やはり俺のアイドルプロデュースはまちがっている。   作:春雨2

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頑張って書きました。暖かい目で見守ってください。


第1話 こうしてまちがったアイドルプロデュースがはじまる。

アイドル。

 

それは人々の憧れであり、遠い存在。

 

 

 

誰にだって覚えはあるだろう。

 

テレビの中で笑顔を振りまき、歌って踊る。

時には歌手として歌い、時には役者として演じ、時にはエンターテイナーとして笑いをとる。

 

その見る者を魅了する様は、まさに憧れにふさわしい。

 

 

 

しかし、それも全てではない。

 

写し出された光景が真実のみとは限らない。

本当に性格が良いのか。恋人がいるのではないか。裏では汚い真似をしているのではないか。

 

そんな誹謗中傷は当然の事だ。

 

 

それが的を射ている事だってある。むしろ、そちらの方が多いのかもしれない。

アイドルとは、“偶像”。自らの理想や理念を、近しい者に擦り付け、崇める。

 

 

 

しかしだからこそ知っているのだ。

それが自らの幻想で、本当は現実があるという事を。

 

自分の想像も及ばない、真実があるという事を。

 

 

 

もちろん、それでもなお信じ続ける者だっている。

 

そう。全てではないのだ。

人々を笑顔にし、希望を与え、元気をくれる。

 

きっとそんなアイドルがいるはずなのだ。

 

 

 

そんな事を本気で叶えようとしてくれる、本当のアイドルが。

 

 

 

 

 

 

まぁ、つまりだ。

何が言いたいかって言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「やよいちゃんマジ天使」

 

 

 

 

 

 

 

 

小町「お兄ちゃんテレビに向かって何言ってんの」

 

八幡「安心しろ、テレビには言っていない。やよいちゃんに言ったんだ」

 

小町「それ全然安心出来ないよ……」

 

 

 

時刻は丁度夜の八時を切ったところ。

 

ウチのリビングにあるテレビには、ツインテールの女の子が笑顔を振りまいているのが映っている。

誰もが知っている音楽番組の一発目であった。

 

 

 

小町「最近765プロ凄いよね。いよいよMステに出るなんて」

 

八幡「俺としてはあまり有名になり過ぎても嫌だけどな」

 

 

 

なんていうの? あの俺だけが知ってたマイナーなバンドが売れてきて「いや、俺は前から好きだったし?」

的なこの気持ち。分かるだろ?

 

 

 

小町「別に、お兄ちゃんの為に歌ってるわけじゃないんだからいいんじゃない?」

 

八幡「おい。俺ファンだから。一応ファンの一人だから」

 

小町「まぁねぇ。でも推しメンがやよいちゃんって……」

 

 

 

一つ溜め息を吐き、今にもやれやれだぜとか言いそうな小町。

 

 

 

八幡「なんだよ」

 

小町「お兄ちゃんってロリコン?」

 

 

 

ド直球だった。

 

もうちょっとオブラートに包めない?

なんなのその腐ったオニギリを見るような目は? 目しか腐ってないから。

 

これは少し弁解せねばなるまい。

 

 

 

八幡「ふっ、妹よ。それは間違っているぞ!」

 

小町「私は別に目も見えるし車椅子にも乗ってないけど、一応聞こうか」

 

 

 

俺のどこぞのギアス契約者のような言い分に、しかし妹の反応は冷たい。

俺としては是非とも「お兄様♪」と読んでもらいたい所だが、それは今は置いておこう。

 

 

 

八幡「まず一つ。俺は高二の17歳。やよいちゃん(以下天使)は中二の14歳。この時点で分かると思うが、歳の差は3つ。たかだか3つだ。例え思慕を抱いた所でおかしくもない。成人すれば尚更だ」

 

 

 

実際3つ以上離れている恋人同士や夫婦など、五万といる。

学生であれば同い年、もしくは1つ違いが主流だろうが、それもその時期だけ。総合的には3つ以上離れている方が多いだろう。

 

 

 

小町「確かにね。でもそりゃ私だって3つ離れている事は別に問題ないと思ってるよ。ただ問題なのは、今、お兄ちゃんがハァハァ言ってる相手が、14歳だってこと!」

 

 

 

失礼な。ハァハァなんてしとらん。してないよね?

