現在交際中のマティスとレイヨン、お互いまだ結婚は考えていない。2人共一度は配偶者と死別した身だし今更役所に届け出るのも何となく気恥ずかしい、因みにこの世界で正式に夫婦となるには教会の住職にサインを貰ってから役所で認定されなければならない。
さて、いつもの越後屋、14時頃。ランチタイムも落ち着き大輔は従業員の昼食に今度メニューに載せる料理の試食をしてもらった、評判は上々だったのでこの日の閉店後ロティスとメニューリストに書き足しておいた。
翌日の夜、常連達が早速新メニューを酒の肴に注文し始めた。お代わりをするお客もいて新たな定番メニューに加わるのは必須だろうと思われた、そこに入り口の戸が開きアルバートが来店した。
「ほう、新メニューか。じゃ試しにワシも頂くとしようか、酒は何が合うかの?」カウンター席で大輔に尋ねる。
「ハイボールですかね?好みは分かれると思いますが」
「ではそれも一緒に貰うとしよう」
「はい、しばらくお待ち下さい」
「お待たせしました、ニクジャガとハイボールです。ごゆっくりどうぞ」まずは肴に目を向ける。チューバと肉を中心にケパやカリュートが煮込まれている、その中に縛って纏められたロープのような見慣れない具材が混ざっているのが気になりアルバートは再び大輔に話しかける。
「白滝です、この辺には見かけない食材ですが旨いので今回使ってみました。ちょうど味が染みて食べ頃ですよ」実は最近何気なくネットサーフィンをしていたら『白滝が肉を固くするとは誤りである』という記事を見つけた大輔は裏口から日本へ行き白滝を買って肉料理を試作した、結果下拵えをきちんとすれば肉が固くなる事はないと証明されたので牛鍋等の煮物に使う事に決めて今日の肉じゃがにも入れてみたのだ。
「どれ、1つ食ってみるか」シラタキとやらを口に放るアルバート。
「柔らかいのにしっかりした噛みごたえがある、こりゃ面白い食感じゃ。スープも程よく吸っておる」続いてハイボールという酒を合わせる。
「この喉や口の中でで泡立つ酒、前に呑んだビールに似ておる。だが味はウィスキーのようじゃの」酒を呑んではニクジャガを摘まむ、また呑んでは摘まむを繰り返し腹も心も満たされたアルバートは上機嫌で帰っていった。
ある日の商業ギルドの昼休み、職員達はランチを摂りに外へ出掛ける。レイヨンも誘われたが
「今日は弁当があるので」と断る、すると職員一同が彼の周りに詰め寄った。
「お弁当?誰が作ったの?」
「恋人からか?もしかして再婚するつもりなのか?」大騒ぎの職員達をヴァルガスが怒鳴り付ける。
「お前らさっさとメシ食ってこい、でなきゃ明日からメシ抜きで仕事させるぞ!」慌てて全員事務所を出る、そしてマティスに持たされたお弁当の蓋をギルド事務所内で開いた。おかずは肉じゃがである、異世界では家庭料理の1つと聞かされた彼女が大輔に教わって自宅でも作るようになりこの日レイヨンのお弁当にしたのだった。
「誰かが弁当を作ってくれたり家で食事を作ってくれてるのはいいな、そろそろ覚悟を決める時かも知れん」プロポーズの意思を固めるレイヨン。さて、2人は結婚するのか?
この2人ホントに結婚するのかな?