少しだけ考えた後呟く。

 

 

 

雪ノ下『まず無理ね』

 

 

 

ですよねー。

 

思わず、口からついて出そうになった。

 

 

 

雪ノ下『……けれど、どうにかするわ』

 

 

 

しかしそこはそれ。

やはり、雪ノ下雪乃は有能であった。

 

 

 

雪ノ下『発想の転換で、プログラムの方を変更して貰いましょう』

 

 

 

……は?

 

今、こいつは何と言った?

 

 

 

八幡「プログラムの変更って……お前、曲順を変えるって事か?」

 

雪ノ下『そのつもりで言ったのだけれど?』

 

 

 

いやいや、そんなしれっと言いのけられても。

 

 

 

雪ノ下『あまり使いたくは無い手段であるけれど、アイドルの子たちにお願いしてみるわ』

 

八幡「お願いしてみるわって……あーでも、アイツらなら普通に承諾しそうで怖い……」

 

 

 

なんとなく、その光景が目に浮かぶ。

だがアイドルが良いと言ったからって、そんなに簡単に通るとも思えない。

 

しかし意外な事に、雪ノ下は自身満々に言う。

 

 

 

雪ノ下『あなたの名前を出せば、少しは良い返事を期待できるんじゃないかしら』

 

 

 

思わず、言葉を飲み込んでしまった。

まさか雪ノ下から、そんな事を言われる日が来るとは。

 

 

 

八幡「……どうだろうな。逆に反対意見が出るかもしれないぞ」

 

雪ノ下『さて、どうかしらね』

 

 

 

ふふっと、彼女は今度こそ確かに笑った。

全く……

 

ホントにこいつには、敵わない。

 

 

 

雪ノ下『それじゃあ時間も無いし、早速こっちは行動に移るわ』

 

八幡「ああ。すまんが頼む」

 

雪ノ下『それと最短の移動手段だけど、こちらで準備が出来次第連絡するから、そのまま待機していて頂戴』

 

 

 

は? 準備出来次第って、何を準備するんだ?

 

それを確認しようと口を開くが、しかし電話の向こうで相手が代わってしまう。

 

 

 

由比ヶ浜『ヒッキー! なんだかよく分からないけど、アタシも手伝うから!』

 

 

 

必死にそう告げる彼女の声を聞いて、思わず苦笑が漏れる。

ホント、どこまで行っても“優しい女の子”だな。お前は。

 

 

 

八幡「……ああ。頼む」

 

由比ヶ浜『っ! ……うん!』

 

 

 

嬉しそうに返事をする由比ヶ浜を最後に、電話は切れる。

 

アイツらなら、きっと大丈夫だろう。

そんな気持ちが、確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『西側駅出入口の駐車場にて待機』

 

 

由比ヶ浜のアドレスからそうメールが届いてきたのは、電話を切って10分後の事であった。

 

この簡潔なメール、明らかに雪ノ下が打ったものだと分かる。

まぁ、今は状況が状況だからな。

 

 

その命令通り、俺は指定された場所に立つ。

 

しかし雪ノ下が準備すると言った辺り、あいつが足を用意したって事だよな?

そうなると、まさかリムジンがお出迎えしてくれたりするんだろうか。

 

しかし、俺のその予想はある意味で大きく外れる事になる。

 

 

 

気付けば、猛スピードで近づいてくる車が一台。

 

駅前の急カーブをものともせず、まさかのドリフト。

そのまま俺の眼前へピタリと駐車し、エンジン音を唸らせる。

 

 

彼女は、その姿を現した。

 

 

 

 

 

 

平塚「乗りたまえ。急いでいるんだろう?」

 

 

 

 

 

 

いや、格好良過ぎねぇ? いやマジで。

 

今回ばかりは、惚れても仕方が無い。

 

 

その劇的過ぎる登場に俺は最初硬直していたが、ハッと我に帰り、ドアを開けて車に乗り込む。

その直後、車は直ぐに発進しだす。

 

 

 

八幡「あの、場所は…」

 

平塚「心配ない。雪ノ下から聞いてるよ」

 

 

 

進行方向から目を離さず、そのまま答える平塚先生。

口には煙草をくわえており、それがまた相変わらずカッコイイ。

 

 

なるほどな。雪ノ下の言っていた移動手段とはこれの事か。

確かに、平塚先生の車なら並の車よりずっと速い。

 

でも、それならまだタクシーのが早かったんじゃ…

 

 

 

平塚「今日はライブの他にも、色々とイベントをやってるらしくてね。中々タクシーも拾えないそうだ」

 

 

 

と、まるで俺の心を読んだかのようなタイミングで声をかけてくる平塚先生。

そして、チラッと俺へと視線を向ける。

 

 

 

平塚「それとも、私の運転では不満かな?」

 

八幡「め、滅相も無い」

 

 

 

ふるふると首を振り、否定する。

やべぇな、やり辛い。

 

 

俺は一体いつあの話を振られるのかと、内心ビクビクしていた。

 

いや感謝もしているのだが、それ以上におっかなかった。

 

 

 

平塚「比企谷」

 

八幡「っ!」 ビクッ

 

平塚「……何か、言う事があるんじゃないのかね?」

 

 

 

き、来たァ!!

