雛ファン、並びにパルスィファンの方。
先に言っておきます、ごめんなさい。
二月編1『パルスィと雛と呪い』
二月一日
……なんか知らないけどパルスィさんが来た。あと横に見知らぬ緑髪の美人さんも。
いや、本当なんでだろう。一回会ったきりで接点無かったのに。というか緑髪の美人さんに至っては会った事も無いのに。
ちなみにパルスィさんは以前の括弧付けた話し方はやめたみたいで普通の口調だった。
でさ、私を見て開口一番にこう言ってきたの。
「大きな妬みを感じてきたわ。貴女、呪われてるわよ?」
「呪われ、えっ?」
「とても……大きな呪いです」
なんか呪われてるらしい。しかもとてつもない呪いで、後少ししたら災厄を齎すものだったとか。
……どうでも良いけど美人さん、そんなシリアスな事を話すときはグルグル回転するのやめてくれない?
「……私のアイデンティティですから」
「あっ、そう……」
そういうことらしい。とりあえずこのまま話を進めると意味不明なことが多いのでとりあえず自己紹介した。
名前は鍵山雛さんというらしい。とりあえず彼女のことを真面目に描写すると……、まず真っ先に視界に飛び込んでくる
頭部にはフリル付きの暗い赤色のリボンを結んだヘッドドレスを着けており、リボンには何やら文字が書かれていた。
服はいわゆるワンピース状で、襟は白、それ以外は赤を基調としている。袖はパフスリーブの半袖、襟は三角形で腹部にまで垂れていて、スカート部分は真ん中よりやや下あたりで色がわかれており、上部分はほぼ黒に近い赤、下部分は純色の赤だった(この部分は繋がっている)。裾には白いフリルが付いている。
またスカートの左側には「厄」の字を崩したような、エメラルドグリーン色の渦巻きのマークがクロスした赤紐で留められていた(アップリケ?)。足には、赤紐をクロスして留めた黒いブーツを履いている。左腕には、頭に付けているのと同じフリル付きの赤いリボンを巻いて片端を手首で垂らしている、とそんな感じだ。
「……呪いに話を戻すんですけど、実は私は厄を集める能力があるんです。今はちょっと……事情で厄を纏ってはいませんが、いつもは厄払いで祓われた厄を溜め込む役をしております。厄神、と言いますか。私自身はまだ妖怪の一部なんですが……そんな感じで。それで貴女からとても強い厄を感じまして」
くるりくるりと回りながら鍵山さんは言う。
ほうほう、つまり私の厄(呪い)をもっていってくれるってことかな? ただ……回るのやめて、鬱陶しい。
「……分かりましたよぉ……」
もう一度言うと彼女は仕方なく止まる。
それからこう言ってきた。
「それでですね、貴女の厄を払いたいんですけどよろしいですか?」
「うん、喜んで。むしろこっちからお願いします」
「……その間私は周りに厄が飛ばないように見ておくわ。嫉妬とか、悪意のエネルギーには詳しいから……」
そんなこんなでパルスィさんが見張る中、鍵山さんが私の呪いを解いてくれる運びとなった。
それで厄払いだけど……ね。
「じゃあ、いきますよ?」
そんな軽い声を鍵山さんが上げた。
直後だった。彼女が振るった手が
「ッ!?」
「……すごぉぃ」
私が目を見開いて鍵山さんを見ると彼女は恍惚とした表情でその艶かしい唇を動かす。
が、次の瞬間。勢いよく彼女の手が私の体が引き抜かれると同時に巨大な闇の塊が私の身体からゴボリと落ちた。
一瞬、身体に力が入らなくなって私が倒れこむとその闇が鍵山さんに集まる。
その中心で鍵山さんは妖艶な笑みを浮かべていた。
「……すごぉい、こんなに……いっぱぁい……」
闇に包まれた鍵山さんはトロン、と惚けたような顔をする。
顔全体が紅潮していて発情しているみたいだった。にゅるにゅると絡みつく厄に呑み込まれて、それを喜びのように感じているのだ。
あはァ……と彼女はひりついた喋り方で厄を身体の中に取り込んでいく。
「いっぱい…、いっぱい……入ってくるぅ…凄いよぉ……!」
低く叫んでブルリと彼女は体を震わせた。それから両手を地面に着いてへたり込む。その動きに合わせて闇は鍵山さんの体に纏わりついた。
私は動けない。体に力が入らなかった。厄が一度に抜けたことで何かしらの影響があったのかもしれない。
ただ、今思えば鍵山さんの様子を印象的に覚えている。
でもそれは最初のうちだけだった。
楽しそうに厄を取り込んでいた鍵山さんは段々と辛い顔を浮かべるようになったのだ。
「……うぅ、こんなに…こんなに……、無理ぃ……」
三十分が過ぎて一時間が過ぎた頃、鍵山さんは未だ消えることなく存在する闇の中心で、まるでマラソンの後に吐く荒い息のような喘ぎ声をあげるようになった。
