雪風と風の旅人   作:サイ・ナミカタ

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第101話 最初の人

 ――双月が、夜空の真上から地平の彼方へ向けて移動を開始しようとする時間帯。

 

 世界から隔絶された『部屋』の中、長時間の乱闘により見るも無惨な姿となったタバサとイザベラは互いに背を預け、柔らかな絨毯の上に座り込んでいた。

 

 否、双方共に体力を使い果たし、へたり込んでいたとしたほうが正しい。

 

 ふたりはしばし沈黙を守っていたが……やがて、イザベラの側が再戦の口火を切った。やや俯き加減に紡ぎ出した言葉には、深い疲労の色が滲んでいる。

 

「わたしのこと、さんざん馬鹿だ馬鹿だって言ってくれたけどさあ。お前のほうがよっぽどだ」

 

 タバサは答えない。あるいは答えられないのか、黙って従姉妹姫の口上に耳を傾けていた。

 

「ガリア王女の誇りに賭けて、この場での出来事は不問とする……なんてさ。破棄しようと思えばいくらでもできるんだよ? なのに、こんなになるまでやらかしてくれちゃって! これで、わたしが前言を撤回したら、どうするつもりだい?」

 

 それを聞いたタバサは物憂げに答える。

 

「わたしにひとを見る目がなかっただけだと諦める」

 

 ぐッと言葉に詰まるイザベラ。

 

「そ、その言い方は卑怯だろ……!」

 

「事実だから」

 

 暗に「わたしを罰したら、自分自身を人でなしだと認めることになる」という脅しをかけてきたタバサに対し、抗議するイザベラ。しかし、それもあっさりと躱されてしまった。

 

 再び『部屋』が沈黙に支配される。

 

 それから五分ほど時が過ぎ「よいしょ」と年齢にそぐわぬ声を上げて立ち上がったのはイザベラだった。彼女はのしのしと――そう表現する以外にない歩調で部屋の隅へ移動すると、そこに置かれていた収納箱の中からワインボトルとグラスをふたつ取り出した。

 

 座り込んだままのタバサの元へ戻った彼女は片方のグラスになみなみと赤い液体を注ぎ込むと、ぐいと一気に飲み干す。そして、もう一方の杯を満たして従姉妹の前に突き出した。

 

 タバサは黙ってそれを受け取り、口をつけた。毒や薬が混入されているなどとは露ほども疑っていない仕草だった。乾いた喉に、潤いと酒精による熱が染み渡る。

 

 口を開いたのは、またしてもイザベラが先だった。

 

「わたしね、ずっとお前が羨ましかったんだ」

 

 ぐすぐすと、鼻を啜る音が室内に響き渡る。

 

「お前は素直で、甘え上手で……いつも笑顔を振りまいていた。小さい頃から魔法もできて、頭も良くて、皆から愛されていたわ。わたしはずっと、お前のようになりたかったんだ……」

 

 タバサは無言で従姉妹姫の独白を聞いていた。

 

「ああ、そうさ。宮廷の貴族たちや侍従どもの言うことは正しいよ。自分でもよくわかってるさ。お前のほうが、王女として相応しいってことくらいはね……」

 

 しかし、タバサはその意見に同意しなかった。

 

「それは違う。わたしにできるのは、せいぜい飾り物として振る舞うことだけ」

 

「ふん、慰めなんていらないよ」

 

「本心。何度かあなたの影武者をして、それがよく理解できた。わたしは、あなたのようにはなれない。王族として部下を取り仕切り、適切な指示を与え――舞台裏から国を支えるなんて、誰にでもできることじゃない」

 

 ややあって、イザベラは消え入りそうな程小さな声で訊いた。

 

「……それ、ほんと?」

 

 問う声は、普段の彼女からは想像できない程に弱々しく、震えている。

 

「ほんとに、そう、思う?」

 

 蒼い頭が上下する。

 

「たとえば、ロマリアの陰謀で……伯父上がお隠れになったとする。そうなった場合、あなたはどうするか考えている?」

 

 唐突かつ不敬極まりない問いに戸惑いながらも、イザベラは頷いた。

 

「そりゃあ、ね。想像したくもないことだけどさ、そこで思考を停止したら王族失格だろ。そもそも人間なんて、いつ死ぬかわからないんだから。でも、時間は待っちゃくれない。だから、有事に備えておくのは当然だよ」

 

 それに対するタバサの答えは、乾いた笑みと共に吐き出された。

 

「やっぱり、あなたが王族……ガリアの王女として相応しい」

 

「どういうことだい?」

 

「同じように問われたとき、わたしは何も答えられなかった。だってわたし……そんなの、考えたことなかったもの。もしもガリアで何かが起きて、伯父上とあなたがいなくなって……残った王族が母さまとわたしだけになったらどうなるかなんて、想像してもいなかった」

 

 信じられないものを見るような目で、イザベラは従姉妹を凝視する。

 

