ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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重い話が続きます(´・ω・`)


もうまめだです,第5話にも足を運んでいただきありがとうございます。

前書きもほどほどに、それではどうぞ!


現実と夢の狭間で

「おーい、ジータ!」

 

 名前を呼ばれた気がした。あれ、私は今どこにいるんだろう。何をしていたんだっけ……。目を閉じていたことに気づき、ゆっくりと開いた私の視界には新鮮な緑が飛び込んでくる。どこまでも続いていそうな空には雲ひとつなく、柔らかな日の光が心地よい風と共に私に伝わってくる。懐かしさを体全身に感じ、私は気づく。ここは、外の世界を夢見た昔の、私の故郷の……。

 

「ジータってばぁ、怒るなよ~!」

 

 名前が呼ばれた。振り向くと走ってくる1人と、飛んでくる1匹のシルエットが見えた。それは、だんだんと鮮明な形を描いていき、気づけば見知った二人へと変わっていた。

 

「グラン。それにビィ。あれ……」

 

 あれ、なんか、幼くなった? 私の知っているグランはもっとたくましくて頼りがいがあって……。

 

「どうしたんだぁ、ジータ?」

 

「ううん、何でもない。……それより、2人はどうしたの?」

 

「どうしたのって。そりゃ俺がジータのことを怒らせたみたいだから、こうやって謝りに……」

 

「ジータが出て行ったあと、こいつすごい落ち込んでてよぉ。言いすぎちゃったなあ、とかぶつぶつ言ってたからさぁ。ジータも許してやってくれよ!」

 

 そうだ。お昼を食べているときにグランに、やっぱり力関係で考えれば女の子は男の子には敵わないって言われて。それに私は怒って家を出て、いつもの修行場所に行こうと思って……。

 

 ついさっきのことが、まるでずっと昔のことのように思えてくる。違う、やっぱり昔の出来事のはずだ。でも、実際に今私はここにいる。私は、もっとたくさんの冒険を、たくさんの仲間としたはずなのに。仲間……、みんなはどこに……。

 

「なぁ、ジータ。本心じゃなくてさぁ、たまたま口に出ちゃっただけなんだよ。だからさ、ほら、今日も修行しようぜ」

 

「えっと、うん」

 

「よっしゃあ~、仲直り終わり! ほらビィも行くぞ!」

 

 強く手を握られ、引かれる。鍛え上げられているはずの掌とは違い、思った以上に柔らかいそれの感触に違和感を覚えながらも、私はグランに走ってついていく。向かう場所は、毎日修行している、修行していた場所だ。

 

 

 いつもの修行場所についてから、私とグランは剣を構えて向かい合った。といっても木刀だ。普段使い慣れた、魔物も人も斬れる剣じゃない……、普段ってなんだっけ。私は今まで木刀しか使ったことが……あれ……。

 

「気を引き締めろよジータ!、とりゃあっ!」

 

 勢いよく走りながら木刀を振り下ろしてきたグランの動きは今の私にとっては緩慢だった。必死な表情に対してゆっくりな動作に少し驚いて反応が遅れた私だが、その一振りを難なくかわし、そのまま自分の木刀を横に薙ぐ。力を込めたつもりはなかったが、それは腹部にクリーンヒットし、グランは3mほど飛んでいった。

 

「えっ! お、おい、グラン大丈夫か。あ、あれ、ジータってこんな力あったっけ?」

 

 私とビィは急いでグランのところへと向かう。幸い大事には至っていないようで、苦しい表情でお腹を押さえながらも笑顔を見せている。

 

「い、いやぁ、ジータも考えたな……。元々の、自分の力だけだと、はぁ、弱いから、木刀に魔力を、ふぅ、纏わせたんだろ。それなら、力の強い奴とやりあっても、戦えるからな……」

 

「なるほどなぁ。考えたなぁジータも。さっきのグランの悪口に怒って出て行ったときに思いついたのか?」

 

 そういえばそうだ。無意識にやっていたけど。それにこれはカタリナに教わった方法で……、カタリナ?、カタリナって、あれ……そうだ、カタリナはどこ?