 

やべぇよ、これ完全に怒ってるよ……

仕方あるまい。これ以上怒らせる前に、正直に謝っておいた方が吉だ。

 

 

 

八幡「…………ほ」

 

平塚「ほ?」

 

八幡「補習サボってすいませんでしたぁっ!!」

 

平塚「そっちじゃなぁーーーいいッ!!!」

 

 

 

瞬間、真横から拳骨が飛んできた。

ビルドナックルもびっくりの威力である。

 

俺が打たれた側頭部をさすっていると、平塚先生が呆れたように言ってくる。

 

 

 

平塚「私が言っているのは、君がプロデューサーとしてやった事だ」

 

八幡「……」

 

平塚「それ自体は咎めたりはしない。……だが、一言くらい相談してくれても良かっただろう」

 

 

 

そう言う平塚先生は、怒っているというよりは、悲しんでいるようだった。

どうして、生徒が先生に相談してくれないのかと。

 

まるでそう言うように。

 

 

 

八幡「……すいません」

 

平塚「……まぁ、いいさ。今はこうして力になれるのだから」

 

 

 

平塚先生は、笑う。

本当に、迷惑をかけてばっかりだ。

 

 

そしてふと、ケータイが鳴る。

着信は由比ヶ浜から。まぁ雪ノ下からという可能性もあるが。

 

俺は確認の意味で平塚先生に視線を向けると、先生は構わないと首肯する。

 

画面をスライドさせ、俺は電話に出た。

 

 

 

八幡「もしもし」

 

 

 

ちひろ『もしもし? 比企谷くん?』

 

未央『本当に出た!』

 

卯月『由比ヶ浜さんからの着信だと、ちゃんと出るんですね~』

 

加蓮『もしかして、実はそういう関係だったり?』

 

奈緒『なっ……た、確かに前々から怪しいとは思ってはいたが…』

 

由比ヶ浜『え、えぇ!? いや、別にそういうんじゃなくて…』

 

美嘉『なんか、そうやって必死に言い訳する方が怪しいような~?』

 

輝子『フヒ……八幡、こっちに来るの……?』

 

雪ノ下『ええ。……だから、そろそろ本題に移ってもいいかしら?』

 

 

 

電話に出たらアイドルだらけであった。

 

いや、お前らライブ中だろ!?

 

 

時間を確認する。

今のメンバーから考えて、恐らく今は楓さんが歌ってるのか?

 

 

 

ちひろ『比企谷くん。雪ノ下さん達からお願いされた通り、曲順は何とか変更出来そうです』

 

八幡「そうですか。……本当にありがとうございます」

 

 

 

またも、この人に迷惑をかけてしまった。

だが、ちひろさんは笑いながら言ってくれる。

 

 

 

ちひろ『何言ってるんですか。私と比企谷くんの仲ですよ♪』

 

 

 

その言葉に、俺も思わず笑みを零す。

 

 

 

八幡「はい。……そういや、凛は?」

 

雪ノ下『安心して。ここにはいないし、事情も説明していないわ』

 

由比ヶ浜『一応、演出の手違いって事にして貰ったから!』

 

 

 

それは、また何とも不安になる言い訳だな。

だが、凛に言っていないのは助かった。

 

出来れば、俺の口から直接言いたい。

 

 

 

奈緒『そういうわけだから、早く来い!』

 

加蓮『それと、後でちゃんと説明して貰うからね?』

 

美嘉『そーそー。プロデューサー辞めるとか、アタシたちも納得してないし?』

 

輝子『八幡……待ってるから』

 

未央『まだまだ、言ってやりたい事がいっぱいあるんだから!』

 

卯月『凛ちゃんも、きっと待ってますよ!』

 

八幡「……お前ら」

 

 

 

その言葉を聞いて、感情が昂る自分を感じる。

今更、本当に今更なのに。

 

こいつらの臨時プロデュースをして、本当に良かった。

 

 

 

蘭子『……プロデューサー』

 

八幡「っ!」

 

 

 

そこで、初めて蘭子の声を聞く。

てっきり、別室で準備していると思ったのだが。

 

 

 

蘭子『その魂……解き放てっ!!』

 

 

 

顔が見えなくても、ノリノリで言ってるのが分かる。

……ホントに、意味分かんねぇよ。

 

 

けど、

 

 

 

八幡「……ああ。ありがとな」

 

 

 

充分、伝わった。

 

 

すると、電話の向こうで「デレたープロデューサーがデレたー」と大騒ぎ。

いやデレてねぇし。ただちょっと素直に感謝しただけだし。

 

……いや、それがデレたって言うのか。

 

 

思わず、自分で自分に笑ってしまった。

 

 

 

雪ノ下『そういうわけだから、あなたも急いで頂戴。変更したとはいえ、それでも時間ギリギリよ』

 

八幡『ああ。分かった』

 

由比ヶ浜『ヒッキー、頑張ってね!』

 

 

 

そして、電話は切れた。

 

あいつらに頼んで本当に良かった。

時間もそうだが……

 

 

こんなに、勇気を貰えるなんて。

 

 

と、そこで平塚先生が申し訳なさそうに言う。

 

 

 

平塚「比企谷。悪いが、私に出来るのはここまでのようだ」

 

 

 

言われて見ると、辺りは酷い渋滞。

これでは、もうまともに動けない。

 

 

 

平塚「ここからなら、直接走った方がまだ早い。行きたまえ」

 

