「ははは…、さすがにもう疲れた…」
修学旅行のあの嘘告白からそこそこの月日が流れたある日、そう力なく呟いてた。
高校2年生になり、あの作文から始まった無理矢理入部させられた奉仕部。
由比ヶ浜の依頼から様々なことがあった。
材木座の小説・戸塚のテニスの練習・チェーンメール・川崎のバイト・千葉村・文化祭…そして修学旅行。
相反する戸部と海老名さんの依頼。
『告白したい』『告白されたくない』
解決、いや解消するにはあれしかなかった。
あの場では俺の中では最適解であった。
時間が限られた中でよく思いついたものだ。
決して誉められた方法ではなかったのは認める…非難されるのはわかっていた。
奉仕部に所属する他の2人には俺に任せると言っていた。怒られてはしまうのかもしれないがそれでも理解してくれると勝手に俺は思っていた。
しかし…
『あなたのやり方嫌いだわ。』
『人の気持ち考えてよ!』
返って来たのは拒絶の言葉だった。
たしかに俺も説明もないでやったからそう言われても仕方がない。いつもの様に勝手に俺が思って、勝手に裏切られただけだ。
だが、それでも….俺はあいつらなら理解してくれると思っていた。
やはり、本物なんて…
ふと、俺は制服の裏側にあるポケットに手を入れる。
そしてあるものを出した。
それはお守りだった。
数年前、遠くに引っ越した彼女たちから貰った大切なもの。貰ったあの日から肌身離さず持っているお守り。
そしてこう呟いた。
「あの3人だったら…理解してくれるだろうか」
・・・
昔から夏になると、親の親戚のところに行っていた。
親は色々とやることがあるため、特にやることもなく暇な日が続いた。
小町は、近所の子と遊んだりしていたが俺にはそんな奴はいなかったので基本的に宿題や本を読んでいた。
そんなある年のある日、なんとなくだが外に出て散歩をした。やることもなかったし。適当にぶらぶらしてお腹が空いたら帰ろうと思ったぐらいだった。
まあ、田舎のため見渡す限り畑や田んぼなどがあるだけだった。
そんなこんなでそろそろ引き返すかなと思ったところにあったのが…
「神社?」
そう、神社だ。
近くにある看板みたいなものには何やら名称が書いてあったらしいが、字が薄れて読めなかった。
「行ってみるか…」
少し興味がわいた俺は階段を上っていった。
「おぉ…、少し古いけどなんかいいかんじだ」
神社に着いた俺は周辺をキョロキョロとみて回ってみた。そのせいか少し疲れたので座れる場所を見つけて休んでいた。
「風も気持ちいい…家にいるより過ごし良さそう…。次から暇なときはここに来よう」
その日は神社で少し休んでから家に帰っていった。
また別の日、今度は暇をつぶせるようにゲームや本、食べ物や飲み物を持って神社にやってきた。
暑い夏の日だが、日陰に入れば風が気持ち良く快適だった。
そんなら感じで神社で過ごしていたある日、いつもどおり本を読んでいたら話しかけられた。
「ねぇねぇ!何してるの!」
「へ?」
本を読んでいる俺に話しかけてきたのは緑色の髪をした女の子。同い年ぐらいに見えた。
「あ、その、えっと…」
「あ、私早苗!東風谷早苗!君の名前は?」
「八幡、比企谷八幡…」
「八幡…八幡君ね!よろしく!」
「あ、うん…」
早苗という女の子はそういうと手を掴んできて嬉しそうにぶんぶんした。
「ねぇねぇ八幡君はこんなところで何をしてたの?」
「本読んでた…風が気持ちよくて過ごしやすかったから」
「そうなんだ!…そうだ!私も一緒に見てもいい?」
「え、まあ、うん…、ほら」
「やった!ありがとう!」
そう早苗は言うと俺の隣に座って一緒に本を読んだ。本と言っても漫画であったが。
しばらくして読み終わった。
「面白かったね!」
「まあ…」
俺はというと隣に女の子がいて緊張して内容があまり入ってこなかった。普段ないことだから余計に緊張した。
「あ、そろそろ帰らなくちゃ…」
「そうなのか…」
「だから明日また遊ぼうねー!」
「え?」
「あ、何か予定とかあった?」
「い、いや…ないけど…」
「よかった〜、じゃあまた明日!」
早苗はそう言うと走り去ってしまった。
「また、明日か…」
そう言われたのはこれまでにあったかなと思いながらも明日が楽しみになった。
家に帰った後、母親に何か顔が変と言われた時は涙が出たが。
それからは時間があったときは、この神社に来て早苗と遊んだ。一緒に本を読んだり、かけっこしたり、絵を描いたりなど。
そんなある日、いつも様に神社に行ったときだった。
「まだ、早苗は来てないのか…。まあ、本でも読んでるか…」
そうして、少し本を読んでいると階段を上ってくる音が聞こえた。早苗かなと思いつつも、何やら声も聞こえる。それは早苗の声も聞こえるが、別に2つも聞こえた。
「へぇ…、最近出かけてると思ったらここに来てたんだね」
「はい!友達と遊んでました!今日も遊ぶんです!」
「早苗が出かけるなんて、珍しかったから少し心配だったよ」
「少しなんて次元じゃないでしょ?だって…」
「ば、ばか!それ以上は言うな!」
「?」
何やら、早苗と誰かが話しながら階段を上ってきた。1人は紫色の髪をして背の高い人、もう1人は帽子を被っていて俺と早苗と同じくらいの身長の子だ。
「あ、八幡君!待たせちゃった?」
「いや、俺もさっききたところだから。…それよりも後ろの人たちは…知り合いなのか?」
「「「!?」」」
俺がそう答えると早苗を含め、驚いていた。
何か変なこと言ったっけ?
