ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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投稿遅れる……

お久しぶりです、もうまめだです

忙しすぎて筆が進みません……、何とか書き上げましたが質は少し落ち目かもしれません……

時間をかけてもいいからちゃんと推敲と化するべきですかね……

というわけで本編どうぞ

ちなみに遅ればせながら警告タグ追加しました、ご注意ください、ご注意ください。


0から1は作れない 前編

 耳障りな重低音が包む部屋の中で明るい鼻歌が聞こえる。俺から少し離れた場所にいる少女はその手に大柄な銃を持ち、楽し気に弾を装填して獲物に銃口を定める。引き金にのびる細い指がゆっくりとゆっくりと……その時間が俺にはとても長く感じて。引き金の引き切った銃は撃鉄が落ち、火薬が爆発する破裂音と共に弾を発射して俺の肉を抉った。

 

 

 本来の速さとは裏腹に、冷たい金属の感触が俺の中を貫くのがゆっくりと全身に伝わる。次第に生まれ始める痛みは予想していたとしても我慢できるものではなく、奥底から苦痛の悲鳴が意図せず漏れる。肺から空気が抜け、力の入らない足は空を遊び、新鮮な空気を求め口を開け閉めするも、締まった首は何も通さない。落ちかける意識の中で足先が地面に触れて、わずかな気道の隙間が空気を全身に送り込み、俺はだらしない獣のように息を吹き返す。

 

 

「ふふっ、今のは危なかったんじゃない?」

 

 

 机にきれいに並べた弾を一つ手に取りながら、ジータが笑う。空の薬莢がいくつも散らばっているのにもかかわらず、俺の身体に開いた穴は少ない。くらくらする視界が戻り、焦点が合った俺は次が始まるのを理解する。

 

 

「さ~て、次はどこを狙おっかな?」

 

 

 

 武器の持っていなかった俺にはなす術もなかった。抵抗も虚しく俺の体を魔法で縛ると、ジータは縄紐を出して空中に固定し、そこに動けない俺の首をくくった。体重で首が締まり息ができない俺は、解放されている足だけをバタバタと動かして、偶然床に触れたつま先で全身を支える。ジータはそれを満足げに見ていた。

 

「絶妙な高さでしょ? そうやって立ってないと息ができない。疲れて足を休めようとしても息が締まるから休むこともできない。今のままでも不快なのに……グラン、私はグランの頑張りに期待しているよ」

 

 そう言うと、いつの間に手に持っていた剣の先を俺の肩にゆっくりと押し当てる。容易に肉を貫くその痛みに鋭く反応した俺の身体はつま先立ちを忘れ、当たり前のように首が締まり、痛みに頭の回らない俺は水のない魚のように体を震わせる。ジータはおかしそうに笑っていた。

 

 

 それは何度も繰り返された。足しか動かせない俺は恰好の的だった。ジータは用意周到で、俺がリアクターのある部屋に来ることを予見していたのか、何種類もの武器を用意していた。その中の一つを手に取り、ジータが語り出すことでそれは始まった。

 

 

「そうだね~、弓といえばやっぱりメーテラとスーテラかな? ありがちな方法なんだけど、私の身体の各部分に点数をつけてね。でもあの二人は点数のつけ方が細かかったな、左手の親指が何点、右の鎖骨を何点、みたいな感じにね。普通に使っている矢だと大きすぎるから、先がダーツみたいに鋭い特別な矢を使っててね、遠く離れたとこから私を狙ったんだ。でも、あの二人は上手かったよ? 射る前に宣言していたの、ここを狙うから、って。それで二人とも百発百中だから笑っちゃうよね」

 

 そういって矢を番えるジータは高々に宣言する。

 

「時間をたっぷりかけて遊びたいんだけどね、時間もあまりないしほかにもやりたいことがあるから〜……よし、眉間にするね! じゃあ、眉間が百点ってことで……」

 

 

 

 ジータから放たれた矢は寸分違わず眼前まで迫って……

 

 

 

 ジータは夢の中で自分が受けた虐待ともいえる行為をすべて覚えていて、その全てを俺に対して繰り返すつもりのようだった。俺はただの的で、標的で、生きた人形だった。俺の身体は時には鈍器で軋み、時には鋭器で貫かれた。

 

