異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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魔王を倒したのはルカ一行だと認識されてるようです、噂って尾ひれが付くんですね
第80話「仲良しトリオと餃子」登場人物の1人の名前をジャイロからカミーユに変更しました


第85話元魔王とテリヤキチキン

 今から百年以上前この世界にも魔王なる存在が数多くいて、彼らは決して手を組む事なく各々自分勝手に人里に降りては悪行を為していた。あの時、その内の1人が世界の最高神であった先代女神を倒すまでは。

 

 実際は部下の裏切りで命を落とした大魔王、だが他の魔王連中とその一派には読者もご存じの'あの'冒険者パーティーが倒したと伝わっている。

 「大魔王も例の冒険者に倒されたか」かつて魔王の一角と謳われたルーファスは深くため息を吐いた、それは落胆ではなき安堵によるモノである。魔王には珍しく

 「魔王を始めとする魔族は世界を取り纏めるに相応しくない」という考えを持っていた彼はかの大魔王が死亡したと知った後、私財を投げ売って配下に充分な金を渡し側近を10人程残し一味を解散した。その後正体を隠した上で僅かばかりの財産を運用して人間の王国の1つ、ラターナで林業を営み始めた。折しも国内のある街で工場を建築する話があり建材を搬入する事で一枚噛ませてもらった、次は大規模な酒蔵を建てる計画がありルーファスの投資は成功を収めた。

 

 「ルーファス殿、如何ですかな?我が街の新しい工場は」始めは市井の料理人が作り出したという調味料を公爵自身が試食して気に入り、やがて街の外にまで噂を呼び国中から入手したいと要望が殺到して遂には街をあげてそれを生産しようとその工場が建築された。その建材となった材木はルーファスの商会によって卸されている、今日は公爵に誘われ工場見学に訪れたのだった。

 工場の中では大量のヒスピが潰され大鍋で煮られて木桶に移されたところで魔術師が数人がかりで囲んでいる、それはルーファスも熟知している魔法体系であった。

 (あれは時間魔法?木桶の中身を古くしているらしいが一体ナゼ?)工員の1人が出来立てを2つの小皿に注いで差し出した。

 「まずは作りたてを味わって頂きたい」公爵に促され一匙口に入れてみる。

 「これは!サウルの味だけでなく何とも複雑な味わいですな、この旨さが知られれば国はおろか大陸中から買い求めにくるでしょう」

 「やはりそうお思いですか、私はまずこのショーユを街の特産にしてゆくゆくはラターナの名物にするつもりです。ところで開発した料理人の店で昼食をご一緒しませんか、今時分は混雑しているハズですが席を予約してありますので」

 

 コルトンに連れられ越後屋へきたルーファスが座敷に案内されて只で給されるという水を飲んで一息吐くとウェートレスが申し訳なさそうに注文を受けにきた。

 「遅くなってすみません、ご領主様」

 「構わんよ、忙しいのだろう。さてルーファス殿、注文は私に任せて頂いてよろしいですかな?」

 「私に異存はありません、公爵様」

 「ではテリヤキ定食とヒヤヤッコを2人前頼む」

 「はい、しばらくお待ち下さい」このやり取りを端で聞いていたルーファスはどんな料理がでるか想像しようとしたが

 「テリヤキ何たらとは聞いた事がない、それにヒヤヤコ?とはどういう料理だ?」全く予想すらつかなかった。

 

 運ばれてきた料理のメインは鶏料理だったがまるで宝石のように輝いていた。もう1つは真っ白で四角く今まで見た事ないモノに数種のハーブが添えられている、ルーファスは目を見張るがコルトンは食欲をそそられた顔つきになる。

 「ではテリヤキチキンからいきますかな」コルトンは切り分けられた琥珀色の鶏にフォークを刺し旨そうに食べ始めた。

 「ささ、ルーファス殿。ご遠慮は無用、お手を付けて下され」初めてみる料理に戸惑っていたルーファスだが食べないと却って公爵に失礼になる。

 「旨っ!あのショーユに甘さが加わり更に複雑な味が広がる」続いてヒヤヤッコなる白いモノにも手を伸ばそうとしたら公爵からボトルを差し出された。

 「ショーユのボトルをどうぞ、ヒヤヤッコにはこれとハーブがよく合いますぞ」

 「つ、冷たい!しかしこれ自体はあまり味がしない、なるほどショーユをかけハーブを合わせる事で料理として成立するのか。今日は暑いからな、こんな日にはもってこいかもしれん。それにどちらも酒が進みそうだ」

 「昼なのが悔やまれますな、陽が落ちる頃なら一献差し上げたかったのですが」公爵も同じ事を考えていたようだ。

 「そういえば酒蔵も建てられるご予定だとか。その際は是非当商会を宜しくお願いしたいですな」

 「勿論、酒が完成したあかつきには是非ご試飲頂きたい」

 「いやはや。それはまた、楽しみが増えましたな」互いに愛想笑いを見せてコルトンは次の公務に向かい、ルーファスは帰途についた。

 

 住まいに戻ったルーファスは遥か昔から側に仕える忠実な側近を自室に呼ぶ。

 「ルーファス様、お仕事の話はどうなりましたか?」

 「うむ、抜かりはない。それよりお前達に新たな任を告げる」

 「と、申されますと?」

 「今後我ら一派はこのラターナ王国を他の魔族から守る。最悪、国は滅んでもエドウィンの工場とエチゴヤなるメシ屋は何としても死守するのだ!」

 「ナゼゆえにございますか?ルーファス様?」

 「明日の夜にでもその店に行けば分かる、いい機会だ。お前達と久し振りに呑もうではないか」酒蔵の建築は当分先になるがそこで作ろうとしている酒はあの店で呑めると公爵から聞いた、今では他の魔王連中から腰抜けと嘲笑われる自分にそれでもついてきたこいつらをたまに労うのもよかろうとルーファスは側近達に気づかれぬように口角を上げた。

 

 こうして越後屋には神様に元魔王の加護がプラスされたが大輔ら従業員は当然知る由もない。

 




工場の話が出てきた時点で
「またウスターソースネタか」と思った人は手を上げてぇー(笑)
このシリーズで2000字越えたの久し振りです

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