「しょ、少年…私たちの姿が見えるのか!?」
「え、はい…見えますけど?」
(((声も聞こえてる!?)))
「八幡君も私と同じで、神奈子様とケロちゃんの声が聞こえてる…!八幡君凄い!」ヒソヒソ
「す、諏訪子…これは…」ヒソヒソ
「わ、わかんない…。けど、姿も声も聞こえるなんて…」ヒソヒソ
「あ、あの〜?」
「「「!」」」
「あ、ああ…すまないね。私は、神奈子…八坂神奈子だ。早苗とは…遠い親戚でね。時間があるときは面倒を見てやってる」
「私は、洩矢諏訪子!早苗とは友達さ!君の名前は?」
「八幡です…比企谷八幡」
「そっか!よろしくね八幡!」
「よろしくな八幡君」
「あ、はい。よろしくお願いします…」
早苗と一緒に来た人は、神奈子さん、諏訪子と名乗った。
「じゃあ遊ぼっか!いつもは早苗とは何をしてるの?」
「えっと…」
それから早苗に加え、諏訪子も入れて遊んだ。神奈子さんはそんな俺たちを見守っていた。時折、諏訪子に煽られて遊びに加わっていたが。
「あー、面白かった!」
「す、諏訪子…お前…」
「か、神奈子様落ち着いて…」
つ、疲れた…。けど、楽しかったなあ…
諏訪子と神奈子さんもああは言ってるけど楽しそうになってるし。
前は早苗だけだったのに、さらに2人も増えた。
こうして、俺が夏休みのときは俺を含め、この4人で遊ぶことが当たり前になっていった。
時には神奈子さんが昔話をしてくれたり、誰も知らないような湖に連れてってくれて水遊びをしたり、スイカ割りをしたり、アイスを食べたり…色々なことをした。
時の流れは早いもので俺と早苗も小学校、中学校へと進学していった。
それでも、毎年夏休みになると変わらず早苗たちと遊んでいた。
時折、小町も一緒に遊んでいたがそのとき、神奈子さんと諏訪子は来ず、早苗だけが来て遊んでいた。
何か引っかかることはあったが、そこまで気にすることでもないため特別言うこともなかった。
そんなこんなでこのままずっと続いていくものだと思っていたが、そうはいかなかった。
中学校を卒業する年、すなわち、中学3年のときに早苗たちからこう言われた。
「もう会えなくなる…?」
「うん…」
「ごめんな八幡君…私たちもできればずっとこのままここに入れればよかったんだが…」
「事情が変わってね〜」
「そ、そうか…」
何か事情があるなら仕方がない。
また、俺はぼっちへと戻るだけだ…
そう思っていた。
「そ、その、私たちの代わりってわけじゃないんだけどよかったらこれ!」
「これは…?」
早苗が渡して何やら渡してきたこれは…
「それはお守りだよ。私と諏訪子、早苗…3人で作ったんだ」
「これを…俺に?」
「そうそう!八幡だからあげるんだよ!このお守りにはね、『風雨の神』と『山の神』の加護が入っていて、超すごーいんだよ!」
「そ、そうなのか…」
俺はこういったものには詳しくはないが、諏訪子たちがそう言うならそうなんだろう。
「ありがとうございます、大切にするよ」
しっかりと受け取りお礼を言った。
3人ともそれに満足したのかいい笑顔でうなづいた。
「さて、渡しておくものも渡したし、準備もあるからそろそろ私たちは行くよ」
「八幡〜またね〜!」
「八幡君…ありがとう…!」
「おう…こちらこそありがとうな」
そうして、俺たちは別れたのだった。
・・・
その2年後、俺はその場所にいた。
「久しぶりに来たな…懐かしい…」
身体のあちこちから痛みがするが、何とかここまで来れた。あいつら好き勝手やりやがって…
昔話のことを思い出しながら俺はその場座り込んだ。
「ははは…、さすがにもう疲れた…」
「あの3人だったら…理解してくれるだろうか」
身体の限界が来たのか、俺はお守りをにぎりしめながら、そのまま倒れて意識を失ってしまった。
私は守矢神社の風祝、東風谷早苗!