 

 

「にしてもよぉ、いつの間にそんな魔法覚えたんだ? グランはジータがこんなことできるって知ってたか?」

 

「いや、俺も初めてだ。まさか隠れて練習して、うわっ、なんだあれ!」

 

 

 私の思考はグランの叫び声によってかき消された。村の方角、見上げれば帝国軍の戦艦が灰色の煙を空を覆うかのように漂わせながら、悠々と飛んでいる。

 

「ん? ま、待てまてまて! なんだありゃ! ありゃあ、どっかの国の戦艦か? なんだってこんなド田舎に……」

 

「あっちは村のほうだ。なんだか嫌な予感がする、事故が起きたかもしれない。ジータ、ビィ、戻ろう!」

 

 

 グランが走りはじめ、ビィがそれに続く。私も遅れまいとついていく。修行場所を抜けて森に入り、また森を抜けて少し上り、すぐに下って小川を越え……、そうこの川の少し先で……

 

「きゃあ! いったた……」

 

 グランが蒼い髪をした女の子にぶつかる。そうだった、ここで会ったんだ、ここが始まりだったんだ。

 

「な、なんだこのお嬢ちゃん?」

 

「ルリア……!」

 

「えっ、ど、どうして私の名前を?」

 

「そ、それは……うっ……」

 

 不意に視界がぼやける。まるで夢を見ているかのように暗闇に覆われ、方向感覚も失ったかのように私は行き場を見失う。この状態は永遠に続くのか……、不意に不安を抱いた私だがすぐに視界は晴れ始めた。ただ少し時間が経ったのか、次に飛び込んでいた光景はだいぶ異なっていた。グランが剣を抜き、その視線の先にはポンメルンがいて、さらに7つの首を持つ竜、ヒドラが獲物を見定めるかのように首を動かしている。

 

「まずはそこのガキからですネェ! 己の運命を呪うといいですよォォッ!」

 

 そうだ。ここで私は……

 

 考える間もなく体が動く。まさにヒドラの凶爪がグランを引き裂こうとするその刹那に、飛び込んだ私の両手がグランの身体を押し倒していた。グランという対象を失った星晶獣の凶器は、そのまま私の身体に襲い掛かる。

 

「がっ、はぁ……」

 

 鋭い痛みと朦朧としていく思考を感じながら私の身体は地面に叩きつけられた。身体全体の血管がどくどくと脈打ったかのように感じられる。けれど私はほっとしていた。今回もグランを無事に助けることができた。それに、大丈夫なはず。私はこの後……。

 

「なっ、おぉい、しっかりしろよ!」

 

「ジータ! おい、ジータ……」

 

「そ、そんな。これじゃあ、私にも、もう救えません……」

 

 

 えっ……ルリア? だって……前は……

 

 

「それに私の命だって安くないんです。あの時だって私、命の共有を本当はしたくなかったんです、あの後何度後悔しましたっけ。やっぱり自分の命なんだからちゃんと考えて行動しないとですよね?」

 

 

 な、なんで……

 

 

「1つの艇に2人の団長はいらねぇよなぁ! まぁ、2人でもいいけどよ。でもグランのほうが人望は厚いし、ジータは邪魔だから、ここでいなくなってよかったんじゃねえか?」

 

 

 ビィまで……

 

 

「ジータ。俺は昔からお前のことが嫌いだった。何かとお姉ちゃんだからって俺に対抗してきて面倒くさかったし。俺が親父のいる星の島に行くって決意した時も、なら私も行くってついて来ようとしやがって。まぁ、うまく事が運んでよかった、ありがとうポンメルン大尉。このことは、一人の少女が野生の魔物に襲われて亡くなった、『不幸な』事故だとして処理されるんだろ?」

 

「そうですネェ。そしてあなたは、姉を魔物に殺されたという悲劇のヒーローの肩書を手に入れ、幸先良く冒険を始められる、っていうわけですネェェェェ!」

 

 

 何を言っているか理解できなかった。何も考えたくなかった。目に熱いものがこみ上げ、そのままこらえることもできず、あふれて流れていく。口を開けてもすでに声を出す力はなく、すでに意味もなくなった呼吸だけで精一杯だった。これ以上、何も聞きたくない。いっそ、もう死んでしまいたい……!

