異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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第5話奴隷少女と敏腕執事

 越後屋が転移した異世界は当然ながら日本とは法律が違う。その1つが奴隷制度の存在である。

 定休日になると大輔は表口から異世界の街に繰り出して情報収集に勤しむ、食に対する市場調査が目的だ。市民の好みを知って店の味に生かそうと考えていた。

 反対側から妙な男が歩いてくる。手にしているリードの先には1人の少女が繋がれていた。あちこちすりきれた服を着て髪はぼろぼろ、暴力によるものか手足は所々青く変色している、時折リードを強く引っ張られて苦しそうだ。大輔は以前それとなく聞いた奴隷制度の事を思い出した、確か奴隷になるのは犯罪者だけと聞く、あんな幼い少女が罪人とは思えないし現代日本人としては許しがたい気もするが、まあ地球でも未だに残ってる国もあるし、政治の事は素人で、まして異世界人である自分が考えても仕方ない。只あの手の客には店に来て欲しくないと思った。

 大輔の願いは叶わなかった、件の男が常連の獣人と来店したのだ。とはいえ客である以上無下にはできない、注文を取りに男の席へ向かおうとした時だった。ある紳士が店に訪れた。こちらも常連の1人である、彼は大輔にこんな事を告げる。

 「マスター、入口でリードに繋がれている少女は一体だれでしょうな」大輔より先に男が答える。

 「あの娘は俺の奴隷だ、なにか問題があるかね?」

 「大ありですな、この国で奴隷制度は重罪人に対する刑罰としてのみ採用されてます、条件の厳しい公共事業等に労働力として使われるのが常、個人が所有することはあってはならぬことです、ましてやそれが幼い少女とあらば尚更の事」男から冷や汗が流れる、周りからも不穏な視線を受ける

 「お、俺は外国人だ、この国の法律なんぞ関係無い、私の国では奴隷を持つことは当然の権利だ!」(大輔は知らないが)そんな国は少なくともこの大陸内に存在しない、男は完全にうろたえていて喋る言葉も支離滅裂だ。

 「では、不法入国も付いてきますな、正規の手続きをしていれば奴隷連れでは入国できないはずですぞ」逃げようとする男を紳士が取り押さえ、常連達が表口をかためる。

 「チキショー、貴様何者だ?!」

 「申し遅れました、ワタクシこの街の領主、コルトン様の執事でゴッシュと申します」

 ゴッシュは男を引き渡しに衛兵隊の駐屯所へむかう、大輔は経過を知りたいので閉店後でも来て欲しいと伝え表口に繋がれた少女のリードを外し、とりあえず店の二階にある住居スペースで休ませる。閉店時間になり他の客が帰った頃ゴッシュが戻ってきた、夕食を食べ損ねた彼は大輔にいつも注文するミートローフとワインを頼む。ゴッシュは食事をしながらその後の出来事をかいつまんで大輔に語った。奴の国でも奴隷の個人所有は違法で男は少女が見つからないよう監禁、暴力を与え続けていたが流石にバレそうになったので別大陸の奴隷所有が認められる地域まで逃げる途中だったらしい。この後コルトン公爵の判断で求刑が決まるが死刑または自身が奴隷落ちは確実との事。

 「詰めが甘いというか、世間をナメてるというか、それであの娘はどうなるんですか?」

 「今日のところはコルトン家の使用人部屋に泊めようかと、領主様の許可もいただいております、明日からは自分の力で生きるしかありませんが」その日ゴッシュに連れられて少女は店を後にした。




 今回食べ物描写はありません、
(|||´д`|||)

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