フランドールの日記   作:Yuupon

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一月編8『やはりフランの青春ラブコメは(ry』

 

 

 

 一月十七日

 

 

 今日からまた寺子屋に復帰だ。

 案外紅魔館が爆発したことは知られていないらしい、なんで休んでたのー? と多く聞かれた。

 まぁ私も私でまさか紅魔館が爆発した、なんて馬鹿正直に伝える筈もなく適当に理由を言っといたけどさ……。

 ただ、そんなこんな久々の授業中、こそっと横の席の男の子が私に声をかけてきてね?

「なぁ、スカーレット」

「なに?」

「いや……その、俺、実はついこの間散歩しててさ。霧の湖で休憩した時にお前の家が……その、爆発したのが見えたんだけど」

 うん、知られちゃってたよ。

 思いっきり知られてましたよ!

「……そう、知ってたの。ねぇ放課後時間ある?」

「お、おぉ……」

 仕方ないからこの男の子にだけはちゃんと説明しておこう。変な誤解をされるのも困るしね。その為に放課後の予定を聞いたけどどうやら空いているらしい。

 というか今更だけど霧の湖から人里まで三〇キロ以上あるのに散歩で来たの? そう聞いてみると男の子は呆れたように言う。

「空飛んで、だよ。お前が作ったデバイス」

 おおう……購入者だったのか。お買い上げありがとうございます♪

 笑顔を向けると男の子は引きつった顔を見せる。

「なんだその営業スマイル……」

「嫌い?」

「いや、その女って怖ぇなって」

 それから男の子が一瞬見惚れたし、と小さく呟くけどもしもーし。聞こえてますよ?

 ……素直に言われると私もちょっと嬉しいのは内緒だけど。

 

「ともかく放課後。おっけー?」

「……分かったよ」

 

 約束して授業を真面目に受ける。

 で、そんなこんなで放課後。

「……で、なんだよ。放課後って」

「話しておこうと思って。私の家が爆発したことについて」

 校舎裏に彼を呼び出して私は事実を語りました。

 爆発したこと、昨日まで再建に追われていたこと。あくまで概要だけをサラリとね。

「……なるほどな、道理で」

 ちゃんと説明すると納得してくれたみたい。

 で、これまでが前座。

「それで、ね。お願いしたいことがあるんだけど……」

「今聞いたことを内緒にしろって?」

「うん」

 察しはいいらしい。話を切り出してすぐに理解してくれると楽で助かる。

 というわけで、

「内緒にしてくれる?」

「……こっちからも一つだけお願いするけど良いか? それを呑んでくれたら良い」

 

 私が尋ねると彼は「こっちのお願いも聞いてくれたら」という提案をしてきた。

 うーん、そうだね。

 

「変なお願いじゃないなら良いよ。えっちぃのはだめ」

「俺そんなに勇気ある人間に見えますぅ!?」

 

 失敬な。私怖くないよ?

 大丈夫吸血鬼こわくなーい。

 

「いや、怖いとかそんな問題じゃなくてな……女の子相手にそんなこと簡単に出来るかよ……」

 

 なんかボソボソ言ってたけどともかくだよ!

 

「じゃあそのお願いってなに? えっちぃのじゃないんでしょ?」

「当たり前だろ! えっとほら俺、デバイス買ったって言ったろ? だからその指導を頼みたいんだ! 製作者に見てもらえればきっと誰よりも強くなれるしさ! それに憧れてたんだ――弾幕ごっこ」

 

 聞いてみると予想外の答えが飛び出してきた。

 

「憧れてた?」

「あぁ、異変が起きるたびに、俺も弾幕ごっこが出来たら妖怪に挑めるのにってよく思ってたんだ。魔法とかもかっこいいしさ」

 

 それに魔法とかの異能の力に人一倍の憧れがあるんだ、と彼は続ける。

 

「一年前に、見たんだ。俺が里の外で妖怪に襲われた時に、白黒の魔法使いが極大のレーザーで妖怪を薙ぎ払うのを。それを見てからずっと憧れてた。憧れて、一人で練習もしたよ。でも上手くいかなくて……それでお前の作ったデバイスが発売されるって聞いて、今まで一度も使わなかった貯金とお年玉を全部出して買ったよ。そしたら驚くくらい簡単に魔力ってものが理解出来て、空も飛べるようになった。お前の家が爆発したのを見れたのも、嬉しくて普段行かないような遠いところまで飛んで、疲れて休んでたからなんだ」

 

 成る程。それで私もようやく話が理解出来てきたよ。

 語ってた男の子はそこまで話すと照れくさそうに頰をかく。

 

