もうまめだです
いつになったらジータちゃん闇堕ちするんだ( ̄▽ ̄)っていう展開の遅さですが、気長に読んでいただければ幸いです
短いですが、それではどうぞ
「みなさんおはようございます~」
「わぁ~、シェロさん! おはようございます!」
「おぉ、よろず屋じゃねえか!」
ルリアとビィを連れて食堂に行くと、いつの間に来ていたのか、よろず屋のシェロカルテがテーブルに座っていた。神出鬼没の彼女が私たちの団に来ることはよくあるが、古戦場のすぐ後にくるのは珍しかった。何か緊急の依頼でもあったのだろうか。私はシェロカルテに挨拶をし、今日の食事係だったヴィーラとエルメラウラに声をかけて朝ごはんをもらい、席に座った。
「それで、こんなに早くどうしたんだぁ?」
「えぇ~、みなさんももうお気づきかもしれませんが~、依頼のお話です~」
「緊急の依頼なの? グランが昨日団員たちに今日は休日にするって言っちゃったんだけど……」
「はい、それはヴィーラさんにお聞きしました~。緊急を要するものではないのでご安心くださ~い。ただですね~、みなさんが今回の古戦場に参加するとお聞きしまして~、今回の依頼が古戦場の開催地に近かったものですから~」
「それでオイラたちが島を離れる前に来たってわけか!」
「そうです~!」
「でもシェロさんも昨日まで忙しくなかったんですか~? 一大イベントだったから、お仕事たくさんあったんじゃないんです?」
「最近の古戦場は事前に参加する騎空団の数や団員の数を予想していますので~、イベントが始まる前に商品を納入し終わってしまうんですよ~。何かハプニングがあれば私も駆けつけるのですが~、無事終わったみたいですねぇ~」
「へぇ~、そうなんですか!」
「はい~。そういえば~、みなさんの結果はどうだったんですか~?」
私は比較的うまくいった今回の古戦場の結果を彼女に話し、そして依頼の話を進めてもらった。
「それで今回の依頼ってどんな内容なんですか?」
「えぇっとですね~、ある島にいる星晶獣の力を弱めてほしいというものです~」
再興の島。
その島はそう呼ばれている。夢に破れた者が再び日に当たることを夢見て訪れる、再出発の島。この島で努力を惜しまず、自らの才能をさらに開花させたものは、その才能を万人に認められるだろう。そんな言い伝えのもとに、一度道につまづいたものが大勢集まるため、訪れた者たちの仲間意識は強く、それにより島は活気があふれ、ユニークな発想が生まれることも少なくはないという。才能を開花させこの島を出ていく成功者を見送ることはこの島全体の喜びだった。しかし最近、この希望の島に異変が起きているのだった。
「その島ではアネバルテという名前の星晶獣が言い伝えられていまして~、アネバルテが夢をあきらめることなく努力を続けるという心を支えているそうなのですが……」
その島の長老によると島を出ていくものが目に見えて少なくなっているそうだ。島を出ていくというのはつまり、努力が実ったということであり、皆から歓迎されることなのだが。それだけではなく、島民の顔も暗く、いまでは希望の島の痕跡は残っていないという。どうやらアネバルテが暴走したことにより心の支えがなくなって自信を持つことができなくなっているみたいだ。
「それでルリアさんの力でアネバルテの力を吸収してもらい、前のような活気のある島に戻してほしいという依頼なんです~。いつもルリアさん含めこの騎空団のみなさんのお世話になっているのは申し訳ないのですが~」
「私はお役に立てるのなら大丈夫です!」
「いつもありがとうね、ルリア。そうですね、もともと心をサポートする星晶獣だからそこまで強くないのかもしれないです。だとすると依頼をこなすのにあまり人数はいらないから……うん、わかりました。依頼引き受けます」
「だとしたらラカムに行き先変更を伝えなくちゃね、ジータ!」
「それは大丈夫ですよ~、先ほどラカムさんには行き先を伝えておきましたので~」
「ずいぶん早いじゃねえか、よろず屋。そりゃあオイラたちが依頼を断ることはないけどよぉ~」
「商人は未来を見据えることが重要ですので~」
彼女の話によると、目的の島までは早くても1日かかるということだった。少しあとに起きてきたグランに依頼の話をし、その日一日は空の旅ということで結局休日ということになった。
次の日。
昨日とは違い数時間寝ることのできた私はそれでもまだ薄暗いうちに起き、外に出て景色を見ていた。すでに目的地と思われる島は見えるところまで近くなっている。それと同時に心がざわめくのにも少し不安を覚える。自信がなくなったものが集う島。まさに私が行くにふさわしい島……なのかもしれない。
「ジータ、おはよう」
「うん、おはようグラン。今日は早いのね」
「休日はおわったからなぁ……あれが『再興の島』か。見た目はなんとなく俺たちの故郷に似ているな。」
「そうだね」
「さっさと依頼を済ませてまた休みたいなあ、おぉ、ルリア、ビィ、おはよう!」
朝食を済ませ私たちは停泊した港から島に降り立った。港にはすでに長老と思われる人が立っていた。ハーヴィン族の初老の男性だ。それに気づいたグランが歩きよって話しかける。
