フランドールの日記   作:Yuupon

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十二月編11『聖夜の空を駆ける』

 

 

 

 十二月二十四日

 

 

 今日はライブ当日だ。

 一応知り合いにも連絡して来ないか誘ってみると結構な人が来てくれるらしい。えっと、神綺さんとイザナミさんは来て、フレイヤさんが用事で、エリスさんは上司の女神に呼ばれてるとかなんとか。

 あとはブッダさんとイエスさんは来るって言ってた。それから守谷の三人と霖之助さんとリアラさん。

 レミィたんは今回私達の補佐で楽屋仕事をお願いしたから除外で、それから射命丸さんからライブの独占取材要請が来てて、命蓮寺と神霊廟の人達も来るんだっけ?

 あと永遠亭からぐーやさんも来てくれるらしい。妹紅さんと鈴仙さんを連れて来るとか言ってた。それと最近地味に将棋を一緒にしてる椛さんとにとりさんも来て、それから地底からもさとりさんと勇儀さんが来るとか。

 ……こう書くと知り合い増えたもんだなぁ。

 や、感慨深いよホント。去年まで四九五年間、家に引きこもってたニートとは思えないよね。

 それで本番始まったけど凄い盛り上がり様だったよ。

 最前列ではいつも来てくれるファンの人達が居て、ぴったりなタイミングで合いの手を入れてくれるし。

 サンタコスで登場したらあちこちから「可愛いー!」って聞こえて来て嬉しかったし。まぁ吸血鬼がサンタコスってなんだよって話だけどね(笑)

 そうそう、歓声といえば私は今回こいしちゃんと一緒に出たけどそっちの歓声も凄かったよ! 「世界一位だ!」とか「妹二人キター!」とか「世界一位と音楽一位だ!」とか。

 それにこいしちゃん存在感凄いからね。割と真面目に身体の周りをキラキラの膜が覆ってるから。誰かが、「照橋さんかな?」とか言ってたよ。誰だその人。

 で、全力で歌い踊ったライブも無事に終わりました。

 客席を見た限り神様達も楽しそうに聞いてたよ。というか今更だけどブッダさんとイエスさんコミュ力凄いね。イザナミさんとかの神様と仲良さそうに話していた。

『吸血鬼がサンタの格好をする時代ですか』

『あれは僕も驚きましたよイザナミさん。まぁこれも一つの時代の流れですよね』

 ……話を聞いていると一瞬目眩がした。なんだろう、なんかイエスさんとブッダさんの二人から神格が見えたような気がしたような……。

 気のせい……かな?

 

 あ、そうそう。

 龍神ちゃんも来てたよ。座席にちょこんと座って見てくれてた。

 にへらっ、て顔がほころんでたから多分楽しんでくれてたんじゃないかな?

 

 

 #####

 

 妖怪跋扈ならぬ神様跋扈であった。

 

「「……(白目)」」

「霊夢ーっ!? 風祝ーっ!?」

 

 ガターン!! と椅子から転げ落ちた二人を悲鳴のような声を上げてレミリアがゆすり起こそうとする。

 しかし事はそれだけに留まらない! 今まで平静を保っていたさとりもまた今回ばかりは駄目だった!

 

「……わ、私知らなかったんですけど! お、同じ会場にこんな沢山の神々がっ!? 何人か心読まないなーとは思ってたけどあれは防がれて……いやあれよく考えたら物凄い無礼な事じゃ!? わ、わあああああっ!!?」

「お、落ち着きなさい地底の主! アンタまで取り乱したらもうこの場を鎮められないわ!」

「じょ、浄化されます! 私浄化されます!」

「だから落ち着けっ!! アンタいっつも話す前に『……』って少しどもってたのに無くなってるから! いまこの瞬間アンタのアイデンティティぶっ壊れてるからぁっ!!」

「知るかそんなもん!!」

「口調が壊れた!?」

 

 非常にメタいレミリアの心配をさとりは一言で粉砕する。

 阿鼻叫喚とはこのことか。龍神登場の時も酷いものだが今回のは更に輪を掛けて酷かった。

 だがやがてむくりと体を起こした霊夢が言う。

 

「……ぐ、うう。そんじょそこらの神様ならともかくどれも最上位の神様じゃない! そんなのを一纏めに出すんじゃないわよ! そんなのっ、対処出来るかーっ!!」

 

 霊夢、魂の叫びだった。

 

 

 #####

 

 

 十二月二五日(深夜)

 

 こんばんわ。現在深夜の一二時です。

 昼間のライブを終えた私だけど、今もミニスカサンタの服装で外にいまーす。

 ……まぁその理由は帰り際にイエスさんに呼び止められたのが事の発端なんだけどさ。

「あ、フランさん。ライブ凄かったですね。とても楽しかったですよ」

「ありがとうございます! イエスさん達にはお世話になってますから来てくださって私も嬉しかったです。あ、それと今日お誕生日ですよね? おめでとうございます。プレゼントが無くて申し訳ないですが……」

