ジータちゃんが闇堕ちしたら……   作:もうまめだ

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忙しい……

お久しぶりです、もうまめだです。第(ry。投稿遅れて申し訳ないです。

サボっていたわけでも、低評価に落ち込んでいたわけでも、アステールが可愛くてずっとグラブっていたわけでもありません(あでも、少しは落ち込んだし、アステールは可愛い)。普通に忙しがったんです……


今年中に全部書き終わるはずなのに……いや、まだ大丈夫だ


というわけでどうぞ!


再会は最悪の形で

 

 

「ごきげんよう、侵入者の方々」

 

「まさか、執務室にこんな通路が隠されていたと、な。だが、今回は都合はいい」

 

 黒騎士がため息をつきつつ部屋に一歩足を踏み入れ、剣の柄に手をかける。

 

「ふふっ、黒騎士様。もしよければ、何をどう思って都合がいいと考えたのか私に教えてもらえないですか?」

 

「勝利を確信したと勘違いして、頭までおかしくなったか」

 

「今更あなたがたに何を言われようと気にはしません。こちらの策にまんまとはまり、ここまで導かれたあなた方は敗者。そして敗者をこうして迎える私が勝者。勝者は勝者らしく振舞わないといけませんからね」

 

「冗談を言わなかった頃のほうがまだマシだったな」

 

「冗談なんかではありませんよ」

 

「もういい。さて二択の質問だが、黙って我々がリアクターのところまで行くのを見届け、自分の計画が失敗したのを認めるか、それとも我々を力づくで止めてそれでも希望を叶えることができないか、どちらがいい?」

 

「あなた方が私を止めることができるとでも? 帝国の中枢でもあるタワーの門が都合よく開いている? 開いたままの隠し扉が執務室に続いている? 何の考えもなしに私の罠にかかったあなた方に何ができて? ふふっ、でもいいでしょう、ここを通してあげますよ……もちろん、全員ではありませんが!」

 

 そう言うといつの間にか手に握られていた、魔晶と同じ色彩を放つ液体の入った試験管を掲げる。一間を置き、それを口元に近づけて飲み干したフリーリアは上機嫌な表情でこちらをにらみつける。

 

「貴様、一体何のつもりだ」

 

「……ふふっ、私にとってはこの建物も街も人もすべて他愛もないものなのです。私が今欲しいものはただ一つ……」

 

 フリーシアの手元から試験管が落ち、大理石の床に破片を散らせる。

 

「ちょうど昨日成功したんです、魔晶の液体化。まだ人体実験はしていませんが、時には私自身が試験体になるのもいいで……うっ、はぁ、はぁ」

 

副作用によるものなのか、倒れるようにして地に膝をつき、そのまま掌にガラスの欠片が突き刺さるのも気にせずに地に手をつく。余裕の浮かんでいた表情は今は険しく、目が血走っている。荒く呼吸を繰り返し苦しむフリーシアを、それでも冷たい視線で見下ろす黒騎士は、全く動じない様子で通り過ぎようとする。

 

「おい黒騎士、こいつはこのままでいいのか?」

 

「当たり前だ。我々の目的はリアクターの停止だ、それをはき違えるな。それにこいつは自分で自分を苦しめているんだ、そんな奴を助ける義理がどこにある?」

 

「いや、まぁそうだが……」

 

「行くぞ、我々には時間がないんだ。こんなところでこんな奴と戯れている暇はない」

 

 そう言い切り、部屋を出ようとする黒騎士の足が止まった。突如床が輝きだし、フリーシアを中心とした魔法陣が形成される。それは禍々しき影を落とし、どこからともなく吹く風が部屋中を渦巻く。光をも飲み込む黒き魔法陣は空中に浮かびあがり、包むようにフリーシアの身体を覆って……

 

 

 目が眩むほどの光の衝撃は、その場の人間の視界を殺し、多数の気配を出現させるとともに、対象に影を伸ばす。

 

 

「オルキス!」

 

「ふふっ、お静かにお願いしますね。いえ、何もオルキスに危害を加えようというわけではありませんよ」

 

 

 光が止み、さっきまで苦しんでいたのが嘘であるかのような様相でフリーシアは立っていた。その横にはもともとの巨躯をさらに肥大化させたリヴァイアサンが、とぐろを巻くようにオルキスに巻き付けてその身体を拘束し、こちらを威嚇するかのように牙を剥く。オルキスの真下から瞬く間に出現した星晶獣に誰一人反応できず、剣を構えるのもすでに手遅れだった。