「なんか話してて吹っ切れてきた。言うつもり無かったけど言わせてくれ。実はさ。俺、お前にも憧れてたんだ。アイドルとして舞台に立った時、弾幕をばら撒くダンスをするだろ? あの姿を見てすっげぇ弾幕って綺麗なんだなって思った。弾幕ごっこのルールを初めに知った時は、なんで美しさも勝負に入るのか疑問だったけど、なんとなく分かったんだ」

「…………、」

「今日話しかけるのだってすっげぇ勇気振り絞ったんだぜ? 有名人が横に座ってるようなものだしな。それに俺を助けてくれた魔法使い……魔理沙さんにさ、会う機会があって聞けたんだ。紅霧異変でお前と戦ってすっごく強かったって。だから、俺。お前に教わりたい。弾幕の美しさを、強さを……勿論暇な時だけで良いぜ。今は家のことでゴタゴタもあるだろうからさ」

 

 どうかな? と笑みを浮かべて尋ねてくる。

 サァっと射した夕陽に照らされてキラキラ光る笑顔だった。

 

「――――――」

 

 私は一瞬返事を出来なかった。

 思ったよりも真面目だったことと、彼の思いが真っ直ぐ伝わってきたからだ。

 だから私の返事はこう返した。

 

「分かった。小指出して?」

「んっ?」

 

 呆気にとられた彼の指を取り、私の小指を絡ませる。

 指切りげんまん。簡易的なものでも悪魔にとっては一種の契約だ。

 契約は破ることを許されない。

 

「指切り、破ったら針千本呑ますからね?」

 

 そう言って笑って私が背中を向けると最後に見えた彼の顔が夕陽に照らされて赤くなっていた――そんな風に見えた。

 

 

 

 

 

 

 #####

 

 

 

 読み終えてまず言うことは一つだった。

 

「なんだこのラブコメはっ!!?」

「誰よこの男! お姉様は認めないわよ! 絶対に、絶っ対に!」

「「……えぇ……」」

 

 霊夢が叫んだのを皮切りにレミリアも叫ぶ。

 その様子にドン引きするさとりと早苗だが、二人の叫びは止まらない!

 

「これ作品間違えてない!? 何、恋愛の初イベントみたいなのこなしてるの!? つか落ちたわよね! 絶対この男(恋愛的な意味で)落ちたわよね!」

「吸血鬼の魅力が憎い! 私達の特性が憎いわ! というか後で咲夜に調べさせて潰す!」

「いや、そんな物騒な……」

「……人間の子供相手にムキにならないでください!」

 

 レミリアのボケに突っ込んでいく二人だが、結構、レミリアの様相がガチなことに気付いてまたしてもドン引きする。

 

「(さとりさん、さとりさん。なんかこの二人ヤバイです! 特にレミリアさん、サイコパス入ってます!)」

「(……早苗さん、早苗さん。私も怖いです! なんか、猛烈にレミリアさんの心が読みたくありません! なんか見えちゃいけない心の闇みたいなのが見えて……!)」

「(……さとりさん、これはアレですね)」

「(……えぇ、そうですね)」

 

「「(次のページに)流す!」」

 

 そして二人は次のページをめくった!!

 

 

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 一月十八日

 

 

 さて、昨日約束したので早速今日から修行を付けてあげることになった。

 あ、ちなみに彼の名前はナナシだ。名無しの権兵衛という人に付けられたらしい。

 約束した翌日から修行が出来てさぞ嬉しいだろう、あんなに強くなりたいって言ってたし、とそう思ってたけど、なんか思ってた反応と違ってた。

 

「……なぁ」

 

 彼は震える声で言う。周りを見渡してしきりに冷や汗を流していた。

 そして、叫ぶ。

 

「なんで俺達は太陽の畑にいるんですかねぇっ!!?」

 

 太陽の畑。

 私の友達の幽香さんがそれはそれは見事な花畑を作る区域で、幻想郷縁起によると危険度はどれだけ低く見積もっても極高。下手すれば測定不能とも言われている。

 でも実際は幽香さんとっても優しい人だし、景色も綺麗だから良いと思ったけど何が駄目なんだろう?