八幡「分かりました。……平塚先生、本当にありがとうございました」

 

 

 

シートベルトを外し、お礼を言う。

だが、平塚先生はそれを何て事のないように笑い飛ばす。

 

 

 

平塚「何を言う。私は当然の事をしたまでだ」

 

八幡「教師が生徒の背中を押すのは当然の事……ですか?」

 

 

 

いつか、俺がプロデューサーになるのを悩んでいた時に言われた言葉だ。

普段のお返しとばかりに、俺は先回りして言ってやる。

 

 

 

平塚「いいや、違うな」

 

 

 

しかし、平塚先生はそれすらも違うと言う。

 

 

 

 

 

 

平塚「……“私”が“比企谷”を助けたいんだよ。当たり前だろう?」

 

 

 

 

 

 

そう言って、彼女は笑った。

 

 

 

八幡「……っ」

 

 

 

本当に、何でこの人は……

 

 

俺は無言で車から降り、扉を閉める前に言ってやる。

 

 

 

八幡「本当に、何で結婚出来ないんだよあんた!」

 

 

 

そして、思いっきりドアを閉めて走り出した。

 

 

後ろからは「な!? ちょっ、後で覚えてろよ比企谷ァー!!」という怒鳴り声が聞こえてくる。

が、俺はそれを無視。

 

そのまま走り続ける。

 

 

 

本当に、ありがとうございます。

 

……そろそろ、俺が貰っちまうぞマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケータイの地図をチェックしつつ、その足は止めない。

 

 

人の多い道を、ぶつからないように気を配りつつ、とにかく走る。

途中何度かぶつかりそうになり、転びそうになりつつも、それでも止まらない。

 

 

急げ、急げ!

 

息を切らしながら、俺は走り続ける。

 

 

時間を確認。

くそっ、このペースだとヤバイな……!

 

 

思ったよりも渋滞が酷かった為、雪ノ下の計算よりも近くまで車で行けなかった。

さっき平塚先生が言っていた通り、他のイベントやらが影響しているのだろう。

 

どうする? どうすれば……

 

 

と、そこで不意に声を聞く。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃーーんっ!!」

 

 

 

 

 

 

それは、絶対に聞き逃す事も、聞き間違える事もない声。

 

声がした方を振り向けば、やはり、彼女が立っていた。

 

 

 

小町「お兄ちゃん! こっちこっち!」

 

 

 

妹の、小町だ。

 

 

 

八幡「小町!? なんでここに…」

 

 

 

とりあえず、近くまで走り寄る。

すると、そこで気付くが、小町はある物を携えていた。

 

 

 

八幡「これって…」

 

小町「うん。お兄ちゃんの自転車」

 

 

 

そこにあったのは、俺が今朝自宅に置いてきたチャリだった。

チェーンは、直っている。

 

 

 

小町「お母さんがお父さんに頼んで、直しといてくれたんだ。折角の休みにーってぼやいてたけど」

 

 

 

そう言って、クスクスと笑う。

っていうか、なんでお前…

 

 

 

八幡「由比ヶ浜に、聞いたのか?」

 

小町「うん。ここまでは、雪乃さんの家のリムジンで来たんだ」

 

 

 

小町が視線を向けた方を見れば、そこには黒いリムジンが停めてあった。

雪ノ下の奴、ここまで考えていたとはな……

 

さすがの俺も、舌を巻く。

 

 

 

小町「ほらほら、早くしないと!」

 

 

 

小町に促され、俺は自転車に跨がる。

確かにこれなら、こっからでも間に合うかもしれない。

 

 

 

小町「あっ! そうだそうだ。あとこれ……はいっ」

 

 

 

何かを思い出したかのように、小町は持っていたカバンからそれを取り出す。

 

それは、一本のネクタイとネクタイピンだった。

 

 

 

八幡「お前、これ……」

 

小町「さすがにスーツは無理だったけど……それ着けて、ビシッと行ってきなよ」

 

 

 

俺がプロデューサーになると決まった時、小町に選んでもらったネクタイ。

 

だけど、俺は……

 

 

 

八幡「けど、俺もうプロデューサーじゃねぇし…」

 

小町「なーに言ってんの」

 

 

 

小町は、俺の戸惑いを物ともせずに言う。

 

 

 

小町「小町はお兄ちゃんにそれを選んであげたんだから。だから、そんなの関係ないよ」

 

 

 

子憎たらしいくらい、可愛くウィンクしてそう言った。

 

 

 

八幡「……おうっ」

 

 

 

その場で、素早くネクタイを締める。

 

もうこの作業も慣れたものだ。

30秒とかからず終え、ネクタイピンで留める。

 

 

 

小町「さぁ、とっとと行っちゃえ!」

 

八幡「おうっ!」

 

 

 

思いっきり、ペダルを漕ぐ。

 

全力で、俺は自転車を走らせた。

 

 

 

八幡「愛してるぜ、小町!」

 

小町「私もだよ、お兄ちゃん! 特別に今だけ!」

 

 

 

俺の魂の叫びに対する答えはそっけなく、思わず泣きそうになったが、

 

それでも、今は背中を押してくれる。

 

 

 

なら、俺は頑張れる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漕ぐ、漕ぐ。

 

 

 

ペダルを全力で踏みつけ、自転車を走らせる。

 

 

もう、体力も限界に近い。

ゼェハァと、息が切れる。

 

 

けれど、そのスピードは緩めない。

 

 

ライブ会場まで、もうそう距離は無いはずだ。

このまま行けば、間に合、うッ……!?

