異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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異世界料理モノにお馴染みの豆腐回です


第65話縁談と豆腐ステーキ

 ヴァルガスは古い友人から送られてきた手紙に目を通す、内容は娘が結婚を考えてる男性がいるので是非仲人を引き受けてほしいというものだった。

 その数日後ヴァルガスはナゼか越後屋にきていた、例の知り合いの娘というのは冒険者上がりの獣人なのに対して相手の男は人間で下級ながらも貴族の血をひくいわゆる'お坊ちゃま'である。

 

 「問題はそっちじゃないんだ」いつものように焼酎を呑りながらヴァルガスは大輔に語る。事実この世界では人間と亜人のカップルや夫婦は珍しくも何ともない、身近なトコではマティス、ロティス姉妹の親父さんがドワーフとの混血だしラミアやオークのように他種族相手でないと子孫を残せない亜人もいる。

 ヴァルガスと妻シンシアはいい話だと思ったし双方の両親も反対する理由はないというので途中まで話はトントン拍子に進んだ。しかし

 「じゃあ、何が問題なんですか?」肴をだして大輔が問う。

 「そんでな、両家で今後の事を話し合おうってんで向こうで会食となったんだ。で店の給仕がメインの皿を持ってきた、そこで困った事になったんだ」

 「と、言いますと?」

 「メインは魚料理だったんだが男側の父親の方がお気に召さなかったらしい、メインは肉の方がいいと抜かしやがった。それが店を手配した女側の父親の逆鱗に触れちまってな、そこからはもう大喧嘩だ」

 「何とも大人げない、ていうよりホントは双方共反対する理由がほしかったんじゃあ…」

 「おそらくそんなトコだろう、つまり年寄りの意地の張り合いだ。しかし若い2人にゃ気の毒な話じゃないか、そこで俺は改めてここで会食をやり直そうと提案した。マスター、お前さんに余計な仕事させちまうが一つ頼まれてくれんか?」

 「引き受けましょう、只少し考える時間はありますか?」

 

 一週間後、ヴァルガスは今日の主賓2人ライラとオリバーと双方の両親を連れて越後屋に来た。未だ険悪そうな父親同士はいがみ合いを続けている。

 「今日という今日はこの頑固者と決着をつけさせてもらおう!」

 「それはこっちのセリフだ、今日こそこの偏屈爺いに頭下げさせてやる!」

 

 「いらっしゃいませ、ザシキへどうぞ。ヴァルガスさん、頭をぶつけないようにお気をつけ下さい」常連のヴァルガスもこの個室の存在は知っていたが利用するのは初めてだ。家族同士が並び向き合うように座らせて自分は垂直する位置に腰を下ろす

 「腰を下ろして食事ができるとは、これは楽チンだ」

 「座椅子もあって背を凭れる事ができる、何とも落ち着くな」父親2人は喧嘩も忘れ気が緩みきっている。料理が前菜から順に運ばれてきた、どの料理にも舌鼓を打つ一同の目の前にこの日のメインが店主と大男の店員の手で並べられた。

 「お待たせしました、本日のメインはこちら、豆腐ステーキです。鉄板が熱いのでご注意下さい」出てきたのは元は白いと思われる四角い塊に焼き色のついた今まで見た事ない料理である。端にはすりおろしたジベリと細かく刻んだポルムが添えてあった、ヴァルガスは慣れた様子でナイフを入れてフォークに指し嬉々として食べ始める。

 「旨ぇ、やっぱり肉か魚か迷ったらこいつがいいな。どっちにも負けてない」信用のおけるヴァルガスがそう言うならと彼らも真似をしてみる。

 「美味しい!口当たりは軽いのにしっかり食べた感じがあって、しかもしつこくなくてほんのり甘い!」初めての味に感激するライラ。

 「外側はカリッと心地よい歯触りで中は噛まなくても食った途端にホロホロと溶けていくように柔らかい!ジベリとポルムの辛味の強いハーブにもよく合う」オリバーも驚きを隠せない。

 「こいつは一体何だ?肉にしてはあっさりしてるし、そうかこれは淡白な魚だな。この勝負は俺の勝ちだ!」

 「いいや、こいつは鹿の身を丁寧に処理した肉料理に違いない。勝ったのは俺だ!」言い争いを再開した2人を尻目にヴァルガスは大輔を呼ぶ。

 「マスター、この石頭共に正解を教えてやってくれ!」大輔は座敷の戸を開けると持ってきた笊を2人に見せる。

 「こりゃヒスピじゃないか?」

 「まさか、これが肉や魚の味になるっていうのか?」顎が外れそうなくらい驚く父親達に種明かしをする大輔。

 「僕の故郷には宗教や体質等の理由で肉や魚を食べられない人もいます、そこで編み出された料理の1つです」

 「この勝負はどっちも負けだな、罰として材料の海水を汲んで来てもらうか」

 「これだけ作るには100オイス必要になりますが?」ヴァルガスと事前に打ち合わせた通りわざと大袈裟に量を指定する大輔、親父達は青い顔になっている。

 「2人っきりでかぁ?」

 「夜が明けちまうよ」

 「そんじゃこの若い2人に謝るんだな」2人共自分達の息子と娘に土下座する、もはや父親の威厳など微塵もない。ヴァルガスはこれで縁談はまとまったと一旦言葉を締めると

 「少し早いが誓いの盃を交わそうじゃないか。マスター、ニホンシュを人数分頼む」

 

 こうして無事結ばれたオリバーとライラの2人は仲がいい素敵な若夫婦と近所でも評判である、だがお互いの父親同士は今日もまた相変わらずつまらない事で意地を張り合ってるらしい。

 

 

 




最後はやっつけ感ありますか?自分でも気になったら後で修正します

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