 

 

 

八幡「まぁ確かにその通りだ。ハァハァはしてないけど。歳の差が3つとはいえ天使は今14歳。思慕を抱くには少々幼過ぎるというのも分かる。ハァハァはしてないけど」

 

小町「じゃあやっぱりロリコンじゃん」

 

八幡「だから、間違っているぞ!」

 

小町「お兄ちゃんの腐った目じゃ誰も言う事きいてくれないよ」

 

 

 

絶対違反の力。何それ新しい。

つーか、こんな事を話していたせいでやよいちゃんの歌終わってんじゃねーか!

 

 

 

八幡「いいか。俺はさっき言ったはずだ。“思慕を抱くには幼過ぎる”と」

 

 

 

そう。別に俺は何も天使に恋愛感情を抱いているわけではない。ただの1ファンなのだ。

 

ちなみにそういったアイドルや芸能人に夢中になる事を、仮想恋愛と言ったりするらしい。

実際に付き合う事はおろか直接会った事もないのに、熱愛発覚でデストロイ。あーうん。あるある。

 

 

 

八幡「まぁつまり、そういった目で見てないって事だ。妹を可愛いと思うようなもんだよ」

 

小町「ふーん? なんか、それはそれで面白くないなぁ」

 

八幡「なんでだよ」

 

小町「だって、お兄ちゃんの妹は小町なんだよ? あ、今の小町的にポイント高ーい♪」

 

 

 

うむ。八幡的にも今のは中々高かったぞ。

あとあれだ、手に持っている週刊誌とガリガリ君さえ無ければ完璧だったね!

 

 

 

八幡「んじゃ、そういうお前は誰推しなんだ?」

 

小町「ふっふーん♪ よくぞ訊いてくれました!」

 

八幡「言っておくが、竜宮小町とかっていうオチは無しな」

 

小町「……」

 

八幡「……」

 

 

 

え、もしかして本当にオチ言っちゃった?

 

 

 

小町「とまぁ冗談は置いておいて」

 

八幡「オイ」

 

 

 

冗談だった。

いや、俺も竜宮小町好きよ? やよいちゃんのが好きだけど。

 

小町は人差し指を口に当て、思案するように言う。

 

 

 

小町「私はやっぱり、如月千早さんかな?」

 

八幡「ほう」

 

小町「奇麗だし、真面目だし、何よりやっぱり歌が素敵だよね!」

 

 

 

確かに。彼女の歌を始めて聴いた時、中々の衝撃を受けた記憶がある。

アイドルじゃなくて、普通に歌手だと思ったもんだ。

 

 

 

八幡「ふむ。前から何となく思ってた事があるんだが」

 

小町「なに?」

 

八幡「何となくだが……親近感を覚えるんだよな。ぼっちとして」

 

小町「……ッハァー…」

 

 

 

俺の発言に、これでもかと大きな息を吐く小町。

 

 

 

八幡「なんだよその露骨な溜め息は」

 

小町「これだからゴミいちゃんは」

 

 

 

やれやれといった風に首を振る我が妹。ムカつくなオイ。

つーか、そのゴミいちゃんってのやめてくんない? 冷静に考えると……いや普通に考えても大分酷いからね?

 

 

 

小町「千早さんとお兄ちゃんのぼっちを一緒にしないでよ。あっちは孤高の存在って言うの。あんなに奇麗で歌が上手で完璧なのに、ぼっちだなんて。そんな人いるわけ……」

 

八幡「……」

 

小町「……」

 

 

 

いるなぁ。我が高にも孤高の女王が。

確かに色々似てるわ。部分的にも(どことは言わない)。

 

 

 

小町「……まぁ、完璧過ぎて近寄り難いって事で!」

八幡「それフォローなのか?」

 

 

 

そんなこんなで番組も終了間際。

最後にタモリさん(正確には隣のアナウンサー)が出演者のアーティストたちにインタビューしている。

 

 

 

やよい『はい! 凄く緊張しましたけど、とってもとっても楽しかったかなーって!』

 

 

 

うおおおおおおおおおおお!!!!