「それでも考えろって言われて、わたし……王冠なんて、欲しいひとにあげればいいって答えた。あんなものがあるから父さまは殺されて、母さまは毒を飲まされた。だから、わたしはそんなものいらない、絶対に欲しくないって」

 

「お前……」

 

 皇太子の娘として教育されてきたイザベラにとって、その解答は想像の埒外にあった。

 

 王族ならば王権を尊び、その象徴である玉座と冠の守護を至上とする。そう学んできたし、彼女自身もそのように考えていた。なればこそ「欲しいひとにあげればいい」などと放言する目の前の少女が、自分とは違う――それこそ別の生き物のように見えてしまったのだ。

 

 そんな従姉妹姫の心情など露知らず、タバサは内心を吐露し続けていた。

 

「最初はね、伯父上のことを憎んでいたの。本当は父さまのものになるはずだった王冠を奪って、でも、それだけじゃ不安だから実の弟に手をかけたんだって……無責任な噂話だけを信じて、本気でそう思い込んでいた」

 

 ぼろぼろになったスカートの端を握り締めながら、眼鏡の少女は溢れる思いを言い零す。

 

「だけど、時間をかけて色々なことを調べて……伯父上が正当な王位継承をしたことを知って――父さまが、伯父上が次の王さまになるって言っていたのは本当だったんだって分かったの。父さまが暗殺されたのも、実はジョゼフ派の暴走だったのかもしれないってことも。叛逆の話はさすがに信じたくなかったし、逆に真実だったら、わたしたち母娘が生かされているのはおかしい……」

 

 顔を伏せたまま紡がれる従姉妹の独白に、イザベラは呆然と聞き入っていた。

 

「そんなふうに悩んでいたときに、あの男が接触してきたの。最初はシャルル派がロマリアと組んで何か企んでいるのかと思った。でも、あなたのお陰であのひとたちの思惑を知ることができた。ガリアの裏で何が起きていたのかを知って、悲しかった。やるせなかった。でも……」

 

 これまでずっと抑え続けてきた昏い感情が、小さな身体から噴き出した。

 

「それ以上に、ずっと持て余していた鬱憤をぶつける相手ができたって、嬉しかったの」

 

 タバサが面を上げた。無表情の仮面は既に剥がれ落ちている。露わになった素顔は涙に濡れ、ぐしゃぐしゃに歪んでいる。

 

「ほらね、あなたと違ってわたしは自分のことしか考えてないの。中身はこんなにも醜いの。周りを幸せにするだなんて嘘。ただ、何も知らないから笑えていただけの子供なの……!」

 

 咄嗟に身体が動いた。後に思い返しても、このときのことはそうとしか表現できない。

 

 気がつくと、イザベラは憎くて憎くてたまらなかったはずの従姉妹を抱き締めていた。

 

 劣等感に苛まれ、その感情を他者にぶつけることでしか己を保てない自分が嫌いだった。魔法の才能を遺憾なく発揮し、常に余裕を気取っている従姉妹が妬ましく、でも、わたしはあんなふうにはなれないと羨んで……理不尽に忌避していた。

 

 しかし……眩いばかりの才能に溢れ、静かな湖面のように己を律することができるとばかり思っていた従姉妹が、実は内心に行き場のない憤りやどろどろと煮えたぎる思いを抱えつつも、それを表に出さぬよう、必死に冷静を装っていただけだと知った。理解してしまった。

 

 外に出すか、内に秘めるかの違いだけで――自分たちの本質は同じものだったのだ。

 

 そして何より、憎悪する程憧れていた従姉妹にガリアの王女として認められていた。

 

 それを悟ったイザベラの瞳から、はらはらと涙が溢れ……零れる。

 

「わたしは、わたしの身代わりになって毒を飲んだ母さまを見捨てて……自分だけ死んで楽になろうとしたの。あの出来事のせいで、わたしたち家族の他にも不幸になったひとたちがいたなんて、実際に会ってみるまで想像すらしてなかったの!」

 

「シャルロット……」

 

「あなたと違って、この国のことなんか考えたこともなかったの。ね? わたしはこんななのよ。決してあなたが羨むような人間じゃないの。わたしは……」

 

 イザベラは両腕に力を込め、懺悔し続ける少女を掻き抱いた。

 

「もういい。もういいよ……」

 

「イザ、ベラ……?」

 

「お前の言う通り、わたしが馬鹿だったんだ。何も見てない愚か者だったのさ」

 

「え……?」

 

「もう泣かないでいい……いや、うんと泣きな。泣いて、泣いて……流せるだけ流しちまいなよ。わたしも……今だけは、もう、我慢……しない、から」

 

 タバサは、自身を抱き寄せながら嗚咽を漏らすイザベラにまず驚き……それから、おずおずと彼女の背に両手を回した。

 

