フランドールの日記   作:Yuupon

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 とうとうきたよ……紅魔館あるあるが。


 


一月編5『紅魔館は○○するもの』

 

 

 

 

 

 一月九日

 

 

 

 紅魔館が爆発した。

 

 

 

 

 

 #####

 

 

「「「…………は?」」」

 

 一行。

 ポツンと書かれた九文字に霊夢、早苗、さとりの三人は思わずそんな声を漏らした。

 

「……あう、うー……うー……」

 

 対外的にレミリアだけが部屋の隅で汗だくだくの真っ青な顔でガクガク震えている。

 その様子から思い起こされるのはつい先程の早苗の問いに対するレミリアの発言だ。

 

『というかレミリアさんがさっき慌てふためいてたのって、睡眠薬を入れた犯人だったからですか?』

『えっ? あ、そ、そうよ!』

 

 何かやらかしただろうな、とは思っていた。

 思っていたが流石にこれは予想外だった。

 

「「「…………(絶句)」」」

 

 何こいつあり得ねぇ、という目で三人はレミリアを見つめる。

 レミリアは縮こまった。

 やがて、早苗が発言する。

 

「……と、とりあえず次のページにいきましょうか。事情も分かりませんし、ね?」

 

 無言の賛成を受けて早苗は次のページを開くのだった。

 

 

 #####

 

 

 一月十日

 

 

 昨日のことはあまりにショッキングな出来事過ぎて日記が書けなかったよ……。だってまさか自分の住む家が跡形も無く吹き飛ぶなんて思ってなかったもん!

 ……幸い、紅魔館が保有する金品や財宝といった類はみんな咲夜が特殊な空間の中に保管してたから無事だったけど、まさかまさかだよぉ……。

 今回の件の原因はお姉様だ。お姉様が花火をやりたいって言い出してさ、それでパチュリーに「幻想郷のどこからでも見える巨大花火玉を作って夜空に大輪の花を咲かせるのよ!」とお願いしてたんだ。

 で、作ったんだよ。

 合計3000発。1発作った後に全てコピーの魔法を使って増やして五時間くらいだっけ。私も手伝ってさ。

 ようやく終わったと思って図書館に置ききれなくなった花火玉(一個当たり大きさ一メートル超)を一箇所に集めて適当な空間にでも放って置こうと思ってたら……、

 

「咲夜のバカー!」

 

 なんかお姉様の怒声が聞こえてきて、同時にドガンッ!! っていう衝撃が大図書館の壁を貫いたんだ。

 で、それが何かと思ったらメラメラ燃え盛るグングニルで……切っ先が真っ直ぐ花火玉に突き刺さってた。

 チリチリ、という音があれ程リアルに耳に届いたのは過去を見返してもないね。

 で、次の瞬間に一個が中の火薬を撒き散らしながら大図書館で爆発した。同時に周りの花火も次々と着火して紅魔館内を縦横無尽に飛び回り、壁にぶつかり爆発。パチパチ音を立てて光が飛び回る。

 一個当たりの威力もかなり高かったのでものの数秒で紅魔館の屋根が吹き飛んで、ついで壁と支柱と壊れていった。

 ……で、もう一個最悪の事態が起こった。

 実は、花火を作る&コピー錬成の為に用意していた火薬を保管していた部屋があるのね? その部屋のドアが『()()()』開いててさ。

 うん、もう分かるよね。

 とりあえず文章にするとこんな感じかな。

 

 

 ドガンバガン! パチパチンッ! と破裂する花火玉がようやく収まってきた頃だった。

 

「……?」

 

 チカッ、と。

 紅魔館内で、白く瞬く光が生じた。

 一瞬、私は認識が追いつかなかった。白く瞬く巨大な光。それのあった方向は火薬を保管しておく火薬室で、壁も特別厳重であり扉も閉められている筈だったからだ。『そんなわけがない』という思いが心の中を占める。

 だがたっぷり数秒もかけて、ようやく私の思考の焦点が正しく調節された。

「……まずい」

 思わずパチュリーと小悪魔の手を掴む。

 そのまま勢い良く壁をぶち抜いて紅魔館を飛び出す。

「まずい!!!!」

 直後の出来事だった。

 

