ドレミースイートの夢日記   作:BNKN

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1 感情の摩天楼

 

 夢とは何か。

 我々人間が睡眠中に見る、あたかも現実であるかのような像。或いは場面の流れ。これは夢の説明には違いないが、表層的な部分をすくい取っているに過ぎない。夢という一見身近なものが何を示唆しているのか。良く言われる様に、単なる記憶の整理なのか。深層心理を顕にしているのか。我々はその正体すら把握しきれていないのだ。

 

 夢という言葉に対し、幻想的なイメージを持っている人は少なくない。それは夢が古くから我々の生活のスピリチュアルな部分と密接に関わってきた事を裏打ちしていると言えるだろう。遡るところまで遡れば日本では夢を神の啓示だと考えていた時代もあった。今で言うところの予知夢などを己が能力ではなく、見えざる神の力によるものだと見なした結果である。睡眠中に魂が抜け出したなんて説も本気で広まっていた。

 

 あらゆる科学が発達し、宗教という言葉に反射的に負のイメージを抱く人の多くなった現代日本においても未だ夢分野は解明されていない部分が多いため、上記のような説がまるっきり間違っていることの証明をして見せろと言われてもしかねるが、一般的には魂だの神の啓示だのは世迷言だと切り捨てられる風潮にある。フロイトやユング、エーリヒが唱える夢とは何か? という疑問に対する説にすがるわけではないが、境、もっと言えば定義が曖昧な存在は往々にして不安定で不確定である。やはり何かしらの確たる物で測られなければその存在は酷く危ういものとなるのだ。

 

「今日の夢は如何でしょうか」

 

 さて、ここに珍妙な出で立ちの女性がいる。白と黒のツートンカラーのフワフワゆったりとした格好は例えるなら中南米の民族衣装であるポンチョ。着ていると言うよりも上から羽織っているという表現が正しそうな雰囲気すらある。そんな彼女の足元には細長い尻尾が機嫌よさげに左右に振れている。サンタクロースを思い出す様な真っ赤な帽子の先を弄び、もう片方の手にはどうやって読むのかと聞きたくなるほど大きな本が握られている。黒表紙に上等そうな金字でDと彫られているそれを脇に挟む彼女こそ、我々の知り得ない夢を定義し、夢に生き、管理する存在なのだ。外界との繋がりを明確に分つ博麗大結界の内部にいながらその活動範囲は幻想郷内に留まらず、外部に行くことも容易い。以前、幻想郷において月の異変、地上浄化の件の時には博麗霊夢や霧雨魔理沙が夢を経由して月へたどり着いた。夢の境が曖昧であるが故にそれを分かつことが出来ないのだ。月にも繋がり、外界にも触れ、幻想郷を覗き見る。それこそユングの集合的無意識の話ではないが、統括的で広義的な存在と判断せざるを得ない。

 

「どれがいいですかねぇ」

 

 彼女は品定めするように指を惑わす。虚空に浮いた幾つもの小窓に近付き、中身を見ては視線を移す。彼女も妖怪には違いないので、その見た目からは一体どれほどの月日を生きてきたのかは分からない。分からないけれど、今の彼女はウィンドウショッピングを楽しむ一人の少女にしか見えない。

 

「ん? おや彼女は…」

 

 今宵、そんな彼女、ドレミー・スイートのお眼鏡に叶ったのは一体誰か。そして何の夢か。どんな夢か。

 

 それは覗いて見てからのお楽しみ。

 

 

 

「お邪魔しましょうか」

 

 

 

 

 

 〇

 

 目覚めて気付いたのはその静けさだった。

 正確に言うなら静けさに身を起こした。いつもならば聞こえてくる響子さんの元気のいい挨拶が聞こえないのだ。以前にも一度あったが、その時は鬼である伊吹萃香さんによる木枯らしごっこが原因であった。新人のくせに挨拶がないなんて随分生意気じゃないか、というのが彼女の言い分であった。ともあれ、そんな理不尽な襲撃を一度経験していれば、こうしてまた声が聞こえてこないと言うだけで不安を覚えるものだ。