「駄目なのに……駄目なのにぃ……! 厄を私が溜め込まないと他の人が不幸になるのにぃ…! わたし……わたしっ!」
「……ちょ、ちょっと。雛? 大丈夫?」
「無理っ、無理ぃ……私、これ以上はァ……」
様子がおかしいと思ったのかパルスィさんが声を掛けると雛さんはポロポロ涙を零し、ぜえぜえ息を吐いて首を必死に横に振った。
慌ててパルスィさんが鍵山さんを引っ張ろうとするけど、闇の瘴気が邪魔をする。パルスィさんごと取り込まん、という構えだ。
その瘴気にパルスィさんは「チッ」と舌打ちをしてそれでも強引に引き抜く対応をみせた。
引き出された鍵山さんは地面に寝転がったまま、はぁはぁと扇情的な息を吐く。
「……はぁ、はぁ……」
全身汗びっしょりで、服が透けていた。顔も疲れ果てたように涙でぐしゃぐしゃになっている。息をするたびにその立派な双山が上下する。
見ていてなんだか見ちゃいけないものを見てる気分になった。
「……すごいのぉ……すごく濃厚な厄が、私の中に入ってくるの……こんなのっ、こんなの知ったら……私、もう……」
「……ハァ、人間の為に厄を取り込むことを生業とするのは良いけどその喘ぎはどうにかならないの? 下手すりゃその人間に襲われるわよアンタ」
「……ひぐぅ…、無理っ、なの。頑張って声抑えようとしても……出てきちゃうっ、の……」
呆れたように対応するパルスィさんとは対照的に鍵山さんはまだ荒い息を吐いてばかりだ。観察すると目から少し色が失われていて、まだ厄を取り込む感覚から抜けていないらしい。
頰が紅潮し、目が死んでいると書くと相反しているが、まさにその通りなのだから仕方ない。
と、その時だった。
「あっ、ひゃあ!? 待って…わ、私まだ疲れ果てたばかりで……!」
まだ空中に漂っていた厄の塊。それが突如として鍵山さんを覆ったのだ。
突然の出来事に鍵山さんが悲鳴を上げる。が、それはすぐに嬌声に変わった。
「あっ、やっ……そんな強引な……んっ、だめ……っ、入らないから! そんなにしたって入らないからぁ……!」
「……落ち着きなさいよ。はぁ、もう良い加減終わらせるからね?」
が、厄の足掻きもここまでだった。
パルスィさんが巨大な釘を取り出した瞬間、場の雰囲気が一変したのだ。
具体的には彼女の死んだ瞳が碧眼に鈍く光を讃え、同時になんともいえない圧迫感を発し始めた。
近くにいた私は何とも言えない「気持ち悪さ」を感じた。何か触れてはならないものに自分が近寄っているような、そんなイメージ。
両の手にそれぞれ一本ずつ、切っ先を厄に向けて釘を構えるパルスィさんはそのまま口元を三日月型に歪め――嗤う。
『――
括弧付けた台詞だった。瞬間、彼女は手に持つ釘を乱暴にぶん投げる。その釘が厄の塊を根こそぎ、まるで実体があったかのように巻き込むとそれは紅魔館の壁を貫いた。
そのままパルスィさんは壁に拘束され、動けない厄の塊の側までツカツカと寄って行くとそっと触れる。
同時、厄の塊はすうっと彼女の中に吸い込まれていった。
「……好きな男を完璧な女の子に取られた、ねぇ。そんなことで妬めて……妬ましい」
最後にパルスィさんは呟く。
それからはあっという間だった。彼女は「邪魔したわね」と素っ気なく言って鍵山さんを連れて帰っていった。
今更だけど、うん。
結局呪いを掛けたのは誰とか全く分かってないけど良いのかな?
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読み終えての感想は。
「……鍵山さんのこれは、良いんですかね?」
「……そうね。これセーフなの?」
「……流石に、これは……って感じですよね」
という感じだった。
上から早苗、霊夢、さとりの発言である。三人とも曖昧な顔で「これ大丈夫か」としきりに呟く。
が、一人だけよく分かっていないレミリアは首を傾げた。
「えっ? 何か問題があったかしら? 厄を吸うのに荒い息を吐く癖があるだけでしょ?」
「……いや、これR18引っかかるんじゃないかってね……?」
「R18……?」
ちょっと間接的に伝えてみるもののレミリアはまるで分かっていないようだった。グロ……じゃないわよねと呟いてはコテンと頭を横にする。
その様子を見て早苗が呟いた。
「あの、霊夢さんさとりさん。レミリアさんを見ているとそういう発想に至ったことが猛烈に汚れている感じがしてきました……」
「……同感」
「……ちょっと恥ずかしいです」
「???」
かくしてはてなマークを浮かべまくるレミリアと、恥ずかしがる三人という謎の構図が出来たのだった。
……今更だけど九九話でこの話ってどうなんだ?