 

「貴様……死ぬ覚悟はできているな」

 

「いいのですか? あなた方の目的はリアクターを止めることではないのでは? 私はあなた方に許可しましたよ、ご自由に部屋を出て、リアクターでも何でも止めてきてください。それとも何ですか、今この瞬間にも大勢もの意識が失われているのに、その多数を気にせずオルキス一人を優先するというのですか?」

 

「腑に落ちねぇな」

 

 オイゲンがフリーシアを訝し気に睨みつける。

 

「お前さんはエルステの歴史を改変するために帝国の住民も何もかもをすべて犠牲にして計画を進めていたんじゃないのか? そのためのリアクターのはずが、どうしてそれをこんな風に蔑ろにできる? お前さんにとってはリアクターが計画の全てじゃなかったのか?」

 

「そんなことを聞いている場合なのですか? 今ではもうあなた方の命でさえ危ういというのに」

 

 部屋に召喚された星晶獣はリヴァイアサンだけではなかった。侵入者を囲み、今にも襲い掛からんばかりの様子で威圧する星晶獣は、そのすべてが四肢を異様なまでに発達させ、主の命令を待っているようだった。

 

「この子たちは私の指示に忠実に従います。能力も魔晶のおかげでオリジナルを優に超すものを持っています。一人が二体とやり合ったとしても、ふふっ、人手が足りませんね」

 

「おい、今はそんなことはどうでもいいだろ? この場をどう切り抜けるかが先決だ」

 

「スツルム殿、ちょっと待ってねぇ。意外にこれは重要な問題だと思うんだよね~。ねぇフリーシア宰相?、リアクターって囮だったのかなぁ?」

 

 

「黒騎士は優秀な傭兵を雇っていたようですね。頭の回らない雇い主の下で働いていたことが唯一の悪手でしたけれども。さて、気づかれたのでは仕方がありませんね。あなたたちを外に出すことはできません。たとえ出られたとしてもあなた方だけでは合流できるかどうかもわかりませんが」

 

 フリーシアの言葉に従うように、鎖帷子を鳴らし扉の前に陣取った筋骨隆々の重戦士がその腕に極大な大剣を構える。この部屋から何物をも逃さぬかのように仁王立ち、黒剣を輝かせる。

 

「おい、どういうことなんだよ」

 

苛立ちを隠せないスツルムがドランクに尋ねる。いつにもまして深刻な顔をするドランクの代わりにオイゲンが口を開く。

 

「リアクターが囮ってことは、本命は……ルリアとオルキスちゃんか。こいつらの計画はリアクターを餌に俺たちをタワーに誘い込み、本来の計画だったルリアとオルキスちゃんの力を利用してアーカーシャを起動することだったんだ。そのための分断だったってわけか?」

 

「ご名答ですね、アウギュステのご老兵殿」

 

 フリーシアがからかうように答える。

 

「でも僕にはわからないことがあるんだけどねぇ、こっちにはフリーシア宰相がいるから分かるけど、あっち側は誰が担当しているんだい? グランからルリアを奪い取るような精鋭は帝国といえどもいないと思うけどねぇ?」

 

「あなたがたがとてもよく知る方ですよ、ふふふ、っあはははっ! 真実を教えてあなた方を絶望の淵に落とすのもいいですが、ここは我慢しなくては……」

 

「おい、この場は私一人に任せろ。四人にはリアクターの停止とグランとの合流を頼む」

 

 黒騎士が扉の前に仁王立ちをする星晶獣の前に立つ。

 

「その星晶獣はコロッサス・マリス。力が強すぎて以前の私では制御できませんでした。けれども魔晶の力を体内に取り込んだ今の私では十分従えられる。黒騎士、残念ながらあなたが勝てる相手ではありません」

 

 それには答えず、手に持った剣を居合のようにして下段に構える。そして、ふっと息を吐き一閃する。

 

「黒鳳刃・月影」

 

