もうまめだです、17話にもお越しいただきありがとうございます。
前書きも短めに、どうぞ!
追記=サブタイミスってました、はずかしい…
「どうしてアネバルテが、ジータの姿で……?」
ルリアをはじめ全員がアネバルテの存在に気づき困惑する中、俺は地に突き刺した剣を震える手で必死に抑えていた。俺の中の本能とも言える部分が目の前の人間の首を問答無用で狩ろうとするのをかろうじて抑えながら、男の返答を待った。男は首元の武器にというよりは、魔晶を壊したことで出現した星晶獣に面食らっていたようだったが、少しして俺の質問に答えた。
「アネバルテ……? ん、よく見ればこいつ、お前らの団の団長じゃなかったか? なんでここにいるんだ……。 あー、言われてみればお前の言ったような名前の星晶獣がいたかもしれねぇが、見た通りこんだけたくさんの星晶獣がいるんだ。一体一体の名前なんてちゃんと覚えてねぇよ。それにお前らも分かってるだろう?、星晶獣ってのは道具だってことは。道具に名前を付けるのはただの物好き……うぐっ」
誰かの足が男の腹を踏みつける。これは……俺の足だ。傀儡のように俺の身体は動き、俺の口が声を発する。
「そんなことはどうでもいい。いいか、俺が聞いているのはどうしてここに星晶獣アネバルテがいるかだ」
「うっ、見た目の割にはずいぶん手荒なぼっちゃんだ。そうだな、二年前ぐらいからか。魔晶の生成が成功して、用途や可能性について幾多の実験をやった後、フリーシア宰相が俺たち帝国兵に命令を出したんだ。星晶獣狩りのな」
「星晶獣狩り?」
「あぁ。魔晶には疑似的に星晶獣の力を吸収して閉じ込め、拘束し、自由に開放する力があることが分かったからな。魔晶単体でできることもあるが、媒体として使うことでもっと簡単に巨大な力を利用することができる。そうしたらもう考えることは一つだ。宰相はできるだけ多くの星晶獣を集めて魔晶に封じ込め、その力を利用することを思いついた」
地面に散らばった魔晶の欠片を一瞥し、男は話を続ける。
「それで二年前から俺たちは星晶獣がいると言われているあらゆる島に派遣された。もともとこの空域を牛耳っているような国なんだ、情報網も手を伸ばせる範囲も広かった。最初のころは星晶獣の戦力差に苦戦したが、奴らのコアに魔晶の力を過剰に流し込むことで、一時的に弱らせることができることが分かってから、星晶獣狩りは加速した」
ルーマシー諸島でのユグドラシル・マリスの苦しむ表情が脳裏をよぎった……あんな蛮行を各地でやっていたっていうのか。
「星晶獣狩りっていっても流石に吸収できるのは一部だったがな。あとはもうお前らも知っているだろう。一度魔晶に閉じ込めてしまえばほかの魔晶に移したり、コピーを作ったり、過剰に魔晶の力を与えて暴走させたりと、いくらでも制御は可能だ。……俺のはこんな失敗作だが」
「じゃあ、その星晶獣狩りの中にアネバルテがいたってことか?」
「まぁ、そうだろうな」
「再興の島に帝国兵が?、でも長老は俺たちに何も……」
「再興の島? あぁ、思い出したぞ。あの面倒くさかった島にいた星晶獣か。俺もあの時は同行してたからよく覚えてるぞ」
男の顔に卑しい笑みが浮かぶ。
「あそこは一度失敗したんだよなぁ。星晶獣にも会えない、長老も教えてくれないでな。帝国という名前を出しても頑として口を割らなかった。だが村人の前にぽんと大金を置けばあら不思議、分かっちゃったんだよな。それで条件に合うやつを探して、確かエルーンの兄ちゃんだったが、今度は帝国兵ではなくただの島民希望者を装って再挑戦したわけだ。あぁ、今から一年前ぐらいだな」
「一年前……」