 

 

ガクンと、力が空回りするのを感じた。

 

 

軽くコケそうになり、足を踏み外したのかと錯覚したが、そうではないらしい。

 

見れば、チェーンがまた外れていた。

 

 

親父ぃーー!?

やっつけ仕事かオイ!!

 

 

 

……まぁけど、

 

 

 

八幡「ありがとよ畜生ッ!!」

 

 

 

近くにあった駐輪場付近にチャリを乗り捨て、再び走り出す。

若干申し訳ないが、今は事態が事態だ。

 

ちゃんと後で回収しておく。材木座が!

 

 

限界が近い足で、走る。

 

 

くそっ、こんな事なら、普段からもっと運動しておくんだった。

そんなテンプレな後悔を胸に抱きつつ、それでも足は止めない。

 

とにかくひたすら、走る。

 

 

 

八幡「…っ………く……!」

 

 

 

こうして走っている間にも、

 

思い出すのは、一人の女の子。

 

 

 

『ふーん、アンタが私のプロデューサー? ……まぁ、目が腐ってるとこ意外は悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね』

 

 

『隣で私のこと……見ててね』

 

 

『なんで私も連れてってくれなかったの!?』

 

 

『いやいや、その前に、プロデューサーの正式な担当アイドルは私だからね?』

 

 

 

 

八幡「っ……はぁ……ッ!」

 

走れ……

 

 

 

 

『ここまで来れたのは、プロデューサーのおかげ。…………ありがとう、プロデューサー』

 

 

『ホント、プロデューサーは腐った目の割に、よく見てるよね』

 

 

『い、一番、大切な人…………ふーん、そっか。そうなんだ……』

 

 

 

 

八幡「……っ……はぁ……はぁ……!」

 

走れ。

 

 

 

 

『ずっと……こんな日が続くといいね』

 

 

『それなら…………私、頑張るから』

 

 

 

 

八幡「くそっ…………っ…!!」

 

 

走れーー

 

 

 

 

 

 

『さよなら』

 

 

 

 

 

 

八幡「っ……ぐっ……あぁぁあああああああッ!!!」

 

 

 

走れッ!!!

 

 

 

 

 

 

ただただ、走り続ける。

 

 

 

恥も外聞も、何もかもを捨てて、ひたすら。

 

柄にも無いと思う。

 

 

けど、そんな事を考えてる余裕も無かった。

 

今はただ、あの子のもとへ。

 

 

 

ただただ、ひたすらーー

 

 

 

 

 

 

ーーそして、見えてくる。

 

 

 

シンデレラプロダクション、アニバーサリーライブの会場が。

 

凛の、いる場所が。

 

 

 

 

八幡「はぁ…はぁ…………やっと、着いた…」

 

 

 

息を整えつつ、とりあえず時間を確認。

大丈夫だ。まだ雪ノ下が言っていた時間まで少しある。

 

何とか、間に合った。

 

 

 

八幡「つーか…はぁ……どこに、行けばいいんだ……?」

 

 

 

会場に入るのはいいが、真っ正面から行ったって警備員に止められる可能性がある。

雪ノ下たちが説明してくれているといいんだが……

 

 

……つーか、全力疾走のダメージが案外キツい。

ちょっと吐きそう。

 

 

フラフラとおぼつかない足取りで歩き、会場玄関をくぐる。

会場内に入れないとはいえ、辺りには人が多い。

 

ライブを見れなくとも、声を、一目でも、というファンで溢れていた。

 

 

正直ゴシップ記事で顔バレしているから、気付かれないかと不安だったが……バレる様子はない。

安心したけど、それはそれで複雑だな。

 

所詮は、俺への興味などその程度なのだろう。

 

凛が解放された今、そのプロデューサー等どうでもいいらしい。

 

 

とりあえず一番可能性の高い、関係者以外立ち入り禁止の所まで行ってみたが……

 

やはりというか、警備員に止められた。

 

 

 

八幡「いやだから、確認して貰えれば分かる筈なんです」

 

警備員「君ね、そんな言い訳こっちは飽きる程聞いてきたわけ。大体、君みたいな若い関係者見た事無いよ」

 

 

 

七面倒とばかりに言う警備員。

いや確かにその通りだから困る。ぐうの音も出ん。

 

いやはや、俺が困っていると、しかし女神は現れた。

 

 

 

未央「警備員さん、その人は大丈夫だよ☆」

 

卯月「ちゃーんと関係者ですから、安心してください♪」

 

 

 

奥側の通路からのその声。

 

島村と本田が、そこにいた。

 

 

 

八幡「お前ら……」

 

警備員「しまむーにちゃんみお……!? あ、これは失礼しました!」

 

 

 

思わず素に戻った警備員が慌てて謝罪する。

つーか、お前もアイドルオタクかい……

 

 

 

卯月「やっと来たんですね。凛ちゃん、まだ控え室にいる筈ですから」

 

未央「ちゃちゃっと行ってきなよ。ここは私たちに任せてさ」

 

 

 

そう言って、二人は道を指し示す。

 