 白銀の刃が漆黒に燃え上がり、コロッサス・マリスの持つ大剣に交わる。轟音ともいえるべき音とともに空間が軋み、悲鳴を上げて断裂し、破片となって周囲に散らばる。それでも黒騎士の一撃は終わらず、剣からほとばしる熱線が周囲に四散し、あふれ出る漆黒の瘴気がコロッサス・マリスの身体を侵していく。黒騎士の刃を受け止めた強大な剣には一瞬の後に鋭い金属音を伴ってひびが入り、瞬く間にそれは広がり粉砕される。そして、屈強たる体躯に到達した鋭刃は勢いを失うことなく、断つ。

 

 崩れ落ちたコロッサス・マリスの身体は音もなく霧散する。それを見届け、黒騎士はフリーシアに向き直り剣の先を向ける。

 

「七曜の騎士っていうのは全空を統べる資格のある者にしかなれない。だから、七曜の騎士が悪に敗北することは認められていない、……たとえそれが星晶獣であっても。私を見くびるなよフリーシア、私情に振り回され、一国もまともに治められないお前が全空を統治する七曜の騎士の私に勝てると思うな。道は開いたぞ、早く行け」

 

 黒騎士の指示に従いドランクとスツルムが部屋を後にする。しかし、オイゲンとラカムはその場を動かなかった。

 

「おい、お前たちも早く行け」

 

「ふっ、こんな老いぼれは足手まといだ。あいつらはリアクターの場所を知っているんだろ?、それなら二人だけで大丈夫だ。それに俺にはこの場に守らなくちゃいけねぇ者があるしなぁ」

 

 そう言い、オイゲンは銃を構える。

 

「俺は、世話になった星晶獣を助けてやらなくちゃいけねぇ。それが俺の矜持だ」

 

 ラカムの視線の先には苦痛を浮かべるティアマトが全身に灰色の風を纏っている。 

 

 

「ふん、勝手にしろ」

 

「早々に一体倒されたのは予想外でしたが……」

 

 フリーシアの身体を蜘蛛のような外観の機械が覆っていく。

 

「ここにいる星晶獣が全てではありません。今では私でさえ、星晶獣に近い力を持つ者。あなたたち三人を倒し、計画を遂行することなど造作もないことです。それに」

 

 オルキスに絡みつくリヴァイアサンの身体が膨張し、少女の顔に苦痛が浮かぶ。

 

「オルキス!」

 

「下手に動くとどうなるかわかっていません。もちろんアーカーシャ起動に必要な道具なので殺しはしませんが、いくらでも苦しめることはできるんですよ」

 

「くそっ、それが人様のすることかよ!」

 

「私は私の願望のために動く、ただそれだけです」

 

「……アポロ」

 

 弱弱しい声がオルキスから発せられる。

 

「私なら……大丈夫。だから、この子たちを、救って、みんなを……救って!、うぐっ……」

 

「オルキス! くそ、貴様っ……!」

 

「あなたが余計なことを話す必要はありません。……そうですね、どうせあなた方はここから出られないんです。すべてを教えてあげましょうか。そんな顔をなさらずに、別にあなたがたのためにするわけではありません。真実を聞いたあなた方の顔はさぞ滑稽だと思いまして」

 

 フリーシアがあざ笑い、その笑い声と共に灰色の風が部屋に吹き込み扉が閉まる。

 

「私の計画への協力者で、アーカーシャ起動に必要なもう一つの道具をあなた方の団長から奪い取るのはですね……」

 

 一瞬の沈黙の後、執務室から零れ出るフリーシアの笑い声は、街の混乱とは対照的に静かで薄暗いタワー内部に響き渡る。

 

 

ーーー

 

 俺はみんなに今のジータについてわかっていることをすべて話した。再興の島でアネバルテが傷つき、そのことでジータに何かしらの異変が起きたことはすでに騎空団の全員には話していた。だがそれだけでは辻褄の合わないほどのジータの変貌ぶりに疑問を抱いていた団員も多かっただろう。俺は実際に何が起こり、どうしてジータが変わったのかを、俺の推測を交えて説明した。

 

 そして、ジータが自らの意志で団を降りたこと。軍の研究施設で呼び止める際に、本気の死合いにまで発展したこと。フリーシアに会うという言葉を残して去ったジータだが、会った後どうするのかや実際に会えたのかなどは全く分かっていないことを話した。

 

 話を終えた後、俺は黙り込む仲間たちを促し、再び薄暗い通路を歩き始めた。今ジータがどこにいるかわからないし、どうすることもできない。だとしたら目の前の問題であるリアクター停止をまず推し進めなくてはいけない。そしてこの問題が解決した後、ジータについてゆっくり考えればいい。

