フランドールの日記   作:Yuupon

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四月編END『親バカ二名』

 

 

 

 四月二十九日

 

 今日もパソコンで遊んだ。

 昨日からのパソコン意欲はまだ続いていた、というかやっててとても面白いんだよね。

 無料で出来る『オンラインゲーム』ってやつがあってアカウントを作ってやってみた。

 ゲーム名は『デーモンハンター』ってやつ。悪魔である私が悪魔を退治するってなんだこりゃって話だけどゲームだし良いよね。で、出来るだけ自分に似せたキャラクターを作り、ユーザーネームを『妹様』にしてゲームスタート。

 ……したんだけど最初はよく分からなかった。操作方法とか知らなかったし、何をすれば良いのかも分からないしで。

 でも、心優しいプレイヤーさんが助けてくれた。『いえっさ』さんって言うんだけど初心者な私に色々レクチャーしてくれた上にチームメンバーに誘ってくれた。

 それでそのチームに入ったよ。『ネトゲ聖人』、うん。凄い名前だね。というか私、聖人と対極にいるわけだけど。

 

 チームメンバーの人達も凄い優しくて色々教えてくれた。なんか皆やたら仏教とかキリスト教に詳しかったけど……うん、ネット知識って凄いね。

 最後には皆で珍しいキノコ集めをした。画面の向こう側とはいえワイワイ集まってプレイするって楽しいね。やり過ぎはいけないけど。

 というか仏教はともかくキリスト教……ま、別に敵視するわけじゃないけど過去に散々な目に遭わされたからあまり良い感情は無いなぁ。相手のことを知るって意味では聖典とか経典は読んだけど、あれ読むと頭が痛くなるんだよね。猛烈に。多分聖なるものは悪魔にダメージ与えるって考えで良いんだろうけど。

 

 まあともかく『ネトゲ聖人』の人達は皆良い人だしこれからも仲良くプレイ出来たら良いなぁ。

 

 

 

 #####

 

「オンラインゲーム……って確か沢山の人とプレイ出来るゲームって確か早苗が言ってたわね」

「へぇ、外の世界にはそんなものもあるのね。てっきり一人用しかないと思ってたわ」

「最近じゃ技術の進歩も凄いらしいわよ? 仮想現実っていう空中に映像を映す技術? もあるって早苗が言ってたわ」

「想像も付かないわ。いつかこの目で見てみたい……」

 

 呟いてレミリアは紅茶を口に含む。その言葉に霊夢も同調し、それからはたと話を変えた。

 

「ネトゲに話を戻すけどキリスト教に詳しいチームってそれ教会の人じゃない? 悪魔的にどう思うの?」

「教会の人間は嫌いよ。幻想郷に来る前は私達の屋敷に何度も吸血鬼ハンターや教会の人間が襲ってきたもの」

「ふぅん……にしても『いえっさ』って『イエス・キリスト』に似た名前よね。ま、似せた名前にしたんだろうけど」

 

 冗談めかして言った霊夢は次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 四月三〇日

 

 

 紅魔館にお客さんが来た。

 前にも来た八雲藍(やくもらん)さん(私が見た中で最も大きなおもちの人)だ。横には(ちぇん)ちゃんも一緒だった。

 何をしに来たの、と尋ねるとどうやら橙ちゃんから私の事を聞いて、先日のお姉様の件も相まって私が橙ちゃんの友達として相応しいのか話に来たらしい。

 橙ちゃんに凄い謝られた。

「ゴメンねフランちゃん。藍しゃまがどうしてもって……」

 いや別に良いよ。むしろ先日のお姉様の件(放り投げたグングニルがあわや人里を壊滅させるところだった)を考えたら普通の対応だよ。

 で、じゃあ話しましょうかと部屋に案内しようとしたらなんかナイフ持った咲夜が現れた。

 