戸t…じゃなかった天使マジ天使!!!

 

 

 

小町「お兄ちゃん近い、近いよ。画面に」

 

八幡「よく見ろ。ちゃんと1m以上は離れてる」

 

小町「つま先はね」

 

 

 

そしてなんやかんやで番組終了。

あぁ、来週も出てくれればなぁ。というか毎週出てくれればなぁ。

 

 

 

小町「ほらお兄ちゃん、もう終わったんだからさっさとお風呂入って」

 

八幡「へいへい……ん?」

 

 

 

小町に言われ立ち上がろうとした所でふと気づく。

それは番組が終わった後のCMだった。

 

 

 

『シンデレラプロダクション特大企画! プロデューサー大作戦!! 詳細はこの後すぐ!』

 

 

 

シンデレラプロダクション……?

なんだプロデューサー大作戦って。過去に戻って告白でもすんの?

 

 

 

小町「へー。デレプロの新企画ってコレの事かぁ」

 

八幡「知ってんのか小町」

 

 

 

つか、デレプロってなんぞや……? ぴかしゃ?

 

 

 

小町「シンデレラプロダクション。略してデレプロ。765プロ程有名ではないけれど、最近結構話題になってるアイドルプロダクションだよ」

 

八幡「へぇ、初めて聞いたな」

 

小町「ホント最近だからね。何が凄いって、このデレプロ、所属アイドルが100人以上いるんだ」

 

八幡「100人!?」

 

 

 

おいおいどこの48ですか?

そんなにいて大丈夫なのかよ。出演する時タモリさん大変じゃない? 

あ、でもユニット組んでるわけではないのか。

 

 

 

小町「それで全員可愛いらしいから凄いよねー。んで、この間雑誌でやってたの。『シンデレラプロダクション特大新企画乞うご期待!』ってね」

 

 

 

なるほどな。それがこの特番ってわけだ。

 

別にそこまで興味があるわけではないが、番組表を見るに、10分程の特別番組らしい。

折角だから見てみますかね。……お、始まった。

 

 

 

『シンデレラプロダクション特大新企画! “プロデューサー大作戦”!!』

 

 

 

隣を見れば、小町もテレビの画面を食い入るように見ている。

こいつも内容が気になるのだろう。

 

 

 

『今回企画した“プロデューサー大作戦”とは……』

 

 

 

八幡「……」

 

小町「……」わくわく

 

 

 

『……ズバリ、一般者のプロデューサー抜擢です!』

 

 

 

八幡「……は?」

 

 

 

今なんて行った?

 

一般者のプロデューサー抜擢……?

それってつまり……

 

 

 

『そう。シンデレラプロダクションにいる100人以上の新人アイドル。そのアイドルたちに、一人一人の一般プロデューサーが着き、プロデュースする。それこそが……』

 

 

 

 

 

 

プロデューサー大作戦!!

 

 

 

 

 

 

……また、とんでもない企画を考えるもんだな。

 

 

 

 

 

 

その後10分程の番組でされた説明によると、

 

 

1、一般希望者を募集。その中から面接し、問題無しと判断された者をプロデューサーとして任命する。

 

2、年齢、性別、職業問わず。例え学生であってもOK。

 

3、期間は1年。その間にもちゃんと給料は出るとの事。

 

4、担当アイドルは完全抽選性。

 

5、期間終了後、総選挙を行い1位となった者をシンデレラガールとする!