 それに彼、ナナシ君が言ってるレーザーも幽香さんが元祖なのに。

 

「おまっ、景色が良いからとか元祖だからじゃねーよ! 花一輪散らしてみろ! 俺の命が散るわ! やっぱお前あれだろ!? 花畑の大妖怪に口封じで俺を殺させる気だろ!? くそっ、一瞬でもお前にときめいてフラフラやってきた俺が馬鹿だった!」

 

 何やらご不満な様子。ぷくーっと頰を膨らませて折角選んだのに、と私も不満であることをアピールするとうっ、とナナシ君は声を詰まらせた。

 

「……勘弁してくれよぉ。くそう、もうやるしかねーか!? 一歩間違えたら命が消える修行をするしかねーのか!? ちくしょう嫌過ぎる……でも、頼んだ手前、弱音も吐いてられねぇ! 俺も男だ! 大妖怪が相手だろうがなんだろうがやってやろうじゃねーかっ!!」

 

 そう改めて宣言するナナシ君だけど、ねぇ後ろ。

 

「へぇ、威勢の良い人間じゃない」

「はひぃっ!?」

「変な声上げないでよ……気持ち悪い」

 

 ちょんちょん、と肩を叩いて後ろ、と言ってナナシ君を振り向かせると変な奇声を上げた。

 そう、彼の後ろには笑顔の幽香さんが立っていたのだ!

 ……にしたって驚き過ぎだよ、幽香さんすっごく優しい人なのに失礼だよ?

 

「……優しいの?」

「うん」

 

 私の言葉を本当か聞いてくるので頷く。すると彼は少しホッとしたように、そっかーじゃあ人里での幽香さんのイメージは間違ってたんだなー、と棒読みで呟いてから「ってそんなわけあるかぁ!!」とノリツッコミする。

 案外余裕あるね、キミ。

 

「いや、余裕ねーから! 無いからこそこうやってツッコミしてるわけであってだな……ってあぁもう! こうやって怯えたりするのが馬鹿らしくなってきた! 初めまして、俺はナナシです! 修行の為にお邪魔しました! ……あ、これつまらないものですが、その、どうぞ」

「あらご丁寧にどうも。私は風見幽香、この花畑の管理人をしているわ。花を荒らされたら人間妖怪関係なくぶち殺すから注意してね?」

「い……イエスマム! 肝に、肝に命じておきます……っ!」

 

 粗品を渡して、ちょっと気を当てられたナナシ君は震え声で何度も頷いた。慌てて地面を見ては花どころか草木の一本すら踏まないように注意する。

 

「もー、幽香さん。恐がらせないでくださいよー」

「ふふっ、ごめんなさいね。博麗の巫女とどこぞの魔法使い以外の人間が来るのは久しぶりのことだから……」

 

 私が笑いかけると幽香さんも苦笑いを浮かべた。

 どうやら初対面的にそんな悪い印象は持たれなかったらしい。よかったね!

 未だ震え続けるナナシ君を励ましてあげると「……ぉぅ」と小さい返事が返ってきた。

 と、その時、私と彼の様子を見て幽香さんが尋ねてくる。

 

「へぇ……ねぇフラン、彼は貴女のボーイフレンドかしら?」

 

 ボーイフレンド? 男の子の友達って事だよね。

 なら、そうかなぁ?

 

「はい、そうですよ」

「「!?」」

 

 あれ、頷いたら幽香さんとナナシ君が固まった。

 どうしたんだろう。幽香さんはなんか「私もまだそんな相手出来たことないのに……」とか呟いてるし、ナナシ君は「……ない、ないない。絶対勘違いパターンだから、期待して損するあれだから……」と頭が痛そうに呟いている。

 ……どうしたのかな?

 私、変な事言った?

 

 とまぁそんな感じでした。ナナシ君が何やら幽香さんに説明してたし多分二人とも変な誤解とかもないと思う。

 その説明とかでナナシ君も幽香さんに少し慣れたみたいで、幽香さんも幽香さんで修行の手伝いをしてくれたからそこそこ気に入ってくれたみたいだ。

 元祖マスタースパークを見せてくれるとは……太っ腹、と言ったら怒られそうだから気前が良いねと言っておこう。

 ナナシ君も感動してたよ。

「すげぇ……これが、元祖」

 って。

 

 修行は大体、夕方頃に切り上げて帰りました!

 うん、私も久々に幽香さんとお話できて楽しかったよ。

 ついでに焼失した向日葵の種も貰えたしね。また畑を耕して植えようと思う。

 じゃあ今日はここまで、おやすみなさい。

 

 

 

 #####

 

 

 

 またもや発狂する二人であった。

 

「……ラブコメその②、だと?」

「く、くぅ……フランの性教育を後回しにしてたことが裏目になるとは……っ!」

 

 上から霊夢、レミリアの言葉である。特にレミリアに関しては「ボーイフレンド」の下りが気になっているご様子だった。

 一方、敬語二人は普通の感想を述べていく。

 

「これはこれで青春してて良いと思いますけどね……まぁいきなり幽香さんとはルナティックモードにも程がありますが」

「……ですよね。小説好きの私的には読んでて展開が気になってきます。幽香さんは、その……よく頑張りましたね、と褒めてあげたいです」

 

 上から早苗、さとりの言葉だ。

 概ね好評といった感じらしい。

 感想を言い合い、二人は次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 


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