ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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二進数の話です。


お久しぶりです、もうまめだです


気づけば没話を抜いても20話目らしいです、



それではどうぞ!


0から1は作れない 後編

「お?、グラン、そんなところでどうしたんだ?」

 

「あぁラカム、久し……ぶり?」

 

 意図せず口をつく久しぶりという言葉はさらに俺を困惑させる。毎日同じ艇に乗り、顔を見合わせているはずのラカムなのに、前に会ってから随分と時間が経っていたような気がした。時間間隔さえもが疑わしい。

 

「久しぶりっておめぇ……、さっき朝食の時に会ったばっかじゃねぇか。ははっ、どうした?、まだ寝ぼけてんのか?」

 

「あはは、そうかもしれないね」

 

「そんで、そんなところでどうしたんだ?」

 

「いや、この壁に違和感を感じて、ちょっとね」

 

「言われてみれば少し他の壁と色が違うな。まぁ、違うペンキを使ってりゃそうなるか。どうだ、この際グランサイファー中の壁を塗りなおすか?、最近資金も増えてきたしよ」

 

「違うペンキ?」

 

 俺がこの艇に来る前の話か……? そういえばラカムは子供のころからグランサイファーの整備をしてきたんだから、自分で壁とか部屋とかもアレンジしたのかもしれない。

 

 けれど俺の予想とは違い、ラカムは少しの不機嫌な顔をして、強めの口調で俺に質問をする。

 

「おいグラン、冗談だよな? この壁を塗ったのはお前だろ?」

 

「お、俺?」

 

 

 情景が浮かぶ。誰かに記憶を挿入されたかのような、さっきも感じた奇妙な感覚。俺とルリアがまだ木目の見える壁の前に立ち、廊下に白いペンキの入ったバケツをおいて、刷毛を持って。俺の塗った場所はムラがあってそれを見たビィが笑い、ルリアが俺の塗ったところを塗りなおしていく……

 

「でもなんで? ここはもともと……そう部屋があったはずなんだ! あれ何で、俺は……」

 

 新たな情景が浮かぶ。部屋の壁を壊している俺とラカム。二つの部屋を仕切る壁を取り壊して、一つの大きな部屋にするために。今その部屋は、

 

「俺の部屋か……」

 

「あぁ、そうだが……グラン大丈夫か? いつものお前らしくないぞ?」

 

 ラカムが心配そうに俺の顔を覗き込む。けれど俺にはわからなかった。もちろん、この艇で過ごした大切な思い出を忘れてしまっていたのかという疑問もある。でもそれ以上に、今蘇った記憶が、俺に植え付けられた偽りの記憶のように感じたことに違和感を感じた。記憶はある、憧憬も覚えている。俺は確かに自分の手で壁を壊し、ペンキを塗って……、でも、それは本当に今の俺がやったことなのか?

 

「知らず知らずに疲れがたまってるのかもしれねぇな。エルステ帝国と全国民を救うっていう偉業を成し遂げた後だしな」

 

「エルステ帝国を救った?、俺が?」

 

 

 そのあとラカムに本気で心配されながら、ここ数日間の出来事を聞いた。黒騎士と共に帝国に潜入した俺たちはエルステ帝国軍大将アダムの協力を得て、一時撤退するがタワーに潜入。起動中のリアクターを止めるために内部を奔走し、敵を倒し、そしてフリーシアのところへたどり着いた。魔晶の力を使ったフリーシアが悲願を達成するために自らの命運をミスラに宣誓し、俺たちは黒騎士の言葉に従い過去を変えるために星晶獣アーカーシャを探した。ルリアの力の暴走のせいで一時は危険な状態に陥ったが何とかねじ伏せ、フリーシアを止め、リアクターも止め一件落着……。

 

 ラカムの説明と共に場面場面の光景が脳内に再生され記憶が蘇る。けれど違和感は常に消えることはなかった。その場にいたのは俺なのに、俺にはそれが誰なのかわからなかった。

 

 ラカムがグランサイファーの操縦に戻り、俺は再び廊下に残された。ずっと向こうに騎空団の子供たちの笑い声が聞こえる。俺は壁の前から動けなかった。こうやって待っていればドアノブがふっと現れて、俺に真実を見せてくれるのをひそかに考えながら、反対側の壁に背中を預け、ぼーっと立っていた。

 

 

 

 

 

「その部屋に、何か用があるのか?」

 

 

 しばらくの沈黙は、威圧的な少女の声に破られた。横を見るとカリオストロが少し離れた場所に立っている。

 

 

「今のグランは、0じゃないのか?」

 

 カリオストロが質問を重ねつつ、俺の方へ近づいてくる。いつもの、身内にだけ見せる不機嫌そうな顔なのに、その瞳は期待を浮かべているかのように、少し輝いている。

 

「ゼロ? いや、今部屋って言ったか? 何か知っているのか、カリオストロ!」

 

 植え付けられた記憶が正しければ、まだこの壁が扉だったときにカリオストロとは出会っていなかったはずだ。誰かに聞いた可能性もある。けれど俺はカリオストロがここに一つ部屋があったときのことを知っていると直感した。