ルリアがつぶやく。再興の島に異変が起き始めた時期だ。アネバルテも目覚めた後俺に話してくれた。一年前にちょっとしたことがあって、それから心を痛めていたようです、と。
「作戦はうまくいった。アネバルテは島民の奴らが言った通り俺たちの前に現れた。現れたってことはその兄ちゃんは島民に相応しかったってことだが、俺たちにとってはそんなのはどうでも良くてな。魔晶を使って弱めたら、あとは力を取り込むだけ。もう慣れた作業だったし、力の強くない星晶獣だったからすぐに仕事は終わった。エルーンの兄ちゃんは俺たちのしていることが何なのかは分かっていなかったが、アネバルテが苦しむのを見て俺たちを止めようとしてたな。そうそう、あいつは生真面目なやつだった」
あぁ、やっぱりそうか。砕かれた魔晶からジータの姿をしたアネバルテが現れたとき、すでに俺の本能は理解していたんだ。すべての原因が、アネバルテと再興の島、そしてジータに異変をもたらした張本人がこいつだってことに。そして、俺は感謝した。今、ここで報復する機会が俺に与えられたことに。
「もういい、もう一言も口にするな。お前が原因だってことが分かっただけで十分だ」
「原因? 何を言ってるんだ?」
その疑問には答えず、俺はゆっくりと地面から剣を引き抜く。男の表情がにわかに強張るのが、俺の嗜虐心をくすぐる。あぁ、このまま怒りに身を委ねて、すぐにでも目の前の男に死を与えたい。いや、それともゆっくりと痛めつけようか。悪魔が蜜のように甘い誘惑を俺の耳元に囁き、脳を弛緩し判断を曇らせる。刃物が柔らかい皮膚を突き刺し、鮮血が流れ、男の表情が苦痛に歪み、痛みに震える声が俺の耳に届く。そんな想像が、はっきりとした現実感を持って五感を刺激する。
「お、おいお前、俺を殺すのか? お前たちは指名手配中だったが、人殺しは一切しないような団だって、そう聞いていたぞ?」
「そうか? じゃあ前評判は撤回だ。俺たちの団は平気で人を殺す、そんな団だ」
「グラン?、君らしくないぞ、どうしたんだ?」
「カタリナ、何がどうしただって? 俺はいつも通りじゃないか」
「いつも通りって……本気で言ってるのか?」
「どうしちゃったのよ、グラン!」
カタリナの心配げな声も、イオの切迫した声も俺の冷たく沈んだ心には届かない。ただただ五月蠅い、そう思った。
「イオ、ちょっと静かにしててくれないかな? 俺は今、この男にどんな罰を与えるか考えてるんだ」
「ば、罰?」
「おいグラン、どうしたんだよ……?」
俺の言葉に一々騒ぎ出す連中が煩わしかった。俺が、何か間違ったことを言ったか?
「この男は死ぬにふさわしいことをした。だから、その代償としてこの男に死を与える。まだ、分からないことがあるか? まだ質問はあるか?」
「グラン、一度落ち着くんだ」
「カタリナ、心配しているようだけどその必要はないよ? 俺は落ち着いているし、自分がこれからすることが正当なことも分かってる」
「グラン、もしあなたの言っていることが本当なら……秩序の騎空団としては見過ごすことはできません。一度、剣を下して、私たちの言うことを……」
「あぁうるさいなぁ! ちょっと黙っててくれないか?」
「……いいえ、私は黙ることはできません。私に自信を持たせてくれた恩人に、罪は犯させません」
「罪? だから、俺がこれからすることは正当なことだっていっているだろ? 罪には問われることはない、だってこいつのしたことは死刑に値することだからだ」
「それを決めるのはあなたではなく、秩序の騎空団です。私たちが……」
「リーシャ、それ以上口出しするな。こいつが何をしたかわかっただろ? こいつは再興の島に異変をもたらし、多くの人を苦しめて、そしてジータを……」
ずっとグランと一緒にやっていくんだからさっ!
