一月十九日
なんか妙な夢を見た。
寺子屋が廃校になりかけている夢で、お姉様がアイドルグループを作って学校をアピールするって言ってさ。
まず私とお姉様の二人がそれをする事になるんだけど中々新規でアイドルになりたい! って子が入って来なくてさ。仕方なく私が音楽作って、香霖堂のツテで撮影機材を手に入れて、文さんを通じて話を広めて、アリスさんに習った裁縫術で衣装も作って、それから知り合いに声をかける事で仲間を増やしたんだ。
早苗さんに魔理沙、こいしちゃんに霊夢さん、橙ちゃんやチルノちゃんに大ちゃん、リグル、みすちー、三妖精、クラピちゃん、やたらノリノリだった神綺とあと神綺さんのストッパー役でアリスさん。
咲夜は私達のメイドとして色々な準備をしてくれて、めーりんもそのお手伝いって感じだ。
それで全員の衣装を私とアリスさんと咲夜とで作ってさ。
アイドルグループ名も決めたよ。
で、ツテで会場を貸し切って、文さんにお願いして新聞にライブの情報書いてもらって、満員の会場でライブした。
大歓声があがって、凄い楽しかったなぁ。
というかアイドルなんてやらないだろうなーと思ってたような人達皆でやったからかな?
で、それで舞台を降りて、マイク音声で「次は、μ'sによる……」と聞こえたところで目が覚めた。
変な夢だったけど楽しかったよ。
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読み終えると霊夢は急に慌てたようにこんなことを口にした。
「あ、あー……これ不味いやつ。著作権とかその辺り良いかなー?」
目をパシパシ瞬きしてううむ、と悩む霊夢だが違和感しかない。
えぇ、と一瞬ドン引きしてから早苗は突っ込む。
「いやどうしたんですか!? 散々これまで他作品ネタをブッ込んできたくせにいきなり著作権とか言い出して!」
「いやー……ネタにしたら怒られるって作品もあると思うのよね。絶対触れちゃいけない聖域っていうかね、例えばディ○ニーとか」
「それこそ言っちゃいけないやつですよ!!?」
ディ○ニー。触れたら消されるらしい。特にニコニコ動画だと。
ともかく早苗が叫ぶと霊夢は続けた。
「で、ね? その聖域って知名度によって変わると思うのよ。あと根強いファンがいるかどうかね。最近だとさっきいったラブライブだとかー……少し前だけどおそ松さんとか? そういうネタを所構わず出しちゃうのはちょっと勇気いるんじゃないかなーって」
「……いや、霊夢さん霊夢さん。そう言ってる霊夢さんが一番名前出してますよー……! 思いっきりラブライブとかおそ松って言ってるじゃないですかー!! というかもう貴女あれでしょう! 著作権とか気にしてるフリしつつ本音では堂々名前出してやろうとか思ってるでしょう!?」
今度はさとりが突っ込む。
というか全体的に霊夢が酷かった。元々ディ○ニーを例に挙げた時点で嫌な予感がしていたのだ。
いい加減に止めないと、今はまだ自主規制して『○』を付けているディ○ニーでさえも○を取っ払って言いかねない!
そんな危惧がツッコミ二人の頭を過る。
「(さとりさん……)」
「(……分かってますよ早苗さん)」
直接お互いの頭の中に言いたいことを送った二人は同時に叫ぶ!
「「(次のページに)流す!!」
((…………うん))
切実に。有無も異議も言わせず、二人は次のページを開くのだった。
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一月二十日
風邪引いた。死にそう。
なんかすっごい体が熱い。汗が噴き出てくる。
熱を測ったら四二度。うん、人間なら死んでる。
咳も出て辛い。むせ過ぎてお腹が痛む。
でもこんな日に限って咲夜は抜け出せない用事で居ないし、めーりんも駆り出されている。
小悪魔はまだ本の片付けに追われてて、私の風邪なんて知らないし、必然的に……、
「ふ、フラン大丈夫? 今おかゆ作るからね!」
……お姉様が看病することになるんだけど誰か助けて。
レミィたん、今こそ私を助けて。ほら、お姉様の看病を見て「任せたよ」って顔しないでさぁ! と思ったらお姉様がおかゆ作りに行っちゃうし……!