 

 カリオストロは俺の質問には答えず、独り言のような呟きをさらに続ける。

 

「一昨日は知っている素振りは見せなかった、だが……。おい、ちょっと話すぞ」

 

 そういうと俺の手をつかみ、俺の部屋まで強引に引っ張っていく。ドアを開けようと慌てて鍵を探す俺の耳に、ガチャリとドアの開く音が聞こえ、俺の部屋があらわになる。オレ様にとっては鍵のかかった部屋もそうでない部屋も大して変わりはない。そう言いたげな表情をしてずけずけと部屋に入るカリオストロの、その向こうに見える見知ら部屋を俺は茫然と見ていた。

 

 

 部屋が広い。二部屋を一部屋に作り変えたんだからそれは当たり前だが、その感想を俺が抱くのはおかしかった。だって俺は今朝もこの部屋で起きたはずなんだから。

 

「広いんだな」

 

 部屋を見回し、カリオストロは鼻を鳴らす。そして部屋の隅に隠れていた机を無遠慮に引っ張ってくると椅子に座った。一応の客人だから、俺はお湯を沸かしてお茶を入れる準備をする。

 

 お湯が沸くのを待つ間、見知らぬ部屋を探索した。タンスや棚、ベッド、そして壁に掛けられた武器や防具。一見、ものであふれかえっているように見えるその部屋は俺には閑散として見えた。いつも座っている机にはーこの机の記憶ははっきりとしていたー日誌が置いてあって、ぱらっと中を見た感じでは違和感は抱かなかった。その横には団結成当初の写真が写真立てに飾ってあり、写真には四人と一匹の姿が映っていたが、俺にはどうにも一人足りないように感じた。

 

 お湯が沸いた音に気づき、お茶を入れる。座った態勢のまま動かないカリオストロの前に湯気のたったカップを置き、俺も椅子に座る。カリオストロはただ黙ったままで、立ち上る湯気だけが時が動いていることを示しているみたいで。話すぞ、と言っていたのに何も口にしないカリオストロを前に俺は何をすることもできず、ただじっと待っていたがそうも行かず。すぐに沈黙に耐えきれなくなった俺は軽く見流した日誌をちゃんと見ようと立ち上がろうとして、その時カリオストロが口を開いた。

 

 

「ずっと昔だが、オレ様は錬金術を発明した」

 

「……」

 

 立ち上がろうと足に込めた力を脱力し、再び椅子に座りなおす。出会ったばかりのころ、カリオストロの昔の話は軽くは聞いたが、それを何故今するのかはわからなかった。

 

「当時力のあった魔法学会に研究成果を提出した。すぐに認められるとは思わなかったし、それでいいと思っていた。その頃のオレ様はすでに自分の身体ぐらいなら錬成できるようになっていたし、記憶を高次元に保管しておく方法も見当がついていた。永遠の命を手に入れたも同然のオレ様にとって時間は飾りのようなものだったからな。認められるまでいくらでも待ってやる、そんな気だった。だがオレ様の予想は外れ、すぐに錬金術は当時の魔法学会に認められ、オレ様は錬金術の開祖として有名になった」

 

 すでに湯気もたっていないカップを手にとり、口に運ぶ。少女は表情を崩さぬまま話を続ける。

 

「万人がオレ様を称賛した。無から有を作った偉人だと崇められた。オレ様も自分の発明に自信を持っていたから悪い気はしなかった。オレ様はさらに錬金術を研究し、何千年もたった今でも錬金術師を名乗る奴はいる。いい研究をした、そう思っていたがほんの数日前に勘違いに気づいた」

 

 美少女の表情をすこし歪め、不機嫌な顔に変わる。元が元なので、前も後も同じように可愛いのだけど、と思いつつもカリオストロの話は続く。

 

「驚いたよ。エルステ帝国宰相を倒し計画を阻止するっていう大きな仕事が終わり、久しぶりに一つ上の次元に保管しておいた記憶を同期したら見も知らぬ記憶が、人物が流れ込んできたんだからな。ほんと久方ぶりに驚いたよ。オレ様が知っているのとは全く違う歴史と事実。そしてお前の横に常にいたもう一人の団長……」

 

「もう一人の……団長?」

 

 自分で口にしたのにも関わらず、懐かしい響きを感じた。心に引っかかったままの違和感が揺れた。俺の言葉も戸惑いも意に介さず、カリオストロは話し続ける。

 

「すぐにオレ様はお前に会いに行った。あいつはどこに行った、なんでずっとあいつのことを忘れていたんだって。けれどグラン、お前は至極不思議な顔をして返答した、そんな奴は知らないと。ビィにも聞いた、あいつも長い付き合いだったからな。だが覚えていなかった。ルリアもカタリナも、みんなだ」

 

 カリオストロが手を動かす。さっきみた写真がひらひらと宙を動き、カリオストロの手に収まる。

 

