一月二十八日
博麗神社に行くと見知らぬ若い男の人がいた。
何やら地図を見てウロウロしているので迷い人かな、と思って声を掛けるとその通りだったらしい。
「守矢神社はこの神社であっているか?」
「いえ、そこは博麗神社ですよ。守矢神社はあの山の頂上です」
どうやら守矢神社に行きたいようだ。
折角だし案内すると申し出ると男の人は「おぉありがたい!」と頭を下げた。
それから私は自己紹介する。
「と、名乗っていませんでしたね。私はフランドール・スカーレットです」
「む、フランドール……? もしかしてお主が吸血神か? 神の子や悟りを得た者の加護を授かった」
「いや、吸血神って何ですか? 吸血鬼ですよ、ただの」
いきなり何を言ってるのやら。訳が分からないよ。
そのまま男の人は私をしばらく見つめて何やらブツブツ呟いてたけど、やがて名前を名乗った。
「と、名乗るのを忘れていたな。ワシは……そうだな。スサちゃんと呼んでくれ。陽気なスサちゃんだ」
スサちゃん。随分可愛らしい呼び名だ。というか今更だけどこの人神様だよね? なんか神格が見えるような……分かりづらいようにカモフラージュされてるけど。いや、やっぱり気のせいかな。
ちょっと首を傾げつつ飛んでいると守矢神社に着いた。
「あの、スサちゃん。ここが守矢神社です」
指差すと「おうここか! 助かったぞフラン嬢」と声高に言ってスサちゃんは守矢神社の境内に飛び降りると家の奥に向かって叫ぶ。
「八坂神奈子は居るかーっ!!」
「っ!!? こっ、ここに!」
瞬間だった。
目にも留まらぬ速さで神奈子さんがスサちゃんの目の前に姿を現したのだ。なんか焦った様子だった。
「お、お久しぶりです。してどのようなご用件でしょうか?」
「おう久しぶり! 要件はない、暇だから来たぞ。東風谷の嬢ちゃんとも久方ぶりだからな!」
「暇だから!? す、
「おお! なんだ、暇な時に来ちゃいけんのか?」
「そっ、そんなことは……」
うわぁ珍しい、神奈子さんが物凄い下手だ。
……って、ん?
スサちゃん=スサノオ=素戔嗚……?
……え?
「神様だとは思ってましたけど、まさか素戔嗚さんですか?」
「そうだよフラン嬢。だがワシの事はスサちゃんと呼びんさい。その方がアダ名みたいで嬉しいからな」
「……はぁ」
よく分からない。素戔嗚ってあれだよね? 日本神話で有名なあれだよね? 確かイザナミさんの息子さんだっけ?
聞いてみるとスサちゃん……素戔嗚さんは頷いた。
「フラン嬢の事は母から話を聞いてるぜ。とても素直な良い子で天使みたい……とかなんとか。部下の顔を見ようと守矢神社に寄るついでに話そうと思っとったからな。丁度出会えて良かった」
それからの様子もしばらく見てたけどかなり自由な人みたいだね。
神話だと泣き虫だったとか、激情家だったとか、英雄だったとか色々言われてたけど気の良いお兄さんにしか見えない。
このあと、諏訪子ちゃんと会った時も大体こんなテンションだったしね。
「おろっ、来たのかい? いらっしゃいスサノー」
「おぉすわわっ! 相変わらずめんこい顔しとるのー! クシナダのやつがお前さんを娘として迎え入れないかってよく聞いてくるんだがどうだ?」
「あははっ! 悪いけどお断り! 見た目こそ子供だけどさー、中身は呪いの神だぜ?」
「それを踏まえて可愛いと言っとるのに。まぁ断られた以上はどうもせんがな!」
そうやってガハハと笑う。
諏訪子ちゃんとも仲は良いらしい。私も「フラン嬢もワシのとこの
断るとまたそりゃそうだわな、と笑ってた。
その次には早苗さんとも会ってたなぁ。
「……えっ、素戔嗚……様?」
「よく分かったな。東風谷の嬢ちゃん、久しぶりだのう! にしても随分綺麗になったじゃないか!」
「あ、ありがとうございます!」
ポンポンと頭を撫でられて早苗さんは頭を下げた。
思いもしない来客に驚いているらしい。が、おもてなしをしないといけないと判断した彼女は「居間で寛いでいて下さい。お茶とお菓子を持っていきますから」とパタパタ歩いて行ってしまった。
「ふむ……中々のサイズ。良いな」
その後ろ姿を見て素戔嗚さんがなんか呟いてたけどともかく。
居間で寛ぐことになったので諏訪子ちゃんがゲームを持ってきた。
「よっし、スサノーが来たしゲームしないかい? WIIUのスマブラ」
「おぉ、ゲームか。ワシもよくやるぞ」
「わ、私もオンラインゲームはよくやりますから負けません!」
そんなわけで三人プレイ。
