ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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更新遅れて本当にすみません……


第9話にも足を運んでいただきありがとうございます、もうまめだです


前書きもこれぐらいにしてどうぞ


相対する

 

 扉を開けた俺の目には飛び込んできたのは一面に倒れた兵士の残骸。正常ならば異臭を感じただろう鼻は麻痺したのか何も感じない。無数の亡骸の中心には、白銀を主としたはずの装備を真っ赤に染め上げ、見知った顔に虚ろな表情を漂わせ、一人の少女が立っていた。手に持った剣からは今まさに命を刈り取ったのであろう、鮮血が垂れ、地面に落ちる微かな音を立てている。

 

 手は震えたままだった。とっさに扉を閉めようと、取っ手を握ろうとするがうまくつかめなかった。見せたくなかった。ジータを最も信頼しているルリアとビィには。見て後悔するのは俺だけでよかった。けれども俺から逃げるように扉は逃げ、開いていき、惨劇の目撃者は増える。

 

「……ジータっ……」

 

 消え入る声でつぶやくルリアは全身の力が抜けたかのように肩を落とし、顔はなんとか目の前を向くも崩れるように座り込んでしまった。ビィも悲しそうな気まずそうな表情のまま下を向き、うつむいている。俺は、何も言えなかった。

 

「あーあ、見つかっちゃったか。あれほど追いかけてこなくていいって、探さなくていいって言ったのに。ほんとに、もう、ほんとうにめんどうくさい……」

 

「ジータ、なんでだよ、何回も、何回も言ったじゃないか、ジータがこんなことする必要ないだろ」

 

「うるさい……」

 

「どうして信じてくれないんだよ……ねぇ、どうして……」

 

「うるさいなぁ」

 

「この世界は本物なのに……あの悪夢からジータはもう……解放されているのに……!」

 

「うっるさい! ……そんなの、もうわかってる!」

 

「……!」

 

ーーー

 

 ジータが目覚め、自殺未遂をした後、俺はルリアを外へ出しジータと2人きりになった。腹を蹴られた痛みはだいぶ軽くなっていたが、俺には何を話せばいいかわからなかった。自殺をしようとした理由を聞けばいいのか、昨日のあの時何が起こったか、それとも、ミスラに何を誓約したのかを聞けばいいのか……

 

 

 団員達の前ではてきぱき指示を出し、依頼先とも積極的に話をし、それをジータが見守るという構図が団員たちの間では共通の認識になっていることには気づいていた。まさに団長という体の俺に対し、ジータは副団長や団長補佐という役柄で自分から何かを言うことはあまりなかった。それがこの団の特色なんだなと、そう思われてもかまわなかったがそれは違う。俺は、昔からジータに頼りきりだった。

 

 世話好きのジータは幼いころから俺の面倒をよく見てくれた。いつも一緒にいてくれて、言ってしまえば年の近い母親という感覚だった。そしてそれは大きな支えだった。星の島に行くという決意を立てた時も、団を立ち上げたときも、ジータが俺にとっての大きな支えだった。些細な依頼でも、強大な魔物との戦闘でも、団員たちとの会話でも、後ろにジータという大きな支えがいるから、俺はそのすべてを自信をもって成し遂げることができた。

 

 そんな俺だから、大きな支えであるジータと2人で会話をするのがだんだんと気恥ずかしくなっていた。甘えたいというわけではないが、大きな存在であるジータの前では常に主導権を握られているような感覚があった。といっても、ジータはいつも通りの笑顔で、他の団員たちと同じような平等さで俺に接してくれたが。

 

 そのジータが今は全く別の人格を持ったかのように居座っていて、俺には声をかけることができなかった。長い沈黙が続き、居心地が悪くなる始め、それが嫌になったのかジータが話しかけてきた。

 

 

「ねぇ、どうして殺さないの?」

 

「ジータ、それはもうやめてくれよ。俺とこの団のみんながジータを傷つけるわけないだろ」

 

「どの口が言ってるんだか。あれだけ私を苦しめたのに」

 

「それは多分夢だと思う……ジータは昨日の昼頃気を失って今起きるまでずっと眠っていたんだ。その間何度か、いや何度もうなされてたんだ」

 

「……あれだけリアルな痛みが夢なら、グランが今しゃべっているこの現実も夢の一部だろうね」

 

「ジータ、気を失う前に、何をやっていたんだ。アネバルテもルリアも何も覚えていなかった……。目撃者の証言から、ジータがルリアにミスラを出すように指示して、そして……ジータ?」

 

 無表情だったジータの顔に微かに表情が戻り、その目からは涙が流れていた。自分でも気づかず泣いてたのか、それに驚いてすぐに顔をこするが、目からあふれる涙は止まることを知らないのか、際限なく流れていく。

 

「なんで、私は……いや、違う。今回は殺してくれるまでに時間がかかる、長めの話なのね。もうわかったから出て行って」

 