この先へ行けば、凛がいる。

 

 

……思えば、この二人は凛に次いで長い付き合いのアイドルになる。

もしかしたら、凛ではなくどちらかのプロデューサーになっていたかもしれない。

 

二人は俺の事を、プロデューサーだと最初から言っていた。

 

なら、俺も、誠意を持って答える。

 

 

 

例え、今はプロデューサーじゃなくっても。

 

 

 

八幡「……ありがとな。卯月、未央」

 

 

 

本当に感謝の気持ちを込めて、言う。

 

そして俺の言葉に二人は驚き、やがて微笑む。

 

 

 

未央「全くもう。……言うのが遅いよ!」

 

卯月「今それを言うなんて……ずるいです」

 

 

 

悪いな。素直じゃないのが俺なんでね。

 

俺は苦笑し、歩き出す。

 

 

警備員が一瞬止めにかかるが、それも卯月と未央に制される。

 

後は、二人に任せよう。

 

 

 

後は、この先へ向かうだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処からか、歓声が聞こえてくる。

 

 

 

きっと、今頃ライブは最高潮になっているんだろう。

 

それに引き換え、裏側は静かなものだった。

 

 

廊下を歩く内に、会場の奥へと自然と進んでいく。

控え室付近は人が少なく、ほとんどのスタッフが出払っているようだ。

 

 

俺は、凛の姿を探して歩き続ける。

 

 

 

コツコツと、俺の足音が響く。

 

 

 

そして、

 

 

 

それと重なるように、扉の開く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

八幡「……っ…」

 

 

 

 

 

 

その後ろ姿は、見間違えるはずがない。

 

 

やや茶色みがかった、長い黒髪。

蒼を基調とした、ゴシック衣装。

 

 

 

渋谷凛が、そこにいた。

 

 

 

まだ、凛は俺に気付いていない。

 

そのまま、ステージへと歩いていく。

 

 

どうした。声をかけろ。

 

躊躇ってんじゃねぇ。

 

 

何の為に、俺はここへ来た?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「ーーーー凛ッ!!」

 

 

凛「ーーーーっ」

 

 

 

俺は叫び、そして彼女は、立ち止まった。

 

 

 

凛「…………何しに、来たの」

 

 

 

凛は、振り返らない。

 

俺に背中を向けたまま、問いかけてくる。

 

 

 

八幡「……お前に、ちゃんと話そうと思って来た」

 

 

 

俺は静かにそう告げる。

だが、凛はその言葉が気に入らなかったようだ。

 

 

 

凛「ーーッ!!」

 

 

 

バッと振り返り、一心に俺へと視線をぶつける。

 

その顔には哀しみと、それ以上に怒りが込められていた。

 

 

 

凛「今更! ……今更、何を話すって言うの?」

 

 

 

今にも泣き出しそうで。

 

溢れる思いを、堪えられないようで。

 

 

彼女は、言葉を俺へぶつける。

 

 

 

八幡「……すまん。お前からすれば、身勝手な事を言ってるのは分かってる」

 

 

 

だから俺は、それに答える。

 

自分の全てを以て。

 

 

 

八幡「けど……俺はどうしても、お前に伝えたい事がある。……だからここに来たんだ」

 

凛「伝えたい…こと……?」

 

 

 

呆然と呟く凛。

 

しかしやがて、僅かな希望を見つけたかのように、俺へ問う。

 

 

 

凛「もしかして……また、私のプロデューサーに…………?」

 

八幡「…………」

 

 

 

それはきっと、本当に望ましい未来なんだろう。

 

俺も、心からそうありたいと思う。

 

 

……でもそれは、お伽噺でしかない。

 

 

 

 

 

 

八幡「……いや」

 

 

 

 

 

 

だからーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「俺は、プロデューサーには戻らない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛に、ちゃんと伝えるんだ。

 

 

 

 

 

 

凛「ーーっ」

 

 

 

目を見開き、口をつぐむ凛。

希望を断たれ、もう何も受け入れられないように、立ちすくむ。

 

 

けど、そうじゃないんだ。

 

 

俺はプロデューサーとしてではなく、

 

比企谷八幡として、ここへ来た。

 

 

 

八幡「俺はもうプロデューサーじゃない。……けど、それでもお前に伝えたい事がある」

 

凛「……さっきからプロデューサーは何をっ…」

 

八幡「だから、プロデューサーじゃねぇって」

 

 

 

凛の言葉を断じる。

 

すると凛はあからさまにムッとなり、不機嫌さを隠そうとせずに言う。

 

 

 

凛「なら、八幡」

 

八幡「う…」

 

凛「八幡は、私に何を言いたいの?」

 

 

 

毅然とした態度でそう言う凛。

 

 

ここでまさかの名前呼び。

いや、確かにプロデューサーじゃないとは言ったが、さすがに予想外である。

 

何気に、名前で呼ばれたのは初めてであった。

 

 

 

八幡「ああーっとだな……」

 

 

 

我ながら情けない。

名前で呼ばれた程度で、ここまで動揺するとは。

 

気を取り直して、言葉を選ぶ。

 

 

 

八幡「……ここで少し、俺の友達の話をしていいか」

 

凛「…………」

 

 

 

凛は思いっきり怪訝な顔をするが、その後首肯する。

良かった、ここで断られたらどうしようかと思った。

 