 

 

と、いったところだ。

 

しかし大丈夫かこれ? 色々問題あるだろ……

担当アイドルに手ぇ出すアホとかいそうだもん。

まぁその為の面接なんだろうが。

 

 

どちらにせよ、俺には関係の無い事だ。

 

……無い事なんだが。

 

 

 

小町「お兄ちゃん! やろうよ! 小町が応募しておくよ?」

 

 

 

これである。

 

 

 

八幡「あのな、俺がアイドルのプロデュースとか出来るわけないだろ?」

 

 

 

むしろ面接を突破出来る気がしない。書類選考で落とされるまである。

 

 

 

小町「大丈夫だよ。写真は自由でいいらしいから、目隠しして撮れば!」

 

八幡「何それ。俺の落ちる原因が目にあると思ってんの? そうなの?」

 

 

 

大体目隠しして面接とか、そっちのが怪しさ満点である。

 

 

 

八幡「とにかく、やらないもんはやらねーよ。やよいちゃんのプロデューサーなら考えたけどな」

 

 

 

あと戸塚のプロデューサーとか。

……やべぇ、割とマジで良いかもしれん。

 

 

 

小町「えーつまんないの。可愛い女の子と合法的に仲良くなれるのに」

 

八幡「仲良くなれるとは限らん。というかむしろ、そこが一番の問題だろ」

 

小町「問題?」

 

八幡「考えてもみろ。俺が担当になると知らされたアイドルの気持ちを」

 

 

 

「え? あなたが私のプロデューサー……?」という引きながらの笑顔を浮かべる事間違い無しだ。

チェンジでとか言われたら泣く自信がある。

 

 

 

八幡「それにアイドルのプロデュースっていう甘い言葉で惑わされてるが、要はリーマンだぞ?」

 

 

 

企画とはいえ1年間プロデューサーをしなければならないのだ。つまりは仕事。

そう、仕事である。

 

……働きたくねー!!

 

 

 

八幡「なんで専業主夫志望してんのに、わざわざ自分から働きに出なけりゃいけないんだよ。ほら、アホな事言ってないでさっさと寝ろ」

 

小町「はーいはいっと。しょうがないなぁもう」

 

 

 

どっちがだよ、ったく。

さっさと風呂に入ろう。天使の歌でも口ずさみながらな。

 

 

 

この時俺は楽観的に考えていたんだ。

 

どうせテレビの向こうの話。しばらくすれば「へー。コイツがシンデレラガールのプロデューサーか。やっぱコミュ力高そうだな」とか言って、暢気に小町と雑談しているんだろうと。

 

 

 

結論から言えば、それは間違いだった。

 

 

 

俺は忘れていたんだ。

 

例え幻想を見ていたとしても、

 

 

 

現実は確かに、存在するってことを。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

八幡「〜~♪」

 

 

 

プロデューサ大作戦が発表されて三日。月曜日。

 

予想通りというか、教室内ではその話題でもちきりだった。

まぁもちろん俺はその話題には入ってないんですけどね。

 

要所要所を抜粋すると…

 

 

 

「いや隼人くんマジやってみって! トップアイドル間違いなしっしょ!」

 

 

それは担当アイドルの子がか? 葉山がか?

 

 

「いや俺はそんな柄じゃないし、それに、俺は皆との時間を大切にしたいからさ」

 

 

さすがである。確かにお前ならトップアイドル目指せるよ。マーキュリー入ったら? あれマーズだっけ?

 

 

「イケメンアイドルをプロデュースする隼人くん……そしてその様子をテレビ越しで見て嫉妬に燃えるヒキタニくん……ぶはっ…!」

 

 

女の子だからね? プロデュースするのは女の子だからね? あといくら話題に入れないからってそっちの話題には入れてほしくなかったなー

 

 

 

とまぁそんな感じで、ホントに葉山がアイドルの子と親しくならないか心配する三浦が可愛かったです(小並感)。

 

 

一応奉仕部の活動中にも話題には上がったんだが……うん。

俺のHPが著しく減らされたので割愛。察してくれ。

 

 

 

そんなこんな一日が終了。今はその帰り道である。

帰ったらチバテレビでアニメの再放送でも見るとしよう。

 

 

 

八幡「~〜♪」

 

「ん?」

 

八幡「〜……ッ!」

 

 

 

やべっ、歌ってるの聴かれた。

は、恥ずかしい! どこの男子高校生の日常だよ!