とはいっても殆どキャラが分からなかったので、見た目の可愛かったぴ、ぴかちゅー? ってキャラを使った。電気が出せるらしい。
素戔嗚さんはソニック、諏訪子ちゃんはクラウド? ってのを使ってた。青いハリネズミとFFがどうとか。
で、バトルしたけど二人とも強い。具体的に言うとボタン押す入力速度が秒速何十回のレベルでコントローラーが壊れそうだ。
「暇だったから人力TASしてんだよね。負けるわけにゃいかないよ?」
「ぬっ! やるのすわわっ! だがワシもいくつかのゲームRTAで世界一位を取っておる! ましてやスマブラなどかつては全一として名を馳せていた……! 負けるわけにはいかん!」
「……私はこのゲームは初めてですけど楽しくプレイしたいです」
とりあえず何のボタンを押したらどう動くか、ってのを理解するところからだね。で、何試合かやったけど最初のうちは私ボコボコにされてたけどちょっと理解してきたら何度か落とせたよ。
一度嵌めたらコンピューターの認識速度の仕様上抜けが不可能だから楽だね。でも空中で強引に技出して復帰してくることもあるし、アイテムでぶっ飛びまくるから難しい。二人とも巻き込めれば一番だけどそう簡単に決められる相手じゃないし。
と、そんな感じに遊んだ。途中から早苗さんも混ざって四人でゲームしたよ。
スマブラやって、マリカーやって。
で、途中で夕飯を頂いて、それからもゲームしてたけど気が付いたら寝ちゃってた。
とりあえず適当な式神を作って咲夜に連絡したので多分問題無いと思う。
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「す、素戔嗚……?」
「はい。素戔嗚様は神奈子様の上司らしくて、それでおいでなさったとか」
戸惑ったように尋ねる霊夢に丁寧に早苗は説明する。
するとレミリアがふぅんと頷いて一つ尋ねる。
「ねぇ、ところでゲームで全一って何?」
「……レミリアさん、えっとそれは全国一位の略で、ようはそのゲームで一番強いプレーヤーって事ですね」
「……神様って暇なの?」
「……ノーコメントで」
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一月二十九日
あのあと結局、守矢神社に泊まった。
早苗さんの部屋に一緒に泊めてもらって、一つの布団の中で二人で寝たんだけど、でも目が覚めた時ビックリしたよ。何故かと言うと、私の横に龍神ちゃんが潜り込んでてさ。
気持ち良さそうに寝てたから起こすわけにもいかないし。にしてもちょっと久しぶりだね。相変わらず整った顔立ちに綺麗な純白の髪だこと。
手触りの最高だし、撫でてあげると寝ている顔が和らげになるし。でもいつまでもそうしているわけにはいかないので起こして朝食を食べながら話を聞くと「暇だったから」らしい。
……もしかしなくても神様って暇なのかな。諏訪子ちゃんも素戔嗚さんもそうだし。
とっ、ともかく今日の話だよね。
今日は皆でテーブルゲームをした。
トランプ、将棋、人生ゲーム、麻雀。
龍神ちゃんと私でペアを組んでやった。
「速攻魔法発動! バーサーカーソウル!」
「うぐ、サンダーボルト! 場のカードを全て破壊! そして奪った歩兵を王の前に配置し王手!」
「なんの、こっちも歩兵を王の前に配置! また手札より魔法カード発動!」
……将棋、だよね? なんかカードを使ってたけど。
あと麻雀とかも酷かったよ。
「あ、天和です」
「「なにぃっ!?」」
「わぁ早苗さんすっごい」
「奇跡ですねー、あはは」
牌を引いた時に既に役が出来ていることを天和という。
確率としてはかなり低い役だけど一発で引いてくるあたり奇跡って凄いよね。
でもそれだと奇跡の独壇場なので申し訳ないけど次の回からは奇跡を破壊して対戦しました。というかしないと勝てないから!
ちなみに私もそうした上でやっと暴れることが出来ました。
諏訪子ちゃんが牌を捨てた時、龍神ちゃんが声をあげたんだよね。
「ふらん、これ鳴く」
「そうなの? じゃあポンっ」
鳴いて牌を受け取った私は、不要牌を出す。
次は早苗さんの手番だ。
「これ、ですね」
「あ、それもポンっ」
出した牌はまたも私が欲しい牌だった。ポン、と鳴いてその牌を受け取り代わりに不必要な牌を捨てる。
そして次は素戔嗚さん。
「む、これだな」
「あ、それもポンです」
「「裸単騎!?」」
手持ち牌が残り一個、ポツンと私の前にある。
そして、
「あ、ツモ。
普通にきた。結構珍しい役じゃない?