 イザベラの抱擁は小柄なタバサにとって、息苦しく感じる程に強かった。母のする、娘を慈しむ温かなそれとは違う。キュルケの、親愛で包み込むような柔らかさとも異なる。

 

(もしかしたら、イザベラは――あんなふうに、誰かに優しく抱き締めてもらったことがないのかもしれない)

 

 考え過ぎかもしれない。それでも、腕に込められた力が、孤独を強いられた従姉妹姫が焦がれ、欲し続けてきた愛情にしがみついているように思えて……タバサは静かに涙を流し続けた。

 

 

○●

 

 ――それからしばらくして。

 

 泣いて泣いて、ただひたすらに泣いて、溜まっていたものを全て吐き出したイザベラは生まれ変わったようにすっきりとした気分で『部屋』のソファーに腰掛けていた。

 

 そんな彼女の対面には、自分と同じく泣き腫らした顔を晒したままの従姉妹がいる。

 

「ねえ、シャルロット」

 

「なあに? 姉さま」

 

()()()に姉さまなんて呼ばれたの、久しぶりだね……それはそれとして、聞きたいことがあるんだ。もしかして、例の『考えてみろ』って言ったのは……」

 

 蒼い髪が上下に揺れた。

 

「ここへ来る前に、タイコーボーが」

 

「そっか、なるほどねえ……」

 

 イザベラは何となしに手にしたワイングラスを覗き込んだ。底に残った赤い液体が僅かな手の震えによってたゆたい、波頭を描いている。

 

「わたしも、あなたには感謝しているの」

 

 グラスの中身を飲み干し、手酌でワインを注ぐ。目線でタバサに欲しいかどうかを確かめると、すいと空の杯を差し出してきた。

 

「ああ、侮辱するつもりじゃないから間違えないでおくれよ。あのね、あなたが召喚事故を起こしてくれたから、今、わたしはこうしていられるんだ」

 

「オーテンクンのこと?」

 

 ワインボトルを傾けながら、イザベラは頷いた。

 

「ええ。彼が召喚に応じてくれたお陰で、毎日がすごく楽しくなったわ」

 

 『窓』越しに姿を見たことはあったが、タバサが実際に王天君と対面したのは今日が初めてだ。太公望の双子の兄は――話に聞いていた通り、邪悪な妖魔のような姿をしていた。言葉を交わしたわけではないが、正直なところ怖かった。

 

 もしも、自分のところへ太公望ではなく彼が〝召喚〟されていたら、儀式の場は大混乱に陥ったことだろう。

 

(元は人間だったのに、実験で無理矢理姿を変えられた挙げ句、怯えられたら辛いはず。だから、オーテンクンはずっと『部屋』に籠もっている……)

 

 そんな相手と良好な関係を築けているイザベラは、ある意味大物だとタバサは思った。

 

 いっぽう、妙な方向に感心されたイザベラはというと、微笑みながら自身のパートナーについて語り続けている。

 

「使い魔は目となり耳となるって言うけど、本当ね。ああ、もちろん彼の『窓』は素晴らしいわ。そっちじゃなくてね、そう……オーテンクンと出会ってから、視野が広まったって意味でよ」

 

「わかる。昔の姉さまなら、あんなこと言わない」

 

「何のことかしら?」

 

「王に魔法の才能は必要ないという話」

 

 言われてようやく思い出したといった様子で、イザベラはぽんと手を叩いた。

 

「ああ、あれか! そうだね、あれもオーテンクンの影響が大きいわ。まあ、トリステインの王族が放った〝乗法魔法〟の件があるから、なんか負け惜しみっぽくなっちゃったけどさ」

 

 トリステインとアルビオンが衝突した結果と王家の勝利を決定付けた魔法の存在は、既に出入りの商人たちが広めた噂話や新聞などにより、リュティス市中で広く流布している。

 

 三人の王族が紡ぎ、重ね合わせた〝九乗魔法(ノナゴン・スペル)〟が世界最強と謳われるアルビオン空軍艦隊をなぎ払ったという衝撃と共に――。

 

「それでも、姉さまの話は真理」

 

 ちびちびと酒杯を舐めながら、タバサは反論を述べた。

 

「あれは薄氷を踏む勝利だった。もちろん、ラ・ヴァリエール公爵……サンドリオン一世陛下の戦術で艦隊を抑え込んだのは凄い。彼の知謀と粘りが奇跡を呼んだともいえる。でも」

 

「でも?」

 

「そもそも、女王陛下が政務を放置せずに対策を施していたら、トリステインは攻め込まれずに済んでいたはず。王党派に援軍を送り、ラ・ロシェールから貴族派や『レコン・キスタ』に支援金や物資が届かないよう、妨害することもできた。それが、姉さまが話していた国王の仕事」

 

「シャルロット……」

 

 まじまじと見つめられて、タバサの頬に朱が差した。

 

「……わたしの考えじゃない。彼が教えてくれた」

 

「もしかして……?」

 