今は博麗神社の巫女である霊夢さんを連れて守矢神社へと向かっているところです。
「ご飯!ご飯!」
「あはは…霊夢さんご飯は逃げないですよ…」
「だって久しぶりのご馳走よ!早く食べたいに決まっているじゃない!今日はたくさん食べるんだから!」
「ははは…、ほらあと少しで守矢神社に着きますから頑張ってください」
久方ぶりのまともなご飯で凄い期待してますけど、ご飯の量足りるかな…。足りなかったら作ればいいか…
そんなことを思いながら守矢神社へと向かっていると、突然霊夢さんの声がしなくなった。
ふと、横を見ると霊夢さんが先程までとは違い、真剣な目をしながらどこかを見つめていた。
「…」
「霊夢さん?」
「早苗あれ…神社の近くで人が倒れてる!」
「!すぐ向かいましょう!」
霊夢さんが指を刺したところを見ると、たしかに人が倒れている。しかも守矢神社鳥居近く。すぐさま私たちはそこへと向かった。
トンッ!
「大丈夫ですか!?っ、凄い熱!とりあえず、どこか寝かさないと…え?」
「早苗?どうしたの?」
その人は手に何かを握っていた。
そう、神奈子様、諏訪子様とそして私たち3人が作り、渡したあのお守り。
だってあのお守りは彼に…まさか…!
「あ、ああ…そんなことって、そんなこと…」
顔を見てすぐ、私は気がついた。
私は知っている、この男性を…
「早苗?」
この男性は…この人は…
私の大切な…大事な…
「早苗!」
「!」
そう考えていると霊夢さんが私を呼んでいる声がした。
「れ、霊夢さん…」
「この人、あなたの知り合いなんでしょう?だったら、今あなたがすべきことは何?あなたならわかるでしょう?」
そうだった。
今は彼を助けることが優先だ。
「はい!霊夢さんは永琳さんをお願いします!私は神奈子様たちを呼んできます!」
そう私は霊夢さんにお願いすると、すぐさま神奈子様たちを呼びに行った。
「…紫、聞いてたでしょう。ここと永遠亭を繋げて永琳か鈴仙呼んで来て」
「はいはい、まったく人つかいが荒いわね」
「あんた人じゃなくて妖怪だから別にいいでしょう」
「ふふふ…」
八雲紫はそう笑いながらも、境界を操り、たまたま薬の行商をしていた『鈴仙・優曇華・イナバ』を連れてきた。
「いたたた…、もう何なのよ…って霊夢!?」
「連れてきたわよ〜」
「鈴仙、急で悪いけどこの人の具合見てくれる?ここで倒れてたんだけど…」
「私、行商中だったんだけど…、まあいいわ。どれどれ…凄い熱ね。だけど、他に何かなければ薬を飲ませれば…!?」
「鈴仙?」
「…これ、凄い傷」
鈴仙が服をまくるとそこにはたくさんの傷がついていた。
「これって…」
「…他のところにも、背中、足まで。おそらくこれが原因ね」
「…治る?」
「そうね、熱自体は薬飲ませて安静にしていれば治ると思うけど、問題は傷のほうね。こっちはすぐとはいかないわ。でも、師匠なら問題ないわ」
「そう。…この人、早苗の知り合いらしいんだけどまだ傷のことは秘密にできる?その方がいいと思うわ、勘だけど」
「わかりました…。紫さん、永遠亭に繋げてもらってもいいですか?このまま連れて行きますので」
「はいはい〜」
そのとき、東風谷早苗が八坂神奈子と洩矢諏訪子を連れて帰ってきた。
「霊夢さん!神奈子様と諏訪子様をお連れしました!」
「八…君!」
「八…!」
あの守矢の2柱が慌てた様子で駆けつける。
この光景にはあの八雲紫も少し驚いていた。
「そういえば神奈子と諏訪子とも知り合いなの?」
「ええ、外の世界にいたときに私以外で神奈子様と諏訪子様を認識できてましたしね」
「!?え?それって…普通ではないよね?」
「はい、お2人とも理由はわからないとおっしゃっていましたが…、ってそれより鈴仙さん!彼の容体は!?」
「そうね、熱がすごいのが気になるからとりあえず永遠亭へ連れて行こうと思うわ。早苗たちも…「行きます!」よね…、紫さんお願いします」
「はいはい、もう繋げてあるから通った通った…」
鈴仙は彼を自身の背中におんぶさせると、ゆっくりと永遠亭へと続くスキマへと歩く。早苗たちもそれに続き歩いていく。
「そういえば守矢の巫女、その彼の名前ってなんて言うのかしら?」
ふと、疑問に思った紫が早苗に聞く。
そして、早苗はこう答えた。
「比企谷八幡…君です!」
そう聞いた八雲紫は全身から冷汗をかいたのだった。