ジータの姿が声と共に唐突によみがえる。同時に思い出すのは、俺の首を絞めている時の無表情な瞳。俺の記憶は強く刺激され、何かがのどにこみ上げてくるのを感じる。声を出せば出てきてしまいそうなそれを必死に抑えながら、ゆっくりと口を開く。
「幼いころから俺のそばにいて……陰から俺を支えてくれた人に殺されかけた、その気持ちが分かるか? 家族が自分に救いがないと思って命を絶とうとしている、……それを止められない俺の気持ちが分かるか? この……虚しさなんて言葉じゃ言い表せないこの気持ちが、リーシャ、お前に分かるのか?」
「……分かりません」
「お前にとっての父やモニカのような存在が、お前に刃を向けて目の前からいなくなった。そんな時に全ての元凶が目の前に現れたんだ。それでもお前は、秩序なんて生ぬるいことをいって、処罰を他人に任せることができるのか?」
「……そんなの分かりません、でも……私は自分が尊敬する人が目の前で罪を犯すところを見たくは……ありません」
「俺は誰かに尊敬されるような男じゃない。目の前に仇が現れただけで、国も大人数の命も仲間もどうでもよくなる、そんな奴だ。……すまないがリーシャ、俺を止めないでほしい。責任はそのあとでいくらでも取る」
リーシャも他の仲間もそれ以上何も言わなかった。それが俺にはありがたくて、とてもつらかった。俺は再び男に向き直り、剣を構える。
「どうやら俺は人として最低なことをしていたようだな……」
男がぼそりとつぶやく。
「その言葉が本心かどうかは聞かない。でも痛めつけずに楽に殺してやるから、一思いに逝ってくれ」
それ以上何も言わず、俺は剣を振り上げ、男に向けて振り下ろす。心の中に怒り以外の感情が流れ込むのを必死に抑え、目の前のことに一心不乱になる。そうしないと……
薄暗い通路に突如光が差し、響き渡ったのは今まで聞いたことのない音だった。振り下ろした剣は途中で止まり、動かない。小さな金属音が下から聞こえ、見ると折れた剣の先が地面に転がっている。俺の目の前には筋骨隆々の体貌に重々しい鎧を身に着けたコロッサス・マグナが右手で俺の剣をつかんでいた。指の隙間から光輝く金属の欠片がぱらぱらと落ちる。
俺の剣が砕けた音が反響する空間に、今までにルリアが吸収した星晶獣が現れていた。
「ルリア……」
「帝国の魔導士さん、この子たちは私の中にいる星晶獣です。この子たちは私たちと同じように言葉を理解し、考えることもできます。もちろん、あなたの言ったことも聞いていて、帝国が星晶獣の力を軽々しく扱っていたことに怒っています。それでも、今私があなたを助けるために手を貸してと頼んだら、協力してくれました。……それでもあなたはこの子たちを道具と呼んで、無理矢理力を使わせるんですか?」
男がうつむくのを見た後、ルリアが悲しい視線を俺に向ける。
「グラン……約束してくれたじゃないですか。ジータを助けるって、……あなたはどこにも行かないって! それなのにどうして……、グランがいないとジータを取り戻せるはずないのに……」
「……ルリア、ごめん」
俺には謝ることしかできなかった。剣を振り下ろす寸前、すでに俺にはわかっていたのに止めることができなかった。今この場でこの男を殺しても何も変わらず、何も解決しないなんて気づいていたのに。怒りなんてほとんど残っていなかった。それでも俺は、やり場のない感情をどうにかしたくて、見せかけでもいいから俺の心を納得させようとした。
「グラン、そんなにジータのことで悩んでたのに、どうして私たちに相談してくれなかったの?、仲間でしょ!」
「……怖かったんだ。ジータが前と変わって、それでみんながジータを疎ましく思っているんじゃないかって思って。それに、ジータが艇を離れるって言ったとき、みんなほっとした顔をしてたから……」
「……グラン?、それは君が勘違いしているんじゃないか?」
「えっ、どういうこと?」
「私たちは君たちがなかなか戻ってこなくて心配していたんだ。そして、いざ戻ってきたと思ったらジータの姿がない。私たちは最悪の事態、そうだな、例えばジータが帝国兵に捕まったということを考えていたんだ。しかし、君がジータがしばらく艇を離れるといった。ということはジータは無事だどいうことだ、それで私たちは……」
「えっ、あ、はは、そうだったのか……。俺はてっきり……」
みんな、ジータを信じてくれてるじゃないか。それなのに、俺は……。
「だが事態はもっと深刻なようだな。君の様子を見る限り、先ほどの君の説明は嘘なんじゃないか? ジータはいったい今、どんな状況なんだ?」
カタリナの疑問に俺は一瞬ためらい、俺の分かっている全てを話し始めた。
どうでしたか。
少し道草をした感じです、話のつなぎ方を考えてたらふと思いついてしまい、そのまま勢いで書いてしまいました。
グラン君まで闇堕ちしちゃうのかな……っていうのよりも、闇堕ちした人視点で書くの難しい~って思いながら無事書き終えました。神様視点で書くのが楽なんでしょうけど、視点を変えるタイミングがつかめず……
というわけで、ありがとうございました。次話もまたよろしくおねがいします!