「そう。噂話だけを信じずに、いろいろな方向から冷静に物事を見られるようになったのは、彼の影響が大きい」

 

「そうか……」

 

 ぽつりと呟いた後、イザベラはタバサに向けてニッと笑って見せた。

 

「わたしたち、とんでもない大当たりを引いたよね!」

 

「うん」

 

「わたし、あのとき〝召喚〟して本当によかったわ!」

 

「最初は失敗だと思って絶望したけれど、それは間違いだった」

 

「だよね! だよね!」

 

 きらきらと瞳を輝かせ、テーブルの向こうから身体を乗り出してタバサの手を取るイザベラ。そんな彼女の顔を見て、

 

(このひとも、こんなふうに笑えたんだ……)

 

 内心驚くタバサ。

 

 と、イザベラの細い手がタバサの頬に向かって伸びてくる。

 

「これ、放っておくと残っちまいそうだね……」

 

 そう言って、彼女はうっすらと血の滲む傷跡を撫でた。先ほどの喧嘩で、イザベラ自身がつけた引っ掻き傷だ。

 

「今日のところは、このへんにしておこうか。この傷、外に出てから治してやるよ……っと、このくらいなら自分でできるか」

 

 タバサはふるふると首を振った。

 

「あなたにお願いしたい」

 

 告げた途端、イザベラの目が見開かれた。

 

(何かおかしなことを言っただろうか?)

 

 そんなふうに考えたタバサだったが、イザベラはふっと笑った。

 

「任せておきな。こう見えても、前より少しは魔法の腕も上達してるんだから」

 

 『部屋』の出口に繋がる窓の前へ移動した王女は、振り返りながら言った。

 

「その服もなんとかしないとね。そうだ、衣装部屋で適当に見繕ってやるよ」

 

 提案するイザベラの表情は――これまでタバサが見たこともない程、晴れ晴れとしていた。

 

 

○●○●○●○●

 

 

 ――翌日。

 

 夕べ夜更かしをした影響から、少し寝過ごしてしまったタバサと太公望のふたりは、宿の近くの食堂(ビストロ)で朝食を兼ねた昼食を摂ると、昨日と同様にリュティス王立図書館へ足を運んだ。純粋に読書を楽しみたいという気持ちと、何者かが自分たちという餌に釣られてくれるのを期待しながら。

 

 しかし、後者については残念ながらこれといった成果は上がらなかった。

 

 同じく睡眠時間を削られていたイザベラは水魔法と秘薬でそれを誤魔化し、普段と変わらず政務を執り行い――そして同日夜。彼らは再び王天君の『部屋』に集っていた。

 

 最初に口を開いたのはイザベラだ。

 

「念のため確認しておきたいことがあるんだ。ああ、シャルロットに意地悪しようとか、そういう意図があるわけじゃないよ。だから、誤解しないで欲しい」

 

 首を傾げたタバサに対し、イザベラは言いにくそうに問いかけた。

 

「シャルル……叔父上は忙しい身の上だった。公の補佐をしていたオルレアン公夫人も多忙を極めていた。あなたが構ってもらえたのは、虚無の曜日くらいだった。これは間違ってない?」

 

 蒼い髪が小さく揺れる。

 

「その認識で正しい、でも……」

 

「だから愛されてなかったとか、そういうことを言いたいんじゃないから! とにかく忙しくて、なかなかあなたと一緒に過ごせなかった。そこで、オルレアン公夫人は家庭教師を招いてあなたの教育を一任した。その先生のこと、覚えているかい?」

 

「もちろん。母さまの実家と仲のいい家から来たんだって、自己紹介されて……」

 

「アルル伯爵令嬢コンスタンス。それがあなたの先生で間違いないね?」

 

 そう問われ、タバサは頷いた。

 

 しかし、何故今頃になって幼い頃の家庭教師の名前が出てくるのかわからない。その理由に思いを巡らせたタバサの表情がさっと陰る。

 

「まさか……」

 

 ロマリアの息がかかっていたのか。そう結論しかけた従姉妹に、イザベラは待ったをかけた。

 

「あくまで推測に過ぎないよ。だいたい、本人にその気があったかどうかすら疑わしいしね」

 

「どういうこと?」

 

「アルル伯爵令嬢は、二年前に事故で死んでいるんだ」

 

 それを聞いて、タバサがビクリと身体を震わせる。幼い頃に師事していた人物が非業の死を遂げていたと教えられたのだから、ある意味当然ともいえる反応である。

 

 そんな従姉妹の様子を見遣りながら、イザベラは続けた。

 

「時間がなくて詳しく調べきれてないんだけど、この事故には奇妙な点がいくつもあるのよ」

 

 同席していた太公望の眉がピクリと上がる。

 

「今から二年前。アルル伯爵領の市街にある寺院から帰る途中に、暴れ馬に跳ね飛ばされて即死。連れていた侍女も巻き込まれて重傷を負い、三日後に死亡。馬に乗っていた男は監獄に送られて、それから半月後に牢の中で首を吊ってる」