「あら妹様に何の用でしょうか賢者の式様」

「紅魔館のメイドか。なに、どうもそちらのフラン嬢とうちの橙が友達になったと聞いてな。先日の紅魔館の当主の件もあって人となりを確かめに来たまでだ」

「失礼かもしれませんが子供同士の関係に大人が介入するのは無粋では? ましてや人となりを調べに来たなど失礼千万でしょう」

「そちらこそただのメイドに過ぎない貴女が出しゃばるのは当主の妹君に失礼ではないのか? それに人となりを知ることに何の無礼がある? 円滑なコミュニケーションを図る為に必要なことだろう?」

「そうですか。では私もそちらの橙さんと話をさせてもらいましょう。なにせこのような育て親がいますから、妹様の友達として相応しいか見極めねばなりません」

 

 なんで喧嘩腰!? 咲夜どうしちゃったの!?

 と、思ってたら何となく理解する。互いのおもちの差を見て。

 ……あっ(察し)。

 いや勿論こんな私怨だけじゃないだろうけど。

 どうやら咲夜は内心怒っているらしい。口調は丁寧だけど内容が酷い。おおかた藍さんの物言いが琴線に触れたんだろうけど。

 

「……橙がフラン嬢の友達として相応しくないと?」

「お言葉を返すようですが妹様が橙さんの友達に相応しくないと?」

 

 バチバチ。なんか両者の間に電撃がはしっているようにみえた。

 なんか二人とも怖い。笑顔なのに物凄い威圧感。

 

「……どうやら橙さんから話を聞く前に貴女から話を聞かねばならないようですね」

「奇遇だな、丁度私もそう思っていたところだよ。是非有意義な話し合いにしようじゃないか」

 

 そう言って二人はどっかに行ってしまった。

 取り残されるのは橙ちゃんと私。二人して顔を見合わせて尋ねる。

 

「……どうする?」

「……どうしよう」

 

 本当にどうすればいいんだろうか。

 

 

 

 (次のページへ)

 

 

 

 結局、二人を止めるために私はお姉様。橙ちゃんは紫さんを連れてくる方向で話はまとまった。

 善は急げ、とお姉様の部屋に行くと鏡の前で変なポーズを取っているお姉様の姿を発見する。

 

「我が名はレミリア! 紅魔館随一のカリスマにして闇の眷属の王たる者! 刮目せよ――我が究極魔法の力を見せてやろう!

 光に覆われし漆黒よ、夜を纏いし爆炎よ、紅魔の名の(もと)に原初の崩壊を顕現せよ。エクスプロォージョン!! ってきゃあああっ!!? ふ、フラン!?」

「お姉様! その長々しいセリフと眼帯と魔法使い姿とか諸々は忘れてあげるからちょっと来て! いや拒否しても連れてく!!」

「ちょっと待って! 私、服着たまま……」

Shut your trap(静かにしろ)!」

「……ぅ、うー……そんな怖い声出さないでよ」

 

 若干の怒りを込めて言うとお姉様は小さく呟いてから黙り込んだ。

 僅かに怯えが見える。いくら恥ずかしいシーン見られたからって怯えないでよ、闇を統べし吸血鬼の王なんでしょ?

 それで簡単に訳を話しながら連れて行くと橙ちゃんも戻ってくる。どうやら彼女は紫さんの力であるスキマを僅かに扱えるらしい。その力で八雲紫を連れてきたとのこと。

 

「……はぁ、藍。もう、頭が痛いわ。色々な意味で」

 

 こういう時に言うのもあれだけど大人な美人さんが悩む姿は映える。ついついお姉様と比べてしまうけどやっぱり頼りになるなぁ。

 私のお姉様は鏡の前で変なコスプレっぽいのをして妙に長くて中二なセリフを吐いた上に妹に怯える始末だからなぁ……。

 

「八雲紫、貴女はもう話は聞いたんでしょ? さっさと互いの従者を止めるわよ」

「えぇ。そうするけれど、貴女その服装は……」

「い、イメチェンよ! ……それ以外に他意はないわ」

 

 あくまで冷静を装って(装いきれてないけど)お姉様は答えた。

 ふーん、と八雲さんは呟いてから小声で、

 

