ドレミースイートの夢日記   作:BNKN

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9 夢中のホーセズネック

 

 

 

 

 

 

 最近、体が重だるい。

 私にとっては有限でない時間の中でいくら休んでも休んだ気にならないのだ。

 

「はぁ…」

 

 他人の何倍という時間を持った今日が始まってもう何度目のため息になるだろう。折角の時間も滔々と流れていき、無味乾燥とした気だるさだけが体に積もっていく感覚が煩わしくてかなわない。

 

「咲夜さん?」

 

 美鈴の頓狂な声に我に返ると、私より高い背を横に曲げて私の顔を覗き込む赤髪が目に入った。いつの間にか止まった時間が戻っていたらしい。少し前ならこんなこともなかったのだけれど。

 

「…いや、何でもないわ」

「何でも無いって…顔色が酷いですよ」

 

 まだ頭もぼーっとするし、もしかしたら風邪でも貰ったのかもしれない。紅魔館には私以外の人間はいないので、体調を崩すのも私だけである。その私も普段は止まった時の中で療養を重ねるので実質ここでは誰も体調崩さないみたいなものだが、今回ばかりは調子が戻らない。

 

「呼吸も荒いですし、今日は休んだ方がいいのでは?」

「…そう、そうね。そうするわ」

 

 でもまぁ、いざとなればパチュリー様に診てもらえばいいだろう。

 

 

 

 〇

 

 咲夜が倒れてからもう一月。未だに私の従者は目を覚まさない。時折苦しそうに魘されるだけで私と言葉を交わすことは無い。

 

「咲夜、主人を待たせるなんて従者失格よ」

 

 私だけのメイドは私を置いて夢の中。指揮者を失ったメイド妖精が館をふよふよと漂っているのを今日も目にした。咲夜の広げたこの館、その広がった大きさの分だけ、掃除されていない部屋の分だけ空しさが心を打つ。

 思えば咲夜が私たちと暮らすようになってから随分と咲夜を頼りすぎていたのかもしれない。咲夜の時に干渉する能力に頼り、咲夜もそれを良しとしていたからこそ、咲夜に蓄積されていく負担に気付けなかったのかもしれない。咲夜が優秀すぎるがゆえに気付けなかったのかもしれない。

 これでは主人失格だ。

 

「……ん」

 

 私がゆっくりと髪を梳いても咲夜は苦しそうに顔を背けるばかり。パチュリーが診ても原因は分からず、出張診断でやって来た永遠亭のウサギはろくに診断もしないで、なんたらかんたら眠猫とかいう胡散臭い置物を勧めるばかりで使えなかった。訳の分からない説明を自信満々の顔で続けていたウサギの耳を引っ掴んで薬師を出せと優しくお願いしてやっと本命の到着であった。

 

『突然意識を失った?』

 

 女の名は八意永琳。迷いの竹林の奥に構える永遠亭の薬師である。なんでも月の頭脳と呼ばれる程に頭が切れるらしく、作れない薬はないんだとか。

 

『そうなの。倒れてから全く目を覚まさないわ』

『…少し診ましょうか』

 

 そんな八意永琳の評判を聞いていたものだから診断後の彼女の発言には酷く失望した。

 

『原因不明ね。全く分からないわ』

『師匠! 私が思うにですね、咲夜さんは私が開発したこのウルトラソナーテック眠猫』

『点滴だけこちらから出しておくから様子見ね』

『し、師匠! ウルトラソナー…』

『何か変化があったら連絡してちょうだい』

 

 などという一幕があり、現在に至る。未だに咲夜は目を覚まさない。夢の世界にばかり行くような部下は一人で充分なのだけれど。

 

「早く帰ってきなさい。皆待ってるわ」

 

 

 

 〇

 

「咲夜?」

「っ!」

 

 最近、本格的に能力の制御が効かなくなってきている。時を止めたと思っても気付いたら今のように解除されていたり、ふと気付いたら能力が暴発している時もある。しかもこれが厄介で、中々元の世界に戻せないのだ。勝手に戻るのを待つしか方法がないというのが恐ろしい。