 私は寝癖に跳ね返る髪の毛を撫で付けながら床を発った。

 

 

「響子さん?」

 

 寺を出て、門前にいるであろう響子さんに呼びかけるも返答はない。彼女がいつも握っている竹箒は門に立て掛けられた状態で置きっぱなしになっていた。

 

「?」

 

 首をかしげつつ、いつでも元気いっぱいな彼女でも寝坊くらいするかと一人で納得して寺の中へと戻る。ギシギシと音を立てて軋む床板に得体の知れない不安感を覚えながら歩いた。

 

 

 

 普段なら皆さんが起き出す時間になっても寺は静かなままだった。朝餉の香りに釣られて身を引きずって来るぬえや水蜜、私以上に爆発した髪をかきあげて欠伸しながら起き出す一輪、唐突に現れるマミゾウさんに瞼が殆ど落ちたままの星。ひもじい思いをして半泣きの小傘さんに、毎朝のように放火にやってくる布都さん。誰も来なかった。困るくらいに喧しい筈の食卓に座るのは私だけだった。

 

 流石に妙だと思い、失礼を承知でそれぞれの部屋を覗かせてもらった。布団はあったが、その持ち主たちの見る影はどこにもなかった。今日に何か朝から予定があっただろうかと焦り、急いで確認するも特に何も書かれていない。沸き立つ気持ちを抑えつつ、皆を探すために私は書置きだけ残して寺を出た。

 

 私は歩いて人里へ向かった。強くなり始めた陽射しが暑く、笠の下だと言うのに汗が止まらなかった。額にへばりつく前髪をはらいながら私は昨日の夜を思い出そうとした。そこに何か今の事態の兆候があると思ったのだ。

 

「はっ」

 

 私は思わず眩暈がした。

 

 何も思い出せなかったのだ。寝る前に何をしたかを思い出せない事はたまにある。前日の夜に何を食べたが不意に出なくなる事も無いといわけではない。だがしかし、今この時、この瞬間だけは前日を思い出せなかった。いや、正しく言うならば今日起きた時から以前の記憶がなかった。なんと言うか普段何をしていたか日常的な光景は漠然と分かるのだが、正確な情景が全く思い出せないのだ。ショックと暑さにやられて私は木の幹に手をついた。木陰に入って休みたかったのもあったかもしれない。地面に落ちる落ちる汗を眺めて呼吸を整えていると手の甲に違和感を覚えて視線を移す。

 

「ひっ」

 

 目をやってすぐに後悔した。私の手に大量の虫がはっていたのだ。しかもその虫たちは何やらぼそぼそと喋りかけてきた。気持ち悪くて仕方なかった私は寒気のままに思い切り手を振りきって逃げ出した。木の幹が折れた音がしたが構うものか。

 

 

 

「はぁっはぁっ」

 

 漸く人里の門が見えて少し安心する。震える手を胸に抱いて私は小走りに門前に立った。滴る汗を手で拭い、呼吸を整えてから門の内へ歩を進めた。

 

「……っへ?」

 

 その異常性に気付いたのは人里に入ってすぐ。

 

 誰もいなかった。

 

 お昼時、賑わいを見せているはずの食事処には客どころか店員すらいない。必ずと言っていいほど走り回っている子供たちはおらず、 乾いた風が虚しく音を鳴らす。ガヤガヤと耳を覆いたくなる程喧しい大通りには木の葉が数枚飛び跳ねるだけだった。

 

「誰か…誰かいるでしょう!」

 

 こういう時には一々声を出したくなる。でないと寂しいからだ。私は笠を投げ捨てて里中を走り回り、駆けずり回り人を探した。一輪が隠れて通っている酒屋、慧音さんの頭突きの音が冴え渡る寺子屋、マミゾウさんが執心している貸本屋、星お気に入りの甘味処に稗田亭。そのどこにも誰一人として姿は見せてくれなかった。

 

「そんな馬鹿なっ」

 

