異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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影山明さんへ
頂いたアイディアを使わせてもらいました
設定を少し変えてますがそこはご勘弁を
もう1つのキャラもいつか書きますのでしばらくお待ち下さい


第56話妹とボンゴレスパゲッティー

 貴族出身の女性騎士ナタリーン・オラートは数年間音沙汰のなかった兄からの手紙を読んである決意をした。

 「ラターナ王国のエドウィンか、兄上もようやく真っ当な仕事を見つけられたみたいね」名門の生まれでありながら16才で両親と妹の前から姿を消して明日をも知れぬ傭兵稼業なんぞやっていると聞いた時は気が気でなかったが今は奥さんとパン屋をやっているそうだ、両親は家を出た兄に代わりオラート家の跡継ぎにと父の姉である伯母の次男坊を養子に向かえた。その両親も天に召されもう兄上の生き方に反対する人はいない。ならば私もとナタリーンは家を従兄弟に任せて旅に出る事にした、まずは兄のいるエドウィンの街を目指す。

 

 エドウィンから少し離れたカカンザの街の市場に着いたナタリーンは木桶を抱えて声を張り上げる少年を見かけた、

 「ソリーア、要りませんかぁ?!、お安くしときますよぉ」ソリーアか、割と出回る貝で焼けばそれなりに美味しいけど特に食べたくなるモノでもない。彼は生活がかかっているだろう、必死に売り歩くが成果はでていないようだ。しかし私には関係ない、酷な言い方だがこの世の中同じ苦労を抱えて困っている人間は山ほどいる。情けをかけていてはきりがない、少年を無視する事に決めた私の耳に懐かしい声が響いた。

 「ソリーアを1オイス買おう、パンに挟む総菜用にな」右目の大きな傷には見覚えがないが間違いなく兄のバズだ、少年からソリーアを買っていた。

 「そんじゃ俺も貰うだで。海ン中では意外に獲れんでの」一緒にいる漁師風のリザードマンも少年にお金を支払っていた。

 「あ、ありがとうございます。やった!初めて全部売り切った」少年は空になった木桶に金貨を乗せてホクホク顔でその場を後にした。

 「兄上!」ナタリーンは叫ぶが市場の雑踏が邪魔して聞こえないのかバズはリザードマンと談笑しながらエドウィン方面へ向かう乗り合い馬車で去っていった。

 

 次の馬車に乗りエドウィンの街まで追いかけてようやく兄の居場所を見つけたナタリーン、手紙に添えられた地図を見ながらパン屋を見つけ扉をノックして出てくるのを待っていると美しい女性が応対に出てきた。

 「兄上はおられるか?妹のナタリーンが遥々訪ねてきた!」

 「義理の姉に何て口の聞き方だ」一仕事終え手の空いたバズが赤ん坊を抱えて玄関へ現れる。

 「失礼致しました、私はナタリーン・オラート。貴女の義妹です」

 「バズの妻、マデリーンです。ヨロシクお願いしますね」挨拶を済ませた2人にバズは提案する。

 「間もなく夕食時だ、今日はソリーアの旨い料理の仕方をエチゴヤのマスターに教えてもらいつつメシにしよう」

 

 エチゴヤとかいう店に入ると兄上は早速店の主人に料理の相談をする為にさっき買ったソリーアと共に厨房へ下がっていった、その間私は義姉と互いの近況やこれまでの人生の事なんかを話して過ごした。オラート家にいた頃は素行の悪い兄上だったが傭兵時代に散々怖い思いをしたせいで却って穏やかな性格になり、そんな時マデリーンと出会い恋に落ちたという。やがて子供が産まれてこの街に流れ着きここの主人や街の人々の協力でパン屋を始めたそうだ。そんな話をしていたら店の扉が開いた、昼間兄とカカンザの街でつるんでいたリザードマンだ。

 「マスター、さっきのソリーアでいい酒のつまみはできたかの?」

 「いらっしゃっいませ。フンダーさん、お持ち帰り用でしたね、ソリーアの佃煮です。ある程度日持ちしますが早めにお召し上がりください」リザードマンは金を払うと調理されたソリーアの瓶詰めを手に店を後にした。

 「漁師のフンダーさんです、私達のパン屋にもよく買いにきてくれるんですよ」マデリーンから説明された、兄とこの奥さんはすっかりこの街に溶け込んでいるようね。

 

 「お待たせしました、ボンゴレスパゲッティーです」パスタか。私の好物だわ。ソリーアもふんだんに使われていて微かに海の香りがする。ルシコンが丸のまま混ぜられていて色合いも綺麗。

 

 「あなた、パンの新作は思い付いたの?」食事中、妻に問われたバズは

 「マスターに教わったよ。揚げたのを挟んだりラクに浸して焼き直したりレシピは色々あるってさ」ナタリーンは最早貴族でも傭兵でもない兄を見つめて残念さと安心感が入り交じった複雑な気分だった。

 

 翌早朝、今日の仕込みをしようと作業場に現れたバズは信じられない光景を見た。ナタリーンがマデリーンに指示されながらパン生地を練っていたのだ。

 「兄上、イヤお兄様…」

 「まだ貴族っぽさが抜けてないわ『お兄ちゃん』でしょ?」

 「ハ、ハイ。お兄ち…ち、ち、とにかく今日から私もここで働きます!宜しくお願いします」ナタリーンの貴族脱却の第一歩が踏み出された。

 

 

 




パスタ好きなのにパン屋で働くって…まあだからこそって気もしますが

・ソリーア→あさり

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