 

「調子でも悪いの?」

「…いえ、その…何でもありません」

 

 こぼしてしまった紅茶を拭き取りながら歯切れ悪く返す。この症状は相談して良くなる類のものでは無い気がする。それに、余計なことでお嬢様の心を荒立たせたくはない。

 

「私のパーフェクトなメイドがぼーっとして、紅茶をこぼすなんて真似するかしら」

「申し訳ありません」

 

 私はお嬢様の為に完璧でなくてはならない。完全を求めるお嬢様の完璧な従者にならなくてはならない。時をも恐れぬメイドでなくてはならないのだ。

 それなのにこのざまでは笑えない。

 

「怒ってるんじゃないわ。心配してるの」

「…すいません」

「珍しく話が通じないわね。どうしたのかを聞いてるのよ。何か隠してるでしょ?」

 

 クルクルと自身の髪を弄びながら私を覗き込む吸血鬼の紅い瞳。決して魅了の類が発動している訳ではないけれど、私はその瞳に吸い込まれるようにして気付いたら口を開いていた。

 

「能力がおかしいねぇ…」

 

 深く頷いて小さな顎を擦るお嬢様。完璧でなくなった私をお嬢様はどう思われるのだろうか。私の存在意義はどうなるのだろうか。

 

「そうね、取り敢えず咲夜は能力使うのは禁止よ」

「え?」

「暴発するような力は力と呼ばないわ。咲夜の場合、元の能力が能力だからその分危険よ。一旦、治まるまでは能力の使用を禁止するわ」

「それでは私…」

 

 私など要らぬのではないか。お嬢様に必要なのは時をも征するメイドである。能力の使えぬ私にどれだけの価値があることだろう。

 

「心配しなくてもいいわ。私の目には運命が映っているもの」

 

 その運命(みらい)には私はいるのだろうか。

 

 

 

 〇

 

「どうもこんばんは」

 

 火照った太陽が地上を熱し、水が去っていく幻覚すら見える様な暑い夏。せっかく太陽が形を潜めて落ち着いたかという期待を切り捨てて蒸し蒸しとした空気が喉にこびりつく。

 紅魔館の荘厳な門に背を預けている赤髪の門番、紅美鈴は人の時間では非常識な深夜、吸血鬼の時間なら常識な時間に訪ねてきた女に探る様な目を向けた。普段から紅魔館を訪ねてくるのは顔見知り、或いは迷い込んだ外来人に限られる。それも殆ど昼間である。今夜の様に、どう見ても妖怪の女が深夜に訪れることなど滅多にないのだ。

 

「何用でしょうか」

「御見舞をしたいと思いまして」

 

 突然の来訪者は当然の様な顔で門を潜り、かような不審者の侵入を防ぐのが仕事であるはずの美鈴もまた当然のように彼女を通した。

 

「お宅のメイドが悪夢をさ迷っているようなので助太刀に参った次第です」

 

 黒表紙の本を脇に抱えたドレミーは夜の闇より深く、暗い紅魔館に染み込んでいくように姿を消した。

 

 

 

 〇

 

 お嬢様の命令で能力を使うことをやめてしばらく。私は次第に治まっていく能力の暴走に胸を撫で下ろしていた。

 

「調子はどう?」

「問題ありませんわ、お嬢様」

 

 そう、と頷くお嬢様。こうして気にかけてもらえていることはありがたいことだが、私は依然として喉奥に引っかかる陰りを無視することが出来ない。

 ここにいる住人はメイド妖精やホフゴブリンを除いて皆唯一性がある。

 

 だが、今の私には何も無い。

 

 一日中、門前に立つ体力も無ければ、数え切れぬ程の書物の知識を有する脳もない。何でも壊す能力も、運命を見通す能力もないのだ。今の私の代わりなんていくらでもいるのだ。その事にお嬢様が気付いた時が恐ろしい。お優しいお嬢様の事だから興味を失せたことを私に悟らせぬ様にするだろう。だが、分かるのだ。仕える主人が何に興味を示し、何に無関心になるのかすら分からずして何がメイドか。