 

「そうか、なら殺してやるよ」

 

 木刀を持っていたはずのグランの手にはいつの間にか真剣が握られていた。それを逆手に握り、切っ先を私の首に軽く当てる。

 

「苦しそうな表情だな、みじめで敗者の顔だ。今楽にしてやるよ。お前なんかこの世に存在すべきじゃなかった。人に憎まれて死んでいく自分の人生を恨むんだな……」

 

 最後の力を振り絞って血がにじむほど歯を食いしばる。目を閉じたかったが、魔法で縛られているかの如く私の身体は動かず、最後の望みさえ許されなかった。そして……嘲るような表情をして剣を振り上げたグランは、何のためらいもなく獲物を私に……。

 

 もう目覚めたくない。途切れる意識の隅に聞こえてきたのは、今まで信頼してきたグランの、ビィの、ルリアの、仲間たちのあざ笑うかのような卑しい嗤い声、そして胸の奥にあり私を今まで支えてきた私の心が崩れていく音だった……

 

 

ーーー

 

 夜。

 空の上を艇は、次なる目的地へ向けて静かに飛んでいく。微かに船が、まるで自らが生きていることを主張しているかの如く音を発しているが、それ以外は音もなく、静寂に包まれている。すでにほとんどの団員達は眠っているようだ。一握りの人間は起きているだろう、趣味で夜更かしをする者、外の様子を確認している者、そして看病をする者。

 

 

 

 あの日。捜索開始から1時間後、俺は島に響きわたる鐘の音を聞いた。すでに島民希望者を1人見つけ同行していた俺とビィはその音を聞くや、すぐにその場を離れ長老の家へと向かった。ジータが俺の目論みに気づいたのはわかっていたから、ジータとルリアがうまいことやっただろう、とすでに依頼をこなし終えたかのように俺の心は気楽になっていた。

 

 

 けれども俺の予想とは全く異なることが起こっていた。長老の家に着くと、依頼主がひどく不安そうな顔ですぐに俺たちを家の中に案内した。そして何が起こったかを俺たちに説明した。

 

 

「3人が倒れているという連絡があったんです。うち2人は双子のようにそっくりな少女で、もう一人は蒼い髪をした少女だと言われて。私たちはすぐに救急隊を派遣して、ここに連れてくるように頼んだんです。今は容体は安定しています」

 

 応接間の奥にある部屋に入るとベッドが3つ並んでいて、それぞれのベッドで1人の少女が眠っていた。ルリアと、ジータと、あとはジータの姿をした星晶獣アネバルテだろう。ほかに数人の看護師が部屋にいて、見守ってくれている。

 

「でもどうして3人が倒れていたんですか」

 

「それについては目撃者が多数いたので話を聞きました。今、弟が事件の発端となったエルーンの女性に話を聞いています」

 

「分かりました」

 

 

 十数分後、応接間から長老とエルーンの女性が出てきた。女性は一度俺たちに深々と頭を下げて謝罪すると外に出て行った。

 

「うーん、目撃者の話を総じても何が起きたかがいまいちわからないのだ。あとは当事者の3人が起きてくれればいいのだが」

 

「彼女は?」

 

「あぁ。彼女の話によるとアネバルテをナイフで刺したらしい」

 

「アネバルテを? どうしてですか?」

 