俺は、ゆっくりと語り出す。

 

 

 

 

八幡「……その友達は、ぼっちでな」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「昔っから人付き合いが苦手で、忘れられ、いない者として扱われるのがざらだった」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「ずっとそうやって生きてきて、人を信じるのも嫌になって、人を好きになるのも……怖くなっていった」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「そんな時、出会うんだ。一人の真っ直ぐな女の子と」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「最初は、気まぐれか気の迷いか、その子を支えてやりたいと思った。どうせ裏切られても、また一つトラウマが増えるだけだからな」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「けど、いつしか気付くんだ。その子の存在が、自分の中で大きくなっていく事に」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「その女の子は、そいつにとっては初めて感じる程尊い人で、失いたくなくて、かけがえの無い存在になった」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「でも、その子の未来は、そいつ自身の手で摘み取られちまった」

 

 

凛「……っ、それは……!」

 

 

八幡「だから、最後まで聞けって」

 

 

凛「っ………」

 

 

八幡「……本当に、絶望する思いだったんだろうな。辛くて苦しくて、後悔が募るばっかりだった」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「だから、俺がどうなってでも、何もかもを捨ててでも、女の子を助けた」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「そこに後悔はない。プロデューサーとして、俺は責任を取った。それ自体は、俺は間違っているとは思わない」

 

 

凛「…………」

 

 

八幡「けど、気付いちまったんだ」

 

 

凛「………え…?」

 

 

八幡「プロデューサーとして答えを出した後…………どうしようもないくらい、俺自身が悔やんでる事に」

 

 

 

 

俺は、凛の目を真っ直ぐに見て、言う。

 

 

 

 

八幡「プロデューサーとして、俺は最後までプロデュースを貫いた。……だから今度は、俺として、比企谷八幡として、この気持ちを伝えたい」

 

 

 

 

凛は、彼女は本当に真っ直ぐで。

 

 

こんな俺を信じてくれて。

 

 

ずっと隣に立っていてやりたくて。

 

 

いつまでも支えてやりたくて。

 

 

 

だから、だからこそ俺は。

 

 

 

 

 

 

そんなお前がーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「ーーーー好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロデューサーではなく。

 

 

 

ただの比企谷八幡として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「あなたのことが、好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、俺の気持ちを伝えた。

 

 

 

凛は、何も言わなかった。

 

ただ呆然と、立ったまま。

 

 

 

そして、何かに気づいたように。

 

何かと、向き合うように。

 

彼女は、きゅっと拳を握った。

 

 

 

俺は、その間もずっと、凛を見つめていた。

 

 

 

やがて、凛は顔を伏せる。

 

長い髪で、その表情は窺い知れない。

 

ぽたっと、雫が落ちた。

 

 

 

しかし、凛は直ぐさま目元を拭い、顔を上げる。

 

俺と同じように、真っ直ぐに俺の目を見つめ、告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛「ーーーーごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはいつかと同じ、哀しそうな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

凛「……私は、プロデューサーと約束したから。トップアイドルを目指すって」

 

 

八幡「…………」

 

 

凛「だから……今は無理、かな」

 

 

八幡「…………そうか」

 

 

 

 

凛は笑い、

 

 

そして俺も、思わず笑みが零れた。

 

 

 

……お前なら、そう言ってくれると思ってたよ。

 

 

 

だからこそ、俺は比企谷八幡としての気持ちを伝えられたし。

 

プロデューサーとして、最後までプロデュースできたんだ。

 

 

 

やがて、ステージへと繋がる会場入り口からコールが聞こえてくる。

 

 

 

凛を呼ぶ声。

 

 

恐らく、雪ノ下たちがギリギリまで時間を稼いでくれたんだろう。

 

もう、本番まで時間は無い。

 

 

 

八幡「……呼んでるな」

 

凛「うん……そろそろ行かなくちゃ」

 

八幡「大丈夫か? いきなりステージに直行で」

 

 

 

俺が笑いながら訊くと、凛もまた、笑って返す。

 

 

 

凛「当たり前だよ。誰に言ってるの?」

 

八幡「……そうだったな」

 

 

 

そうだ。

 

俺は知っている。

 

 

彼女の強さを。

 

 

その、美しさを。

 

 

 

凛「……歌、聴いてってね」

 

八幡「それこそ、当たり前だ」

 

 

 

何たって俺は、

 

 

 

凛の、ファン第一号だからな。

 

 

 

 

 

 

その一歩を、踏み出す。

 

凛はスタジオに向けて。

 

俺は反対側へ。

 

 

 

お互いに振り向かず。

 

 

 

 

 

 

二人は、歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×

 

 

 

 

× 

 

 

 

  ×

 

 

    ×

 

 

   ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイドル。

 

それは人々の憧れであり、遠い存在。

 

 

しかし、それも全てではない。

写し出された光景が真実のみとは限らない。

 

本当に性格が良いのか。恋人がいるのではないか。裏では汚い真似をしているのではないか。

そんな誹謗中傷は当然の事だ。

 

 

……だが、俺は知っている。

 

 

彼女らは懸命で、美しく、真っ直ぐだった。

 

もちろん、俺が見たものも全てではない。

俺が知る意外の所にも、アイドルの存在はいる。

 