「え、っと、うん。でもこれだけは約束して。俺たちは誰もジータを傷つけることはしない。だから俺たちの仲間を傷つけるようなことはしないで。自分のことを傷つけるのもダメだよ」

 

「分かったから!」

 

 

ーーー 

 

 

「分かってる……って?」

 

「だから、あれが夢だってことも、この世界が現実だって事も気づいているんだって。私が気絶する直前に何が起こったのかも、ミスラに何を誓約したのかも全部覚えてる……」

 

 ジータが自嘲じみたように笑う。そしてその表情に静かな悲しみを見せる。

 

「でも聞こえてくるの。グランからもルリアからも、団員のみんなからも。夢の中で聞いた、夢の中だけのはずだった言葉がね。グランやルリアがどんなに私に優しい言葉をかけても、私には真逆の心が聞こえてくる。私はあの夢の中みたいにまた、また……」

 

 一瞬目に涙がたまったかのように見えたが、すぐに無表情に戻った。剣を一振りし切っ先に付いた血を飛ばしたジータはそれを肩に担ぐ。

 

「だからもう考えることはやめたの。私は何も考えないでたった一つの目標に向かって進んでいく。目の前に現れた邪魔者は仲間だったとしても……容赦はしない」

 

「も、目標って、なんですか?」

 

「言ったでしょ。もう嫌なの。私を殺そうと悪意を帯びた声でののしるグランたちを見るのも、それに苦しむみじめな私を見るのも。私は私を殺したいの。いやそれだけじゃ足りない、また何かが私を目覚めさせて苦しめる。だから私は、私の存在をこの世界から消す」

 

「存在を消す?」

 

「アダム大将がいいことを教えてくれたよね。星晶獣アーカーシャ、歴史そのものを改変する力をもつ……。その力があれば歴史から私という存在を消すことができる……。そうでもしないと私はもう助からない……」

 

「そんなことしなくてもジータのことは救うよ!」

 

「それは……無理。ミスラとの誓約は絶対、そして果たすことはできない……永久に」

 

「な、なにを誓約したんですか?」

 

「そんなことはどうでもいいの、救われた者はそのことだけに感謝していればいいの……。もう私にはアーカーシャを頼るしかない。成し遂げるのは難しいけど私は何も怖くない。存在を消すことが目標なんだから、その道中で死んだらそれはそれで良いし……、立ち話はこの辺にしよっか。何とか最後の一人からフリーシアの居場所は聞けたから、馬鹿なことを始める前に会いに行かなくちゃいけないんだ。邪魔はしてくれないでほしいな……」

 

「そうも、いかない。ジータは俺たちの団の一員だ、団のみんなを守る権利がある」

 

「団長権限で団をやめるよ」

 

「団長権限でそれは受理できない」

 

「……グランなら何を言っても私を止めるだろうと思ってたよ、ルリアもね。それにやっぱり憎い。私が苦しむのをみんな嗤いながら見て、私を蹴って踏んで……そして殺した。私は信じていたのに……。今すぐ私の前からいなくなってくれれば何もしないけれど、仕方がないね……アローレイン」

 

 持っていた剣を一度地面に突き刺したジータは、手に漆黒の弓を顕現させる。そのまま無駄のない動きで矢を番えると俺たちの真上に向けて力強く引き、そして放った。

 

「ビィ!、お前は先にみんなと合流してくれ! 俺とルリアは少し遅れてから合流すると伝えてくれ」

 

「お、おぅ、わかったけどよ……無事に戻って来いよ」

 

「もちろんだ! ルリア、こっち来て!」

 

 ビィが未だ開いている扉から外へ出ていくのを確認する暇もなく、俺は座り込んでいるルリアの手を握って引き寄せる。と同時に剣を鞘から引き抜くがすでに魔法の矢が広範囲にその矢先を向けて落ちようとしていた。

 

 アローレイン、広範囲に大ダメージを与えるとともに負傷者の能力を下げる追加効果がある全体魔法。凄腕の魔術師が使えば、一度弓を射るだけで無数の矢を出現させ、戦闘不能者を多数作ることができる。そしてジータも凄腕といえる、魔法の使い手だった。ジータの手から放たれた矢は空中へと舞い上がり、俺たちを中心とした巨大な円形の範囲に降り注いだ。

 

「くっ、受けきれない……」

 

 とっさにファランクス、魔力の壁を張って威力を削ぎ、さらに剣で俺とルリアに当たりそうな矢を弾いていくが、予想以上の矢の量にすべてを防ぐことはできなかった。ルリアに当たる矢は何とか防げているが、取りこぼしの矢が背中に突き刺さるたびに身体から力が抜けていく。

 

「やっと終わった……!、ルリア、ごめん!」

 

