十二月編終了でございます。
十二月二十七日
年賀状を書いた。
年賀状なんて書くの何年ぶりだろうか。四九五年ぶりかな。というかもう書いた覚えすらない。幽閉されてたしね。
でも今年は一杯だ。友達もたくさん出来たし! 皆にちゃんと書かないとなぁ。
というわけで一日中書きました。
途中お姉様が部屋に乱入してきて、私の書いた年賀状の束を見て、ショックを受けた顔で帰って行ったけどなんだろう。
「ま、負けた」とか呟いてたけど。
まいっか、お姉様のこと気にしてても仕方ないし。一人一人丁寧に描くほうが重要だしね。
というわけでそんな一日でした。
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「……ま、負けたって、プッ、クク……」
「わ、笑うなぁ!」
そんな一悶着を経て改めて霊夢が感想を述べる。
「年賀状かぁ、毎年毎年怠いわよね。出さなければ出さないでレミリアとかが生存確認しにくるし」
「そ、そりゃそうでしょ! 何かあったって思うじゃない!」
当たり前のように言うレミリアだが、その様子を見て早苗は頰を緩ませて呟く。
「愛されてますねー」
「……そうですね。ところで早苗さんは年賀状出したりするんですか?」
「出しますよ! そりゃあ年賀状って新年の挨拶ですから! 巫女としてはやらないなんてあり得ません!」
そう早苗が言うと霊夢が睨むように言う。
「それを言ったら私にダメージが来るからやめなさい! つか巫女だからやるって決めつけんな! そんなこと言うから私が怠けてるとか言われるんじゃない!」
「ええっ!! いや、怠けてるのは事実――っ!?」
「ええい! 黙らっしゃい!」
「理不尽っ!?」
お祓い棒を首筋に突きつける霊夢に思わずそう叫んだ早苗であった。
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十二月二十八日
冬空の下、女の子を拾いました。
名前は物部布都ちゃん。神霊廟で働いていたらしいがどうやら太子さんを怒らせてしまったらしい。出て行け、と言われて今は絶賛路頭に迷ってるとか。お腹が空いているそうなので紅魔館に連れてきてご飯を食べさせてあげると凄い勢いで食べていた。
それでひとしきり食べてからこんなことを言ってたよ。
「うぅ、なんで太子様は怒ってるんじゃろう。私は馬鹿とよく言われるけどとんと検討が付かないのじゃ。神霊廟の火事の件か、それとも命蓮寺全焼の件か、建て直した命蓮寺のボヤ騒ぎか、通販と知らず注文してしまったことか、それとも……」
正直それだけ心当たりあるなら多分それのどれかじゃないかな。というか私なら怒るよ、それ。でも出て行け、か。話を聞く限り布都ちゃんは尸解仙になる前から太子さんに仕えていたらしいしいきなりそんなこと言うかな? つもりにつもった鬱憤が爆発したとか?
それでも私の知ってる太子さんなら謝れば許してくれると思うけど……。
でもやったことがやったことだしなぁ。
とはいえ長い付き合いならこう言っちゃ悪いけど布都ちゃんがポンコツなのは知ってると思うけど……。
もしかして出て行けのニュアンスが違うとか?
本人は部屋から出て行けって言っただけで、布都ちゃんが神霊廟から出て行けと勘違いしたって可能性はないかな。
とりあえず紅魔館に連れてきてるけど、なんかそんな気がしてきた私は神霊廟に行くことにした。
で、行ったらもぬけの殻だったよ。屋敷に誰も居なくて、人里に行くと布都ちゃんを探してる人達が居た。
「布都ーっ! ……はぁ、居なくなれば居なくなるで太子様に心配をかけさせやがって……アイツ帰ってきたら覚悟しろよ」
確か、屠自古さんだっけ?