もしかしたら俺の周りが特別だっただけで、本当のアイドルとは、やはり俺の知るものと違うのかもしれない。

 

 

……だが、そんな事はどうだっていい。

 

 

 

少なくとも俺は知っているんだ。

 

 

 

彼女たちが、人々に希望を与え、輝きを見せる存在だと。

 

そう信じて、疑わない。

 

 

少女がその輝きに憧れを抱くのは当然で、

 

夢を与える彼女らは、遠いからこそ、その場所を目指す。

 

 

そんな彼女らの力になれた事は、きっと俺の財産となる。

 

ずっと誇りに持って、生きていける。

 

 

その出会いに後悔は無いし、あるとすれば、それは感謝のみ。

 

 

 

……だから、俺は今でも胸を張ってこう言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「凛ちゃんマジ女神」

 

 

 

 

 

 

学校への道を、一人歩く。

 

 

今日は月曜日。アニバーサリーライブから、既に二日が経過していた。

 

ipodから流れる音楽を耳に、その足を進める。

『ユキトキ』、か。……良い曲だな。あいつが歌いたがったのも頷ける。あとでちひろさんに頼んでカバーの音源でも貰おうかね。

 

しかし、何故俺がチャリを使わずにこうして歩いているのか? それは簡単な事。

 

 

……引き上げるの忘れてた。

 

 

一応翌日に思い出して見には行ったのだが、当然ながらそこには何も無かった。

そりゃ、不法投棄もいいところだもんな。むしろ何故わざわざ確認しに行った俺……

 

 

なので今日は歩いて学校へ向かう。

大分早い時間に出たので、遅刻する事は無いだろう。

 

早くチャリ買わないとな……

幸い、蓄えはある。

 

 

 

あの後、ライブは無事成功。

凛も、それまでの不調が嘘のように抜群のパフォーマンスを見せた。

 

俺は卯月や未央の計らいで、特別席で見させてもらった。

金も払ってないのに申し訳なかったが……まぁ、元プロデューサーの権限という事にして貰おう。

 

それよりも、アイドルたちへの説得の方が大変だったな。

 

 

けど、これは俺が決めた事だ。

最後まで、プロデューサーとしてやり切った。

 

なら、もう思い残す事もない。

 

 

……俺自身としても、もう踏ん切りはついたからな。

 

 

 

気持ちの良い風を頬に受けながら、俺はそのまま歩く。

 

たまには、こうして通学するのも悪くない。

 

音楽を聴きながらってのもまた…………あれ。

 

 

 

八幡「……うわ、電池切れかよ」

 

 

 

不意に音が止まったので確認してみると、画面には充電切れのマーク。

昨日、充電器に繋いでおくのを忘れていたらしい。

 

 

 

八幡「マジか。ついてねぇな…」

 

 

 

その時、ひと際強い風が吹き付けてくる。

 

今歩いていたのは丁度見晴らしの良い坂道で、時折、こうして強い風が吹いてくるのだ。

俺は思わず目を瞑り、風が通り過ぎるのを待った。

 

 

やがて風は吹き止み、俺は、ゆっくりと目を開ける。

 

 

 

八幡「ーーっ」

 

 

 

瞬間、俺は目を疑う。

 

 

 

数メートル離れた、少し俺よりも高い位置。

 

 

 

木漏れ日の中、彼女は、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「…………凛」

 

 

凛「おはよ、プロデューサー」

 

 

 

 

 

 

長い髪をなびかせ。

 

いつもの制服に身を包み。

 

 

彼女は、渋谷凛は微笑んでいた。

 

 

 

凛「あっ……もうプロデューサーじゃないんだっけ」

 

 

 

凛は自分の台詞にハッとなると、少しだけ恥ずかしそうに言う。

 

 

 

凛「えっと……八幡。…………なんか、改めると恥ずかしいね。この前は平気だったのに」

 

 

 

いや、その様子は大変可愛らしいのだが…

 

そんな事はこの際どうだっていい。

 

 

 

八幡「いや、お前こんな所で何してんだよ」

 

 

 

俺は至極当然の疑問をぶつける。

しかし、それに対し凛は何の気も無しに答えた。

 

 

 

凛「何って…………プロデュ、じゃなくて、八幡に会いに来たんだけど?」

 

 

 

首をかしげ、本当に不思議そうに言う。

 

いやだから、そうじゃなくて!

 

 

 

八幡「いや、あんな事あったら、普通もう会わないんじゃねーの?」

 

凛「え? なんで?」

 

八幡「なんでって、そりゃお前、あれだよ。………あれ、俺がおかしいの?」

 

 

 

なんか、凛がさも当然のように言うもんだから俺が間違っているような気がしてきた。

 

いやいやいや、そんな事はない。

 

 

 

凛「……なんか勘違いしてるようだから、ちゃんと言っとくね」

 

 

 

凛はジト目で俺を睨んだかと思うと、その後目を閉じる。

 

そして、ゆっくりと語り出した。

 

 

 

凛「私ね。プロデューサー……じゃなくて、八幡の自分を顧みない所が、嫌い」

 

八幡「うぐ……」

 

凛「捻くれ過ぎてるのもどうかと思うし、変なとこで頑固だし、正直引く」

 

 

 

え? なんなのこれ?

もしかして俺、現在進行形でトラウマ刻まれてる?