「こんにちは、あなたが今回の依頼主の方ですか?」
「はい、そうです……。ここの島の長老をやっている弟の兄です。あなた方がよろず屋のほうから紹介された騎空団の方々ですか? この度は依頼を受けてくださってありがとうございます。立ち話もあれなので、そのあたりの話をしながら島の様子を見ていただきたいのです」
「分かりました。俺たちも島の雰囲気を知ったほうが仕事がしやすいので」
「わぁーい、観光ってわけですね!」
「一応仕事だけどね」
港から町の中心地のほうへと歩いていくと、景色ががらっと変わり、店が続いてく商店街に入った。港のすぐそばにある商店街というのはどの島でもよく見る光景だが、何となく雰囲気が暗い。人通りは悪くないのだが、あるで透明な灰色のベールで覆われているように少し暗い。依頼主に連れられ商店街に入っていくと、これも定番なのだが、あちらこちらから食べ物のいい匂いがしてくる。
「ビィさん!、あそこのパン屋さんすごくおいしそうな匂いがします! 行ってみたいなぁ……」
「ルリアおめぇ、さっき朝ごはん食べたばっかじゃねぇか!」
「へへぇ、このことを予想して食べる量減らしたんですよ~。商人は未来を見据えることが重要なんです!」
「いつもとあんまり変わってなかったと思うがよぉ……」
「ジータ、いい?」
「うん、いいよ。私もついていくよ」
「わぁーい、ありがとう!」
グランに一声かけ、パン屋のほうへ歩くと、ルリアの言った通り芳しい小麦とバターの香りが鼻をつつく。ドラフ族の女性が作っているようで、十数種類のパンが並んでいる。
「うーん、どれにしようかなぁ」
「おすすめを聞いてみたらどうだ?」
「そうですね! お姉さん、おすすめのパンはどれですか?」
「そうだねぇー、このアップルパイなんか出来たてだし、使っているリンゴもすごくおいしいものだからおすすめだよ」
「リンゴか! リンゴを使っているのか!」
「ならビィさんこれにしましょう! ジータも食べる?」
うん、と頷き、私はアップルパイ3つ分の代金を渡す。見た目以上にリンゴがぎっしりと入っているみたいで、小麦色の生地に黄金色のリンゴはさっき食べたばかりの朝食を忘れさせるぐらい食欲をそそる。
「うわぁ、おいしいです!」
「生のリンゴもうめぇけど、このアップルパイのリンゴもうめぇなぁ」
「こんなにおいしいならどこに行っても大繁盛しそうですね!」
にこにこしながら私たちの会話を聞いていた女店主の顔がさっと曇る。
「そう言ってもらえてうれしいけれど、もうお世辞は聞き飽きたんだ。ほら、買ったならさっさと行った」
「お世辞なんかじゃねぇよ! ほんとにうめぇんだって」
「みんなそう言うさ。あの時だって……突然手のひらを返したみたいに……」
「そんな……」
「ビィ、ルリア、行こう」
私はルリアの肩をたたき、待っているグランたちのところに戻る。一度振り返ると悲しい表情の女店主がうつむいていた。
「分かっていただけましたか」
戻ると、依頼主が淋しい顔で話しかけてきた。グランたちも店で起こったことを理解したようで難しい表情をしている。
「はい。裏切られた、みたいなことを言ってましたけれど」
「彼女は以前有名なパン屋で働いていて、その才能もあり自分の店を持つことになったんです。元のパン屋の店主が出資してくれることになっていて。店は繁盛したのですが、その成功を僻んだのでしょう、出資してくれることになったパン屋の店主がその話を突然取りやめにして、さらに根も葉もない噂を流して……。それで経営は一気に悪化して店を閉めなくてはならなくなったんです」
「そうだったんですか」
「でもこの島に来て、元々才能はある方でしたからここでもう一度開業した店は繁盛したんです。けれどもいつの間にかほかの人たちと同じようにその時のトラウマを思い出すようになったみたいで。おいしいと心からの感想を言っても振り向いてくれなくて……」
歩きながら依頼主は話をつづけた。オーディションで失敗したせいで一度自分の夢をあきらめた大道芸人。クリーンで民に優しい議員になろうとした結果、大御所と呼ばれる有名議員に干され、自信を失った青年。奇抜な独奏で有名になったがオーケストラには合わないという理由でどこからも断られた女性ピアノ奏者……。
「それでも1年前まではみんな笑顔があったんです、演奏がうまい、芸がすばらしい、リンゴがおいしい。心からの感想は彼らの芯に響いていたはずなんです。けれどもいつの間にか遠く離れてしまって。お世辞だ、だとか、心にもないことをって、言われることが多くなって。そうしたら町全体の雰囲気まで……」
「そんなぁ……」
依頼主の話が終わるとほぼ同時に商店街の店が消え、ある一軒の家が目の前に立っていた。
「ここが私の弟、この島の長老の家です」
お読みいただきありがとうございました。
ちょっとした裏説ですが、
もちろん団員全員が依頼を受けているわけではありません。非番の人たちは観光にでも出かけるかもしれませんが
実際に行動するメンバーはまだ未定です
次回は星晶獣アネバルテ捜索まで行けそうです、そうしたらタイトル回収までもう少し…
というわけでありがとうございました。