「いやいや気にしないでください。誕生日は誰かに祝われるだけで嬉しいものですよ。それに僕もフランさんとお話しするのは楽しいですから」

 そんな感じに話しているとああそうだ、と思い出したようにそう言われた。

「あ、そうだ。これからサンタクロースと会うんですけど良かったら来ませんか?」

 サンタさんと? そういえばお姉様、キリストは嫌いって言ってるけどサンタは嫌いって言ってないのよね。朝起きたらプレゼントが置いてあるからかなぁ? かくいう私も嫌いじゃないし会えるなら会ってみたいと思う。

 本物のサンタさんかぁ……。

「ふらん、心躍ってる」

「あ、龍神ちゃん」

 赤い帽子に白いひげのお爺さんを頭の中に思い浮かべていると龍神ちゃんが横にいた。私の腕をぎゅっと掴んでイエスさんを見つめている。こうやってみると結構懐いてくれてるのかもしれない。

 ともかく彼女は言った。

「イエス。さんたは、独逸(ドイツ)で人を攫うと聞く。危険。サンタ駄目。ニコライなら許す」

「彼はフランさんを危険な目に遭わせるような人ではありませんよ。それにサンタはニコライさんと同質のものですから大丈夫です。だから安心して下さい龍神さん」

「……そうか。イエス。信じる」

 それだけ言って龍神ちゃんは黙り込んだ。口数の少ない子だよね。単語を多く使って会話しようとするし。

 それと龍神ちゃんの会話の中で出てきたニコライさん。確かサンタの元になった人だよね。確かこんな話だっけ?

 

 ある時ニコラウスは、貧しさのあまり三人の娘を身売りしなければならなくなる家族の存在を知った。ニコラウスは真夜中にその家を訪れ、窓から金貨を投げ入れた。このとき暖炉には靴下が下げられていており、金貨はその靴下の中に入ったという。この金貨のおかげで家族は娘の身売りを避けられた。

 この逸話が由来になってサンタクロースが生まれたんだっけ?

 と、ボンヤリ考えながらついて行くと龍神ちゃんがイエスさんに尋ねた。

 

「我、キリスト詳しくない。クリスマス、何を祝うもの? イエス、知ってる?」

「もちろんですよ! サンタクロースが初めてトナカイでの飛行に成功した日です!」

「イエスさんイエスさん、多分それライト兄弟と混ざってます。というか仮にそうだとしてもそれが記念日になるかといえば微妙です」

 

 そんなツッコミを入れつつ歩くこと五分。イエスさんに案内されて行くと居ました。

「ほっほっほ」

 サンタクロース。ちょっとメタボだけど優しそうなお爺さん。髭もじゃで頭には赤い帽子を載せている。彼の後ろでは数十匹のトナカイがトコトコ歩いていた。

 で、挨拶しましたよ。そしたらプレゼントを貰いました!

 本物のサンタさんから直接だよ! 早速開けてみると、普段着として着れそうな洋服が入ってた!

 ちょー嬉しいよー! ありがとうサンタさん!

 それからサンタ体験もさせて貰いました!

 

「イエスー、サンタの服持ってきたよー」

「あっ、ブッダありがとう。折角サンタ体験するんだし格好から入らないとね」

「珍妙な服……。これがさんた?」

 

 龍神ちゃんもサンタ服着てたよ。

 可愛かったなぁ。

 

 それから更に時間が過ぎて真夜中になる頃サンタさんと私達はトナカイ達が引くソリに乗って空を駆けた。

 

「ほっほっほ、メリークリスマース!」

 

 サンタさんがそう言うたびに空からはらはらと粉雪が舞う。

 深夜の雪の降る空の下をシャンシャンと鈴の音を鳴らしながらソリに乗って駆ける。

 凄く、幻想的な体験だった。

 

 

 #####

 

 

「サンタのソリに乗る、か」

「ちょっと羨ましいですね……いやもうこの際、神様は気にしません……ハイ、早苗ハ大丈夫デスカラ」

 

 ページをめくった事で巫女二人も吹っ切れたのかようやく普通に感想を述べ始めた。

 同時にさとりも混乱から回復したようで気恥ずかしさからか少し赤い顔で言う。

 

「……私も羨ましいです。あっ、あと一つ意外だったのが、レミリアさんはサンタ嫌いじゃなかったんですね。てっきり吸血鬼だから嫌いなのかと」

「ち、違うから! 別にプレゼントくれるからキリストでも良いやなんて思ってないわよ!?」

 

 さとりの疑問にレミリアは慌てて弁明する、が。

 

「……語るに落ちてますよね、アレ」

「……言わないであげるのが優しさよ」

 

 嘘を吐くのが下手過ぎるレミリアの様子に二人は何とも言えない視線を向けて、次のページに手を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 


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