 

「あれから異常もない?」

「徐々に無くなってきましたわ」

「それならよかった」

 

 いつまでこんな日々が続くのであろうか。暴走の原因が分からない以上、いつからなら以前の生活に戻っていいのかも分からない。それならよかった、と一概に安堵しても良いのだろうか。

 

「何か思うところがあるみたいね。言ってみなさい」

「…いつになったら私は」

 

 これを伝えるのは危険だと踏み止まるのも遅すぎた。

 

「いつ…そうね。原因が分からない以上、ずっとかしら? いや、でもそうなると…」

 

 一人でブツブツと考え始めるお嬢様。これでは私が要らぬ存在だと伝えたようなものではないか。自殺も同然ではないか。

 

「ねえ、咲夜」

 

 いつの間にか静まり返った紅魔館テラス。先程まで聞こえていたはずの夏虫たちのさざめきは夜の闇に吸い込まれてしまった。ゴクリと飲み込んだはずの生唾の音すらも。

 

「私には貴方はいらないみたいだわ」

 

 無意識のうちに止めた私の世界。

 私が時間を止めたのはこれが最後となった。

 

 

 

 〇

 

「咲夜はどうなの? 貴方なら助けられるというの?」

 

 魘される咲夜の傍らに立ち、眉を潜める獏が一匹。向かいの吸血鬼からの懇願にも聞こえる質問に返す言葉は中々出てこなかった。

 

「…これは厄介ですね」

「何が厄介なのよ」

「全てが厄介です。解決には時間が必要ですかね」

 

 咲夜の額に手を乗せて、考え込むように目を瞑るドレミー。それでも時間をかければ咲夜を目覚めさせられるかもしれないと聞いたレミリアは思わずドレミーの肩を揺すった。

 

「それなら四の五の言わずさっさと治しなさい!」

 

 あーれー、と目を回すドレミー。

 

「…この(くだり)も何回目でしょうかね」

 

 ボソリと呟かれた彼女の言葉は誰にも届かず消えていった。ブルブルと頭を振ったドレミーはもう一度、目覚めぬメイドの額に手を当てた。

 

「それでは行ってきます」

 

 そう言い残してドレミーは咲夜の夢の中へ落ちていった。

 

 

 

 と、言うのがついさっきの私。現在私は紅魔館門前に降りてきたところである。

 

「何用ですか?」

 

 門前にて私を訝しむ、凛々しい瞳を見せつけてくれるのは紅美鈴さん。実は普段ならば顔見知りであるのだが、生憎ながらここは咲夜さんの夢なので美鈴さんとは初対面ということになる。

 

「御見舞をしに参りました」

 

 もはや何度目になるか分からない言葉。いい加減私も疲れてきた。

 

「失礼しまーす」

 

 門を潜って館に入るとすぐに先程の場面に移る。これだけ末端の作りが雑なのは咲夜さんの意識がそれだけ悪夢に向いているということなのだろう。

 

「咲夜はどうなの? 貴方なら助けられるというの?」

 

 食い気味で訪ねてくるレミリアさん。自己紹介もまだの相手にいきなりこれである。さすがは夢というかなんというか、お粗末過ぎるシナリオにドレちゃんも少し滅入ってきた。

 

「疲れました」

「それなら四の五の言わずに治しなさい!」

 

 もはや会話が成り立っていなくてもお構い無しである。咲夜さんによってプログラムされたレミリアさんはその力のままに私を強く揺する。毎回毎回、鬼の力で揺さぶられ、その度に脳味噌が飛び出そうになるからやめてもらいたいのだが、残念ながらプログラミング・レミリア氏にそれを言ってもどうしようもないのはここまでの調査で分かった。悪夢の大本を叩かない限りこの夢は覚めないだろう。

 

「それでは行ってきます」

 

 何十回目の悪夢へのダイブである。

 

 

 

 〇

 

 咄嗟に止めた世界。

 私だけの世界。

 私を見据えていたはずのお嬢様の視線の先から消えた私は一人、部屋に戻った。お前なんか必要ない、そう言われてしまった私はどうすればいい。非力な私は何をすればいい。部屋にうずくまって考えて考えて考え込んでも良い答えは見つからない。