 

 言いながら、手元の紙束をぺらぺらとめくる。

 

「アルル伯爵家は昔から王室寄りでね、例の派閥争いでは旗幟を鮮明にしなかった。日和見とも取れるけど、例の遺言状が読み上げられたその日のうちに改めて王家に忠誠を誓っているんだよ。シャルル派との直接的な繋がりもない。唯一、この令嬢だけが大公家に関わってる」

 

「派閥の誰かと繋がっていたのではないのか?」

 

「ああ、違う。シャルロットが最初に言った通り、もともとアルル伯爵家はオルレアン公夫人の実家と懇意なんだ。件の娘は夫人に請われて家庭教師になっただけさ。もちろん、シャルル派の蜂起を危惧した父上が調査したときにも、特に不審な動きは見られなかった。だからこそ見落としてたとも言えるんだけど……昨日、あなたと話しているうちに違和感を覚えてね……」

 

 タバサは目をぱちくりとした。

 

「わたしに違和感?」

 

 そんな従姉妹を見据えながら、王女はずばりと言った。

 

「自分でも言っていたでしょう? あなた、ちっとも王族らしくないのよ。最初は王位継承争いの醜さに嫌気が差してのことかと思ったんだけど、そうじゃない。もっと根本的なところから間違いがあるって気付いたのさ」

 

 そう指摘され、戸惑うタバサ。

 

 自分でも王族らしくないと理解している。とはいえ、一般的な貴族なのかと問われれば……これまた首を傾げざるを得ない。歩んできた人生があまりにも壮絶過ぎて、普通という名のカテゴリから外れてしまっていたが故に。

 

 だが、根本的に王族らしくないとはどういうことか。それがタバサにはわからない。

 

 そんな彼女に対し、イザベラは噛んで含めるように告げた。

 

「あなたが元から王族らしくないのは、あなたが悪い訳じゃないの。あなたに王族としての心得を教えるはずの家庭教師が、きちんと仕事をしていなかったせいなんだから」

 

「……どういう意味?」

 

「オルレアン公家が王族から外されたとき、あなたは十二歳だったよね」

 

 頷くタバサ。

 

「その歳なら、とっくに王族としての初等教育を受けてなきゃおかしいんだよ。少なくとも、わたしは七つのときには始めてたんだから」

 

 と、そこへ横から太公望が口を挟む。

 

「その教育とは、具体的にはどういったものなのだ?」

 

「簡単に言うと、王族としての心構えだね。偉大なる『始祖』の直系たる者としての意識と誇りを持てだとか、まあそういうのだよ。例の『交差する杖』の話なんかもここで教わる。もうね、ほんとにうんざりする程、王族たるもの、王族たるべしって言って聞かされたもんさ」

 

「なるほど」

 

 タバサは幼い頃に家庭教師から受けた授業の内容を思い起こす。彼女から習ったのは『始祖』の教えや魔法の使い方、読み書きや算術、イザベラの言う王家の逸話や歴史などだ。

 

 けれど、イザベラが言うような王族としての心得など聞いた覚えがない。

 

 そのことを正直に話すと、従姉妹姫は予想通りといった表情を浮かべた。

 

「やっぱりね。おかしいと思ったんだよ、シャルロットは王権や王冠について無頓着過ぎるんだ。諸々の事情があったにしてもね。他国はどうだか知らないけど、少なくともガリアの王族としてはありえない位に」

 

 トントンと指で苛立たしげにテーブルを叩きつつ、イザベラは語る。

 

「あの何事もそつなくこなすシャルル叔父上や叔母上が、こんな大切なことを見逃すはずがない。多忙で手が離せずとも優秀な教育係をつけるはずだ。そこまで考えたところで家庭教師の存在を思い出してさ。そいつは何者だ? どうやって選ばれた? で、嫌な予感がしたから過去の記録を紐解いてみたわけだ」

 

 その結果、問題の人物は不審な死を遂げていた。

 

 それを見てロマリアにとって用済みとなった彼女が消された、という可能性に思い至るのは――国の裏側を司る者として、ある意味当然だった。

 

「シャルル王子を影から支援して王座に就け、やがて女王になると目されるシャルロットの教育を偏らせた。ロマリアにとって、より都合のいい操り人形にするためにね。それがアルル伯爵令嬢本人の意志じゃないってことも充分考えられる。何しろ、お祖母さまっていう前例があるんだ」

 

「〝制約(ギアス)〟もしくは寺院での洗脳……?」

 

 タバサが思わず漏らした言葉に、イザベラは暗い顔で頷いた。

 

 もしも彼女の推測が当たっていたとしたら。あの月目の少年が語っていた通り、かの国が数十年の時をかけて仕掛けた調略の手は、タバサのすぐ側まで伸びていたということになる。

 

「で、でも、先生は王族じゃ……」

 