 私の視界の端で『何か』が光った。

 爆発点を中心に紅魔館が物凄い閃光と爆発に呑み込まれ、破壊されていく。

 

 まるで惑星を呑み込むブラックホール。

 その正体が、単なる花火用の火薬だと、一体誰が気付けただろうか。

 強烈、という言葉さえ生温い速度と圧力、それが直線上にある爆発点を中心に圧倒的な大爆発を起こし、また火薬保管庫という空気の出入り口が少ない部屋の形質上、瞬時に爆発の影響で部屋が膨張し、音速の四倍から五倍の速度で紅魔館の全てを吹き飛ばしていく。それはもはや花火なんてものではなく、猛烈な熱波の壁であった。紅魔館外、即ち外の雪の降り積もった地面の層が一瞬にして融解させられ、剥き出しの大地がオレンジ色に赤熱していく。

 その時。

 フランドール・スカーレット(わたし)は、体の弱いパチュリーと小悪魔を庇う為に二人を瞬間移動させ、次に一番危険が及ぶ『人間の咲夜』を探す為紅魔館内を突っ走っていた。

 人間である彼女の命が危ういと思ったのだ。

 だが、

 

「っ!!? ぐっ……がっ、はぁっ……!!」

 

 結果を言えば私は爆発に巻き込まれ紅魔館の地下室に落とされた。吸血鬼の肉体をして一瞬にして全身火傷を負い、焼け爛れた体を動かすこともままならず、かつて幽閉されていた地下室に落ちたのだ。

 紅魔館を襲う大爆発は、たっぷり数十秒間も続いた。

 衝撃波は地表を舐めるように席巻した為、崩落した紅魔館の建物が私の上に積み重なっていく。

 魔法使い御用達の火薬だ。その火力は通常のものの比ではない。熱によって溶かされ、液状化した紅魔館の残骸が降り注いでくるとなれば流石の私もひとたまりもない。それがドロドロと私の体に降り注ぎ地獄の苦しみを与えた。

 同時に蒸気の熱も私を襲う。空気が瞬く間に乾燥し、両目に鋭い痛みが走る。痛みから「うぅ」と小さく喘いだ瞬間、灼熱の空気を吸い込んで喉が焼け爛れた。

 

(これ、は……やばい! 本気でやばいかも……)

 

 激痛に悶絶し、意識が薄れ、また激痛で目覚める。

 妖怪といえど意識を失うことも出来ずただただ激痛が体を支配していれば辛い。

 数分。

 もはや喋ることすらままならなくなってしまった私だが、ようやく爆発が収まってきた事で回復速度が上回り始め、自身の怪我の確認をするに至った。

 熱によって溶かされた紅魔館の残骸の溜まり場。マグマ溜りから自身の体を起こそうとするが動かない。神経がやられてしまったのだろうか。吸血鬼の回復速度を考えれば数分もこうしていれば直るだろう。

 それにマグマも少しすれば冷えてくる。炎剣を操る私なら問題無い温度に。焼け爛れた喉も幸い直ぐに回復した。元より熱波を吸い込んだ程度なので吸血鬼の属性を考えればそんなものなのだろう。

 

「……ぁー」

 

 それでも痛いものは痛い。恐る恐る声を出して、それから鼻から息を吸い込んでみると喉や肺が焼け爛れる事はなかった。今の季節は冬だ。流石の熱波も直ぐに冷やされたのだろう。

 その頃になってようやく体の感覚が戻ってきた。

 ゆっくりと起き上がって……気づく。

「……あ、服が」

 着ていた服が完全に溶けて裸になっていたのだ。

 起き上がった時には焼け爛れた痕は完全に消えていたので、ただの真っ裸である。

「……服、着よう」

 私は空間を開いて、下着と普段紅魔館で着ているドレスの予備を出した。

 それを魔法で一瞬にして羽織ると、瓦礫の山を壊しながら地上を目指す。

 そして地下から飛び出して、外を見た。

 景色は一変していた。

「何よ……これ……」

 そこにあるのはほんの数分前までそこに存在していた真っ赤な建物でも、私が大事に育てていた向日葵のある庭でもなかった。

 焦土。

 空襲と言えば分かりやすいだろうか。爆破され崩壊し瓦礫と化した紅魔館の痕がそこにはあった。

 

 』

 

 

 こんな感じだ。

 本当にこんな感じだったんだよ!

