一月十一日
家なき子生活が始まった三日目。
今日から紅魔館の修復が始まるわけだけどその為に色々問題が起こりました。
まず紅魔館ってさ元々何百年も使われてた古城を私達のお父様やお母様が私達の生まれる前に改築したものらしいの。だから、誰も屋敷の作り方はおろか、普通の家を作る知識すらないのね。
耐震性だとか、支柱の位置だとか、木とかの組み方とか、土台がどうだとか、そんなのまったく分からないわけ。
それに洋館の間取りとか、それにかかる費用と材料の調達。
……考えるだけで頭痛がしてきた。絶対一ヶ月以上掛かるよね。
「ねぇ咲夜、どうにかならない?」
「知識がありませんので何とも……調べようにも時間を止めては本をめくれませんし、それに基礎工事や支柱、壁や土台を作る作業は一人では……」
「咲夜でも駄目、か。でも家が無いと困るわね」
「お役に立てず申し訳ありません……」
近くでお姉様が何やら咲夜に聞いてるけどなんだろうね。
一発殴っていいかな? 今すぐあの不服そうな顔を涙に濡らしてやりたいんだけど。
「お姉様」
「なに、フラン?」
「黙ってくれない?」
「何故ェっ!?」
笑顔でグーサインして、そのまま親指を下に向けるとお姉様が疑問の声を上げる。けど当たり前でしょ。紅魔館爆発の全部の原因、いや諸悪の根源だもん! 私だって大事にしてたもの全部壊されたり、それと私自身痛い目見ておかんむりなんだから!
……まぁ反面、今まで能力でお姉様がくれた人形壊したことで与えてしまった痛みを知れたけどさ。規模が違うんだよ! というか手を上げてない時点でかなり優しいと思うよ!? 普通の人なら縁切るまであるよこれ!
「……でもどうしましょうか。辛うじて建築を齧ったことがある程度の私だけじゃ館を立てるなんてとてもとても……建物の頑丈性も、保証できませんし……」
めーりんも頭を抱える。咲夜も申し訳無さそうにしてて、こっちが申し訳なくなってくるよ。
でも本当にどうしようか。妖精メイドは論外だし、ホフゴブリン達は座敷童と同じで家に繁栄をもたらす妖怪だから勿論建築なんて知らない。
前に博麗神社が倒壊した時は鬼が直したって聞いたけど、鬼の人達とはそんなに親しくないからなぁ……。
一応知り合いはいるけどさ、萃香さんとか勇儀さんとか。でもそんなの頼めるほど仲良くないし……何か無いかなぁ。
そう考えるけど答えは出ず。
一日を無駄に消費してしまった。
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読み終えてまず声を上げたのは早苗だった。
「うわぁ……今回は難しいですね。建築は専門知識ですし。というかレミリアさん、一気に好感度落ちましたね」
苦笑いで言うとレミリアは怒ったように両手をグーに握りしめる。
「う、うるさい! だってグングニル投げたら花火に刺さるなんて……ましてや開けっ放しの火薬室の中に入るなんて想定出来るわけないじゃない!」
そう反論するが、途中の言葉に引っかかったらしい霊夢が「ふっふっふ、とうとう尻尾を出したわね!」と叫んだ。
「だってアンタは運命が見えるでしょうが! 絶対知ってたわよ! 確信犯よこいつ!」
「う、運命? あっ、ち、違うもん!」
運命? と言われて一瞬首をかしげたレミリアだったが、すぐに自分が運命を見れることに気付いたのか慌てたように反論する。
「本当に違うの! 全く知らなかったもん! そんな運命見てないから想定も出来なかったの! だ、だから私は悪くないわ!」
「……どうでも良いですけどレミリアさん、口調。段々子供っぽくなってます」
あうあうあうあう、と混乱し目の中がぐるぐる渦巻いてくるレミリアにサラッと突っ込むさとりだがそれをスルーして霊夢は続けた。
「嘘だッッ!!」
「な……っ!?」
無駄に響く声にレミリアはびくっと震える。
対して声とは裏腹に霊夢はとても優しい顔で述べた。
「正直になりなさい、レミリア。そもそも紅魔館が爆発するなんて二次創作ではよくあることよ! それの何が悪いの!? 偶々この世界線は建て直す所が無駄にリアルなだけで他の二次創作じゃ普通に建て直せてるじゃない! 仮にアンタが引き金を引いたからってこれっぽっちも悪くないわ!」
「れ、れいむ……」
「だからね、正直に言いなさい。本当は、知ってたんでしょ?」