 私は急いで切り返し、人里を出た。向かうは博麗神社。これは異変に違いない。それも人里の人間が丸々いなくなるなんて超大規模のものだ。となれば霊夢が動かないわけもないのだ。きっと神社には、神社には霊夢がいるはず――

 

 

 

 ――だった。

 

「なんでっ!」

 

 地面を蹴散らし、階段を駆け上がり、膝を抑えながら顔を上げて見えたのは誰もいない博麗神社。私はいよいよ拳を鳥居に打ち付けた。赤い朱塗りの鳥居に大きくヒビがはいり、私の指から赤い滴が地面に落ちた。

 

 

 

 誰もいない世界。私だけが取り残されてしまったこの状況ではどうしても封印された法界を思い出してしまう。

 

 私は人と妖怪の共存を目指し、禁忌に手を染めた。妖怪であれ人であれそこに感情があり、生活があり、過去があり、未来がある。違いなんて無いのだ。だというのに当時の人々はそれを話を聞くこともなく、人と妖怪は相容れないものだと決めつけて勝手に争いに身を投じその世の中を憂いていた。妖怪とて全く同じだった。本来なら理解し合えるもの達が、その機会が無いからというだけで無意味に争う世界の空しさに私は立ち上がり、寺を開いたのだ。無為に虐げられる者達を匿い、無意味に暴れる妖怪たちを宥めた。その中で水蜜や一輪を初めとする沢山の理解者を得て、私の目指す世が少しずつ開けてきたと心を踊らせた。

 

 だが、上手く行かなかった。私の行ってきたことを誰かが早々に漏らしてしまった。そしてそれが理解されるには情報が漏れるのが早すぎた。

 

 その結果、寺は妖怪寺と言われ、私は数多の妖怪を率いて都に仇なす反逆者扱い。陰陽師の集団が徒党を組んで命蓮寺を取り囲んだその時ですら私は必死に彼らに語りかけた。妖怪と人間に何の違いがあるのかと、虐げる大義名分は何なのかと叫んだ。だがしかし、彼らに私の声は届かず、私は一人法界へ封印された。そこは何も無い世界であった。

 

 散り散りになった星星の、紫混じりの青色に。

 

 突き刺さった鉄塔が摩擦のある風に吹きさらされている。目が眩んでしまいそうなほどの明るい、血のように鮮烈な夕日を背に塗りつぶされた私の背中は酷くちっぽけな黒一点。解れた法衣の裾先に流された、病的なほどまでに白い骸骨指はウネウネと生々しく這いずり回って曲線を描いた。長く伸びた魂はグラデーションが掛かって、まるで脱皮途中で死んだ蛇のよう。時の経過を感じさせるものの一切ない、無限の地平線に佇んだ。気が狂いそうになる程静謐な空間に私は封印された。私は人のためになることをしたはずだ。妖怪のためになることをしたかった筈なのにどうして――

 

 

 

「本当に?」

 

 

 

 あの時と同じ様に周りが見えなくなりそうだったその時に聞こえてきた声は酷く聞き覚えのあるものだった。声の先にいたのはやはり見馴れた姿。この暑い夏にも関わらず羽織っているマントも、聞こえ過ぎる耳を隠すヘッドホンも、私を見るその目も全て想像通りの姿だった。

 

「貴女…」

 

 豊聡耳神子。私と同時期に眠から目覚めた仙人。聡明な頭脳と人の欲を聞き取る耳を持つ為政者である。見馴れた姿であるのに私はその場から動くことが出来なかった。駆け寄って手を握り、安堵したかった筈なのに、彼女からは発せられる剣呑な空気に飲まれてしまっていた。

 

「お前は本当に人の為に動いたのか?」

 

「…何が仰りたいんですか」

 

「そのままの意味さ。お前は本当に人の為、妖怪のために禁忌に手を染めたのか?」

 

 私の心の内を見ようとせんばかりの眼光の鋭さ。いつも通りの言葉遣いも刺がある様に思えてしまった。

 

「と、当然です…私は――」

 

「いや違う。お前が魔法に手をかけたのは世の中の為ではない。自分自身の為だ」

 