 

 

 

「そこのキミ、ちょっといいかい?」

 

八幡「は、はぁ。なんすか」

 

 

 

歌を聴かれたと思ったら声をかけられた。なに? もしかしてスカウトとかされちゃうの?

しかしやけにこの人黒いな。いや肌が黒いってーか、全体的に?

 

 

 

「……ティンときた」

 

八幡「はい?」

 

「ティンときたんだよ! キミぃ!」

 

 

 

やべぇ…なんだこの人……

 

 

 

「あぁ、このティンときたっていうのは、私のお世話になっている人の受け売りでね。気にしないでくれたまえ」

 

 

 

別にそんな事は訊いてないんだが……

 

逃げるか? 危ない人だったら恐いし。ほら、コナンだと犯人って大体黒いじゃん?

しかし俺が本気でどうしようか判断に迷っていると、その黒い人(仮称)はとんでもない事を口にした。

 

 

 

 

 

 

「キミ、アイドルのプロデューサーをやってみないかね?」

 

 

八幡「…………は?」

 

 

 

 

 

 

アイドル、プロデューサー。

 

どちらも最近よく耳にする言葉である。

それだけに、どこか現実離れしているようにも聞こえた。

 

 

 

「ああ、すまない。私はこういった者でね」

 

 

 

怪しまれている事にようやっと気づいたのか、黒い人はおもむろに名刺を渡してくる。

ぎこちない動きでそれを受け取り確認すると、俺は目を疑った。

 

 

 

八幡「シンデレラプロダクション……社長!?」

 

 

 

そう。何を隠そう(隠してないけど)この黒い人、件のシンデレラプロダクションの社長だったのである!

な、なんだってー!?

 

 

 

社長「キミは先日の放送は見てくれたかね?」

 

八幡「へ? あ、あぁ。あのプロデューサー大作戦の」

 

社長「そうそう。それだ。ありがとう見てくれて」

 

 

 

律儀に礼を言う社長それだけ人柄が良いのが伺える。

まぁ、完全にやよいちゃんのついでだったしな。

 

 

 

「なら話は早い。今その企画でプロデューサーを募集していてね。キミ、やってみないかね?」

 

 

 

……やっぱ、そういう事か。

いやしかしまさか社長とは。百歩譲って社員とかならまだ分かるが、社長が直々にスカウトって……

 

 

 

八幡「……俺は」

 

社長「まぁ急に決めるのは難しいだろう。会社の電話番号と住所は名刺に書いてあるから、気軽に連絡してくれたまえ」

 

八幡「え? いやちょっ……」

 

 

 

「む、そこのキミぃ! ちょっといいかい?」

 

「なんだよ。あたし早く帰ってチバテレビでアニメ見たいんだけど」

 

「ティンときた! アイドルをやってみないかね?」

 

「は、はぁ!? あ、アイドルなんて、興味、ねぇ…し!」

 

 

 

行ってしまった。

 

どぉすんだこれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平塚「いいじゃないか。やってみたらいい」

 

 

 

社長直々にスカウトされた翌日。職員室の一角で、我が担任の平塚先生はそう言った。

 

つーか、何で知ってんですかねぇ……

急に呼び出されたと思ったらこれだよ。

 

 

 

八幡「……どこでそれを?」

 

平塚「そこの社長さんから電話があってな。是非ともキミをスカウトしたいそうだ」

 

八幡「いや俺、名乗ってないんすけど」

 

 

 

ウチの高校って事は制服を見れば分かるだろうが、名前までは分からんだろ。

 

 

 

平塚「特徴をあげられてな」

 

八幡「特徴?」

 

平塚「『目が腐っていた』と言っていた」

 

 

 

オイ。ならなんでスカウトした? 目腐っててもいいの?

つーか、その特徴あげられて真っ先に俺だと思ったんかい。

結果的に当たってたけども!