 

この間女の子に振られ、そして今日同じ子に罵倒される奴がそこにいた。

 

 

 

凛「ぶっちゃけ私服のセンスも微妙だし、妹想いもいいけど、過度なシスコンは気持ち悪いかな」

 

八幡「ぐ……」

 

凛「その上、女の子にも気が遣えない」

 

 

 

凛は、言葉を止めない。

 

 

 

 

凛「自分が泥を被って、それで勝手に満足して」

 

 

八幡「っ………」

 

 

凛「周りにどう思われても、自分をちゃんと持ってて」

 

 

八幡「…………」

 

 

凛「大切なものを、どんな事をしてでも護って……」

 

 

 

 

凛は、その瞳を俺へと向ける。

 

 

 

 

凛「誰よりも、優しくて」

 

 

 

 

どこまでも真っ直ぐで。

 

 

 

 

 

 

ただ、一心に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛「ーーーー私は……そんなあなたが、大好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

俺は、言葉が出なかった。

 

 

 

ただただ、目を見開いて。

 

彼女の、微笑む顔を、見つめるのみ。

 

 

頭が理解するよりも早く。

 

胸の奥が、熱くなっていくのを感じる。

 

 

勝手に、涙腺が緩む。

 

 

 

八幡「……っ……お前、この前言ってた約束はどうなったんだよ…」

 

 

 

かろうじて、言葉を絞り出す。

だが、その声は情けない程にか細い。

 

 

 

凛「言ったでしょ? 『今は無理』って」

 

 

 

確かに、彼女は言っていた。

 

だけど、いやそれって……なんかずるくねぇ?

 

 

 

凛「だから、待っててほしいんだ。私がトップアイドルになるまで」

 

 

 

凛は、何て事の無いように言う。

それがどれだけ大変で、難しい道のりだと分かっていながら。

 

平然と、言ってのける。

 

 

 

凛「プロデューサーと、私はトップアイドルになるって約束したよね」

 

八幡「……ああ」

 

凛「だからそれが叶ったら……今度は、八幡との約束を叶えたい」

 

 

 

凛の顔を見れば、分かる。

 

こいつは、本気で言っているんだ。

 

 

 

八幡「……まだ、約束なんてしてねぇだろ」

 

凛「……ふーん。じゃあ、八幡は待っててくれないんだ」

 

八幡「いや、そうは言ってねぇけど……」

 

凛「じゃあ、約束ね♪」

 

 

 

そう言って、凛は珍しく無邪気に笑った。

 

照れたように、それでも、何処か嬉しそうに。

 

 

その笑顔を見ていたら、なんかどうでも良くなってしまうのだから、本当にずるい。

 

 

 

凛「……よく、人を好きになるのに理由はいらないって言うけど、私はそうは思わないな」

 

 

 

本当に思いついたように、凛は呟く。

 

 

 

凛「好きになる理由なんて、いくらでもあるよ。むしろ、あり過ぎて困るまであるかな」

 

八幡「……なんだそりゃ」

 

凛「プロデュ、……八幡は、違うの?」

 

 

 

そう訪ねられて、俺は思わず押し黙る。

 

人を好きになる理由、か。

 

 

 

八幡「…………」

 

凛「…?」

 

八幡「……知るか」

 

凛「あっ、ちょっと!」

 

 

 

俺は誤摩化すように早足で歩き、凛の横を通り過ぎる。

本当に、痛い所を突く奴だ。

 

 

……マジであり過ぎて困るんだから、何も言えねぇよ。くそっ。

 

 

 

その後、二人肩を並べて歩いていく。

 

 

だがもう少しで学校だ。生徒に見られる前に、離れた方が良い。

 

……けどそれでも、出来るだけはこうしていたい。

 

 

俺も、凛も。

 

 

その気持ちは、確かにお互いに感じ合っていた。

 

 

 

凛「プロデューサーは、ガラスの靴をくれた、って感じはしないかな」

 

八幡「なんの話だよ。つーか、プロデューサーじゃねぇ」

 

 

 

特に意味の無い会話をし。

 

たまに軽口を叩き合って。

 

お互い、笑い合う。

 

 

 

 

凛「なんだろ…………動き易い運動靴……というかむしろ、安全靴をくれた、とか?」

 

 

八幡「夢も希望もねーな」

 

 

 

 

今の俺と凛は、ただの人と人。

 

アイドルとプロデューサーでもない。

 

ましてや、友達でも、恋人同士でもない。

 

 

 

 

凛「……いや、プロデューサーはどっちかっていうと…」

 

 

八幡「今度はなんだ?」

 

 

凛「ガラスの靴はくれなかったけど…………裸足で、一緒に歩いてくれたって感じかな」

 

 

八幡「……なんか、ちょっと納得しちまったのが嫌だな」

 

 

 

 

元々は、プロデューサーとアイドル。

 

 

だが、今は俺はただの高校生で、彼女はアイドルのままで。

 

それでも、そうさせたのは俺自身。

 

 

後悔はしていない……が、どこかおかしい。

 

 

 

 

 

 

やはり、俺のアイドルプロデュースはまちがっている。

 

 

 

 

 

 

だからーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛「ねぇ、聞いてるプロデューサー?」

 

 

八幡「……だから、プロデューサーじゃねぇって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの青春ラブコメを、始めよう。

 

 

 

 

 

 

 


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