 反論するタバサの言を、しかしイザベラは即座に斬り捨てた。

 

「アルル伯爵家出身の王妃が過去に何人かいるわ。王の愛妾になった女もね。あの家の娘は、いつ王族に嫁ぐことになってもいいように、それに相応しい教育を受けているのよ。件の令嬢だって、名門のリュティス女学院を卒業してるしね。だからこそ、叔母上はあなたを任せたんだわ」

 

「嘘……そんなことが……」

 

 タバサという少女を支えてきた基盤のひとつが、またしても大きく揺らいだ。オルレアン公家で過ごした幸せな記憶。その大切な場所に存在していた、うら若き教師の姿が醜く歪む。

 

 知らず、翠瞳から一筋の涙がこぼれ落ちていた。

 

「とはいえ、あくまで連中がオルレアン公家とアルル伯爵家に謀略を仕掛けていて、かつ、神輿を()()()()()()()()と仮定した上での話だからね? 本当にただの事故死だったかもしれないんだから、そんな顔するんじゃないよ」

 

 言いながらイザベラは懐からハンカチーフを取り出すと、立ち上がってそっと従姉妹の顔を拭いてやった。

 

「ふふ。人形が、泣き虫エレーヌに戻っちゃったね」

 

 そう言って笑うイザベラの顔に、タバサは在りし日の父の面影を見た。従姉妹姫は伯父ジョゼフにそっくりだ。父と伯父は性格こそ大きく異なるものの、その顔がとてもよく似ていたことを今更ながらに思い出す。

 

「姉さま……」

 

「ああ、よしよし。今まで我慢してきたんだ、たくさん泣いていいよ」

 

 従姉妹の涙を拭ってやりながら、イザベラは不思議な感覚に囚われていた。

 

 かつて――甘ったれで、すぐにぐずり出す目の前の少女が大嫌いだった。人形のように感情を表さなくなってから、嫌悪は憎しみに変わった。

 

 けれど、こうして昔のように素直に泣く従姉妹と触れ合ううちに、それまで抱いていた憎しみがゆっくりと溶け出して……その隙間に温かくも心地よい感情が流れ込んでくるのを感じている。

 

 愛情と憎悪。このふたつが実は良く似たものであったのだと、イザベラは心で理解した。

 

 

●○

 

「前置きが長過ぎて悪かったね。実は、本題はここからなんだ」

 

 イザベラはタバサが落ち着いたのを確認すると、居住まいを正した。

 

「例の〝月目〟の言葉だけじゃ実行に移せなかった。アルル伯爵令嬢の件も、あくまで状況からの推測に過ぎない。ロマリアの罠だって可能性もある。だけど、こいつは看過できない問題だ。わたしはもう腹を括った。動くなら今しかない」

 

 そう言って、イザベラは参加者全員に目を遣った。

 

「再来週、トリステインで新国王の戴冠式があるのは知っているわね?」

 

 頷くタバサと太公望。王天君は黙ってイザベラを見つめている。

 

「三王家の戴冠式は、教皇か枢機卿のいずれかが執り行うのが慣例になってる。トリステインには司教枢機卿のマザリーニがいるし、アルビオンと交戦中だから出て来ないと思っていたんだけど、王朝が替わる歴史的に重大な案件だけに、宗教庁は式典に詳しい大物を派遣した」

 

 自らの決意を鈍らせぬよう、全身を奮い立たせたイザベラは一気に告げた。

 

「イオニア教会の助祭枢機卿バリベリニ――聖エイジス三十二世の片腕と呼ばれる男だ。国境越えの手続きで、リュティス大聖堂に逗留しているこいつをかっ攫う」

 

 あまりの爆弾発言に驚愕したタバサは、大きく目を見開いた。

 

「それって……」

 

「わかってる。あのジュリオって男を誘拐できたのは、あいつが平民だったってのが大きい。ロマリアの神官を攫ったことがバレても、まだ国際問題。異端審問程度で済んだだろうさ。けど、この場合失敗したら……確実に戦争だ。最悪〝聖戦〟を発動されて、世界中を敵に回すことになる」

 

「聖戦? なんだそりゃ」

 

 王天君の疑問に答えたのは、ハルケギニアの住民ではない太公望だった。

 

「わしが読んだ書物によると、教皇のみが発布できる宣戦布告の一種だそうだ。味方が全滅するか敵と認定した者全てが死に絶えるまで終わらない、文字通りの殲滅戦。兵だけでなく、無辜の民をも巻き込む愚かな戦いだ」

 

 そう吐き捨てると、顔を顰める。

 

 太公望自身――本人にその意志はなくとも、結果として地上の民を扇動し、殷を滅ぼしただけに〝聖戦〟という概念に対して複雑なものがあったのだ。

 

「なるほどな。つまり、そいつが教皇の口から出たが最後、ガリアは国民全部が殺されるか、ハルケギニア全土を相手に勝つしかねぇってことかよ」

 