「……わ、わたしは……」
霊夢の優しい言葉にレミリアはゆっくりと口を動かす。
涙目で震えながらゆっくり、ゆっくりと……、
「本当は……私」
上目遣い気味に顔を上げて彼女は自白――――、
「全部……知って……る、わけがあるかーッッ!!」
――――する前にギリギリ気付いた。
「知らないわよ! 私本当に知らなかったから! 危うく霊夢に騙されるところだったわ!!」
「ちっ」
「霊夢さんも舌打ちしない。というか何口走ってんですか霊夢さん! なんか私の奇跡が「メタ自重しろ!」って囁いてきて超うざいんですけど!」
(……いや、早苗さんもメタとか言ってる時点で大概ですよね)
そんな具合で話しながら一同は次のページをめくるのだった。
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一月十二日
良いことを思い付いた。
幾つか案はあったけど、多分一番良い方法だ。
まず先に言うとね、私、かなり前に八雲紫に貸しを作ってるのよ。
それを返してもらおうと思う。
まぁようするに、
「紅魔館直して下さいな?」
「……どうやって私の家のある位置を割り出したのか分からないけど、開口一番に何無茶を言ってくれるのよ」
スキマ。そのとある空間にある紫さんのプライベート世界。
封印してた神様の力を解き、フル活用して気付かれないようにスパッとスキマ解析して割り込んできた私だよ。勿論すぐに封印し直したけど、ともかくそんなわけで『突撃隣の八雲さん』をリアルに敢行したわけだ。
「貸しがあるでしょ。やってよ、あと前より内装を暮らしやすくしたいから咲夜と考えた間取りがこれね」
「何やる方面で話を進めてるのよー……ゆかりん怒るよっ☆」
「うわキッツ」
「ぶっ殺すわよ?」
何を怒ってるのさ。こっちは本音をぶつけてるだけなのに。
確かに最近の出来事でイライラしてるのは否定しないけどそっちも軽々しく殺すなんて言葉を使うもんじゃないよ? 特に妖怪の賢者なんて呼ばれてるんだからさぁ?
「ともかく直してよ? 家が無いと困るの」
「……別に出来ないわけじゃあ無いわよ。でもそんなお願い、貸しがあると言っても私の借りと釣り合わないわ」
「はぁ……じゃあ交渉は決裂かな」
「あら、あっさり引くのね」
どうやら駄目らしい。良い手だと思ったんだけどなぁ……。
まぁ別の手が無いわけじゃないし無理にお願いすることはないけどね。
そんなことを考えていると八雲紫が尋ねてくる。
「ちなみに、他に案はあるの?」
「うん。神綺さんの屋敷とかの建築がうちと似てるからあそこにお願いして、あとは長持ちさせる為に神様にもお願いするかなぁ。確か神奈子さんは鬼の鬼子母神さんとのツテがあるって聞いたし紹介してもらって……それからエリスさんとかフレイヤさんあたりにも建築に詳しい人を聞いてみようかな。と、そんなとこ。ってどうしたの、そんなに青ざめた顔して?」
思い浮かべてる案を述べてくと段々八雲紫の顔が青ざめてくる。胃が痛い、とかしきりに呟いていた。けど、最終的に真面目な顔でこう尋ねてくる。
「……脅してるの?」
「はぁ?」
訳が分からない。
真面目に首を傾げると紫は感情を表に出して言った。
「う、うううう! そんなまるで訳が分からないって振りなんかして! 絶対脅しでしょ!? 道化のつもり!? 分かった、分かりました! この八雲紫さんがちゃんと紅魔館を請け負うわよ! 代わりにこれで貸し借りゼロよ!」
「え、良いの? ありがとー。あ、でも手抜きしたり思ってたのと違ってたら怒るからね?」
「もう言われなくても分かってるわよー……っ!」
最後はもうシクシク泣いてた。
どうしたんだろうね、急に。
まぁともかくこれで紅魔館の建て直しの目処が付いたってことで良いんだよね!
良かった良かった。
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「……神様跋扈」
「……鬼子母神」
「フラン……やめて! もう八雲紫の精神はゼロよ!」
「……こいしが居るからよく分かりますけど、無意識って怖いですよね」
トラウマを思い出す巫女達と、八雲紫に同情するレミリア。
そして、
(……今更ながら、酷いですね。これ)
こいしを持ち出して納得しつつ、フランさんの影響力凄いなぁと素直に感服するさとりだった。