 

 

 

平塚「『あの目は、他の者には見えないモノを見据えている目だ』とも言っていたよ。中々、社長も人を見る目があるようだ」

 

 

 

感心したような、呆れたような表情で微笑む平塚先生。

気のせいか、少しばかり嬉しそうだ。

 

 

 

八幡「……買いかぶりですよ」

 

平塚「そう言うな比企谷。何事も経験だよ」

 

 

 

そう言うと何枚かの資料を渡してくる平塚先生。

見ると、今回のプロデューサー大作戦の詳しい企画内容が記されてしる。

 

 

 

平塚「先方が送ってきたものだ。もちろん、向こうがスカウトしてきたのだから面接は無いそうだ。良かったじゃないか」

 

 

 

どういう意味だそれは。

いや確かに面接なんてしたら落ちる自信はあるが。

 

 

 

平塚「学校の方も心配しなくていい。プロデュース活動中は休んでいいし、仕事扱いだから内申も上がる。どうだ、ここまでしてもやらないか?」

 

八幡「……先生も知ってるでしょう。俺は基本働かない為に頑張るのが俺なんです。そんなガッツリ仕事って感じの仕事やりたくないですよ」

 

平塚「働かない為に頑張るとは、また何ともふざけた君らしい台詞だな」

 

 

 

呆れたように笑う平塚先生。

しかし、それでも先生は諦めないようで。

 

 

 

平塚「本当に、やりたくない理由はそれだけか?」

 

八幡「……こういうのは、俺には向いてないですよ」

 

 

 

それこそ、葉山とかの方がやるべきだ。

雪ノ下も敏腕プロデューサーとして活躍するかもしれない。

由比ヶ浜は……駄目だな。あいつアホっぽいし。アイドルやってる方がお似合いだ。

 

でも、俺はない。

 

 

 

八幡「先生は、なんでそんなに薦めるんですか?」

 

平塚「教師が生徒の背中を押すのは当然の事だよ」

 

 

 

やだかっこいい。うっかり惚れそう。

 

 

 

平塚「それに、私は本当にキミが向いていると思うよ」

 

八幡「……」

 

平塚「誰かの為に何かを成すというのは素晴らしい事だが、中々出来る事じゃない。そして私は、キミがそれを出来る人間だと思っている」

 

 

 

「まぁ、やり方は褒められたものではないがね」と言って苦笑する平塚先生。

 

……本当に、買いかぶり過ぎだ。

あんたの方が、よっぽどプロデデューサーに向いてるよ。

 

 

 

平塚「これも奉仕部の活動の内だ、比企谷。やってみないか?」

 

八幡「……」

 

 

 

俺はため息を吐いた後、ゆっくりと顔を上げて平塚先生に向き直る。

 

 

 

八幡「……とりあえず、出向くだけ出向いてみます」

 

平塚「っ! 本当か?」

 

八幡「プロダクションの社長自らスカウトしてくれましたからね。無下にも出来ないんで」

 

 

 

それに所詮は企画。本当に正社員になるわけではない。

バイトする感覚でやれば、案外何とかなるかもしれん。

 

 

 

八幡「……俺に何が出来るかは分かんないすけど」

 

 

 

そして、先生にここまで言わせてしまったのだ。なら、何もせずに目を瞑るわけにもいかないか……

 

 

 

八幡「やれるだけ、やってみますよ」

 

 

 

俺の小さく情けないその答え。

それを聞いた平塚先生は、本当に嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

八幡「い、いくだけ行ってみますけど、ブラックぽかったらすぐに辞めて帰ってくるんで」

 

平塚「いやいや、少しは頑張れよ? 応援しているぞ、比企谷」

 

 

 

俺は顔が赤くなるのを誤摩化す為に、軽口を叩く事しか出来なかった。

 

はぁ……どうなる事やら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

話は早い方が良いという事で、早速シンデレラプロダクションの事務所へと赴く事になった俺。

というかその事務所前だった。

 

 

しかし100人以上も所属してるんだからどんなマンモス企業かと思ったら、案外普通のビルだったな。

下には何故か居酒屋もあるし。いや、喫茶店か?