「ここにも写っていない。あいつの存在はこの世界から一切の痕跡もなく消えている、オレ様の記憶以外のな。思い当たる節はあった。つい最近話に上がった、星晶獣アーカーシャだ」

 

 星晶獣アーカーシャ。さっき思い出した記憶で俺が戦っていた星晶獣。過去も未来も、すべての歴史を変えることができる規格外の能力を持った生き物。

 

「まったく中途半端な仕事をするから誰かが苦しむんだ。この世界の次元の歴史だけじゃなくて、すべての次元の歴史も変えればオレ様だって忘れたままでいたのに。だがまぁ、今回ばかりは好都合だ。もう一度アーカーシャの力を使い、歴史を改変すればあいつはまたここに戻ってこれる、そう思ったからな。でもダメなんだ。なぁ、グラン、」

 

 

 

 

「0から1は作れないんだ」

 

 

 

 その言葉は直接脳内に注ぎ込まれたかのように、頭の中をぐるぐると反響した。本能が全身全霊で何かを思い出そうとしているのを感じた。カリオストロの話の「あいつ」の存在、その存在は俺にとってとても大切な存在のはずだった。でも俺は0だった。

 

 

 

「お前とルリアに、もう一度アーカーシャの起動を頼もうとしたときに気が付いた。オレ様の知っているあいつをお前たちは知らない。姿、性格、あいつの全てをお前たちに説明しても、オレ様の記憶をお前たちに植え付けたとしても、あいつの存在はお前たちにとっては架空の存在。いわば、小説の登場人物のようなもんだ。小説の中の人物は歴史改変したとしてもこの世界には存在できるはずがないだろ? それと同じだ。あいつはお前たちにとっては架空の人物で、0なんだ。0から1は作れない。オレ様が発明した錬金術も元は科学の知識と魔法を合わせたようなものだ。オレ様は有をさらに大きな有に変えただけだった」

 

 

 カリオストロの言葉とは別に俺の頭の中が微かに揺れる。

 

「アーカーシャはあいつの存在を歴史からなくし、あいつはこの世界で0になった。1から0にすることはできるが、逆はできない。もともとなかった物をあったように歴史を書き替える,それはもう歴史改変なんて小さいもんじゃない。そんなことができれば、世界を崩壊させるような兵器も、空想上の生き物も、なんだって実現させることができる。あいつはこの世界ではそんな存在になっちまったんだ。でもグラン、お前の感じているその違和感は、お前にとってあいつが0ではない証拠だ。お前なら、ん?、グラン、お前……」

 

 

 頭の中の振動がさらに大きくなる。これは……声? 誰かが俺を呼んでいる?

 

 

「そうか、お前はまだ……。それならまだ大丈夫だ。お前のいる世界にはまだあいつはいる。いいかグラン、0にしたらだめだ。そうなったらもう取り戻せない」

 

 

 振動が、声がさらに大きくなり、俺の頭に響き渡る。視界がふっと消え、瞬間的に意識が飛び、戻る。ラカムとオイゲンに無理矢理酒を飲まされた時と同じ感覚。俺は歯を食いしばり、口の隙間から何とか声を漏らし、カリオストロに質問する。

 

「カ、リオストロ、俺は、何をすればいいんだ? この話は、一体、カリオ、ストロは俺に、何を……」

 

 

「かわいい弟子を一人失う、そんな世界の話だ」

 

 

 

 ひと際大きな声が、俺を呼ぶ叫び声が聞こえ、俺の意識は引っ張られる。目の前にいたはずのカリオストロの顔、その期待のこもった瞳に影を落とし、俺の視界が暗くなる。

 

 カリオストロの話はフィクションのようなたとえ話でうまく理解できたかわからないけれど、伝えたかったことはちゃんと受け止めたと思うし、話に出てきた「あいつ」が俺の違和感の原因で、俺にとって大切な人であったことははっきりとわかったし、俺はまだ0でもないし、1のままの未来を迎える方法もあることもぼんやりとわかった。

 

 

 ぷつんと意識が途切れたような気がして、それなのに背中に冷たく硬い感触を感じて。目を開くとさっきまでの場所とはうってかわって薄暗い部屋に、俺のことを覗き込む顔が見える。

 

 

「グラン! 良かった、やっと目を覚ました……」

 

「クラリス……」

 

 その瞳に涙をいっぱいに溜め、俺を覗き込んでいるのはクラリスだった。

 

 

「やっと目覚めたのね。主賓を待たせるなんて、グラン、躾がなってないね、お仕置きだね……」

 

 くすくすと笑いながら俺の方を見る姿を遠くに見た。ずっと思い出せなかった大切な存在がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分が読者だったら、今回の話はあまり好きじゃないですね。とっとと話進めろよ!、みたいな(爆)

じゃあ書くなよって?、でも書くのは楽しいんでs……


というわけでお疲れ様でした、クリクラ狙いで10連したらSR石でした、まあ10連じゃあね……


今年はあと一話は投稿できると思います。いつになるかはわかりませんが……


またよろしくお願いしますm(_ _)m

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