 

「いや、待って」

 

 そうだ。私が要らぬと言われたのは私が能力を使えぬ様になったからだ。今後も一切使えぬかもしれないという可能性が出てきたからだ。だが、今はどうだ。

 殆ど無意識の反射ではあったが、こうして私は時を止め、今もそれを維持しているではないか。

 理由は分からないが、何故かあの症状を克服したのだ。この力があるなら私はこれまで通り、紅魔館の家族でいられる。あの力さえあれば私は私でいられる。

 時を戻したら直ぐにお嬢様に報告しよう。「もう大丈夫です」と、そう笑顔で報告するんだ。きっとお嬢様も笑顔で受け入れてくれる筈なのだ。私が無能でない限り。

 

 そんな風に、そんな風に思って駆け出した私は酷く愚かだった。

 

 

「どうしてっ!?」

 

 怒りに叩いた机の上に乗ったグラスは中身を揺らすこともなく静かなまま。この世界で生きているのは私だけなのだ。あらゆる物が死んだ世界では生者が何をしてもあちらは変わらない。

 

 結論から言ってしまえば、私はやはり駄目だった。脇目も振らずにお嬢様の前に立った私は意気揚々と止まった時計の針を動かそうとした。しかし、いくらゼンマイを巻いても時計は動き出さず、凍りついた館の主は冷たい視線のまま私を見下すに終わったのだ。

 立ち尽くした私は静かに悟る。きっとこれは代償なのかもしれない。時を意のままにするという人の身に余る能力を私利私欲の為に振り翳してきた。世界に、時間軸に干渉するとは神にも叶わぬ所業である。神のいたずらで神を超える力を手に入れた私は、神の気まぐれで神のいない世界で殺されるのだ。何もいない世界で暮らすことが私に課せられた罰なのかもしれない。

 それを受けなければならぬのかもしれない。

 

 でも、それでも。お嬢様の、紅魔館(ここ)の無い世界に私が生きる意味は無い。私だけが生き残った世界に何の価値もないのだ。

 

 だから私は今自らの喉元に自らのナイフを添えているのだ。

 

「叶うなら貴方に殺されたかった」

 

 私の最後のワガママも聞いてくれる主人ももう私にはいないのだから。

 

 

 

「させませんよ」

 

 

 

 死にゆく私を止めたのは動かぬ世界でゼーゼーと大きく肩で息をしている一匹の妖怪だった。

 

 

 

 〇

 

「ギリギリセーフですね」

 

 マトリョーシカみたく十重二十重(とえはたえ)の夢の葛を開け続けてようやくたどり着いた深層。冷えきった世界で私が掴んだ咲夜さんの銀ナイフに生きた血が滴る。夢なのだから食えばいいじゃないか、そう言われるかも知れないが、咄嗟に口よりも手が出るのは人型ゆえ致し方ない。なにはともあれ、咲夜さんの自刃は防げただけで良しとしよう。あまり、自殺して目覚めるなど気分の良いものではありませんから。

 

「……誰?」

 

 力無く尋ねる咲夜さん。放心状態に近いが、会話をする意思があるのは大変宜しい。今回、ドレちゃんは余りふざけないでおくとしよう。

 

「ドレミー・スイートと申します。貴方の悪夢を頂きに参りました」

「ドレミー・スイート…。悪夢…?」

 

 虚ろな瞳のまま首を傾げる咲夜さん。兎に角、ナイフから処理。

 

「色々と説明は必要でしょうが、取り敢えず失礼」

 

 強引にナイフをひったくり、口の中に投げ入れる。結構面倒な悪夢だったので味は良いだろうと踏んでいたが、私の血が付いているせいで凄く生臭いのが残念だ。

 

「とと、こんな風にここは貴方の夢でありますので獏である私は食べてしまうことが出来るのです」

「夢、夢?」

「ええ、夢。それもかなり厄介な悪夢でした」

 