「エクスプロォージョン☆」

「………………………、(真っ赤)」

 

 あ、お姉様の顔が人間でいうところの「神は死んだ」って感じの顔になった。ついで頬がリンゴみたいに真っ赤に染まる。

 それから肩をプルプル震わせ始めた。口もパクパクして今にも泣きそうな感じになっている。

 っていうか見てたんだね。多分スキマからかな? 便利だけどそれはお姉様に対して致命傷だった。あと前に泣かされたのも尾を引いてたんだろう。

 

「我が名はレミリア! 闇を統べし吸血鬼の王たる者☆」

「…………ぅ、」

「可愛かったわよ、本当に」

 

 それが限界点だった。

 

「ぅ、うわあああああああ!! さくやーーっ!!」

「お嬢様! ……よくもやってくれましたね?」

 

 泣き声上げて咲夜を呼び、胸に飛び込んでくるお姉様を受け止めた彼女は八雲紫を見てそう言った。しかし八雲さんはそちらを見ることなく私を見て言う。

 

「妹ちゃん。良いことを教えてあげるわ、例え止めるという名目で集まっても協力するとは限らないのよ? そこらへん貴女ならお分かり頂けると思うけれど……」

「お姉様が咲夜を呼べば彼女はこちらに来る。その時点で藍さんとは離れることになり、物事が素早く解決した……成る程。お姉様が辱められた事に関しては幾つか言いたいこともあるけど呑み込んでおくよ? 紫さん」

「あら、敬語は崩すのね」

「精一杯の強がりと思ってよ、紅魔館としての。物事は片付いても当主が泣かされた事実は消えないからね」

 

 ふぅん、と八雲さ――――紫さんは満足そうに頷いた。

 

「貴女とは良い関係で居たいわ。藍はこちらで宥めておくわ、これからも橙をよろしくね?」

「うん、分かってるよ」

 

 それで紫さん達は帰って行った。

 美人さんだとかそのあたりの感情が今回の件で全て吹っ飛んだよ。あのやり口、私は好きじゃないな。私もよく似たような感じでお姉様を辱めたりするけど、あれは身内の遊びのようなものだ。でも紫のは違う。それを外交手段として使っている。

 当主が泣かされたというのは互いの勢力間でどちらの当主が上か下かを示す材料になりうる。

 昔ならいざ知らず現代でそんなことを気にすることはあまりないけれど――認識を改めなきゃいけないらしい。

 幻想郷は全てを受け入れる――それはそれは残酷な話ですわ。

 ――その意味が分かった気がした。

 

 

 #####

 

「……………………、」

「…………うん」

 

 黙り込んだレミリアとその肩をポンと叩く霊夢がいた。

 

「………………、ぅ」

「……こういうのもあれだけど。案外可愛いと思うわよ、エクスプロォージョンって。それに妙にシリアスやってるけど基本紫が言うことは胡散臭いから真に受けてたらキリが無いからね?」

 

 ポンポンと肩をたたきながら霊夢は言う。

 

「あと眼帯とか――よく分からないけどすごーくかっこいいと思うわよ? いっそ意外な一面って感じで皆に広めて……」

「う、うわああああああ!!!!」

「れ、レミリア!?」

「もうやだ! 死んでやるうううううッッ!!」

 

 その後発狂したレミリアを宥めるのに三十分かかった。

 

 

 

 




 「お知らせ」
 次から始まる五月編の前に閑話入れます。
 いつもより文量少なめですけどキリよく始めたいので。

今回出てきたネタ
・デーモンハンター、いえっさ。
(聖☆おにいさんより。イエス・キリストがプレイしているゲーム。いえっさは彼のユーザーネームでネトゲ聖人は聖書にも残るような聖人達が加入しているチーム)
・我が名はレミリア!(この素晴らしい世界に祝福を! よりめぐみんの詠唱)
・よく分からないけどすごーく(Re:ゼロから始める異世界生活より、エミリアの口癖)

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