「ええ、その認識で間違ってないわ」

 

 醒めた声で答えるイザベラを、タバサは信じられないものを見るような目をした。

 

 従姉妹姫はロマリアの謀略を暴いて真実を追い求めるために、ガリアという国全体を賭ける大博打をしようとしているのだ。

 

「バリベリニ卿は宗教庁だけじゃない、教皇の腹心の中でも特に上位にいる存在だ。あの男なら、月目野郎の発言の裏を取れる。そんな相手が目と鼻の先にいるんだ、手を伸ばすべきだろ」

 

「だが、その決断はおぬしがしてよいものではなかろう? これは王の裁定を仰ぐべき案件だ」

 

「……お前、わかってて言ってるだろ」

 

「まあのう」

 

 ふふんと笑う太公望に、舌打ちするイザベラ。

 

「どういうこと?」

 

「自分で考えてみなさい。ここに居るんだから、わかるはずだよ」

 

 やはりこの従姉妹は意地悪だ。そんなことを考えながら、タバサは脳を働かせる。

 

(国王が実行を判断すべき重要かつ危険な作戦を、それをきちんと理解しているイザベラが独自にやろうとしている。それは何故? ここに居るからわかる? 場所のことを言ってるんじゃない。参加している、そういう意味……?)

 

 これまでのこと。今ここに居る人物。彼らの言動……。

 

 散らばっていた(パズル)欠片(ピース)が組み合わさり、タバサの明晰な頭脳は解答を導き出した。

 

「わかったみたいだね」

 

 タバサはおずおずと頷いた。

 

「陛下から実行の判断と許可を得るには、これまでに得た情報と作戦の詳細を明かす必要がある。でも、あなたにはそれができない」

 

「ああ、そうだ。どうしてだと思う?」

 

 イザベラはどこまでも真剣な眼差しでタバサを見据えていた。

 

「あなたがオーテンクンの存在を、陛下に明かしたくないから」

 

「よくできました」

 

 タバサの回答に、悪戯な笑みを浮かべるイザベラ。

 

「オーテンクンは本当に素晴らしいよ! それこそ、世界中で自慢して廻りたいくらいにね!」

 

 断言した後、イザベラは再び真面目な顔をして続けた。

 

「でもね、だからこそわたしは彼の存在を公にしたくないの。色々と手を貸してもらった上で言う台詞じゃないのかもしれないけど」

 

 そう零すイザベラに、王天君は軽く手を振って見せた。

 

「つっても、オレはオメーに色々と借りがあるからな。別に気にする必要ねぇぜ」

 

「あなたが気にしなくても、わたしはするの!」

 

 いきなり大声を上げたイザベラに、王天君には珍しく目を瞬かせた。

 

「あなたは自分の〝力〟と価値を充分理解してるわ。もちろん、わたしもね。だからこそ、余計に父上と会って欲しくないの」

 

「オメー、親父のこと尊敬してんだろ? だから認めて欲しいって、いつも言ってるじゃねーか。オレを引き渡せば、間違いなく褒めてもらえるぜ」

 

 普段のペースに戻ってニヤニヤと笑う王天君に、イザベラは癇癪を起こした。

 

「もう! あなたって、ほんとに意地悪なんだから! そんなことしたって、認められるのはあくまであなたの実力であって、わたしはただの仲介でしかないことくらい、わかってるくせに!」

 

「当然だろ」

 

 ケタケタと笑う王天君。しかし彼の余裕もここまでだった。何故なら、突然イザベラの両目からぽろぽろと涙が零れ落ちたからだ。

 

「わたしは! あなたを! 国の道具なんかにしたくないの!!」

 

 ビクンと身体を震わせる王天君。かたや太公望はというと、そんな『半身』を見て、極めて珍しい反応に遭遇したと内心驚いていた。

 

「わたしね、あなたに逢えて嬉しかったの。そりゃあ、最初は怖くて泣いちゃったけど……でも、あなたは震えてたわたしが落ち着くまで待ってくれた。すごい〝力〟を持ってるのに『できそこない』のわたしに、対等に付き合おうって言ってくれたわ。あの提案に、わたしがどれだけ救われたか……!」

 

 嗚咽を漏らしながらも、イザベラは続けた。どうにも彼女は連日に渡る衝撃の影響で、涙もろく感情的になっているらしい。

 

「……あなたが、初めてなのよ。わたしと同じ立場で喋ってくれたのは。一緒に馬鹿な話をして、笑って、遊んでくれたのは。あなたが来てくれてから、わたし……ほんとに、楽しかった」

 

 瑠璃色の瞳が揺れる。黒曜石の目は固まったままだ。

 

「あなたがどう思っているのかわからない。でも……わたしにとって、あなたは最初にできた……いちばん大切な……友達なんだ」

 

 そう言って、震えながら己が手を握り締めてきたイザベラに、王天君はしばし呆然とした後……気が触れたように笑い始めた。

 