 私の言を遮った言葉。どこまでも鋭さを増す彼女に私はもう彼女以外の物が見えなくなった。

 

「何を馬鹿な。私は人と妖の平等な世を作る為に」

 

「下らない。お前は単に死ぬのが怖くなっただけ。弟が床に伏せ、老いて、死んでいくその様に恐怖しただけさ。私利私欲の為に手を出した魔法という禁忌に対する大義名分を後から作っただけなんだよ」

 

 目つきの鋭いまま、彼女は私をせせら笑った。弟の、命蓮の事など彼女に話したことはない。誰から聞いたかは知らないが余計なお世話だ。

 

「そんなこと貴女に言われる筋合いは有りません」

 

「温厚なお前でも図星をつかれると怒るか」

 

「っどうでもいいでしょう、私の事は。そんな事より今はこの異変をっ」

 

「逃げないで下さいよ。白蓮」

 

 別の声が私の後ろから聞こえてきた。その声は目の前の彼女よりもずっと身近なものだった。

 

「み、水蜜?」

 

 立っていたのは白い着物を纏う水蜜だった。その髪は水浸しで、折角の着物もびちゃびちゃで磯の香りを放っていた。

 

「水蜜、一体何処に行っていたので――」

 

「貴方は自らの目的のために私たちを利用したのですか?」

 

 また違う声。今度は一輪であった。

 

「貴方は本当に世のために、仕方なく不老を手に入れたのですか?」

 

 訳が分からなかった。

 

 さっきまで気持ち悪いほど静かだった神社の石畳。今や数え切れない程の人物たちが私を中心に立ち並んでいた。その全てが別々に私を問い詰めるのだ。

 

「何なんですかこれは!」

 

「私たちはただお前に尋ねたいだけさ。別に同時にすべてを聞けと言っているわけじゃない。一つ一つに答えていけばいつか全ての問に答えられるだろう?」

 

 人の波に消えた神子の声が頭に響いた。私はそれに頭を振る。ブツブツと聞こえる声が今の私には酷く不愉快だったのだ。

 

「う、うるさい!」

 

「おやおやおや、お前の姉は酷いことを言うものだなあ。なぁ、命蓮?」

 

「えっ」

 

 はたと顔を上げれば命蓮がいた。

 

 私のたった一人の弟。私の命蓮が…泣きながら私を見下していた。

 

 

 

「姉さん…どうしてこんな」

 

「ああっ違うの! 命蓮、待って! 私は悪くないの!」

 

 私の意思に反して口から出てくるのは情けない言い訳ばかりだった。

 

「私はっ、私はただっ」

 

「…失望したよ姉さん」

 

 そう言って遠ざかっていく命蓮を追いかけようと立ち上がった所を人の壁に阻まれ、手も届かない。

 

「待って命蓮! 私をおいていかないで!」

 

 私の叫びに答えるように小さな声が届いた。

 

 

 

「いただきます」

 

 

 

 ぶおんと風を切る様な音と共に私を取り囲んでいた全ての人影が消え去り、一人残ったのは舌舐りをする女性だけだった。

 

 

 

 〇

 

「んん、味は絶品。量も素晴らしい。やはり貴女で正解でした」

 

「っはへ?」

 

 私がこうして姿を見せた時には大体同じ様なリアクションを返されてしまう。この聖白蓮の様に目を点にして口をポカンと開けて暫くフリーズ。結構面白いが、正直見飽きた反応である。

 

「もしもし?」

 

「あっ!? んんっだ、誰ですか貴女は?」

 

 我に返って目を鋭くする聖白れ…白蓮さん。警戒心を露にするのは結構なことだが間抜けな声のおかげでこちらが笑ってしまいそうになる。

 

「紹介が遅れてしまいました。私ドレミー・スイートと申します。夢の世界でしがない獏なんぞをしております」

 

「ば、獏?」

 

「おや、獏をご存知ない? そうですね、簡単に申しますと人の夢を食べる妖怪です。基本的には悪夢を好んで食べますので人には有益な妖怪と言えるでしょう。私の事も気軽にドレちゃんとお呼びください」

