フランドールの日記   作:Yuupon

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一月編7『地下室の思い出』

 

 

 

 一月十三日

 

 

 八雲紫に頼んだ家が完成しました。

 中に入ってビックリ。何この目に悪い紅い色。馬鹿なの? もうちょっと色抑えてよ。前のでもこんなに目に悪くなかったよ。

 それに内装も思ってたとの違うし、どういうこと?

 あと外観もさ、なにこの形? なんかお城みたいになってるんだけど。石造りの。どこが紅魔館だよ。

 お姉様だけ満足してたけど他の誰も満足してなかったからね。使い勝手が悪いったらありゃしない。

 というか誰が見てもそうだよ。そもそも見た目が城みたいな家ってどうなの? 目立ちたがりなの? 感性がおかしいの。

 ……もー! やり直し! こんな家、紅魔館って認めないから!

 そう言ったら八雲紫が「そんなズバズバ言わないでよ!!」となんか逆ギレしてたけど怒りたいのはこっちだよ。

 だって自宅だよ?

 自宅が城ってどうなの? 内装は床も壁も果ては調度品から何まで赤色って馬鹿なの? 

 ……絶対認めないからぁ!

「……これ、ですか?」

 咲夜も嫌そうな顔してたし、私も嫌だよ!

 というわけで今度は藍さんと咲夜が一緒に建て直す八雲紫を監視する運びになりました。

 これで今度は大丈夫な、はず!

 

 

 #####

 

 

 ちょっと紫が可哀想だった。

 

「……紫ェ……」

 

 ネタ口調で霊夢が言うと早苗がうーん、と首を傾げて呟く。

 

「というか最近フランさん怖くなってません? 具体的には爆発に巻き込まれた頃から……」

「……まぁ確かに。ちょっと高圧的、かも」

 

 早苗に同調するレミリアだが、そこでさとりが「多分」と前置きして言った。

 

「……実際手は出してませんがかなり怒ってたんじゃないですか? イライラしてたというのも普通の話だと思いますけど……」

「「「成る程」」」

 

 納得した一同は次のページをめくる。

 

 

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 一月十四日

 

 今度こそ紅魔館が完成しました。

 程良い紅のテイストの洋館。うん、良いね!

 内装も大分変わってた。見た目は前に住んでいた紅魔館とほぼ変わらないものの、ちゃんと私達が考えた内装通り作ってあったし、パチュリーの大図書館も同じ位置にあったよ。

「……はぁ、これで良いかしら? あと地下室だけは弄ってないけど」

「うん、ありがと。あとは私達で何とかやるよ」

 ちゃんとお礼も言って、改めてホフゴブリンや妖精メイド達を集める。それから妖精メイドにしれっと混ざるレミィたんにテレパシーで話しかける。

『……で、どう。八雲紫が何か屋敷に仕掛けたりとかは……?』

『……問題無いわよ。盗聴器や監視カメラの類はないわ。スキマからの監視だけは防げないけど……』

『それは良いよ。聞かれちゃまずい事なんて基本話さないし』

 あくまで気にしてたのは盗聴器とかそういった科学の代物だ。そう表立って行動するとは思ってなかったけど万が一はあるからね。

 でも最近『忍び』のように行動しつつあるレミィたんに聞いて大丈夫ならそうなんだろう。隠密や探知、探索は私より上になってるし。

 まぁこのことを日記に書いてる時点で隠すつもりも何も無いんだけどさ。

 とはいえ詳しいことを書き過ぎてるし魔法でも掛けた方が良いかもしれない。本を開いたら精神を混濁する魔法とか。

 ……いやでもうっかり見た場合とかはどうしようか。何も知らない人を気絶させるのもアレだし……。

 ま、いっか。その場で適切に『始末』すれば。

 

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 最後の一文を呼んで一同は立ち上がった。

 

「し、始末!?」

「怖っ!!」

 

 真っ先に声を上げたのは霊夢とレミリアである。

 二人とも割とガチめに危ういと思ったのか両腕で自身の体を抱きしめるように日記を睨む。

 続いてさとりが言った。

 

「……もし精神混濁の魔法がかかってたらレミリアさんも霊夢さんも……?」

 

 が、早苗がそれを否定する。

 

「いやなんだかんだでお二人は避けそうです。特に霊夢さんは」

「……そうですね」

 

 レミリアはともかくどう考えても霊夢がそんな魔法に掛かるとは思えない二人だった。

 

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 一月十五日

 

 

 ホフゴブリン達や妖精メイド達。あとはめーりん、私、レミィたん達の力で大体片付けは終わりました!