「ハハ……ハハハハ……ッ! こいつぁ傑作だぜぇ! このオレを、友達だって!?」

 

 『部屋』の中に、すすり泣きと引き攣った笑い声が響き渡る。

 

「今回の仕事は『地下水』だけじゃ無理だ。オレと太公望の手が必要なんだろ? 友達(ダチ)を道具にしたくないとか言ったその口で、オレ達に頼み込もうってか」

 

「そんな! わたしは……」

 

「いや、そこは否定すんなよ。オレの言ってること、間違ってんのか?」

 

 ふるふるとイザベラの首が横に振られる。

 

「オメー、前に『地下水』には持ち主の潜在能力を引き上げる〝力〟があるっつってたよな? そいつを潜入の得意な太公望に持たせる。んで、コイツが目標のトコに辿り着いたらオレが『窓』を開けて……かっ攫う。そーいう作戦考えてたんだろ?」

 

「……そうよ」

 

 潜入が得意って何だ。

 

 場の空気を読まずにそう問い質したくなったタバサだが、不意に思い出した。

 

(そういえば、彼はしょっちゅう調理場からお酒や食べ物を盗んでいた。それに、若い頃に敵のお城や本拠地に忍び込んだ話をしていたはず……)

 

 平民を操りつつ系統魔法を繰り出してきた『地下水』が太公望と組めば、鬼に金棒、烈風に杖。彼らに王天君の『窓』が加われば、盗めないものなど何もないだろう。

 

 と、王天君がじとりと太公望を睨んだ。

 

「なあ太公望。オメー、こうなるのがわかってたんだろ?」

 

「まあのう。ロマリアの大物が来ているのは街の食堂で聞ける程の噂になっておったし、あの小僧はまあともかくとして、敵はそう簡単に尻尾を出すような連中ではない。となれば、採れる選択肢は限られておる」

 

 してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべる太公望。

 

「それに、おぬしはどー見てもそこの姫君が気に入っておったようだしのう?」

 

 そして相手を冷やかしながら、利き手ではない右手をすいと挙げる。

 

「今までそれなりに遊べたしな。そーいうことにしておいてやるよ」

 

「ふん、相変わらず素直じゃないのう」

 

「オメーにだけは言われたくねぇな」

 

 そう返した後、王天君は改めてイザベラに声をかけた。

 

「なぁイザベラ。その作戦、悪くはねぇが穴がある。当然、気付いてるよな?」

 

 いきなり話を振られたイザベラは再起動にゼロコンマ一秒ほどの時間を要したが、すぐさま首を縦に振った。

 

「もちろん。リュティス大聖堂はボン・ファン寺院と比べて魔法的な護りや防諜措置が薄いけど、調査できているのはあくまで系統魔法に関することだけで、それ以外の対策をされていたら完全にお手上げさ。今までならそこまで考慮に入れなかったけど、意志ある魔道具の作り方を〝月目〟が知っていたってことは……()()()()()()があるから、かもしれないわ」

 

 異端とされ、禁じられている先住の魔法を宗教庁が用いている可能性を示唆するイザベラ。

 

「ククク……やっぱり、オメーはわかってるぜ。オレ達に頼もうとしたのは間違っちゃいねえよ。何故なら、オレ達ふたりが組めば……そんなモンじゃ捉えられなくなるからな」

 

 口端を上げた王天君に、王女は何故か不吉なものを感じ取った。

 

「あぁ……あぁ、そうだ。言っておくが、オレがオメーを通して見たかったのは、オメーがオレやオフクロになるところじゃねぇ」

 

「オーテンクン……?」

 

「オメーはオレのことを友達だなんて言ってたけどよぉ、オレは違うぜ」

 

 残酷な通達に、イザベラはくしゃりと顔を歪める。だが、それを告げた王天君はいつになく幸せそうに……笑っていた。

 

「オレは……オメーのことを、娘みたいに思ってた」

 

 そう言うと、王天君は太公望の前に左手を突き出した。途端、彼らの正面に『窓』が開く。

 

「……良いのだな?」

 

「シのゴの言わずに手ぇ出せよ」

 

 真剣な眼差しで問う太公望に、感情の籠もらぬ声で応える王天君。

 

「そうか。ならばゆくぞ、王天君!」

 

 彼らのただならぬ雰囲気に、タバサとイザベラは立ち上がった。

 

「待っ……」

 

 彼女たちが言い終える前に、ふたりの手は『窓』に触れ――閃光が『部屋』を満たす。

 

 ――次の瞬間、王天君と太公望は光と共に消え去った。

 

 代わりに彼らがいたはずの、その場所に……圧倒的な存在感を放つモノが現れた。

 

 

 




新年明けましておめでとうございます。
おかげさまで、ようやくノロの魔の手から逃れることができました。

次回更新は1/18を予定しておりますが、状況により前後するかもしれません。

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