 アローレインによる降雨のような矢の攻撃が終わるが安堵する間はなかった。謝りながらうずくまっているルリアを横に突き飛ばし、剣を構えるとジータがすぐに突っ込んできた。その威力を全身に力を込めてなんとか抑えきる。見ると、まさにルリアがいたはずの場所に今はジータの剣先がある。

 

「ジータ、本気なんだな」

 

「その顔も、その声も、心も、すべてがもう、見たくないの!」

 

 ジータの叫び声とともに、剣にかかる力が大きくなる。そのまま足を踏ん張ってでさえも受けきれない剣の圧力に俺の身体は吹っ飛ばされた。空中で何とか姿勢を保つも、壁に勢いよく当たりそのまま崩れ落ちる。口から体中の空気がすべて抜け、新鮮な空気を求めて息を吸おうとするが、首が絞めつけられるのを感じ、さらに身体が勝手に浮いていく。

 

「あ、がぁ……!」

 

「グラン!」

 

 酸素が足りず頭が真っ白になり始めた俺の首を片手でつかみ、持ち上げるジータの後ろから光が差し、星晶獣ユグドラシルが現れる。先ほど見せたように掌に光を集めるが、それに気づいたジータは俺を部屋の中心まで投げ飛ばし、自らもそこから離れる。一瞬後にユグドラシルから放たれた光の輪が衝撃音を響かせながら壁に大きな傷跡を残した。

 

「はぁ、はぁ……ありがとう、ルリア、ユグドラシル……」

 

 背中から地面に叩き付けられた俺は全身が求めた空気を一心に吸い、何とか立ち上がることができていた。少し離れた場所にはジータがいて、ルリアのすぐそばにいるユグドラシルをにらみつける。

 

「ユグドラシルは助かったのに、私は何で助からないの……、ねぇ!」

 

 ふっと空間が歪んだかのようにジータの姿が消え、ゆらぐ。白銀と紅が空を疾く。瞬きさえも許さない時間のかけらともいうべき短い時間で、ジータの手が持つ切っ先がユグドラシルの胸をとらえていた。星晶獣の驚きから苦痛へと変わるその顔を見て俺はすぐに叫ぶ。

 

「ルリア!、早く戻して!」

 

「は、はい!」

 

 傷を負った星晶獣の姿が消えていく。胸に刺さった剣が重力に逆らうことなく下に落ち、振り子のようにジータの腕を揺らす。

 

「誰も私は救えない、救うことはできない」

 

「いやできる!、だから……えっ、がはっ」

 

 再び揺らいだジータの身体がいつの間にか俺の前で剣を振るっていた。手に持っていた剣は金属音とともに弾き飛ばされ、遠くへと飛ばされる。そのまま頭をつかまれ腹に蹴りをもらった俺は力なく地面に膝をつく。

 

「もうしゃべらないで……私を救うんだったらここで死んで」

 

 剣を振り上げる気配がした。見上げると俺の顔に切っ先を向けたまま両腕で剣を持って立つジータの姿が見えた。その表情にまだ悲しみを纏っているのは気のせいだろうか。俺は最後の抵抗をと手に力を込める。間に合うか……でも間に合っても……

 

 

 剣が突き下される。手に力を込めたまま俺は目をつむる。

 

 

 顔から地面に向かって突風のように流れる風を感じ、付随して起こる轟音を聞いた。けれどもそれ以外は何も起こらなかった。目を開けると切っ先は、俺の顔数センチ手前で止まっていた。

 

「オニキス、ありがとう」

 

 ルリアの声が聞こえ、視線を向けると彼女とそのそばにいる星晶獣、カーバンクル・オニキスの姿が見えた。宙を浮くその星晶獣は闇属性の攻撃の威力を半減するその加護効果を持ち、それにリキャストがぎりぎり間に合った俺のファランクスの効果が重なり、絶対防御となった魔法の壁がジータの剣を止めたのだった。

 

「……」

 

 無言のまま剣を俺の顔から遠ざけたジータは背を向けて俺から離れていく。途中落ちていた俺の剣を拾い、そのまま手に携えてこちらを向く。

 

「これはもらっていく。邪魔をされなければいいんだから最初から武器だけ奪っておけばよかったんだ。それにまた会うだろうし。星晶獣アーカーシャの力を使うにはルリアとオルキスの力が必要。別に帝都の住民全員の心を失わせても構わないけれど、別に急いでいるわけじゃないしね。確実に、私は自分の存在を消したい。だからルリア、また今度ね」

 

「ジータ……」

 

「それとグラン、今は急いでるからとどめは刺さないけれど、次ルリアに会いに来た時に抵抗してきたらその時は……」

 

 俺のほうをちらっと見たジータはそのまま何も言うことはなく立ち去り、あとには俺とルリアだけが残された。

 

 

 




どうでしたか


また次回もよろしくお願いします……


あっ、UA2000超えました、ありがとうございます!

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