 全身から零れる血液は次第に多くなり、床には血だまりができる。ある程度の大きさの血だまりができるとジータはその血液を空中に浮かせ、ごみを取り除き、傷跡から体内に戻した。その後全身の傷をも治し、俺の身体は傷一つなく見た目には元通りになった。けれど記憶は消えず、心的なストレスは蓄積される。傷ついては直し、それが繰り返され、俺の身体は道具のように扱われた……

 

 

 

「時間がないからあと2発にするね。それじゃあ、最初の一発は右耳にしようかな。根こそぎ取ってあげるから覚悟しておいてね。そのあとは……うん、心臓にしよっか! 大丈夫、死ぬ前に元通りに治してあげるから、ね!」

 

 身体が動けない俺に、苦痛から逃れる方法はほとんどなかった。唯一できたのは、痛みを和らげるために痛覚を鈍くすることだった。もちろん自身に回復魔法をかけて、開いた傷口を閉じることはできる。けれど、それをやってしまうと確実にジータに見つかる。ジータの見えないところ、気づかないところでしか俺は動けなかった。

 

 痛みを完全に遮断することも同じ理由でできなかった。今のジータの前で苦しみを演じたとして、ばれないはずがない。本物の痛みによってのみ、本物の苦しみを表現できる。ジータが見たいのは俺が苦しんでいるところなんだから、そこが本物じゃなかったら、ジータは敏感に反応するだろう。

 

 

「じゃあ、撃つよ~」

 

 銃口が狙いを定める。カットされた痛みだとしても痛いものは痛いし怖い。俺の視線は銃にくぎ付けになり、引き金にかけられた指を注視する。あの指があそこまで動いたら、また……。じりじりと動く指がかちりと動き、撃鉄が落ちる。

 

 

 視界の隅で、ジータが笑った気がした。

 

 

 

 一瞬何が起こったかわからなかった。視界の先ではジータが、いや部屋全体が左右に揺れている。脳内には甲高い音がぐるぐると鳴り響く。なにも分からず失いかける意識を、突き抜けるような痛みが目覚めさせた。

 

「苦しそうだけど大丈夫? ほらお子様じゃないからわかるでしょ?、つま先立ちをすれば息ができるって、ほら!」

 

 ジータが揺れながらゆっくり歩いてくる。いや違う、俺が揺れていた。酸素の足りなくなった脳が失神するのを、激痛なんて言葉じゃ表せない痛みが許さなかった。俺は起きていることを、生きていることを強いられた。

 

 右耳のあった場所からは血がとめどなく流れ、新鮮な痛みを血液が共に全身に運んでゆく。身体の各所が沸騰したように熱く、凍えるように寒い。俺の意志に反して足が痙攣し、俺は首だけで全身を揺らす振り子のようになっている。痛みに叫び声をあげそうになるが、すでに肺に息の蓄えはなく、首が締まっている今呼吸はおろか声を上げることもできない。

 

「気づいてないと思った? ずっと痛みを和らげる魔法を使っていたんでしょ? うふふ、いい表情だね、かわいいよ、グラン。かわいいからちょっと助けてあげる」

 

 

 ジータの言葉と共に首にかかる力がなくなり、俺の身体は地面に崩れるように倒れこむ。同時に切望していた空気が体内に入ってきて、全身に行き渡る。白黒に点滅していた視界が元に戻ると同時に意識もはっきりし、その影響で痛みがさらに増幅された。

 

「うああぁ、あ……、がはっ……ああぁぁぁぁああ」

 

 耳に手を触れよう思ったら、生暖かい液体しか触らなかった。あるべきものがそこにはなく、嫌悪感で吐きそうになる。

 

 

「人を絶望させるには落差が大きいほうがいいって聞いたことがあってね。だんだんと絶望させていっても慣れちゃうからあまり影響が大きくないけど、一気に落とすとそれだけストレスに感じるらしいよ。耐えられる痛みに慣れちゃってたから苦しかったでしょ? でもね今のは普通の痛みなの、耳を根こそぎむしり取られた時に誰もが感じる痛み。それでさーグラン、その痛みが今の何倍にも増幅されたらさ、人間ってどうなっちゃうのかな」

 

 

 その言葉の意味を理解する前に、脳が恐怖を予感し、身体が打ち震える。

 

 もう痛いのは嫌だ、もう苦しいの嫌だ。

 

 

