異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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従業員3人の過去を明かします。連続にするかは不明です。
履歴書なので食べ物描写はありません


外伝その1私の履歴書 ラティファ編

 生まれた時から私の人生は碌なモノじゃなかった、両親は5歳の頃他界した、それから親戚をたらい回しにされたが何処も貧しさ故私に構う余裕はない。その後奴隷商人に買い取られ固いパンと腐りかけの野菜といった僅かな食事の代償に子供には辛い労働を強いられる。更に別の男に売り飛ばされ何か面白くない事があるとその都度腹いせに殴る、蹴るといった暴力を振るわれた。

 ある日その男が自分の屋敷から逃げる仕度を始めた。5年くらい前から奴隷制度が変わり私と同じ環境に置かれた人達が次々と解放されていると聞く、ほんの少し希望が見えた気がしたが首輪に繋がれた紐で引っ張られる。

 「この大陸さえ出れば奴隷所有が認められる地域があるはずだ、道中は適当に誤魔化せばいい。お前を苛める楽しみを法律なんかに奪われてたまるか」やっぱり私はついてない。

 男に連れられてラターナ王国のエドウィンの街という場所に来た、行く先々で好奇の目に晒される。夕方宿屋に着くと男は当然のように私を外の厩に放り出す、その時私の中で何かが弾けた。涙が止めどなく溢れ大声をあげて哭く、すると宿屋の船着き場から水鳥みたいな顔に亀の甲羅を背負った奇妙な亜人が表れた。

 「お嬢さん、奴隷の身ですかい?辛抱も今夜まででさぁ、あの野郎はアッシがエチゴヤに誘導しやすから。ナーニ、そしたら野郎は一貫の終わりですよ」エチゴヤって何?それより私が助かる?そんなの信じられない、でも目の前の相手が嘘をついてるとは思えない。

 その夜、飲食店の外に犬みたいに繋がれていたらあいつが衛兵隊の人達に逮捕されどこかへ連れられていった、直後に店主さんが私の首輪を外して店の中へ入れてくれた。真っ白で織り目のない布と色の綺麗な石桶にお湯を入れてきたのを私の前に差し出すと靴も履いてない汚れた足を洗って奥にある自室で寛ぐように言われる。石桶は驚くほど軽かった。

 「ホントは昼間見かけた時すぐに助けてあげたかったけど、この辺りの法は良く分からないから下手に口出しできなくて。ゴメンね」

 部屋内は不思議な空間だった、草で作られた床があり端には使い方すら想像できない黒くて水晶玉を四角くしたような魔道具、その下には沢山の突起が彫られた素材も分からない板、天井のランプは輪っかの形をしている、中央に布団を被せた低いテーブルがあり周りにはクッションが置かれている。座って足を伸ばすと何の魔法か中は暖かい。暫く休んでいるとお風呂が沸いたので入るように言われる、流石にお世話になりすぎだと思い断ろうとしたが女の子は清潔にしていなきゃダメだと諌められてしまい、お言葉に甘える事にした。

 お風呂からでて店主さんの清潔な服を借りて(この服は後にもらった)着替えるとお店は片付いていて1人の紳士が店主さんと何か話していた、この人のおかげであの男は衛兵隊に連行されたそうだ、今夜の寝床もこの紳士が用意してくれたという。彼はこの街の領主様に仕える執事さんだった。道すがら執事のゴッシュさんは私にあそこの常連さん達があの男の逮捕に協力してくれた事や宿の亜人さんは貴族様や衛兵さんもあのお店に通っているのを知ってて捕まるようにわざと誘いだしてくれた事、店主さんが何の縁もない私を気にかけてくれていた事を話してくれた、

 「それでマスターとも先程お話ししましたがあの店、エチゴヤでは給仕を募ってましてな。貴女さえよければ明日からでも働いて欲しいそうです、食事付で朝から夕食時まで、給金は1月10ラム出すそうですが如何なさいますかな?」思わずその場で惚けてしまった、何?その厚待遇!嘘みたい!いや絶対嘘!私がそんなついてるはずがない。

 翌日ゴッシュさんに連れられてエチゴヤにきた、中には店主さんの他に綺麗なお姉さんが2人いて互いに自己紹介を済ませると店主さんもといマスターから店の掃除をいいつかる。3人で魔道具やテーブル、床と天井を掃除してるとお昼近くにマスターが荷物を沢山持って裏口から帰ってきた、今日のお昼ご飯の材料と私たちの仕事着を買ってきたそうだ、真っ白なシャツと頑丈な黒いズボンを渡されて着替えるように言われた。マスターはその間食事の仕度をするといって厨房の魔道具を操作しだした。この時私はマスターが外国人ならぬ異世界人だと知らされて腰を抜かしそうになった。

 その日のお昼ご飯は今まで見た事ないご馳走だった。これを有り合わせと言うマスターには驚いた、パンを一口かじるとまた涙がでてきた。この瞬間私は救われたんだと自覚した。お姉さん達は慰めてくれてマスターはパンを1枚オマケしてくれた。

 夕方になりマスターから私達に袋が配られた、中にはアル硬貨が7枚も入っていた。

 「じゃ明日から店の営業だからよろしく、今日はお疲れ様」帰る時間だけど私には家がない、するとお姉さん2人から一緒に来るように言われついていくと金物屋さんの前にきた。

 「今日からここがアンタのうちだよ」2人のお母さんだろうおばさんが手招きする。やっと人間らしい生き方ができる、またしても泣いてしまいおばさんを困らせてしまった。

 長々と語りましたがこれが私、ラティファがエチゴヤで働く事になった経緯です。

 

 

 

 

 




 今度従業員の過去を書く時はマティス編になるでしょう

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