フランドールの日記   作:Yuupon

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十二月編12『プレゼント・ショック!』

 

 

 

 

 十二月二十五日(朝)

 

 

 昨日、サンタさん体験をした後どうやら私達は寝てしまったらしい。

 私達、というのは私と龍神ちゃんだ。いや起きた時は驚いたよ。朝起きたら私のベッドの中で龍神ちゃんが寝てたから。すっごい幸せそうな顔で思わず私も顔がほころんだけどさ。

 イエスさん達からの書置きが私の部屋のテーブルの上に置いてあって、読んだら『楽しかったです。また会いましょう』って内容と一緒にps.龍神さんも寝てしまったのでメイドの人の許可を得てフランさんのお部屋に泊まらせてもらうようにしてもらいました、と事の顛末が書いてあった。

 ともかく昨日の夜は夜のことなので今日は朝起きてからの分の日記も書こうと思う。

 

「……ふらん。ここ。何処(どこ)?」

 まず朝起きると時を同じくして龍神ちゃんも目覚めたらしい。暫くごしごし目を擦ってから空を見て今が朝だと気付いたのか、「もう、朝。仕事……帰る」と言って帰ってしまった。

 やっぱりマイペースな子なのかな? いやでも仕事って言ってるし割と真面目なのか。というかこんな神様といえど小さな女の子に仕事? ……よくわからないけど大変そうだなぁ。

「フラン! フランっ!」

 そんな事を思いながら朝食を摂っているとお姉様が起きてきた。両手に、何だろう。樫の杖? を抱えていた。

「見なさい! これは魔法の杖よ! 朝起きたら置いてあったの! きっとサンタさんが持ってきてくれたんだわ! これで私もパチェやフランに負けない魔法使いよ!」

「……あ、うん。ヨカッタネ」

 曖昧な返事だけど許して。だってそれ昨日私がお姉様の枕元に置いたやつなんだもん。喜んでくれたなら嬉しいけど多分そこまでの効果無いと思うよ。一応私の手作りでかなり本気で作ったものだけど……。あっ、でもご利益はあるかも。イザナミさんとか神綺さんとかにもお願いして力込めてもらったし、イエスさん達にも見せたら、

「これはかなり凄いですね。濃密な神力が篭っています。あ、でもフランさん。その杖を渡す相手はお姉さんなんですよね?」

「はい、そのつもりです」

「うむむ、吸血鬼が扱うとすると少し危険かもしれません……力の強い聖遺物になってますから。ちょっと貸してください。あとブッダ、君の力も貸してくれないかい」

「うん、じゃあやろうかイエス」

 と、そんな具合に吸血鬼が扱っても問題無いような加護も付けてくれた。

 最後に霖之助さんに鑑定させたら「……僕はもう何も言えないよ」と返されたしかなりの一品の筈だ! 

 ともかく喜んでくれたならそれでオッケーだよね!

 

 

 #####

 

 

 今度はレミリアが白目を剥く番であった。

 

「……(白目)」

「レミリアーっ!?」

 

 椅子ごと後方に一回転して頭から落ちたレミリアを見て霊夢が悲鳴を上げる! 慌てて倒れたレミリアを抱き起こすが彼女は「は、はは」と乾いた笑みを零すのみであった。

 しかし、やがてポツリポツリと彼女は語り始める。

 

「神器ってレベルじゃねぇ……、どんだけの神様が関わってんのよあの杖。確かに超使い勝手良かったし、魔法の威力も高いってパチェに褒められたし、よく見ないとパチェですら騙せるくらい普通の杖に見えるカモフラージュをされてるって気付いたパチェから言われたけど……なんだそれ」

「レミリア! しっかり! 意識をしっかりしなさい!」

「おかしいと思ったんだ。あの杖を握ってから急に太陽の光が効かなくなって、流水とかの弱点も消えて……パチェからそれらを無効化する魔法が掛かってるって言われて最初は私の才能が開花したとか思ってたけど、よくよく考えるとあれは妙だった」

「いや話を聞く限り妙な点しかありませんよね!? こんな呆然と語るシーンですらポンコツ挟まなきゃ気が済まないんですかレミリアさんっ!?」

 

 早苗が突っ込んでもレミリアが戻って来る様子はなかった。

 しばらくレミリアを起こそうとしていた霊夢が二人の顔を見て、頷く。

 

「……さとり、早苗。やるわよ」

「何をですか?」

「……心を読む限りでは凄いしょうもないですけど。でも良いんですか? そんなことして……」

「良いのよ、さとり。最近読者サービスして無かったし、ここいらで一発入れるべきだわ」

「……いやだから何を? それに読者ってだ――」

 

 淡々と述べる霊夢だがそこに早苗が待ったを入れ――

 

「水を、どりゃあ!!」

「――れですかって霊夢さん!? 何してんですか急にレミリアさんに水をかけて!」

 

 ――る前に霊夢が動いた。急に部屋を飛び出して行ったかと思うとものの数秒で水入りのバケツを担いで戻ってきたのだ! そして彼女は勢いそのままにレミリアにバケツをぶん投げた!