 

 

 

八幡「……そろそろ約束の時間だな」

 

 

 

ちなみに格好は黒のスーツ。見事に着せられている。

 

1年間着る事になるんだから、という理由で親が用意してくれたのだ。こういう時ははぶりが良いんだから困る。1年も続く保証は何処にも無いんだからね!

 

そして八幡的にポイント高いのがネクタイ。なんと、我が妹の小町が選んでくれたのだ!

お兄ちゃん、頑張る。

 

 

しかし事務所の前でニヤニヤしていたのがまずかったのか、道行く人に白い目で見られてしまった。

つーか事務所に入ってったよ……俺完全に気持ち悪い奴だと思われてんじゃん……

 

 

 

八幡「結構可愛かったし、アイドルの子か? ……って、俺も早く行かないと」

 

 

 

気を取り直して俺も事務所へと入る。

あぁ、これで俺も社畜の仲間入りか……

 

 

中へ入ると、オフィスのような景色が広がっている。

しかしあまり人はおらず、というかいない。

 

 

 

八幡「受付とかも特に無いのか? 大丈夫かおい…」

 

 

 

どうしていいかわからずキョロキョロしていると、奥の方から事務員らしき女の人がやってきた。

 

 

 

「あら? あなたがもしかして……」

 

八幡「あ、比企谷八幡という者なんですが……」

 

 

 

意図せず声が若干高くなってしまう。

べ、別に思ったより美人で緊張してるわけではない。決して。……ごめん、正直してます。

 

 

 

「やっぱり! 私は事務員の千川ちひろと言います。よろしくお願いしますね」

 

八幡「よ、よろしくお願いします」

 

 

 

うーむここまでフランクだと逆にやり辛い。

所長も結構そんな感じだったし、そういう社風なんかね。

 

 

 

ちひろ「それでは今社長をお呼びしますので……社長ー!」

 

 

 

ホントに呼んじゃったよ。つーか、どこかの部屋に通されたりしないのね。

 

 

 

社長「はいはい。おー来たかね! 比企谷くん!」

 

八幡「ど、どうも」

 

社長「ハハハ、そんなに緊張しなくてもいいよ」

 

 

 

いやいや無理だろ。

社長を目の前にして緊張せずにいられるかっつーの!

つか相変わらず黒いですね!

 

 

 

社長「しかし丁度良かったよ。彼女もさっき来た所でね」

 

ちひろ「グッドタイミングですね!」

 

八幡「は?」

 

 

 

彼女……?

 

 

 

社長「おーいコッチに来てくれー!」

 

 

 

今度は社長が誰かを呼ぶ。

 

……待て。何か嫌な予感がする。

 

 

 

「あの、何か?」

 

八幡「げっ」

 

「あ、さっきの」

 

 

 

呼ばれて俺の目の前に現れたのは、先程事務所の前で会った長い黒髪の美少女。

 

歳は俺とそう変わらない。着ているのは制服だろうか、黒いカーディガンを着ている。

容姿や雰囲気としては雪ノ下に似ているが、制服の着崩し具合やピアスをしているあたりは由比ヶ浜に近い。

 

なんというか、今時の女子高生といった感じだ。

 

 

というか、わざわざ俺を紹介するって事はまさか……?

 

 

 

社長「紹介しよう、彼がキミを担当するプロデューサー、比企谷八幡くんだ!」

 

 

 

やっぱりぃぃぃいいいい!!!??

 

驚いてる俺をよそに、目の前の彼女は俺の事をジッと見る。

うう……怖いよぉ……

 

 

まさかよりにもよって担当するアイドルにニヤニヤしている所を見られるとは……

幸先悪過ぎて泣けてくる。

 

俺の分析でも終わったのか、彼女は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「ふーん、アンタが私のプロデューサー? ……まぁ、目が腐ってるとこ意外は悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね」

 

 

八幡「……よろしく」

 

 

 

 

 

 

こうして、俺と彼女のなんとも言えない出会いが終わり、まちがったプロデュースが始まる。

 

 

 

……目が腐ってるは余計だ、ちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 




これを最初に書いて投降したのが3年前という事実……嫁ステマでした。今となってはダイマです。

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