声をかけて事情を聞いてみるとやはり私が思った通り布都ちゃんが勘違いして出て行ったままもう三日も行方知れずらしい。
というか三日も!? 道理で凄い食べっぷりだったわけだ。お腹グーグー言わせてたし、でもやっぱりただの勘違いで良かったよ。
それで屠自古さんに事情を伝えて太子さんを連れてきてもらって、紅魔館で会わせる段取りをしたら仲直り出来たみたい。
「た゛い゛し゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ!!」って泣き付いてたし。
何にせよ良かった良かった。
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「甘いわねぇ。私なら叩き出すわよこんなやつ」
「ズバっと言いますね霊夢さん」
「だってそうでしょ。放火常習犯なんて庇えないもん」
当たり前、と霊夢が言う。
それに同調するように他二人も頷いた。
「……確かに私も主としてはこの部下は無理ね。矯正しない限り」
「……ですよね。地底では火事が多いといえ地霊殿を燃やされては困りますし」
「はー、意外に皆さんその辺りは現実的なんですね」
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十二月二十九日
年末だよね。今年ももう終わりかぁ。
四月からこうやって日記書いてたけどまさかここまで続くとは思ってなかったよ。どうせ途中でエターするかなぁと思ってたけどここまで毎日書けてるあたり私は意外と持続性があるらしい。
で、今日はちょっと外の世界にいます。
いや、別に……もうお気軽に外出れるくらい能力が進化した、というわけじゃないからとりあえず書かせて欲しい。
朝、目が覚めると八雲紫が目の前に居たんだ。
「……ねぇ、フラン? 貴女私が何を言いたいか分かる?」
そんなこと言われても分からない。なんか怒ってるようだった。それからいくつか話したけど貴女が引き寄せた神様がどうのこうのとか、龍神ちゃんがどうのこうのとかよく分からなかった。
首を傾げていると「とにかく反省しなさい!」とスキマに落とそうとしてきたよ。避けたら弾幕まで撃ってきて、最後は泣かれた。
それで良いのか妖怪の賢者。でも泣いたのを見て足が止まった私を迷わずスキマに落としたあたりちゃっかりしてる。
そんなわけで今私は外の世界にいます。
うん、どうしよう。お金は競馬の時に稼いだやつとデバイスで稼いだのがあるからしばらくは何とかなるけどここがどこか分からないしなぁ。瞬間移動で帰ろうにもなんか紫さんに封じられちゃったし。
異空間は開くから飢え死にもしないし着替えも出来るけど……、なんであんなに怒ってたんだろうね。
とりあえずまたイエスさん達にお願いするか、それとも帰る道を探さないとね。具体的には明日までに。
年越しは幻想郷でしたいし、知り合いの神社に参拝したいし、それから霊夢さんに誘われた宴会もあるから。
とりあえずこのドレスだと悪目立ちするから着替えてから、今日は『ふなや』って旅館に泊まった。なんでかといえばその旅館名に聞き覚えがあったからだ。
『ふなや』って言うのは愛媛県にある江戸時代に作られた旅館でさ、道後温泉で有名な旅館なんだ。夏目漱石や正岡子規が訪れた旅館で、あの『坊ちゃん』の舞台でもある。パチュリーの書庫にあって読んでる時にこあさんからそのあたりの話を聞いたんだよね、懐かしい。
そんなわけで『ふなや』に泊まったけどやっぱり温泉気持ち良かったよ。アルカリ性の温泉でなめらかだった。お風呂から出た後はお客さんも浴衣の人多かったから私も浴衣を借りて、それで過ごしたよ。
ちょっとした旅行気分だ。
紫さんありがとね、楽しんでまーす。
咲夜
『妹様が楽しまれているようで何よりです』
追記
今更だけど咲夜。私、外の世界に居るのにどうやって添削してるの……?(震え声)
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「紫ェ……」
「神様跋扈、というか騒動になってませんけどあの異変は最終的に紫さんが何とか話し合いで解決したんですよね。そりゃ心労も……溜まるかぁ」
霊夢と早苗は呟いてどこか遠い目をする。心労を一手に浴びた八雲紫に同情しているのかもしれない。
でも、とさとりは文章を読んで言う。
「……でも本人の様子を見る限り反省になってませんよね、これ」
「……というかなんでこんなに頻繁に妖怪が外に出るのよ。というか外の世界だと力が弱まるのに当たり前のように順応するわねこの子」
さとりの言葉にレミリアが付け足したが、本当にそうだ。何故順応出来ているのか、と首を傾げる二人に対し早苗が解説する。
「神様的目線で言えばネットとはいえ信仰を数万人規模で貰えてたらかなり神力はあると思いますけどね。まぁ封印してますからそれは関係ありませんが、フランちゃんはかなり基礎が強くなってますし、修行で封印にも慣れてますから力が出せないことなんて気にしないんじゃないでしょうか」
「はー、なるほどね」
早苗の説明にレミリアは頷いた。
それから一同は嫌そうに最後の文に目を向ける。
「……添削、ですよね」
「フランも震え声を上げてるってことはリアルタイムで書かれてるってことよね、これ」
「レミリア、アンタのとこのメイド長どうなってんのよ……!?」
「し、知らない! 私は知らない!」
それから数分。
怖いから触れないと決めた一同は次のページをめくるのだった。
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十二月三十日
幻想郷よ、私は帰ってきた!