 ズバシャッ!! っと猛烈な勢いでレミリアに掛かる水飛沫と、それからガンッガランガラン! と音を立ててバケツが転がっていく。

 水が掛かった瞬間、レミリアが「ファッ!? 目がゴブゴボッ!?」と悲鳴をあげた気がしたが気のせいだろう。

 そして。

 数秒して、シーンと静まり返った空間で盛大に水を掛けられたレミリアの姿が露わになる。

 

「……ゲホッ! うぅ、なんなのよぉ……!」

 

 涙目で咳き込む美少女(断言)に、霊夢は至近距離で親指を立てて冷静に言った。

 

「ナイス、濡れスケ」

「けほっ、こほっ、……ふぇ?」

 

 濡れスケ。服が濡れて中が透ける現象のことを指す。

 言われるままにレミリアは自分の服装を改めて見直す。ピンクのドレスにピンクのスカート、いつもの装いだ。しかし、だがしかし。今回は少し様子が違っていた。

 

「……は?」

 

 霊夢が満杯まで組んできたバケツ×2。その水を全身に浴びた彼女は頭の先から足の先までずぶ濡れである。またレミリアが着ているドレスは高級品だがそれは見栄え重視の話であり、水に濡れることなど一切考慮されていないものだ。

 ピンとこない人の為に言うならば。

 ぴっちり張り付いたドレスとそれを透けるようにして見える肌色とブラジャー、下もよく見るとピンクのスカートの下から別の色が見えている、と言えば全て話がつくだろう。

 つまるところ、水で濡れて下着が透けていた。

 しかしここで悲報がある。

 もしここに男がいれば「きゃああああ!」や「み、見るなああっ!」というコースに移動出来るが残念なことにここには女しか居ないのだ。

 ようするに、

 

「「「「…………」」」」

 

 全身びしょ濡れにされたレミリアはぴちゃんぴちゃんと自身の髪の先から落ちる水音を聞きながら黙り込んだ三人目掛けて恨めしそうに言う。

 

「……何がしたいのアンタら」

 

 それに対する霊夢の反論。

 

「それを言う前にまずアンタは恥ずかしがりなさいよ。冷静に対処したら台無しでしょうが。じゃなきゃ何の為に濡らしたのか分からないじゃない」

 

 その後レミリアがキレたのは言うまでもない。

 結局、二十分くらい。

「いや何の為もあるかーッ!! まず私に謝りなさいよ! 何しれっと流そうとしてんのよ!? アンタそれでも人間か!?」

「うるっさいわね! 見せ場作ってやろうってのに潰しやがって!! だからカリスマ(笑)とか言われるのよ!」

「カリスマでしょうがよぉ!! これでもこれまで紅魔館がやってこれてるのはなんだかんだ当主の私の力も大きいからァ!」

 という言い争いが勃発したのだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二十六日

 

 

 クリスマスも終わっていよいよ年末だ。

 今日は『みんな(お姉様以外)』で大掃除をした。いつもやっている掃除に加えて館全体を修繕したり、色が落ちてきたところをペンキで塗り直したり、赤過ぎて目に悪いよねって理由からせめて濃い赤じゃなくて薄い赤に塗り直したり。

 大掃除はAIBOが大活躍だった。「ルンバ機能ヤデ」となんか二メートルくらいのサイズに巨大化した上で足に大量の箒を取り付けて一気に掃除していく姿は壮観だったね。

 あといくつか新しいモードも追加されてた。戦闘モードなんてのもあって、やってみるよう頼んでみると、お腹からモリッと筋肉ゴリマッチョな体が飛び出してきた。

 正直キモい。頭だけ犬の小さなロボットでお腹から太い首が生え、その下は筋肉ゴリマッチョ。うん、キモい。強そうだけどね。

 ともかくそんなAIBOの新たな一面を見た後にまたお掃除お掃除、レレレのレー。

 最近は妖精もかなり動けるようになってきたよ。躾が効いたのかな? 飴とムチを使い分けるのが重要だけど、重労働の後に美味しいお菓子を沢山用意すると真面目に動いてくれるから楽なものだ。

 最近じゃ働く喜びに目覚めた子達も出てきてて、その子達は働くことを楽しいと感じるようになってるからとても良い傾向だと思う。

 

 そうそう、明日は年賀状の準備終わらせないとね。

 じゃあ今日はそろそろ寝ようかな。おやすみなさい。

 

 

 #####

 

 

「うっ……大掃除」

 

 別の服に着替えたレミリアは読み終えて一言呟く。

 

「大掃除、そんな時期ですか。というかレミリアさん、やらなきゃダメですよ。大掃除は皆で協力するものですから」

「年末年始かぁ……私はお祈りで忙しいからなぁ。太陽が金星に負けると妖怪の年になっちゃうし」

「……そのあたりの話は日記でも出てきそうですね」

「そうね、ともかくレミリアも着替えたし改めて読み始めるわよ」

 

 そんな会話をして四人は次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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