 お姉様も今日は真面目に皆に紅茶を淹れたりとかお仕事してたよ。

 あとは咲夜に言われてゴミ出しとか、お買い物とか。意外。

 頼られてるのが嬉しいって感じだった。子供か。

 そんな微笑ましいお姉様を見つつこっちは予備として空間に放っといたお陰で爆発を免れた家具の配置だ。

 タンスとかベッドとか、それから食器棚とか。

 あと一番苦労したのは大図書館の本だ。

 大図書館の本は一冊一冊全てに壊れないように不壊魔法が掛かってるから爆発しても全部無事だったわけなんだけど、倒壊で多くの本が瓦礫の下敷きになってたからそれの回収。で、それを種別順に置き直す。この作業は地獄だった。

 小悪魔の指示を受けながらやってたけど、もうやりたくない。フォーオブアカインドで分身しても全然終わらないんだもん……。

 途中で本を借りに魔理沙とかアリスさんが来て手伝ってくれたけどそれでも夜まで掛かった。アリスさんの人形もフルで動いてても夜中までかかるってどんだけ蔵書あるんだよって話だよね。

 しかも最終的には「あとは私が、その。頑張りますから!」と小悪魔さんにお願いする形での終わりで、実質まだまだ本が残ってたし。

 もう寺子屋も新学期なのに、片付けに追われて休みが続いてる。

 こう書くとまたお姉様に対して苛立ちが湧いてくるけど、そう言ってもいられない。頑張ってまずは住みやすい紅魔館を作ろう!

 

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「……心が痛い」

「わかる」

 

 読み終えて呟いたレミリアの言葉に霊夢が頷く。

 というかそれ以外言える言葉は無かった。

 

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 一月十六日

 

 ようやく片付けも余裕が出来てきて幽閉されてた地下室に行ってみた。

 瓦礫が残ってて少し紅魔館の香りがした。ただ、一方で鉄の錆びた香りと巨大な鋼鉄の扉が地下室への道を塞いであり、奥に行くと以前私の部屋だった場所があった。

 可愛らしい部屋の内装、ふと端を見るとぬいぐるみが地面に転がっている。ベッドの頭を乗せる部分には涙がシミになっていた。この部屋だけは以前のままだ。

 紅魔館が爆発しても私を閉じ込めるために特別頑丈に作っていたここだけは壊れなかったらしい。

 ぼすん、とベッドに倒れ臥すように寝転んでみると懐かしい香りがした。

 私の匂いだ。具体的には地下にこもっていた時の私の匂いだった。

「…………、」

 そのまま体勢を横にしているとどうやら私は寝てしまったらしい。

 しばらくして、

「起きた?」

 目が覚めるとお姉様がいた。

 私を上から見下ろすようにベッドの横に立っている。なんでこの部屋にいるか分かったかを問いかけると「なんとなくよ」と答えた。

 それから、

「……一番、紅魔館が壊れてショック受けてたし」

 と都合の悪いことから目をそらすように目線を動かして、しばらく黙り込んだ。

 それからややあって、ようやくお姉様は口を開く。

「……その、ごめんなさい。フラン」

「…………、」

 私は何も言えなかった。

 最近どうも涙もろい。そうやって改めて紅魔館が壊れてしまったことを言われると唐突に悲しくなってくる。

 焼け落ちる紅魔館、丹精込めて育てた畑は燃え尽き、爆発で原型を無くした。その事実がありありと浮かんできて、悲しい。

 壊す、壊される。その言葉は私にとって呪いのようなものだ。

 壊すことの多い私は壊されることに弱い。魔理沙に弾幕ごっこで負けて、新たな世界を知った日までは、モノを壊し過ぎたせいで「モノを壊してはならない」という忌避感を感じながらもそれを否定する。感覚の麻痺を起こしていた私だけど今じゃ壊すことにも大きな忌避感があるんだ。

 だからこそ悲しい。壊れたものは二度と戻ってこないからだ。

 今日、こうやってわざわざ幽閉されてた部屋に来たのも、ここだけが私の記憶のままだから……だから来た。

 ……お姉様は卑怯だ。

 私が一番辛いときに必ずいて、一番悲しんでいる時に、空気を読まず一番欲しかったことをしてくれる。

 代わりに駄目なこともいっぱいするしカリスマ(笑)なんてこともあるけど本質的にお姉様はそういう人なんだ。だからウザくなったり、嫌になったりはしても手を上げて離れようとは思えない。幽閉時代もそうだった。

 ……ズルい。

 お姉様に抱き付いて、頰を伝う熱いものを感じながら、そう思った。

 

 

 #####

 

 

 

「「「「…………、」」」」

 

 読み終えても誰も、何も、言えなかった。

 誰も口を開くことなく、そっと次のページをめくる。

 

 

 

 

 

 


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