はい、そんなわけで帰宅しました。
いやーまさか外で映姫さんに会うとは思ってなかったよ。ちょうど今日から年始にかけてお休みを(強制的に)貰ったらしい。
それで外の世界の温泉にでも入ろうと来たのが偶々私が泊まってた『ふなや』で朝、温泉に入ってばったりと会った。
話を聞くと上司さん達と一緒に来てるみたいで、他の人は皆男湯の方に居るんだとか。
「こうやって本当に休むのは久しぶりです。いつもは休みでも何かしら仕事をするのですが……こう、何もないと不安になりますね」
温泉に浸かって話ししたけどワーカーホリックだよねそれ。どれだけ仕事好きなのさ。
「今回は上司に無理やり引っ張られまして、せめて休み先でやろうと思ってた仕事の資料も全て奪われてしまいました。映姫ちゃんは真面目過ぎるよ、と言われましたが……」
「そこは映姫さんの美点ですけど度が過ぎれば悪癖になり得ると思いますよ。だって上司が休みも働いてたら部下の人も休めないじゃないですか。それに映姫さんは見た目が可愛らしいですから部下の人も上司さん達も心配になると思います」
「そうでしょうか……見た目はともかく私はそんなにヤワなつもりでは」
「本人がそう思ってなくてもです。そもそも映姫さん、仕事ばかりで趣味なんて無いでしょう? 寧ろ仕事が趣味なんじゃないですか? そんな様子見てたら周りは心配になりますって! 今回、無理やり休まされてるのだって部下の人とか上司さん達のご厚意なんですから素直に休むべきです。寧ろ偶には休んだ方が良いんですよ。仕事は逃げませんから。休みを終えて英気を養ってまた仕事すれば良いんです」
「映姫だけに、ですか?」
「…………うぅ」
「……すみません」
折角の良い話になんてことを。
少し恥ずかしくて頰が赤くなったよ。そんなつもりないのぃ……。
あと他の閻魔様とお話もしたよ。いや、具体的には地獄の王様達かな。皆映姫さんの先輩らしい。
秦公王さんに初江王さん、宋帝王さんに五官王、閻魔王さん。
で、それからお昼まで一緒してから「そういえば何故外にいるんです?」という質問に「八雲紫にスキマで落とされた先がここだったんですよ」と答えると「なんと……今度説教しなくてはなりませんね。あの人は口が回るので腕がなります」って張り切ってた。
それから使いを一人出して私を幻想郷に送り返してくれた、というのが事の次第だったりする。
ありがとね映姫さん。あと温泉巡り楽しんでください!
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読み終えて開口一番に霊夢は叫んだ。
「サラッと出てくる名前がいちいち何で大物なのっ!?」
「いや、本当それですよね」
早苗も同調する。冷や汗が浮かんでいることから割と真面目に思っているらしい。
「……閻魔大王の同格の上司さんばかり、ですか」
「前に会ったけど幻想郷の閻魔の見た目は幼めだしね。神様といっても男どもと考えると出来の良い可愛い孫みたいな感じなんでしょう。多分、仕事ばかりで心配されてるのね」
さとりが語り、レミリアが淡々と考察する。
特に思うところは無いらしい。じゃあ次のページに行くわよ、と彼女は告げて次のページをめくる。
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十二月三十一日
今年も終わりかぁ。
咲夜の作った年越し蕎麦を食べて、お酒を呑んで、それから博麗神社に二年参りをしたよ。
でも霊夢さんはなんか儀式の準備をしてた。
「今日は大切な儀式があるの。参拝はありがたいけど邪魔だけはしないでね」
と言われて何だろう、と思って博麗神社に来ていた魔理沙に聞いてみると、どうやら明けの明星、
なんでも明星が太陽に負けてくれないと今年は妖怪の年になってしまうのだとか。
この頃にはもう十二時過ぎて新年に入ってたけどまぁそれは置いておいて。
「私は霊夢の儀式が失敗するのを見に来てるんだぜ」
と魔理沙が笑ってた。
とはいえ霊夢さんは一度も失敗した事のないその儀式に何故か去年は失敗したそうなので、今年は特に力を入れているのだとか。
とはいえ魔理沙がボソッと、
「……今年は無理そうだな」
とか言ってたので多分去年の失敗は魔理沙の差し金だと思う。
そういえば去年の年越しの頃、お姉様が「ついに夜の時代が訪れるのね! 咲夜、勝利の美酒よ!」とか騒いでたなぁ。
妖精大戦争もその頃だっけ? 私、その頃の情勢に疎いから曖昧なんだけど。
ともかく夜明けまで儀式を終えた霊夢さんは緊張した面持ちで初日の出を待っていた。
で、無事に太陽が勝ってた。お姉様が嘆いて霊夢さんに頭を叩かれてたけど、私は別に興味ないや。
さてと、確かこれから宴会だよね。
今日は寝ないで一月一日も書くことになりそうだ。
とりあえずあの言葉は明日まで取っておく。
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「……去年の失敗は覚えてるわ。あれ、確か魔理沙が光の三妖精に明星の代わりに光らせるように指示したのよね。後で知ったわ」
「えっ、そうなんですか。実は明星の儀式私もやってたんですけど失敗して散々なんでだろう……って考えてたのに」
「早苗も被害者だったの? あ、じゃあ今度魔理沙に仕返ししない? ほんの軽いイタズラだけど」
「うーん、なんか今更感が……」
「それよりも明星、負けたのよねぇ……」
「……私は地底暮らしなので関係ありませんね。あそこの人達は年中無休で騒いでいるので」
「……それはそれで大変そうね」
そんな会話を繰り広げ、四人は次のページをめくった。
次回からやっと一月編です!