とりあえず今のうちに日記を書こう。
もしかしたら私の人生最後の日記かもしれない。それくらい私の命がマッハなのだ。
ちなみに今更だけど風邪は能力で治せない。病原菌を破壊は出来るけど億単位でいるものだからとてもじゃないけど壊しきれないからだ。
ともかく、私がこんなにもお姉様の看病に命の危機を抱いているのは一つの理由がある。
「フラン! 出来たわよ!」
うん、帰ってきた。ちょっと嫌な汗が出てきたよ。とりあえずお姉様の手には案外見た目は悪くないおかゆがあった。
……見た目は。
「ほら食べて! 元気になってちょうだい!」
「…………ごくり」
私は生唾を飲む。決して食欲が湧いているわけじゃない。これは覚悟だ。これから命を投げ捨てる覚悟……! お酒の時みたいに口内に空間を作って転移させれたらどれだけ良かっただろうか。
でもお姉様の前でやったら確実にバレるからそれは出来ない。
覚悟を決めて一口、パクリと食べる。
「……あーむ……っ!?」
口の中全体に
あかん。これ駄目なやつだ。でも食べないとお姉様が悲しむから飲み込まなきゃならない。が、喉を通らない。
……体がこのおかゆモドキを毒だと判断しているのだ。というか何だろう、目がチカチカする。心なしかおかゆの色が紫色に見えてきた。
……まさか幻覚症状だろうか。
「ど、どお? 美味しい?」
あぁ、心配そうに聞いてくるお姉様をぶん殴りたい。
クソ不味いと正直に言えたらどれだけ楽だろうか。でも言ったら言ったで咲夜に泣きついて凄い面倒な事になるから言えない。
……強引に飲み込んで、喉が焼けた。喉元までせり上がってきた吐き気と同時に猛烈な痛みが私を襲うが堪える。ポロポロと涙がこぼれた。それから「にごぉ」とした笑顔で答える。
「ゲホッ……ぐううう……っ、はぁはぁ。お、いしぃ……よ?」
「ちょっと大丈夫!? 今背中叩いてあげるから!」
「い、いい……やめて」
やめろ。やめてください。吐くから。妹が目の前でゲロ吐いても良いならやって良いけどお姉様のことだ。どうせゲロの処理方法なんて知らないだろう。その指導する余裕も無いんだ。というか意識がやばい。喉の激痛が辛すぎる。
今、お姉様に見えないようにベッドの中に日記帳を入れて描いてるのだって、これが辞世の句と同じと思って気力で書いているに等しい。
あぁ、頭がガンガンする。
「食べるの辛い? あ、じゃあ食べさせてあげるわ! あーん」
あっ、馬鹿。やめて! あーんってされたら覚悟出来ないじゃん! くそう……お姉様は私を殺す気か……!
口の中にどろどろと入ってくる
「ふらん? ちょっと!? しっかりして!?」
うん、笑顔は維持できてるよ。
あれ、私は何してたっけ? 日記を書いてるんだよね。何でだろう、妙に頭がガンガンする。あと耳の聞こえ方がおかしい。それと全身から異様なほど汗が噴き出るんだけどどうなってるんだろう?
なんか意識も薄れて……、ぁ。
……怖い夢を見た。
お姉様が毒物を私に食わせる夢だ。
おかゆを食べる。そんな悪夢。でも起きて安心したよ。だって私は昨日楽しい夢を見て、で、今日もまたいつものように楽しい一日が始まるんだからね!
「ふらん、あーん」
だからこれもまだ夢なんだよね。
お姉様がおかゆの載ったスプーン片手に私に突き付けてるなんてそんなわけあるはずないもん。
「フラン? あーん?」
「???」
あれ。
「ふらん、食べて。あーん?」
あれあれあれあれあれあれあれあれあれ?
「ほら、フラン。食べないと元気になれないわよ?」
あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ?
あ、れ。
あ……………れ?
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読み終えた三人は絶句した様子でレミリアを見つめた。
レミリアはえぇっ!? と驚いた顔をする。
「わ、私そんな毒物なんて作ってないわ! フランの為を思って健康に良いものを作ったわよ!? 油を入れると良いって聞いたからマーマ○レモンって油を全部入れて、桃の種が良いって聞いたから家にあるやつをあるだけ砕いて入れて、病気の時は塩分がいるって聞いたから上から醤油を一瓶ダバーって入れて、風邪とかの原因は病原菌って聞いたから菌を殺菌するための消毒液を入れて……全部フランのことを考えて作ったのに!!」
「思いっきり毒物じゃないですか!? それもどれも一つでもその要素入ってたら死にますよ!? 食品用洗剤一本丸呑みの時点でアレですし、桃の種は丸呑みならともかく中を砕いたら青酸カリ成分があるので大量に食べたら死にます! 醤油も沢山体内に入れたら塩分過多で死にますし、消毒液なんて論外です!! 人間なら何回死んでるか……っ!?」
酷かった。シャレにならなかった。
本気で早苗が怒る。いくらポンコツにしたってこれは酷すぎたのだ。
「……レミリアさん、明日から料理を教えます。まず食べれる物と食べれないものの判別からですかね……!」
「……ひぃっ!」
尋常じゃないオーラに悲鳴をあげるレミリアだが誰も助けるものは居ない。流石に今回の件は酷すぎた。
むしろこれを機に料理を覚えろ! つかもうご飯作るな! と非難轟々な目で見つめられてレミリアは何か、諦めたような顔をする。
「……確かにこれは私が悪いわ。上手に作ったつもりでもフランが苦しんでいたなら、直さなきゃ駄目よね」
「良いこと言ってますけど論外ですからね。料理への冒涜どころか殺人未遂です。もし幻想郷にちゃんとした警察機構があれば即逮捕です、それくらいの事をしてるって自覚してください!」
「ううっ……分かってる、分かってるから」
「それとですね! 料理する時は味見してください! 一口食べれば貴女もそれが毒物だって分かるでしょ!?」
「……はい、ごめんなさい」
「謝ってすみませんからね?」
「……」
普段から料理を振る舞う巫女さんは、食べ物に関してはとことん厳しかったのだった。