 

 リアクターへは順調に近づいているのか、一度に出てくる人数は少ないものの、魔晶を使いこなすほどの力量を持つ帝国兵が現れ始めた。順調に戦闘不能にし最奥まで進む俺たちだったが、途中魔晶に心を奪われ気をおかしくしたフュリアスに遭遇した。

 

 他の帝国兵とは違い、魔晶による圧倒的な戦力を持つフュリアスは戦闘には時間がかかり、一度見つかったからには振り切るのも困難だった。悩む俺に対し、カタリナとリーシャが相手をすると宣言し、二人にその場を任せ俺たちは先に向かった。

 

 そのまま進む俺たちだったが今度はロキと一緒にいたフェンリルが突如現れ、俺たちの進行を妨害してきた。そして、その場をイオとロゼッタに任せ、俺はルリアとビィの三人でリアクター捜索を行っていた。帝国兵を殺そうとした俺を止めるためにルリアが武器を破壊したため俺には武器がなく、不安に感じていたがルリアに聞くとリアクターの気配はもうすぐそこにあるらしかった。

 

 

「なぁルリア、どうしてさっき現れたアネバルテはジータの姿をしていたんだろうな」

 

「うーん、そうですね……」

 

 ふと、俺は疑問を口にした。ジータとアネバルテが出会う一年前にあの帝国兵はアネバルテの力を吸収したはずなのに、さっき現れたアネバルテがジータの姿をしているのが、ずっと引っかかっていた。

 

「そうか、ルリアにもわからないか……」

 

「あ、でももしかしたら」

 

 ルリアが思いついたように俺の顔を見る。

 

「星晶獣はたとえ力を分離したとしても、本体とは何かでつながっているのかもしれません」

 

「つながっている?」

 

「はい。私が吸収した星晶獣たちも普段は静かなんですが、本体がいる島に近づき始めると、共鳴するっていうか反響するっていうか……、うまく言葉で表せないんですけどすごく楽しそうになるんです。だから本当はいつも、目に見えない力でつながっているんじゃないかなって」

 

「だからアネバルテがジータに会った時の姿がさっきのアネバルテにも継承されたってこと?」

 

「えぇと、そういうことになりますね」

 

「でも、アネバルテは島民にふさわしい人の姿になるはずだから、普段は自分のいつもの姿に戻っているんじゃないかな?」

 

「言われてみれば、そうですね……」

 

「うーん、なぁ。ビィはどう思う?」

 

「どう思うっていわれてもなぁ、オイラも星晶獣の考えてることが分かるわけじゃねぇしな」

 

「あっ!」

 

「どうしたルリア? なんかわかった?」

 

「いえ……この部屋なんです」

 

 ルリアが立ち止まったのは重厚な鉄の扉の前だった。扉は閉まっていて中は見えない。取っ手の下には最近も使われてことを示すかのように、光沢のある鍵穴がついている。鍵が閉まっていたら面倒だが果たして……。俺は取っ手に手を伸ばし、ひんやりとした感触を掌に感じながら回す。

 

 ガチャッという音と共に扉が開く。鍵は開いていたようだった。中は明るく、けれども重々しい空気が漂っている。

 

「ビィ、ルリア、入るよ」

 

「はい」

 

「ああ!」

 

 細心の注意を払い、音が立たないようにゆっくりと扉を開けていく。その重厚な見た目とは裏腹にスムーズに扉は開いていった。人一人が入れる隙間ができると俺はそこに身を入れ部屋の中に入り、ルリアとビィを招き入れる。そして、再びゆっくりと扉を閉める。

 

 部屋の中には誰もいないようだった。壁際にはたくさんの本棚が敷き詰められていて、多数の資料が詰め込まれている。部屋は奥に長く、先は薄暗く霞んでいてよく見えない。魔晶の欠片が散らばった机、静かな重低音、そして重々しい空気で構成された部屋に、それは坐していた。

 

「これがリアクターか……」

 

「思ったより大きいんだなぁ、でもこの穴はなんだ?」

 

 リアクターの巨大な塊の中心付近には何かで壊されたかのように大きめの穴が開いていた。多数のケーブルが天井とつながる精密なもののように思えるのに、その穴だけが場違いなものとして存在していた。

 

「これって、もうリアクターは壊れてる?」

 