「ジー……タ、もうやめてくれ、お願いだから、もうやめてくれ……もういやなんだ!」

 

「え、どうしたの?」

 

 くすくすと笑い、ジータが慰めるように俺の頭をなでる。

 

「壊れないでって約束したのに、もう痛みに我慢できなくなっちゃったの?」

 

「……だって、もう痛いのは、もう痛いのは嫌なんだって!」

 

「でもだめだよ? だってグランは団長なんだから、これぐらいは耐えないとね。それに私はこの何倍もの苦痛に耐えてきたんだから。……ほら、今魔法をかけたよ、痛みを何倍にも増幅する魔法をね。ほら立って、縄に自分の首をくくって?」

 

「いやだ、俺はもう……誰か、ジータ……助けて」

 

「あと一発耐えられたら一度銃はやめてあげるからね、ほら早く!」

 

「いやだ! これが終わっても次があるんだろ? それが終わっても次が、その次も、その次も……あ、あばぁ!」

 

 俺の身体が勝手に宙に浮き、空中の縄に首が固定される。つま先立ちすれば何とか呼吸ができる絶妙で最悪の高さ。俺は必死に呼吸をし、すでに魔法で拘束された身体をそれでも揺らし、なんとか抵抗しようとする。

 

「時間がないって言ったよね? それに助けてって何? 私への侮辱? グランが私のことを嘲笑ってた時、私がどんな気持ちだったかやっとわかった? ねぇ、こんな苦しみを味わうんだったら死んだほうがましでしょ?、死にたいでしょ? でもグランはそれを許さなかった、誰もが私を生かして苦しめ続けた。今更、そんなのってないんじゃない?」

 

 ジータが背を向け、銃の置いてある机に向かっていく。立ち並んだ弾の一つを手に取り、慣れた手つきで装填して、銃口を俺に向けて。

 

「次は心臓だよ~、今の何倍も何倍も苦痛に感じるようにしてあるから、頑張って、私のために苦しむきれいな姿を見せてね。大丈夫、死にはしないから」

 

 

 引き金に指がかけられるのが見える。歯ががたがたと音を立ててなる。恐怖に耐えられなくなり、足の力が抜け、首が締まる。このまま、首が締まり死んでしまえばどんなに楽だろうか。けれども、手の届く範囲に生があることがで、俺の本能が死を選ばせなかった。酸素が欠乏し、意識が落ちようとするその寸前に、勝手に足がつま先立ちになり肺に空気を送る。俺は死ねなかった。

 

「じゃあ、撃つからね~」

 

 

 

 ……引き金が引かれる。銃声が聞こえた気がする、痛みを感じた気がする。身体の反応なのか、口から血が噴き出した気がする。ジータの笑い声が聞こえる、そんな気がする。

 

 

 

 

 

 声が聞こえる。意識は、あるようだ。痛みはあるような、ないような。平衡感覚がないのか、身体を丸ごと失ったのか、俺の意識だけが存在している、そんな気がする。

 

「グラン!」

 

 声だ。ルリア……のなのか?

 

「グラン、ごめんなさい。私はもうあなたが苦しんでいる姿を見たくなくて……」

 

 目を開いたのか、いや俺の目は今でもあるのかさえわからないが、俺はルリアを見ていた。その横にはオルキスが立っている。

 

「オルキスちゃんも私に賛成してくれて。私たち、アーカーシャを使ってジータのいた過去を消そうと思うんです。そうすればグランは……救われるから。で、でも、もしグランが嫌だというのなら、ジータを消したくないんだったら……」

 

 ジータを消す。ジータを、俺の姉を存在ごと消し去る、なかったことにする。そんなの……だめだ、それじゃあジータがいなくなる。もっといい方法があるはず……。

 

「でも、ここでジータを消さないと、グランはまた終わりのない苦痛を受けることになるんです……、それでもグランは大丈夫なんですか?」

 

 苦痛、あの苦痛をまた……。記憶が蘇る、ついさっき味わった死よりもつらい苦痛。それをまた味わうなんて、そんなの嫌だ。でも、ジータを失うのも……。

 

「どちらかしか選べないんです。ジータを消さない代わりにグランが苦しむか、グランが苦しまない代わりにジータを消すか。私は……グランにはもっと自分のことを大事に考えてほしいです」

 

 そう言うとルリアはうつむく。もっと俺を大事に考える。グランは俺、ジータは……他人。他人の生き死になんて、存在なんて、どうして俺の存在より優先して考える?、どこにそんな義理がある?