 

「……」

 

「冗談です」

 

 七割方本気で言ったけれど、凄い顔されたから誤魔化しておく。因みにこの下りも毎回やって成功した試しがない。親しみやすくしようと心掛けているのだが、誰一人として心を開いてくれないのは何故であろうか。

 

「え、えと…」

 

「ええ、それで今日は貴女の悪夢を食べさせて頂きました。実に良質な悪夢で大変結構」

 

「夢…先程までのは全て夢なのですか?」

 

「ええ、夢ですよ。きっと現実世界の貴方はうなされていた事でしょう。汗もたっぷりかいてあるかも知れませんね」

 

「夢…」

 

 俯いてまたもやフリーズしてしまう白蓮さん。内容はよく分からないが、何やら深刻なムードだったのできっとそれを思い返しているのだろう。夢を食べる際に一番気になるのがこれ、人の夢を垣間見るがゆえに昨今騒がれているプライバシーも糞もない所だ。あまり踏み込みたくない様な話題も見てしまうことだってある。まぁ全部食べてしまうからどうでもいいのだけれど。

 

「私、そろそろお暇させていただきますね。今日はありがとうございました」

 

 食べた後はさっさと帰るのが一番である。私なりのジョークが通用する精神状態ならば少し話してもいいが、そうでないなら絡まれる可能性がある。私のジョークにはきっとその役割があるのだ、うん。

 

「待って下さい」

 

 そら来た。

 

「何でしょう?」

 

「先程のは…命蓮は夢だったのですか?」

 

 はて、命蓮とは…ああ、思い出した。

 

「ええ、全て夢です。弟さんも貴女のお仲間も、お友達も全て夢です」

 

「……」

 

 随分と思い詰めた顔を見せてくれる。何だか私が悪いことをした気分になってしまうではないか。

 

「先程まで貴女が体験したモノは全て夢です。貴女が心の中で不安に思ったり、後悔していること、或いは自分を見つめなおそうともがいているだけの事です。現実とは全く関係ございませんのでご安心を」

 

「後悔…」

 

「部外者である私が言うのもはばかられますが、こうして夢の中で悪夢を見る程思い悩んでいるだけ素晴らしいと思いますよ私は。世の中には何をしても後悔すらしない人々も大勢いますから」

 

 ふわっと当たり障りないことしか言えないが、アフターケアもしておかなければなるまい。私は善良な獏なのだ。それに変に病まれても私の寝覚めが悪くなってしまう。

 

「おまけに貴方の夢は私が食べてしまいました。きっと貴女が覚醒した時には何も覚えていないでしょうが、寝覚めはいいと思いますよ。寝汗で気持ち悪い以外はね」

 

「…そう、そうですか」

 

 未だ苦しそうな表情ではあるが、少し和らいだ。所詮、私に出来るのはこの程度でしょう。ほんの少しでも私に会えて良かったと思ってもらえるのなら嬉しい限りである。

 

「それでは御機嫌よう。またいずれ」

 

 

 

 〇

 

 私はただの獏だから人の悪夢を食べるだけ。自在に夢は作れるけれどそれを食べても美味しくない。なんと言うか、養殖臭くてかなわない。

 

 だからこそ、私は人が生み出すものを頂くのだ。何を食べるにしても天然物に限るというわけだ。月の都のサグメさんなんかには夢の管理者なんて思われてるけどそんな大仰なものじゃない。ただ、人よりも少しばかり夢に詳しくて、私の住処である夢を壊しかねない存在を監視するだけの本当にしがない獏である。

 

「ふわぁぁ」

 

 だからこそ私だって眠たくなるし、夢も見る。

 

 私の悪夢を食べてくれる獏がいないのが不安な所ではあるが、今のところこれまで一度だって悪夢にうなされたことは無い。きっと私は悪夢にも好かれているのだ。

 相思相愛ってやつ。

 

 

 

 さて、叶うなら今夜も快眠となるようにドレちゃんは祈っております。

 

 

 

 


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