異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

99 / 105
レナード・ドレクが久し振りに登場、私事ながらストーリーとは関係なく書いてて切ない


第94話ドレク兄弟とメンチカツ

 ある定休日、パックスを連れて日本のスーパー『邑楽食品店』にやって来た大輔、今は異世界(向こう)で殆どの食材が揃うので訪れる回数も減ってはきているが中にはどうしても手に入らないモノもあるのでそれらを仕入れにきたのだ。

 友人曰く、異世界と一口に言っても地球と同じくらい広いらしい。大輔の暮らす場所では気候や文化等の理由で飼育や栽培、中には存在すらしない食材もあるので問屋直営で大抵のモノは揃うこの大型スーパーはありがたい。

 (えーっと。鮭に鰹節とアスパラ、セロリに牛肉。デザート用のキウイにヴァニラビーンズ、製菓用のチョコレートも仕入れておかないとな)食材リストを脳内で反芻しながらパックスの押す買い物カートが溢れるほど大量に乗せていく、家庭ならともかく飲食店で扱うのでこれくらいは必要になる。

 

 日本国内の『越後屋2号店』に戻り運営を任せている義理の従姉の伊達冴子ら従業員としばし雑談した後、本店に帰って明日の日替わりを考えながら荷物の整理をしている。それが終わると新メニューのアイディアを探そうとタブレットを手にネットの料理サイトを開く、その中から常連の好みに合いそうなメニューをピックアップして研究対象にストックしておく。

 

 これまで何回かエドウィンを訪れていたレナード・ドレク。今回は別大陸への任務に赴いた弟が久し振りに帰ってくるのだがルブルック王国には海に面していないので弟の乗る船は国に最も近いラターナのエドウィン港に碇を下ろした、その出迎えにやってきたのだ。

 「兄上、ただ今戻りました」

 「ご苦労だった、フーガ。今夜はこの街に泊まって明日ルブルックへ向かおう」近いといっても祖国までは馬車で数日を要する距離がある。始めは秘密文書を届けるという仕事があった為徒歩でやってきたレナードだったがプライベートであんな苦労はしたくない、それにフーガとて長い船旅で疲れているハズだろうから今日のところは旨いメシと酒で英気を養おうと考えたレナードはこの街で食事をするならここという店に弟を連れ出した。

 

 今日の越後屋のランチタイムも相変わらずの盛況だった、ドレク兄弟は外にできている行列の最後尾に並んで待たされるハメになった、フーガは面白くなさそうだが

 「俺達より早くきた連中もああして大人しく待っている。ここの料理にはそれだけの価値があるのさ」苦にならない様子のレナードに宥められる。

 

 「やっと2人分の席が空いたな」座席にもたれ一息つくとウェートレスが湯気のたつ布とグラスに注いだ水を一組ずつ兄弟の目の前に並べる、当たり前のように水を飲み手を拭く兄を怪訝な顔で見つめるフーガを尻目にレナードはテーブルに備え付けられた薄い本を開く。それを閉じて元あった場所に戻し店員を呼び寄せると、さっきとは別のウェートレスが応対に現れた。

 「今日の日替わり定食を2人分。こいつにはパンを、俺はオリゼを付け合わせで頼む」

 「はい、しばらくお待ち下さい」と注文を伝えに厨房へ下がる。

 「兄上。その本は?」

 「これはメニューといってな、店で出せる料理が載せてある。ここじゃ自分の食いたいモンを頼めるのさ、今回は店任せにしたが。たまたま俺の好きな料理だしな」普通は外で食事をするならこちらの好みに関係なく出される料理は店の都合で決まっていて客に合わせる店なぞありはしない、兄の言葉にフーガがカルチャーショックを受けていると

 「お待たせしました、メンチカツ定食です。ごゆっくりどうぞ」皿の上には茶色い砂のような衣に覆われた丸い揚げ物と細切りにされたプラッカ、端には輪切りにされた黄色いキルトスをが乗せられていた。

 「さて、フーガよ。これには添えられたキルトスを絞ってこのウスターソースをかけて食うといい、俺はこの少しとろみのあるのが好きなんだがサラサラしたのも中々に旨いぞ」兄がナイフで揚げ物を切り分けオリゼに合わせて食べるのをみて真似をしてみようと自身はパンを一欠け千切って同じように切り分けた揚げ物と一緒に食べる。

 「これは肉をわざわざ細かく刻んだ上でもう一度まとめてある、肉の味が口一杯に広がりますな。衣の食感も素晴らしい」

 「肉だけでは舌が疲れるがプラッカとソース、それにキルトスの汁が和らげてくれるだろ?」

 「如何にも。しかし随分手の込んだ料理を出す店ですな、だからこそ旨いのでしょうが。イヤ、兄上のおっしゃる通り行列に並んだ甲斐がありました」

 

 翌日兄弟はエドウィンを出発しようと宿屋を出るとリッキーとチルの義母子に出くわした。顔を紅潮させて彼女らに街にきた事情を話すレナードをみて

 (兄上がこの街に固執するのはそういう事か)フーガは得心した。その後馬車を乗り継ぎルブルック王国に帰還する2人、途中弟から兄にこんな一言が贈られた。

 「して兄上、父上も母上も今は亡き身。私は相手が子持ちであろうと一向に構いませぬ。求婚はいつになさるおつもりで?」

 「な、何をいうフーガ。彼女には俺が一方的に思いを寄せているに過ぎない、き、求婚など、とは…」言い淀む兄。

 「応援しますぞ。頑張って下され、兄上」

 「そ、そんな事お前に言われる筋合いはにゃい!」怒ろうとして噛んでしまった兄につい頬を緩ませるフーガ、何だかんだと今日も仲のよいドレク兄弟である。

 




後6話で第2目標の100話達成になります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。