「彼女はこの島に来て恋人を作ったのだが、その彼が半年前に自殺をしてしまったらしい。島の記録にもちゃんと残っている」

 

「自殺を……」

 

「ああ。もともと責任感のある真面目な方だった。だが、真面目な人のほうが、心を病みやすい。実際彼もそうで、さらにアネバルテの心の支えがなくなったことで自らの才能をあきらめ、人生を悲観し、命を絶った」

 

「そ、そうでしたか」

 

「その時から彼女はアネバルテに恨みを持っていたようだ。それで今日たまたまジータさんとルリアさんたちを見かけたときに、ジータさんにそっくりなもう一人に気づいて、すぐに感づいたのだろう。そこからはほとんど無意識だったようで、家にすぐに帰り、凶器を持って戻り、そして……」

 

 けれど、戦闘を主とした星晶獣ではないとはいえ、凡人のナイフの一撃でダメージを受けるわけがない。それにそれだけならルリアとジータまで倒れたという不可解な事実は残ったままだ。

 

「そのあと女性はジータさんに引き留められたようで。放心状態で、何も覚えていないと言っていた」

 

「ほかの目撃者の話は?」

 

「ありました。ほかの目撃者の方々の話は私が聞いたので私から説明します。話をまとめると、まず、刺されたアネバルテがルリアさんに襲い掛かったらしいのです」

 

「えっ、どうしてルリアに?」

 

「私にもわかりません。それをジータさんが止め、何かをルリアさんに指示したようです。そしてアネバルテは意識を失ったようでして。しかし、今度はルリアさんに異変が起きたようなのです」

 

「今度はルリアがですか……」

 

「はい、そしてもう一度ジータさんがルリアさんに何か叫んで、そうしたらこれは私にもわからないのですが、歯車を模した緑色の星晶獣が姿をあらわしたようなのです」

 

「歯車で緑色だと……ミスラか? でもどうして……」

 

「直後にルリアさんは意識を失ったようで。そしてジータさんが何かを叫んだあと同じく意識を失ったということです」

 

 長老と依頼主の話を反芻するが答えは出ない。ミスラ……、誓約を司る星晶獣だが、どうしてジータはそんなものを召喚させたんだ? 何か、誓約をしたのか……。

 

「長老! アネバルテが目を覚ましました!」

 

「分かった、今行く。グラン君、行こうか」

 

「はい」

 

 

 

 ジータの姿をしたアネバルテに、俺たちは事件の詳細を聞いた。しかし、ほとんどのことをアネバルテは覚えていなかった。

 

「エルーンの女性の方が私を刺して、そのあと私はすごく悲しくなっちゃって……。すみません、そのあとのことは覚えていないんです」

 

「そうですか……、分かりました。あとの2人が何か覚えていると思うので気にはしないでください」

 

「はい……、でもどうして2人とも……。私、2人に何かしてしまったんでしょうか……」

 

 

 

 その後すぐにルリアも無事に起きた。けれども、ルリアからもあまり情報を得られることはできなかった。

 

「アネバルテがすごい苦しそうだったので、私が力を吸収して……確か全部吸収したはずなんですけど……、ごめんなさい、そのあと何が起こったかは……」

 

「そうか。あとはジータが起きてからか……、ルリアは気にすることないからね」

 

 俺はルリアの頭を撫でながらジータのほうを見た。時折苦しそうな表情を見せながらも起きる気配はなかった、そして次の日もジータは目を覚まさなかった。

 

 

 

 




いかがでしたか!

内容や、展開は考えてあるのですが、それを文字にするのに少し疲れたので。次の投稿まで2,3日時間をいただこうと思います。時速1500文字にも満たないのでコスパが悪すぎる……


前半の回想部分はゲームのチュートリアルを参考にしました、久しぶりに見直したので懐かしかったです!


読み返したら加筆したいところが結構ありました汗、でも今日は疲れたのでまた今度にします


というわけで次回もよろしくおねがいします!

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