 

「俺は……いやだ。もう苦しみたくない。痛いのは嫌だ、嫌だ……嫌なんだって! ジータはもう、昔のジータはじゃない、ううん、違う。あれはもうジータじゃなかったんだ。あれは他人、俺の知ってる人じゃない。あんなのジータじゃない。俺は知らない人のために苦しみたくない」

 

「それなら、アーカーシャを」

 

 俺はついているのかさえ分からない首を縦に振った。それを見たルリアには笑顔が戻り、オルキスのほうを向く。俺には聞き取れない言葉を二人がつぶやき、そしていつか見たアーカーシャが現れて、そして……

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

  

 

「グラン、グーラーン!」

 

「おおい、飯食った後に寝ると牛になるんだぞ? そりゃあいい天気だけどよぉ」

 

「んん?」

 

 

 目を開ける。ぼやけた視界に二つの顔が見える。何度か瞬きをしてピントを合わせると、青が映える広大な空を背景にルリアとビィの顔が俺を覗き込んでいるのが分かる。

 

「あ、あれ? おはよう……」

 

「おはよう、じゃないです!」

 

 ルリアがふくれっ面を見せる。それが可憐でかわいくて、俺は思わず頭を撫でてしまう。

 

「あっ、えへへ~」

 

「ルリア、そんなのでこいつを許しちゃだめだろ!」

 

 

 グランサイファーが悠々と空を翔けていた。見上げれば雲一つない空から、太陽が心地よい光を放つ。時折涼し気な風がアクセントになり、飽きの来ない暖かさに無抵抗のまま俺は大きくあくびをする。幸せだと、素直に感じた。

 

「それで、ルリアとビィはどうしたんだ?」

 

「ルリアが今日の予定をグランに聞きに行ったら、寝てたからよぉ、起こしてやったんだ。そりゃあ心地いい天気だから昼寝したくなるのもわかるけどよ、朝飯くったばっかでいくらなんでも早すぎるだろ」

 

「そうだったのか。えぇと、今日はよろず屋の依頼がいくつか来てたから……」

 

 

 違和感があった。俺の口からすらすらと出てくるそれは、俺の知らないものだった。よろず屋の依頼も島の名前も聞き覚えがなかった。

 

 

「じゃあ、午前中はずっと空旅なんですね、分かりました! みんなに言ってこようっと」

 

「あ、待てよ、ルリア~!」

 

 

 二人がいなくなったあとも俺の中から違和感が消えることはなかった。依頼も島の名前も知らない。聞き覚えすらない。けれど思い出そうと思えばすらすらと出てくる。依頼だってそらで言えるし、島の特徴や気候でさえも思い出せる。俺の記憶の引き出しに、誰かが勝手に情報を仕舞っていったかのような。誰かに植え付けられた記憶みたいで気味が悪かったが、単に寝ぼけているだけのようにも感じた。

 

 自室に戻ろうと立ち上がる。甲板にはそれぞれの趣味に没頭する団員たちがそれぞれの時間を過ごしている。いつも通りの日常があり、俺はほっとする。何人かに声をかけた後船内に入り、廊下を歩く。俺の部屋までもう少し、武器の手入れでもしようかと思ったその時、違和感が目に映る。

 

 

 

「あ……れ?」

 

 

 俺の部屋の隣って、何もなかったっけ? 隣の部屋に誰か大切な人がいた……ような……。

 

 

 俺の部屋の扉はすぐ先にある。けれど違和感に囚われた俺の足はその場にとどまる。目の端に映る壁に顔を向け、じっと見つめて、手で触る。よく見れば、その部分だけ壁の色が微妙に異なり、肌触りも違う。まるで、ここだけあとで塗りなおしたような。

 

 

 ラカムに声をかけられるまで、時間を忘れて俺はそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




尻切れトンボですみません……

本当はこの話はもっと長くなるはずでしたが、そうなると投稿まで日が開きすぎると思って二つに分けることにしていません。


質に関しても申し訳ないです、どっちつかずなところもあって、まだまだ未熟ですね。


次の投稿は完全に未定です。今年中にもう一話ぐらいは進められると思いますが……。

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