でも言ってから素戔嗚さんだけやたら変な顔をしてた。
「……? どうしたんですかスサちゃん」
「いや、服は脱がんのか? と思って」
「ふぇっ? せ、セクハラですよ?」
「セクハラじゃなくて、元ネタ的に」
「えっ、この役を上がったら脱がないといけないルールが?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「「??」」
意味が分からなくて早苗さんと顔を見合わせて首をかしげる。
横では龍神ちゃんが諏訪子ちゃんに尋ねてた。
「すわこ、あの男、変態?」
「じゃない? 服脱がないのかって脱衣麻雀じゃないのにね」
「いや違うわ! 風評被害だ!」
ともかくそんな感じだった。
ちなみに素戔嗚さんは今日で帰るらしい。お嫁さんのクシナダさんに二日以上家を空けたら殺すと脅されているんだそうだ。
「楽しかった、また来よう」
そんな感じにあっさりとしたお別れだった。
うん、また一緒に遊ぼう、スサちゃん!
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「あれは楽しかったですねー、普段はトランプもほぼ必ずジョーカーが手持ちに来ますし、人生ゲームは良いマスにしか止まりませんからフランちゃんがいると普通に勝負が楽しめます」
「あー……アンタの奇跡って常時発動型だっけ?」
「はい、普段から幸運なせいか勝負事で気後れしちゃって」
「……そりゃあ難儀な話ね」
「……奇跡って言いつつある種呪いみたいです」
「あー、そういう一面もあるかも。でもまぁ奇跡を起こせることに不都合はありませんから受け入れて生きてますよ」
そう言って早苗は笑った。
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一月三十日
今日、本屋で『フランが教える弾幕ごっこ』の二冊目が発売した。
今回販売開始したのは『Easy編』だ。
限られた弾幕数の中で綺麗に見せる方法、私なりの他の人のスペルカード分析、グレイズの時の注意点。
また私が直接指導するDVDも殆どタダ同然でついてくる。
DVDは電気とテレビ普及の為にわざわざ撮影したよ。霧雨商店でも電気のサービスやテレビなどの家電販売は元々視野に入れてたみたいでさ、良い機会だし私の弾幕ごっこ教授本を買ってくれたお客さんの電気購買意欲を煽ろうと思って作ったわけだ。
まぁこれは正直上手くいくと思ってないから、手回し充電式の携帯型のDVD再生機も開発中だけどね。
売れ行きは上々、デイリーでは一位らしい。
そうそう、弾幕ごっこといえば最近人里を歩いているとデバイスを買ってくれた人達からよく弾幕ごっこの相手をして欲しいとお願いされるようになった。
一通り簡単に相手して、注意点とか改善点を口頭で伝える。
ただそれだけなんだけどね、意外と好評らしい。
私も私で弾幕ごっこに付き合った後に相手をした人たちが甘味屋さんでお団子をくれたりするから嬉しい。
でもなんでだろう、あむあむと柏餅を頬張ってる時によく頭を撫でられたりするんだけど、妙に餌付けされてる気分になるんだよね。
甘やかされてるっていうか……可愛がられてるっていうか。
嬉しいけどね、まぁまだ私が慣れてないだけかもしれない。
最近じゃ信じられないけど一年前の私はほんとただのニートだからね。
それがいきなり色んな人に褒められたり、甘やかされたりしたら戸惑いますわって話よ。
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「デバイス事業から多方面に繋げていきますねー……」
「というか餌付けって、いやあながち間違ってなさそうだけど」
「……里の人の気持ちは分かりますけどね」
「見た目のせいでどうしたって子供が頑張っているようにしか見えないんでしょうね……私も、フランも」
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一月三十一日
今日で一月最後かー。
一ヶ月が早いなー。
あ、そういえばちょっと前に裁縫の話したでしょ。マフラーとか手袋作るって話。一応毛糸を買ってきて編み始めてるけど中々難しいね。
裁縫……というか、編み物って大分糸と針を使うより勝手が違う。
大体こんな感じ、で作ってるけれどちょっと形が不恰好だったりするのでアリスさんに教わった方が早いかもしれない。
まぁ使えないわけじゃないんだけどね。
暖かいしマフラーとかとしては良いと思う。
でも人にあげるものだし見た目もこだわって頑張ろう!
よし、ファイトだよ私。
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「編み物ですか」
「初めてでちゃんと形が出来るあたり凄いと思いますけどね」
「……ほんとそれですよ。手袋とかどうするんですかね、あれ」
「……だいぶ完璧超人になってるわよね、サラッと」
(……もう当たり前みたいになってるあたり毒されて来てるのかしら、私も)
最後にレミリアが突っ込んで一同は次のページをめくる。