「一応星晶獣の気配はしますが、すごく弱々しい感じがします。今はもう、停止しているみたいですね」

 

「もしかして、黒騎士たちが先にここに来ていたんじゃねぇか? それでリアクターを壊して停止させたとかさ」

 

「俺たちより先に? 言われてみればあの後何度か戦闘があったしな。あっちが先に着いていてもおかしくはないね。でもだとしたら、誰かここに残っていてもいいはずじゃないかな」

 

「うーん、それは分からねぇけど。全員でフリーシアを捕まえにいったとか、か?」

 

「どうだろう、この近くにいるのかな? ちょっと外に出て探してみるから、ルリアとビィは待ってて。すぐ戻る」

 

 俺はリアクターの近くにルリアとビィを残し、扉のほうに歩いていく。取っ手をつかんで回し、薄暗い廊下へと足を踏み入れるとき、ふと、俺の背後が心なしか暗くなったような気がして。何となく後ろを向こうとしたとき、叫び声が上がった。

 

 

 

「うあっ!……」

 

「ルリア!」

 

 

 ルリアの驚いた声が途中で途切れ、ビィが叫ぶ。急いで振り向いた先には、何かに魅入られたかのようにこちらに微笑みかけるジータが、左腕にルリアを抱えるように立っていた。全身が血塗られたその姿は可憐な少女の姿には全く似合わなくて。俺は言葉を失いつつ、ジータの右手がつかんでいる、地面に横たわった何かに気が付く。

 

「え、え、なんで……ク、クラリスなのか? ジータ、なんでクラリスがここに……そんな……」

 

「ん?、お土産だけど気に入らなかった? やっぱりカリオストロとシエテも付けるべきだったかな~。グランたち来るの遅くてすごく退屈してたんだよ? 暇だからリアクター壊そうとしたら、自己防衛システムだなんだっていきなりドローンが飛んできてね。でもすぐ壊れちゃった」

 

 頭の回らない俺にはクラリスから視線を外すことができず、脳に響いてくるジータの言葉は異国のそれのように聞こえた。クラリスは両目を閉じたまま微動だにしない。引きずられ続けたのか、服はボロボロになり、全身におびただしい切り傷や擦り傷を作り、もとの肌色が血によって見分けられないほど出血している。遠目からは気を失っているのか死んでいるのかさえもわからなかった。 

 

「ジータ、まさか殺したわけじゃないよな?」

 

「そんなことするわけないでしょ? 気絶してるだけだよっ。あぁ、でも結構長い距離歩いてきたからね、階段とかもあったし。でも、死んではいないでしょ」

 

 それを聞いて一安心したのもつかの間、ジータの顔に笑みが浮かぶ。

 

「だってさ、死んだっていう事実を見せるより、死ぬその過程を見せたほうが絶対面白いじゃん?」

 

「何を、言ってるの……?」

 

「そんな馬鹿じゃないでしょ、グラン。どうしたの、いきなり私が現れて、ルリアが気絶して、街にいるはずのクラリスが怪我をしていて、混乱した? だぁかぁらぁ、今ここで殺すって言ってるの、グランの目の前でね。どう、解体ショーでもやってみる? あはは、いいねその表情。でもその前に、」

 

 ふふっと笑みをこぼし、ルリアを乗せていた右の手をひらりと振る。同時にジータから少し離れた場所を飛んでいたビィの羽が見えない力によって無理矢理閉じられ、そのまま体ごと高速で壁へと叩き付けられた。棚が倒れ、資料が周囲に散らばるそこにビィの姿は見えない。

 

「ジータ、お前っ」

 

「邪魔者は排除しないとね。それに言ったでしょ、次会った時は容赦しないって。それじゃあ始めよっか、今までのすべての恩返しをしてあげる。お願いだから私が満足するまで壊れないでね、骨が折れても死にそうになっても何度でも回復させてあげるから、ね!」

 

 

  

 




お疲れさまでした。今回は長めでした。


くどいようですが、クラリスいじめたい衝動があるわけじゃないんです。火パでもスタメンで頑張っています。クラリス好きな方には申し訳ないですが……

ビィ君も退場……、動く人数は少ないほうが……楽

次話はできるだけ間をあけないで投稿できればと思います(願望)

次もよろしくお願いします。

あとたくさんのお気に入り、評価ありがとうございました!

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