 私の花畑も耕した土ごと完全消滅してたし、紅魔館だって跡形もない! 能力で直そうにも、私の能力は一つ一つ指定する必要があるんだ。

 つまり、紅魔館内で爆発した花火玉Aの爆発した事実を壊す事は出来ても、紅魔館が爆発した事実を壊す、という事実と違う事象は壊せないんだ。

 流石の私も3000発ある花火のどれが偶々『扉の開いていた』火薬室に飛び込んだのかなんて分からないし。

 仮に扉を開けた事実を無くしても紅魔館内で花火の爆発した事実は変わらないし、それにお姉様がグングニルを投げた事実を壊そうにも、お姉様の周りには数多の運命の目があるから下手に能力使ったら周りの運命ごと壊す、なんて悲劇もあるし……。

 大切なものが無くなる時は一瞬だね。

 まだ実感湧かないよ……それに熱かったし痛かったしで散々だ。

 ともかく今は人里で宿を借りてる。幸いにも死者はゼロ人、重傷者も(治ったから)無しだ。妖精メイドは殆どが一回休みになったけど、偶々ホフゴブリン達が揃って外出してて良かったよ。

 AIBOは持ち前の筋肉ゴリマッチョを活かして崩れた紅魔館内に取り残された妖精メイド達を助けたりと大活躍したらしいし、レミィたんは私の言いつけを守ってお姉様を守った上で脱出したみたい。咲夜は咲夜で一旦自分の身を守った後にお姉様と私を探してくれたみたいだし。

 めーりんは……うん、シエスタしてたらしくて爆発に巻き込まれたけど無傷だって。「いやーギャグ補正が無きゃ死んでましたよ」とか言ってたけど超元気そうだった。

 なんか私だけ痛い目見てるなぁ……こういう時こそ冷静に対処しなきゃいけないのにどうも自分のことが後回しになってた。

 その結果アレだから自業自得かもしれない。

 ともかく明日からは紅魔館の建て直し作業か……。

 知り合いの人にも手伝ってもらおう。鬼の人達とか作業早そうだし、ホフゴブリン達と復活してきた妖精メイドにも手伝わせれば一ヶ月で元に直せると思う。

 ついでだし暮らしやすいようにしよう。そのあたり咲夜とも相談しないとね……。

 

 あーあ、新年早々『火薬室の扉を開けた人』と『花火を室内で爆発させた人』のせいで最悪だよ。大凶だよこんなの。

 

 

 ――――ネェ、オネエサマ?

 

 

 #####

 

 

「ひぎゃあああっ!!」

 

 最後に付け加えられた一文でレミリアが飛び上がった。

 それから地面に小さく座り込んで両手でスカートに頭を埋めるように押さえつける(「座符」カリスマポーズ)の体勢に移行する。

 

「……扉を開けたのも爆発させたのも犯人がアンタって……そりゃキレるでしょ。大切にしてた花畑も木っ端微塵だし……つーかなんで火薬室の扉なんか開けっ放しにしたのよ」

 

 呆れた、と霊夢が言うとレミリアは焦ったように答える。

 

「だ、だって花火って凄い綺麗じゃない! だから原材料の火薬もキラキラ光る宝石みたいなものかなって思って……!」

「そんなわけあるかーっ!! いやそれは流石にあり得ませんから! レミリアさんそれは真面目に不味いですよ! 大丈夫かこの子っ!?」

 

 とうとう早苗にまで突っ込まれるレミリアだが、ここでさとりがまぁまぁと三人に声をかけてから言う。

 

「……まぁまぁ。でも確かに無知にも程がありますよね。もしかしてフランさんの羽の宝石もアレ実はパチュリーさんの賢者の石の一種とか思ってたりしませんか?」

「……な、なんで分かったの!?」

エスパー(さとり)ですから。さて、次のページにいきますよ」

 

 ふふん、と笑って答えたさとりはそれ以上変な方向に話が進む前に次のページをめくったのだった。

 

 

 

 

 


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