 何が厄介って、咲夜さんときたら悪夢の中で悪夢を見て、その中で悪夢を見て、そのまた更に…てな具合である。潜るだけでも一苦労であった。ここから遡って遡ってその最後には咲夜さんが起きず、レミリアさんが悲しんでいるということを悪夢としているのは咲夜さんがどれだけレミリアさんを大切に思っているか分かる。

 

「……」

 

 咲夜さんは思いつめた様に動かない。夢であるとしても、現実に起こり得る可能性の一つを危惧しているのかもしれない。自分が能力を使えなくなったら捨てられてしまうのではないかという不安が彼女を押しつぶしたのだ。

 

「誠に勝手ながら、部外者の身分では御座いますが、一つだけ宜しいですか?」

 

 実は咲夜さんにお会いするのは今回が初。だが、彼女のことは前々からよく知っていた。というのもレミリアさんを初めとした紅魔館の皆様の夢に良く出てくるのだ。それも恨みとか嫌悪とかそういったものではなく、親愛と愛情の現れで。

 

「咲夜さんはもしかしたら不安に思っておられるのかも知れません。自分は優秀すぎる能力の為だけに周りから認められているのだと。周りから愛されているのだと」

 

 そんな不安を否と否定できるのは私か、ここの皆さんだけだ。夢を垣間見る、夢を渡る存在として私の手の届く範囲の一切無用な負の感情は取り払ってくれよう。但し夢世界に限るわけだが。

 

「それは大間違いです。夢という、ある意味でその生き物の本音に近い部分に直接触れる私だからこそ言いきれます。貴方は能力ではなく、十六夜咲夜という一人の人間を好かれているのです。そこに何かしらの疑念を挟む方が周囲に失礼です」

 

 バキバキと音を立て始める咲夜さんの悪夢。空が割れ始めた所を見るに目覚めが近いのだ。こんな胡散臭いドレちゃんに何を言われても信じられぬだろうが、一つくらい意味のある物を残しておきたい所である。

 

「ここも終わりみたいですね。余り長くはいられなさそうなので手短に。私のことはきっと信用も信頼も出来ないでしょう。なんせ私は何処ぞの隙間から現れる妖怪の賢者様と似ていると言われたことがあるくらいですから。

 なので信頼なんてしなくても構いませんが一つだけ、夢から覚めた時にこの会話を覚えていたのならば、目を開けた時に広がる光景の意味を考えて下さい。貴方がここの皆様にとって如何なる存在なのか、聞くまでもないと思いますから」

 

 

 

 〇

 

「咲夜!」

「…お嬢様?」

 

 目覚めたメイド。その枕元で不安そうに瞳を震わせる、幼き主が一人。

 

「お嬢様…どうか…しましたか?」

「咲夜が凄いうなされてるって、妖精が言ってたから。急いで来てみたら本当に苦しそうにしていたからどうしたらいいのか分からなくてっ…」

 

 500年という年月を生きた妖怪にあるまじきいじらしさを見せる紅き城主にメイドは安堵混じりのため息をこぼし、静かに目を閉じた。

 

「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」

「本当に? 咲夜がして欲しいなら獏とか枕返しとか手当り次第にぶち殺して来るわよ?」

 

 あいつら悪夢を見せて楽しんでるんでしょ? と真剣に考えるレミリアに咲夜は一瞬だけ呆気に取られ、そして静かに笑った。

 

「…ふふ。それは可哀想なのでやめて上げて下さい。でも、そうですね。一つだけお願いがあります」

「何? なんでも言いなさい。私が出来ることなら何でもしてあげるわ!」

 

 一転、小さな胸を自信満々に膨らませるレミリア。咲夜は照れくさそうに頬を赤らめながら望みを口にした。

 

「抱きしめて、一杯撫でてください」

「え? そんな事でいいの?」

 

 それならお易い御用よ! と言って、すぐに咲夜を胸いっぱいに抱きしめる。咲夜はレミリアの幼さを象徴するような甘い香りを、くすぐったそうに吸い込んで柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「これだわ!! ドレミー様ーっ!!」

 

 どこかからそんな声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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